上 下
2 / 146
第一章

第1話 壊滅

しおりを挟む
 ――グレイスⅠ 周辺宙域

「――っている! これはなんだ! うお!?」
「防衛隊はなにをしているんだ!」
<だ、ダメです! 戦闘機で迎撃を行っているのですが、人型の機動兵器は小回りが――>
「……くそ!」

 突如、宇宙に浮かぶ居住機構グレイスが、謎の機動兵器が襲来。
 地球に近いグレイスⅡと地球から一番遠いグレイスⅣが直接攻撃を受けたのである。
 そこで緊急迎撃エマージェンシーを発令する世界防衛機構World Defense Mechanismだったが、縦横無尽に宇宙空間を動ける戦闘機が次々と撃墜されていた。

「な、んだ……!? 人型であんなにでかいのに何故あれほどの機動力を……!」
「……やられましたね」
「どういうことか、エルフォルク!」
「でかい声を出さんでください。一見、人型は鈍重に見えますが戦闘機に比べると汎用性が高いんですよ。手足や背中にブースターをつけておけばその場で停滞できて武器も指のある手のおかげで取り回しが利く。我々ができることを大きくしてできるんですよ。作業用としても優秀だと考えています」

 ここはWDMの司令部の一つ。そこに白衣を着て、とんぼ眼鏡をかけた赤い髪の女性が眼前のモニターを見ながら肩を竦める。
 説明を受けた将校が拳を握りながら冷や汗かき、目を細めて先ほどとは打って変わって静かに口を開く。

「……お前達フェルゼ・ゼネラルカンパニーはこれを予見していたということか?」
「流石にそこまでは。しかし何者かはわかりませんが我々は形になりましたね」

 電子工学のトップクラスを誇る会社『フェルゼ・ゼネラルカンパニー』そこの技術主任であるエルフォルクは地球と近辺の宇宙の平和を維持するために必要なモノだと思い、人型機動兵器の開発を上層部に進言し開発を行っていた。
 あと一息で完成というところまできていたが、理想とも呼べるがほぼ完全な形で現れたことに驚きと興奮を隠しきれない。

「(我々の技術の上を行くか。地球の平和維持のため、そして抑止力としてWDMに卸すつもりだったが、これは違う形の運用になりそうだ。数は八機。それで攻めれると思ったのだから有用性は思った通り――)」

「ぐぬ……! こ、このままではグレイスⅠが」
「スッダー将軍、このままではここも危険です。一旦非難をしましょう……!!」
「馬鹿な、敵に背を向けて逃げるというのか!?」

 退避を提案した兵士の胸倉を掴んで持ち上げるが、それをエルフォルクが手を添えて抑える。

「その人の言う通りだ。見ろ、戦闘機も健闘しているが殆どダメージを取れていない。ここもやられるぞ!」
「……」

 モニターの向こうでは何十機もの戦闘機が攻撃しては落とされていく。向こうも慣れていないのか、少しずつだが被弾が増えていた。
 それでも戦力差は大きく、残骸が宇宙空間へ漂うことになる。

「ぜ、全滅か……!?」
「退きましょう。この光景を上層部に届けて対策をしなければ」
「おのれ! おのれぇぇぇぇぇ!!」
「皆さんデータの抜き出しを。ここもすぐに破壊されるでしょう」
「い、一般市民は……」
「WDMが出来る限り避難できるよう船を用意している!」
「……逃げ切れるかはあちらさん次第だろうけどね。……ん?」

 そこでエルフォルクの通信端末が震える。状況が状況だけに取るわけにはいかないとデータ収集を急ぐが止まらないので仕方なく出ることにした。

「私だ。急ぎか? ああ、こっちもやられていて脱出をするところだ。それで……。なに……!? それは本当か! ……そうか」
「なんだ、どうしたというのだ!? お前が叫ぶとは珍しいな」
「ちょっとね。……急ごう、私の仕事が増えたらしい。……くそっ!」
「う、うむ」

