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第一章
第14話 敗走の姫君
しおりを挟む戦争に負けた。
ガエイン爺さんはそう口にする。俺は少し間を置いてから当然のことを口にする。
「国を奪われたってことか……?」
「うむ」
その当然のことを馬鹿にするでもなく深く頷くガエイン爺さん。地球とメビウスの戦いもいわゆる戦争だ。あっちは対惑星なので規模が違うかもしれないけど、人が死ぬという部分は同じだ。
「口ぶりだと向こうが攻めてきたって感じだな」
「そうだ。……移動しながら話そう。姫様達に追い付かねば」
「了解だ。ヴァイスは地上戦は想定していないんだよな。とりあえず走るか」
<戦闘時みたいに一瞬ブースターを使って相手に接近、というのは大丈夫なのですが、移動だと足を引きずる形になるので寿命が縮みます>
今の身体を壊すわけにはいかないし走るのが良さそうだ。そのままさっきの一団が向かった方へ駆け出していく。
「それで?」
「リクの言う通り、奴等が襲ってきた。それも宣戦布告無しという驚くべき邪悪な手口でな」
「そりゃ最悪な連中だな」
確かメビウスもいきなり民間シャトルやグレイスを襲ったんだっけな。まあ戦争をけしかけてくる連中がわざわざ宣戦布告をしないか。
「奴等との小競り合いは幾度かあった。それこそつまらぬ難癖をつけて町で暴れまわる輩などおった。全面戦争には程遠いが、国境の戦いはお互い無駄に傷つき人が死んだ」
「目的は?」
「ほう、同情ではなく目的を聞くか。お前も戦いに身を投じていた者のようだし当然か。奴等が欲したのは二つ」
ガエイン爺さんはヴァイスの手の中で前を向いたまま、俺に指を二本見せた。
「一つは豊富な水と鉱山。グライアード王国は草原と木とが多く、水源となる場所が少ない。対してこちらは自然が多く、山からの水は透き通っていてな。鉱石を磨くにも最適なのだ」
「水はどこにでもありそうなもんだけどな」
「湧き水が少ないのだ向こうはな」
後は鉱山があるので宝石による金や、武具の強化などを目論んでいるとはなしていた。
「そういや俺が戦っていた相手も地球を欲しがっていたな。そう言われると似たようなもんだなどこも。しかし負けたのか……悔しいな」
「そうだのう。お前も戦争中だったとは奇遇だ。あんなになるまで戦ったお前は誇っていいと思うぞ」
「俺は何度か戦っただけで、最後は格好悪い最後だったけどな」
思い出せる限りのことを自虐的に口にする。目の前に敵がいるのに戦いもせずやられたことを。
「しかし仲間を守って負傷したのだろう? 腰抜け? とんでもない。お前は誇っていい行動をしたのじゃ」
「爺さん……。ありがとう、そう言ってもらえると少し救われるよ。ん? そういや俺の身体は治療中なのにヴァイスは――」
<マスター。前方、距離八百。先ほどの一団の反応があります>
「お、本当だ」
「追いついたか。走っているだけなのに速いものだ。……こやつが居れば――」
ヴァイスのヘッドは色々あるが、俺のは両眼タイプのものだ。倍率を上げると、馬車や騎士達が見えた。もう少しで肉眼でも見えそうだな。
さっきの亀が居たところと景色が変わり、木々が増えてきた気がする。この辺なら身を隠す場所もあるので止まっても大丈夫そうだ。
「おーい!」
「ん? げっ!? あれはさっきの! ガエイン様はどうなったのだ!?」
「ワシは無事だ! すまんが一度止まってくれんか!」
「「「ガエイン様!?」」」
ヴァイスの手から身を乗り出し大声で叫ぶガエイン爺さんにびっくりする騎士達。
そのまま近くにあった湖のほとりで休憩がてら話をすることになった。
「魔兵機《ゾルダート》だ……」
「忌々しいな。ガエイン様、大丈夫なのですか?」
「降ろしてくれリク。問題ない。彼は――」
騎士達が訝しむ中、ガエインが俺の手から降りて説明をしようと騎士達を集めたところで女性の声が聞こえてきた。
「ガエイン、無事だったのですね! 申し訳ありません……あなた一人に押し付けてしまい……」
「いえ、それはワシの使命ですからな。それより遅くなりました、姫。ゲイズタートルを倒し、この者と共に追いかけてきました」
「魔兵機《ゾルダート》……」
近づいてきたのは亀に襲われていたあの時、撤退をはっきりと口にした女の子だった。そして爺さんと同じく敵国の兵器の名を口にする。
「姫、彼の名はリク。グライアード王国の魔兵機《ゾルダート》とは違う存在です」
「え? どういうことです? 魔兵機《ゾルダート》は他の国でも作られていたというのですか?」
金髪ロングの姫と呼ばれた女の子が口に手を当てて驚いていた。だがガエイン爺さんは首を振って続ける。
「それが、リクはこの世界の者ではないようなのです。ここへ来るまで話していましたが、我々の国を知らず『チキュウ』というところからやって来たと」
「異世界の者、ですか……」
冷や汗をかく姫。
そう言われれば確かに異世界ってことになるのか。まいったな……そうなると、俺は元の世界に戻れるのだろうか?
そんなことを考えていると姫が俺を見上げ、胸に左手を添えて頭を下げた。
「……お礼も言わず失礼いたしました。私はエトワール王国の王女でアウラ。アウラ・エトワールと申します」
「俺は……いや、私は神代 凌空。リクと呼んでください」
「ふふ、命を助けてもらった方ですもの。敬語は結構ですよ。それより、リク様にお願いがあります」
なんだ?
どちらかと言えば俺が頼みごとをする立場だが、なんだろうな?
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