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第一章

第7話 試験

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「うおおりゃあ!!」
「そんな直線的な動きで捉えられるか! 馬鹿が!」
「ぐあ!?」
<胴体部被弾。戦闘続行不可能>

 と、機体に搭載されたAIである『SYKUYA』の音声が流れて模擬戦の終了を告げる。俺は目の前に浮かぶガルシアのヴァイスを見ながら口をへの字にしていた。

「新装備、いいですねえ隊長!」
「ふん、これで勝ったわけじゃねえからな? ……飯の時間か、戻るぞ」

 ――あの招集《コール》があった日から三か月が経過していた。
 
 エルフォルク技術局長の下、俺達は与えられたテストをこなしている。
 今も模擬専用の旧時代にあったという東京ドーム十個分の広さがある特別ルームでガルシア隊長と対戦が終わったところだ。
 
 ここまでで分かったことだが、次世代機である『ヴァイス』の性能は恐ろしいものだった。AI『SKUYA』による索敵能力の向上、装甲の強化、操作周りが感覚的に操縦しやすい形になっている。
 関節駆動系も今みたいに鋼鉄ではなくなんちゃらプラスチックとかいう軽くて衝撃に強い素材だそうだ。

 そして他の三人がテストしている武装もやばい。
 例えば今、隊長が装備していた機体には新型ブースターが肩や足についているんだが性能がおかしい。
 通常のヴァッフェリーゼの基本的な回避プロセスは、向かって上か平行移動になる。そしてある程度の距離まで弾が近づいてしまうと『見てから』では間に合わない。
 だが新型は推進剤利用の強弱をつけることができ、一瞬で機体二機分程度の平行移動を可能にしている。
 相手からすれば急に視界から消えたように見える可能性も高い。
 さらに応用すれば『九十度真横に向いて避ける』みたいな芸当も可能というわけだ。

「ふう……」
「おら、とっとと飯に行くぞ。その後でもう一回しごいてやる」
「俺にも新武装をくださいって……」
「はっはっは! エルフォルクに言うんだな!」

 そんなことをいいながら俺の頭に手を置いて髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくるガルシア大佐。
 この人とは最初衝突しまくっていたけど、今じゃこれくらいの冗談は通じるようになった。
 自分勝手な人かと思ったんだけど、この部隊《チーム》になってしばらくした時に、大佐を知る人物に話を聞いた。
 ガルシア大佐は今五十一歳なんだけど、三十代のころ海賊を相手にした際に仲間を殺されてしまったことがあるらしい。
 シャトルを人質に取られ、決断ができなかったところに味方が突っ込んだ。
 結果としてシャトルは無事だったが、その人は死んでしまったとのこと。

 それから隊長の器ではないと一人で戦いに出るようになった。……WDMを辞めるつもりだったみたいだけど現在の総司令スッダーさんに引き止められたそうだ。

「だが、お前はセンスがいい。思い切りもな。いいパイロットになれる」
「隊長と訓練していたらそうなりますって。家族のためにも俺は死ぬわけにはいかないんで、どんどん鍛えてください!」

 俺がそう言うとガルシア大佐は目を丸くして俺を見た後、フッと笑って前を歩いていく。口は悪いし手がすぐに出るけど悪い人じゃないんだよなあ。
 死神なんて呼ばれているけど、仲間思いだよ。

「お、エイヴァさんか」
「スナイパーライフルか。こいつがありゃ迫ってくる間に撃ち抜けるから先制攻撃ができる。優先的にお願いしたいもんだぜ」
「確かに」

<左に十センチほどブレがあるわ。修正をお願い。ちょっとズレるだけで遠くなるほど当たらなくなるんだから>
<了解です>

 隣の特別ルームではエイヴァさんが的に狙撃していた。アレもそれほどかからずに完成を見るだろう。射程はおよそ二十キロほどらしい。
 高速で動く『メビウス』の人型機動兵器に悟られないかどうかはやってみないとなんともってところか。

 さらに移動するとケーニッヒの超鋼で出来たブレードのテストが確認できる。
 ナックルガードやダガーのように短く取り回しがいいもの、マチェットっぽい武器に槍なんかもある。
 弾切れ時の保険としても有効だと思う。

「……そういえば銃は新しくならないんすかね」
「計画中だ。アサルトタイプにグレネードランチャー。ミサイルがあれば今のところ問題ないだろうが。それともなにか? ジャパニーズ・アニメみたいにビームが欲しいとか?」
「あれは無理だってエルフォルクさんにバッサリ切られましたからねえ……」
「はっはっは! あの女ならその内やりかねんがな! よし、さっさと食って訓練だ」

 目的地に到着したので移動用のグリップを話して食堂に入ると、ユーシェンの姿を見かけた。彼女もこちらに気づいて手を振ってくれた。

「あ、隊長さんにカミシロさん!」
「おう。お前のブースターいい感じだぞ」
「あ、今日がテストだったんでスね! それは良かった!」
「うどん……。渋いなユーシェン」
「あはは。ママが日本の人なのでこういうのは狙って食べていまスよ! 一緒にどうですか?」
「そうするか。リク、お前、俺の分も取ってきてくれ」
「へいへい。痛っ!?」
「返事は『はい』だ」

 ニヤリと笑うガルシア大佐に肩を竦めて俺は食事を取りに行く。あのおっさん、どうせ肉だろ。
 
「これで『メビウス』が諦めてくれるといいんでスが……」
「徹底抗戦だ。新型がロールアウトすりゃ奴等なんぞ――」

 ふと二人の方を見るとそんな話をしていた。
 隊長の言う通り。攻撃を仕掛けてくるなら倒すだけだ。地球を狙っているという目的がハッキリしている相手だしな。

 現状でも戦えるようになってきた。
 そこへ新型が投入されれば追い返すことができるかもしれない。
 
 ……それにしても奴等はどうして地球を狙う? 勝てると思ったから? プロメテウス銀河は何光年も先。往復するにはかなり厳しいはずだ。
 今は火星と地球の間に奴等の拠点が作られているらしいが、向こうも資源が無限にあるわけじゃない。
 耐えきることができれば勝機はあるはず。俺達はそれに賭けて新型のテストを繰り返す。

 さらに月日は流れ――
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