 先ほどまで激昂していたのはスッダー将軍だったが、今はエルフォルクが物凄い形相で指令室の壁を拳で殴りながら後にする。
 通路に出た瞬間、独特の浮遊感により白衣と一緒に浮かぶ。

「……シンジの乗っていたシャトルが落とされた……。あいつが居なければプロジェクトに遅れが出る……。私がやるしかない……! くそ……! 後一か月あれば……こんなことには……」

 人型ロボットの基礎になるコンピュータ開発を高柳真司が担っていた。もちろん主任であるエルフォルクも出来なくはないが、彼は天才と称されるレベルの人間だった。
 開発されていたコンピュータはどうしても理解できないところがいくつもあったのだ。

「ぐっ……!? もう来たのか……!」

 そんなことを考えている中、通路が大きく揺れる。
 いよいよこのグレイスにも攻撃の手が伸びてきたのだ。彼女は急いで脱出艇まで行くと、宇宙服を着て乗り込んだ。

「逃げるアテがあるかねえ……。グレイスⅢはまだ狙われていないようだけど」
「チィ、民間人をなんとかせねばならんだろうが!?」
「ダメです! 将軍だけでも! あいつら、グレイスの居住区にはまだ手を出していないんです、なんとかなりますって!」

 口うるさいのに民間人を気遣うとは軍人としては珍しい男だなとエルフォルクは端末を取り出しながら乗ってきたスッダー将軍を見る。
 
「うお……!?」
「うわあ!?」

 そこで爆発音が鳴り、その場に居た全員が大きく揺さぶられた。
 
 そして――

「ぐぬ……好き放題やってくれる……!」

 憤慨するスッダー将軍をよそにエルフォルクは納得がいったという表情を見せる。
 脱出艇のエンジンに火が入ったその時、彼女が口を開く。

「将軍。申し訳ないがこのままグレイスⅢへ行ってもらえるだろうか?」
「なんだと? 我々は本部へ――」
「無理だ。見てください」
「……なんと」

 端末をスッダー将軍に見せると、彼は渋い顔で冷や汗を噴出させた。
 そこには本部のある地球に一番遠い場所にあるグレイスがあちこちで爆発していたからだ。

「通信が……!」
「スッダー将軍!」
「し、指令! この騒動は一体!?」
「こちらもわからん! しかし、これは明らかな宣戦布告。我々はアレを排除せねばならん」
「もちろんです! 私もそちらへ――」

 スッダー将軍が指令に敬礼をしながら口を開くと、指令は首を振って答えた。

「そこに技術屋のエルフォルクが居るな? 彼女とフェルゼの本社へ向かってくれ。こうなったら開発を急がせるしか――」
(し、指令! 奴等がこちらに……!!)
「ぐぬ……! ここはもう駄目だ。だが、こちらも開発中の人型ロボットを戦闘用にすれば……。奴等も機動隊の戦――」

 その瞬間、脱出艇に備え付けられていた通信モニタの向こう側が消えた。スッダー将軍はなにも言わずに壁を拳で叩いた後、帽子の位置を直しながら言う。

「……グレイスⅢへ向かう。急いでだ」
「は、はい……」
「……」

 程なくして脱出艇がグレイスを出発。
 窓の外では他にも民間の船が出ていくのが見えた。それでも数隻は流れ弾に当たり撃沈される。

「……くそ……。しかしシンジ抜きで完成できるか……?」

 端末を握りしめて呟くエルフォルク。
 そこへ、ひとつのURLが、送られてきた。

「これは……!? まさか――」


 ――この日、地球人は謎の勢力に敗北した。たった八機の人型機動兵器によって。

 七つあった居住スペース・グレイスの二つが全壊。そして三つが半壊していた。
 死者の数は約三千万とも五千万ともされた。
 WDM本部が失われたことで指揮系統も狂い、後はただ相手に蹂躙を許すだけ。

 誰もがそう思っていた。
 それほどの大敗。

 そして――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

処理中です...