上 下
5 / 146
第一章

第4話 人型機動兵器

しおりを挟む
「――来ます! データ照合メビウスの部隊、数はおよそ百五十!」
「性懲りもなく来るか……WDM、出撃だ!」
「戦闘機隊は無理はしないでください! ヴァッフェリーゼSシュッツェン装備は前面へ。アングリフ装備はSシュッツェン装備隊の後方へ」
フリンク装備は待機。接敵したらかく乱に移れ」
「「「了解……!」」」

 ――『メビウス』による最初の襲撃から五年。地球圏は戦火に包まれていた。

 宣戦布告のあったあの日より、メビウスと名乗った『敵』は言葉通り地球圏へ幾度も攻撃を仕掛けてきていた。
 最初の一年で築き上げた八つあった居住スペースは地球の近くにあるグレイスⅠとフェルゼ本社のあるグレイスⅢ以外は全て廃墟と化してしまっていた。
 
 すでに劣勢を強いられていることが分かっていた各国の政府は、地球から離れているグレイスから人間を撤退させることを決定。しかし、降伏は満場一致で拒否。
 地球を明け渡そうという国は無かった。
 生き残ったWDMを再編し、スッダーとオールトーの進言によりフェルゼにてヴァッフェリーゼ開発と素材となる金属の生産拠点の作成を提案。急ピッチでグレイスⅠに工場建造が開始された――

「レーダーだけに頼るなよ。……野郎、何度来ても追い返すまでだ! 凌空《リク》お前は無理をするな」
「了解です! ……行くぜ!」
<神代さんは初出撃なので無理をしないようにお願いします>
「おう、見ててくれよ若菜ちゃん! 親父さんの形見で奴等を討つぜ」
<……>


 ――地球製人型兵器であるヴァッフェリーゼが完成するまでの間、地球の戦力は航空隊と戦艦のみ。
 グレイスを放棄したことにより戦線が地球ギリギリにまで下がってしまったがそれは作戦の一つだった。
 防衛範囲を極力小さくすることで残った戦力でも反攻作戦ができるようにするためだった。

 戦いは熾烈極めた。
 
 それでも回収した装甲をエルフォルクが解析。フェルゼ本社と各国が専用武器の開発を進めてメビウスの人型機動兵器にダメージを与えられる火器を戦闘機に積むことにより、半年でなんとか追い返すことができる程度にはなった。
 しかし、最初の一年で戦力の六割を減らすことになり、人的被害は考えたくないレベルだった――


「こいつを食らいな……!」
「装甲をぶち抜いてやる!! トラッシュグレネードだ、受け取れ」
『なんだと……!? 地球人が!』

 ――そして一年と四か月。
 ついにヴァッフェリーゼのプロトタイプが完成。メビウスほどの高性能とまではいかなかったものの、実戦投入した初戦はそれなりに戦果を上げることができたのだった。

「よし、効いているぞ! Sシュッツェン装備隊、畳みかけろ!」

「よくもグレイスを破壊してくれたな……! 弟の仇だ、死ね!」

 ――さらに改良を重ねた五年。
 今まさにメビウスを圧倒するほどの戦隊が出来上がっていた――

◆ ◇ ◆

「……見事なものだ」
「犠牲は多かったですが、形になって良かった。これもスッダー総司令官のおかげです」
「よしてくれ。私はたまたま生き残っただけに過ぎん。ヴァッフェリーゼアレをここまでにしたのは君とフェルゼ・ゼネラルカンパニーのおかげだ」
「それも、たまたまですよ……。死んだ同僚が残してくれたデータのおかげなのですから」

 同僚の名は高柳 真司。
 彼はシャトルが攻撃されると予測し、自身の端末からエルフォルクの端末へ研究データの転送を行っていた。
 全てではなかったものの、特に重要な操縦系統プログラムが送られてきたのは僥倖だった。
 そのおかげで一年と四か月という短い期間でプロトタイプまでこぎつけたのだ。

「……オペレーターのタカヤナギ君はその同僚の娘さんだそうだな」
「ええ。シャトルが落とされた日に『またね』と別れたそうです」
「そうか……」

 スッダーは帽子の位置を直しながらモニターに目を移す。あの日、絶望に満ちた映像ではなく――

「くたばれぁぁぁ!!」
「地球は渡さん……!!」
『こ、こいつら……!? うぉあぁぁぁ!?』

 ――地球側の勝利が写されていたからだ。

「……これで、ようやく散った者達が報われたな……」

 スッダーが一人呟くと、通信が流れてくる。

<なにを言うか。これからだ。奴等を根絶やしにせねばならんのだぞ? 総司令がそんなことでは困る>
「オールトー将軍か。見事、敵を撃退してくれたな、ありがとう」
<……ふん。貴様のためではない。地球のためだ>
「フッ、そうだな」

