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第一章

第16話 敵影

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 アウラ様と合流してから一日が経過した。
 匍匐前進は馬との速度にも満たないので即ダメ出しを受けて中腰での移動となった。

「これでも歩幅はあるから追いつくのは問題ないけどな。エネルギーはどうだ?」
<戦闘をして少し減りましたが99.9%を維持。特に問題はありません>
「了解だ」

 今はいいけど、この先が心配だ。ヴァイスに搭載されている『フェストドライブ』は火星から発掘した鉱物『マーズナイト』を液体化させて、それに荷電粒子《プラズマ》をぶつけてエネルギーとしている。
 半永久的機関らしいが物質は劣化するのでその内、マーズナイトがダメになったらフェストドライブは動かなくなるだろう。
 ちなみ動かなければその内100%に戻るはずだ。その容量がいつか必ず減る。長期戦闘に耐えうるエネルギーではあるし、爆発的な力を解放できるがヴァッフェリーゼとの違いだ。
 ちなみにヴァッフェリーゼはオーソドックスなイオンエンジンを搭載している。探査衛星とかに使っているものより大きく、電力は俺も知らない技術で安定はしているらしいけどな。

「ヴァイスが止まったらどうなっちまうのかね俺は」
<寝たきりの病人みたいになると予測されます>
「ハッキリ言うよなお前……」

 活動限界までに俺の身体が治ればいいが。そんなことを考えていると、サクヤが声を上げた。

<……! マスター、こちらに接近してくる存在があります。距離、五千>
「また亀か?」
<コンソールに大小様々な機影……いえ、影なので『部隊』かと。そこまで速くありませんし。もしかしたら――>
「そういうことか。みんな! 敵が近くまで来ている! 身を隠せるところを探すぞ!」

 俺は眼下に見えるアウラ様やガエイン爺さんに状況を伝える。するとアウラ様が荷台からこちらを見上げて小さく頷いた。

「……! わ、わかりました!」
「この辺に聡い人間は居ないから隠れるのは難しいのう。リクよどっちから来ている?」
「あっちだな」
「東か。ならば西へ動くぞ」
「でもそれでは町へ行くのが遅れませんか? そろそろ食料と水は補給しなければ……」
「そうね。もしグライアード王国の魔兵機《ゾルダート》ならリクが倒せばいいじゃない」

 アウラ様とシャルが意見を交わす。しかし俺とガエイン爺さんの答えは真逆だった。

「下手に姫様が町へ行くと被害が大きくなる可能性が高いのですじゃ。町だけなら接収で済むはず」
「それに大型の機影も多数ある。俺一人で全員を守り切れるとは限らないから、こちらから迎え撃つ形はなるべく避けたい」

 すると騎士の一人が馬の速度を下げて近づいてくる。

「……確かにそうだな。姫、我々はまだ持ちます。リク殿の戦闘力も未知数で魔兵機《ゾルダート》に対抗できるかまでは不明。ここは接触を避けるのが良いでしょう。伝令で町へ避難勧告に行ってもらいます」
「わかりました」
「全部倒しますくらい言いなさいよ!」
「無茶言うなシャル。俺はここに来て魔兵機《ゾルダート》とやらを見ていない。あっさり倒されたらお前達は全滅だぞ?」
「むう……」

 シャルは不満そうに口を尖らせるが、理解はしたようだ。俺一人なら安全だと思っている連中に奇襲をかけるくらいはやる。隙がでかいからかく乱しやすいい。
 だが、今は仲間がいる以上無理はできないのだ。

「どこか潜伏できるところはないか……? チッ、町までもうすぐだったってのに」

 視界のカメラを望遠にすると、後2キロくらいのところに町の影が見えた。しかし、敵らしき影は15キロほどの場所にあった。危険な手を使う訳にはいかない。

<町の西に林がありますね。そこで一度身を隠してはいかがでしょう?>
「そうするか。みんな、こっちだ」
「え?」

 俺は困惑するみんなの前を中腰で移動し、先導を務める。現地から西へ進みサクヤが見つけた林へと潜伏する。

「悪くない場所だ。よくわかったな?」
「ヴァイスにはレーダーっていう周辺を見ることができるものがついているんだ。そうだ、多分みんなにも見せることができるぞ」

 ツインカメラから映像を地面に写し、マップを表示させた。すると騎士の一人が顎に手を当てて感心したように言う。

「もしかしてこれが町か? で、この丸い点が我々? だとしたら戦術面が大きく変わるぞ……」
「ご名答だ、ええっと……?」
「俺ディアンだ。敵が近づいているのが分かれば奇襲・罠・待ち伏せ、なんでもアリだぞ? 大幅有利が取れる」
「ここだとそうかもな。相手も持っていたら牽制合戦になるけど。情報戦が俺達の世界だと常套だった」

 そういうと笑いながら『だろうな!』と嬉しそうだった。戦略とかを考えるのが好きな人かもしれない。

「東にあたし達と違う丸が出てきたわね」
「これがさっき言っていた『敵かもしれない』存在だ。でかいマーカーは魔兵機《ゾルダート》だと思うんだよな」
「恐らくそうじゃろう。……止まったか。町を接収しにきた部隊かもしれんのう」
「し、師匠? なら助けないと」

 シャルの言葉に力なく首を振るガエイン爺さん。その表情は固い。

「ワシらが間に合えば避難勧告もできたじゃろう。しかし、王都付近でない町や村は攻められたことを知らん。特にこちら側はグライアード王国と真逆だからな」
「で、でも……」
「殺すだけでも労力はかかる。占領だけを良しとする部隊だと祈る他はない」
「うう……」
「シャル……」

 悔しそうな表情で唇を噛むシャル。気持ちは痛いほど分かる。
 だが、お姫様である姉妹を危険に晒すわけにはいかないのもまた事実。

 ……とりあえずほとぼりが冷めるまで待機か。

 俺は沈み始めた太陽らしきものを見ながらそう思うのだった。
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