魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第一章

第20話 破壊

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<索敵。十一時の方角に敵影を確認>
「オッケーだ、逃げられると思うなよ!」

 暗がりだろうが物影に身を隠そうがこっちにはレーダーがある。ヴァイスを撒くことは不可能に近い。
 報告されると面倒だが騎士や兵には逃げられる可能性の方が高いのでそこは目を瞑る。が、魔兵機《ゾルダート》は戦力を削ぐ意味でも破壊しておきたい。
 
 理由はそれともう一つあって『エトワール王国には魔兵機《ゾルダート》を破壊できる機体があ』ることを印象づけるためだ。
 森や草原に隠れながら逃げる人間を追うのは宇宙のデブリゴミに隠れながら移動する人型機動兵器よりも厄介だ。
 レーダーに映るとはいえ、バラバラに動かれている状況でぷちぷちと潰していくのは効率が悪い。

 なら、手を出しにくくする方が恐らく早い。暗闇の草原に躍り出た俺はレーダーを頼りに追跡を続ける。程なくしてAI音声が流れた。

<敵、確認>
「よし! こいつを食らえ!」

 俺は手ごろな岩を拾ってダッシュしながら狙いをつける。ブレの修正はサクヤがやってくれているので特に不安はない。
 そのまま一番前を走っている奴に向かって投擲をした。

「がぁぁぁ!? な、なに……!?」

 そういや音声が駄々洩れだが機体間通信はできないんだろうか?
 まあ、どっちでもいいけど。聞こえるのは楽だし。
 
 そこで俺のぶつけた岩がヒットし、敵機体の左腕が吹き飛んだ。
 驚いて立ち止まって振り返る三機に、俺はさらに岩を投げつけてやった。

「しつこいやつめ……! ぐぬ!?」
「国を落として追撃で町を襲っている連中に言われたくはないけどな!」
「戦争に負けるとはそういうことだろうが」
「黙って仕掛けた側が偉そうなことを言うんじゃねえぜ!」

 ジョンビエル機が激高しながら大剣を手に走ってくる。岩をぶつけたが正面の装甲は少し強固らしく、へこんでいるくらいのようだ。
 
 さて、ジョンビエルが動いているということはさっき左腕が飛んだのは別の機体だったか。
 槍持ちの魔兵機《ゾルダート》がこちらへ来たので、斧使いの機体が沈黙したと思っていい。両腕が破損しているからな。

<マスター、どうしますか?>
「相手の武器を奪うのもいいが、さっさとバラしておきたい。プラズマダガーを使う」
<了解です>

「足を止めた? 魔力切れか! 今だ……!!」
「おおおお!」

 足の側面からダガーを射出させて右手で掴む。二機の魔兵機《ゾルダート》があと数歩というところまで接近したところで俺が動かないことを『魔力切れ』と言いさらに速度を上げた。
 よくわからんがエネルギー切れってことだろうか? それなら判断ミスだけどな。

「終わらせるぞ」
「な、に……!?」
「ひ、光の剣!?」

 闇夜に浮かび上がるプラズマダガーは確かにそう見えるかもしれない。そんなことを思いつつ、踏み込んで大剣に向かって薙ぐ。

「光の剣だろうが大剣に耐えられるものか! 出力最大!」
「はぁぁぁぁ!!」
「嘘だろ!?」

 プラズマダガーを振り抜くと大剣が真ん中ほどから溶解して断ち切れた。動きを止めたジョンビエルのコクピットへプラズマダガーを突き出す。

「うわああああ!? だ、脱出を!?」
「隊長!」
<警告、ランスが右腕に接近中>
「おっと……! お前も寝てな!」

 槍魔兵機《ゾルダート》がプラズマダガーを握った俺の腕を狙っていることをサクヤが警告。少し腕を動かして回避する。
 左腕で槍を掴み、無理やり引き寄せてから逆手に持ち替えたダガーを頭に突き刺した。

「し、出力低下……! 魔力伝達回路が一撃で破損……!?」
「すぐにバラしてやる」
<マスター、コクピットの中から生体反応がロストしました>
「死んだか……?」
<いえ、遠ざかっていく反応があるので脱出したかと>
「こいつに邪魔されてコクピットから少しずれたしな。……あいつは殺しておきたかったが」

 俺がそう呟くと、槍魔兵機《ゾルダート》の兵士が怯えながら呟いた。

「ば、化け物め……。伝説の勇者だとでもいうのか……」
「なんだそりゃ? お前とあっちの奴は捕虜になってもらう。まあ、グライアードから逃げているんだ。町もぶっ壊しやがって。待遇は期待するなよ」
「……仕方、あるまい。こいつも動かん。投降する」

 そういってコクピットハッチが開いてから姿を見せる槍魔兵機《ゾルダート》の男。斧の奴は逃げたかと思ったが、律儀に隊長を逃がすため盾になろうとしていたようだ。

 俺は二機その場に一旦放置し、捕虜を連れて町へと戻った。

◆ ◇ ◆

「……くっ、この俺が逃げることになるとは……」
「隊長、ご無事でしたか!」

 万が一のため、合流地点を決めていたジョンビエルが騎士達の下へ戻った。
 抵抗はそれほどなく、被害は少ないが手痛い反撃だったと眉間に皺を寄せる。

「なんとかな。部隊はどれほど残っている?」
「百五十名中残ったのは百三十ほどかと。魔兵機《ゾルダート》は……? ぐあ!?」
「うるさい! 魔兵機《ゾルダート》は全て破壊された!」
「おやめください隊長!?」

 苛立ったジョンビエルが報告をしに来た騎士の頬を殴る。それを他の騎士が諫めようとするが暴れて話にならない。その内、ピークに達したジョンビエルが剣を抜く。

「うるせえぞお前ら……!」
「わかりましたから……。それよりこれからどうなさいますか? 相手に魔兵機《ゾルダート》が居るなら我々だけで攻撃を仕掛けるのは難しいかと」
「それもわかってんだよ! ……撤退だ、壊された魔兵機《ゾルダート》を回収しねえとマズいからな」
「近くに我々以外の部隊は居ませんが……」
「なら呼んでくるんだよ! アホか貴様!」

 ジョンビエルが指示を出して数人の騎士がキャンプを後にし、馬を走らせた。そこで踏み潰されそうになっていた騎士が近づいてきた。

「……あまり殺し過ぎはよくないかと。向こうもあれほどの魔兵機《ゾルダート》を作ってきたなら反攻も考慮しなければ捕虜が皆殺しと言うことも――」
「知るか。弱いヤツが死ぬだけだろうが。捕まった奴は死ね。てめえも今ここで死ぬか? ああ?」
「……っ。失礼します」
「ふん。こっちは魔兵機《ゾルダート》を壊されて考えることが多いんだ。処分されなかっただけありがたく思えよ」

 冷ややかに言うジョンビエルには返事をせず騎士はその場を後にする。

「(粗悪な冒険者を指揮官にして陛下はなにを考えているのか……? エトワール王国侵攻も腑に落ちん。交易でなんとかなったのではないか。しかし一介の騎士である私に調査など不可能……。このままグライアード王国に居て大丈夫だろうか――)」
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