 通信でそんな話をしていると、エルフォルクも微笑みながら口を開く。

「オールトー将軍の言う通りですよ。二日後には新型のテストが行われます」
<新型か。聞いていないが>
「秘密にしていたわけではないのですが、なにせ人手も材料も不足がちなもので。話す機会がなかっただけです。ただ、その新型が完成すればもう少し宙域の戦線拡大と新たにグレイスを建造できる可能性があります」
「企画にあった戦闘型のグレイスか。確かにWDMの戦力をまとめるのは危ないからな」
<勝つためならどんなことでもやるべきだろう。エルフォルク技師、期待している>
「はい。それでは戻ります。勝利、おめでとうございます」

 エルフォルクはそう告げて指令室を後にする。その手にある端末には新型のデータが映し出されていた。

「テストパイロット……誰にするか。ん? この男は――」


◆ ◇ ◆


「ふう……ふう……」
「お疲れさん、凌空。生き残ったな」
「隊長……。ええ、なんとか。それにしても凄い機械ですねこいつは」

 俺、神代 凌空はメビウス初戦闘を終えてグレイスへと戻ってきていた。死ぬつもりは無かったけど、現場では生きた心地がしなかった。
 それくらいシミュレーションと実戦に差があった。

「五年前には奴等だけが使えた。俺も戦闘機で参加していたが、戦力差は2:8で地球が不利。正直……負けると思っていたよ」
「俺が高校生のころ襲ってきたんだよな……。地球にいた時はWDMに入るとは思わなかったけど」

 父さんも母さんも地球に居る。
 けど俺は高校を卒業すると同時に、志願者を多数募っていたWDMに入隊した。
 理由はそれほど難しくなく、金が欲しかった。それだけだ。
 俺には十九歳になる妹がいるんだけど生まれつき身体が悪く、手術に金が必要だったから。
 まあ、もう一つあるんだが――

「凌空さん」
「んあ? おお、若菜ちゃん! 制服、似合っているな」
「ありがとうございます。その、無事で良かったです」
「なんだ、彼女か? オペレーターとは新人の癖に生意気だぜ! この!」
「や、やめてくださいよ隊長!? そういうのじゃないから!」
「ふふ、これ差し入れ! まだ仕事があるからまた」
「おう」

 ……彼女は高柳若菜。俺の妹の親友で、五年前の『メビウス』襲撃の際、父親が奴等に殺された。
 母親はショックで寝込み、最近……亡くなった。彼女は父親の仇討ちの一端になればと、俺と一緒に一年前、WDMへ志願したというわけだ。

 正直、今の地球圏は若くても歳を食っていても奴等《メビウス》と戦える人間誰でも入れている。もちろん試験やバックボーンは調べられるけど。
 逆に言えば一年ほどでもしっかり訓練をすればこの人型兵器『ヴァッフェリーゼ』に乗ることもできるくらい人材が少ないのが現状だ。

 俺は一番危険だが金回りはいいパイロット。若菜ちゃんは適正が無かったのでオペレーターとして働いている。
 今日が初陣だった俺とは違い、彼女はすでに半年前から現場に入っていた。

「これから……だよな」
「ま、お前なら大丈夫だろ。シミュレーションではトップの成績だったんだろ?」
「はは……。まあ、ゲームは昔から好きでしたし、ね」

 ロボットゲームの全国大会に優勝したことはある俺。
 だが実戦とは比べ物にならないくらいあっちは楽だ。命のことを考えずにだけ。
 こっちは失敗すれば死ぬんだからな。

「さ、シャワーを浴びて飯食って次に備えるぞ。我等フォンケン隊は誰も欠けずに守り抜くぞ!」
「「「おおー!!」」」

 そんな初陣は勝利で終わり、ホッと胸を撫でおろした。
 
 そして俺はその後『メビウス』が現れる度に出撃し、生き延びることができた。
 
 だが、一か月が経ったころ、別の指令が下ることになった――
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

北の魔女

覧都
ファンタジー
日本の、のどかな町に住む、アイとまなは親友である。 ある日まなが異世界へと転移してしまう。 転移した先では、まなは世界の北半分を支配する北の魔女だった。 まなは、その転移先で親友にそっくりな、あいという少女に出会い……

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...