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第一章
第21話 避難民
しおりを挟む――リクが魔兵機《ゾルダート》を圧倒し始めていたころ、ガエインも町へ到着していた。
「三体の巨兵相手に一人であそこまでやれるとは……。やはりリクを連れてきて正解じゃったな」
遠くからでも分かる圧倒的攻防にガエインは自分の選択が正しかったことを悟る。
願わくばアウラとシャルルを最後まで守って欲しいと考えていた。
「……しかし奪われた国を取り戻すにはリクだけでは――」
その時、目の前を家族が通過するのが見えた。それだけではなく、それを追うグライアードの騎士も。
「た、助けてくれえ!」
「安心しろ、奥さんと子供は生かしておいてやる……!」
「あなた!?」
追いつかれて引き倒された男。そこへ容赦なく剣を振り下ろすグライアードの騎士。しかしその凶刃が当たることは無かった。
「おい、こっちじゃ」
「なに? ……ぐが!?」
馬で一気に接近したガエインは声をかけ、敵がこちらを向いた瞬間、馬上から大剣を滑らせた。
叩きつけるようにぶつかり鎧がひしゃげて転がっていった。
「く、くそ……なにも――」
「遅い」
起き上がろうとした騎士の頭はヘルムごと叩き割られて続きを言うことなく絶命した。
「無事か?」
「あ、ありがとうございます! エトワール王国の騎士様がグライアードの強襲があるから避難しろと……。まさか本当だとは……」
「すまぬ。ワシらが至らんばかりに民にまで苦労をかけた」
「いえ、お話は聞いております。これからどうされるのですか?」
「……」
ヘルブスト国へ行くことは決まっている。だが、避難民を全て受け入れてくれるとは限らない。この先、まだ町はある。その人間を全て連れて行けるほどの余裕は無い。
だが――
「……我々はヘルブスト国へ救援を求める予定だ。お主らもついてくるといい。ただ、騎士達も最低限すらいない状況。自分の身は自分で守ってもらう」
「だ、大丈夫です……! では、ご武運を!」
「おじいちゃんありがとう!」
攻めてくる予測がリクのレーダーのおかげで出来ていたため、襲撃場所から逆方向の出口へ集まるよう言われていたと移動する家族。
これで犠牲は少なくなったかと思っていたが――
「逃がすな! 追え!」
「く、くそ……! 本当に襲って来やがった……! ぎゃっ!?」
「こ、こいつ! ごふ……」
――騎士の言うことを信じていなかった者が逃げ遅れていた。
「チッ、男ばかりだな。これではジョンビエル様にどやされるぞ」
「しかし、この深夜に人が殆どいないとは……。なぜ襲撃が悟られていたのか……」「ぬうん!」
男二人を斬り伏せたグライアードの騎士二人が剣の血を払いながらそんなことを言う。周囲に灯りが無いのは当然としても、家屋に人が居ないのはどう考えても情報が伝わっていたとしか思えない。
標的を探すため見渡してもいたその時、蹄の音が彼等の耳に入って来た。
「なに!? 馬!? ぎゃぁぁ……!」
「エトワール王国の騎士か!?」
「間に合わなかったか……! その通りだグライアードの騎士! 我が名はガエイン。……覚悟!」
「な!? エトワールの『勇騎士《ブレイブナイツ》』……!」
一撃で斬り伏せられた仲間を見て距離を取りながら冷や汗をかくグライアードの騎士。
「それを知って挑むなら死を覚悟するがいい」
「貴様の首にも褒章がかけられているんだ! ということは近くに姫君もいるはず。倒してそっちも手に入れる!」
「その意気や良し……!」
グライアードの騎士は長剣で馬を狙い落馬を誘う。
その後に胸を貫けば勝てると躍起になるが、ガエインは馬を華麗に操り逆に騎士を翻弄していた。
「なぜ町の通りでこれほど小回りが……!?」
「ワシとこの馬、レクサーは幾多の戦場を越えておる! ガラクタに頼らねば戦争もできぬ腰抜けとは年季が違うわ!」
「回り込まれ――」
その言葉がグライアードの騎士が放つ最後の言葉だった。すれ違いざまに頭を割られてその場に崩れ落ちた。倒れている町人を見た後、呟きながらその場を移動する。
「……逃げ遅れた者か。すまぬ、我が国が落とされたなど考えたくはなかったろう」
「エトワール王国の騎士が居るぞ!」
「殺せ!」
通りから出て来たグライアードの騎士が口々にそんなことを言いながらこちらへ駆けてくる。その中には槍持ちの騎馬も見える。
「十人程度でこのワシを止められると思うな……! 引退したとはいえまだまだやれるぞ!」
そう叫ぶとレクサーと呼ばれた馬が大きく嘶き突撃を開始する。始めに前へ出すぎていた騎士が蹴り飛ばされ家屋に激突。それを見て驚愕した男の首が飛ぶ。
大剣を片手で振り回し、襲ってきた槍と剣の猛攻を凌ぐと騎馬へ向かう。
「つ、強い……!」
「なにをしている、背後から攻めろ! ぐぬ!?」
「なら貴様がやればよかろう?」
言うが早いかガエインの拳で殴られて落馬する騎士。上から大剣で腹を刺されておびただしい量の血を吐いた。
「おのれ……!」
「投降するなら命までは取らん。が、向かってくるなら覚悟せい!」
「ひっ……」
激高するガエインに怯む騎士達。
そこで、空でなにかが破裂し、一瞬昼間のように明るくなった。
「て、撤退の合図……!」
「見ろ、魔兵機《ゾルダート》が町の外へ!」
「なんだ、あっちのは見たことがないぞ……!? まさか負けたのか? に、逃げろ!」
そんな騎士達の言葉を聞き、リクの居た方を見ると三台の魔兵機《ゾルダート》が撤退を始めているのが見え、さらにリクが追撃をしかけていた。
「逃げる相手を殺すのは騎士の名折れだ。逃げるがいい。しかし、まだ刃向かうなら、容赦せん」
「くっ……。退け退けぇぇ!」
撤退するグライアードの騎士を尻目に『そうしなかった』連中を探すため町の中を走り始めるガエイン。
「リク、助かるぞ」
そしてしばらくした後、リクは捕虜と魔兵機《ゾルダート》を一台連れて、合流する――
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