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第一章
第0話 発端
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――西暦はとうの昔に終わり、地球人類が地上と宇宙を住処にして100年の時が経とうとしていた。
宇宙開発の権利という世界規模の大きな戦争があった五十年前の反省から人は学び、今では各国が協力して復興を成し遂げ宇宙への移住を確保するに至る。
ガソリンは消え、原子炉は縮小という状況においてエネルギーをめぐる問題はあった。それにより多少の小競り合いが残っていた。
だが、そんな中で太陽光を効率よくエネルギーに変えることに成功し、エネルギー問題が解決。人はようやく平和という環境を作ることができたのだった。
――惑星歴95年
そんな地上と宇宙において『各国の治安維持』という名目で作られた「世界防衛機構」通称 W・D・Mという人種の垣根を越えた世界を維持する治安部隊により各国と宇宙は平和を保っていた――
「ママを頼んだぞ」
「うん! 次はいつ地球に帰ってくるの?」
「今度はちょっと短いかな? 一か月ってところだな」
「わかった! ママと待っているから頑張ってね」
「それじゃ、行ってくる」
「気を付けて真司。若菜と一緒に待っているから」
「頼むよ明日菜。ま、デスクワークに危険はそうそう無いよ」
そう言って高柳真司は肩を竦めながら妻の明日菜と娘の若菜へ笑いかける。その時、アナウンスがロビーに響く。
[トウキョウ宇宙港、八番ゲートのシャトルへ搭乗の方は搭乗口へお集まりください。繰り返します――]
「おっと、時間か。お土産、期待しててくれよ」
「はーい! 行ってらっしゃい!」
中学生三年になる可愛い娘に微笑みかけて、真司が娘の頭に手を置く。
その腕にある時計を見てあまり猶予がないことに気づいた彼はスーツケースを手にしてゲートへ向かう。
「それじゃあ行ってくる」
「気を付けて!」
「気をつけてねー!」
家族に手を振り踵を返すと、時間を気にしながら少し早足に歩き出す。家族との時間を取り過ぎたかと苦笑しながら、旧世代ではスマホと呼ばれていた電子携帯機器でチェックをする。
<OK>
無機質な音声が問題ないことを告げる。
真司はそのまま迷いなく自身が乗るシャトルの入口を目指した。
「ふう……。また一か月、か。グレイスⅢは遠いんだよな……」
窓から空を見上げて困った顔で笑う。
グレイスと呼ばれる宇宙居住区に戻ることは仕事なので仕方が無いが、家族と過ごせるのが一週間程度なのはもう少し何とかして欲しいと考えていた。
「次の仕事が終わったら地球勤務にならないか言ってみるかなあ。若菜が産まれた時は育児休暇を聞いてくれたし。色々な奴等に教えてきたから重要な仕事は先輩に任せてそろそろ引き継いでもいいころだろう」
真司は指定席に腰を落ち着けると、客室乗務員にコーヒーを要求しパソコンを開く。
「宇宙作業用人型ロボットは順調に開発が進んでいるが、OSは俺が作った『SKUYA』でいいだろう。裏コードは先輩にだけ教えとくか。くく、コキ使ってくれた礼だ。で、後は動力系をどうするか――」
そういって良く知る先輩の顔が『また君は』と呆れるのを思い浮かべて笑う。
彼、高柳真司の仕事はロボット工学技術開発。
現状、リモコン操作で危険な宇宙にわざわざ出ずとも有線・無線問わず遠隔操作のロボが投入されている。
しかしクライアントの要望で『人型を模した』ロボットが作れないかというオーダーがあった。
「……さらに人間が乗って操縦できるもの、か」
旧時代なら難しかったかもしれないが今の時代ならそれこそ大昔のアニメーションのような人型に搭乗して操縦するロボットを作ることはできる。
だが真司は資料に目を通し、コーヒーを口にした後で一人呟く。
「ナンセンスなんだよなあ。どう考えても宇宙空間に人間が乗って操縦するメリットが無い。作業なら船内やグレイスからの操作で問題ないはずだ」
確かに夢物語ではなくなったが『そんなことをする必要が無い』と考える現実主義なのでクライアントの要望はさっぱり理解できなかった。
紫外線、太陽風といった危険に晒される可能性が高いので密閉性の高いコクピットが必要だ。宇宙服もそれに合わせたものが必要になる。
「コストがバカ高くなるだけなんだが。まあ、仕事だしな。……ん?」
そこで端末へからの通知音に気付いた。会社からのメールかと真司がそれを開くと、目を疑う情報が記載されていた。
「……武器? 持たせるのか? え、本気で……? W・D・Mに納品――」
なるほど、と真司はこの理解不能な一連の依頼に納得がいったと眉を顰める。
書かれている内容は世界防衛機構に依頼され、武装しグレイス防衛の利用にテストケースとしてグレイスⅣへ配備するといったものだった。
「防衛ということならまあ、分からないでもない。戦闘機だとその場に留まるのが難しいから人型はアリだ」
しかし納得はしたが理解はやはりまだできない。
なぜなら武装をするということは『なにかと戦う』想定をしているということになる。
一昔前ならグレイス間の貨物船を狙った盗賊行為をするということがあったが、今では貨物船にも武器がついているので簡単には襲われなくなった。
というよりそれこそ武装化した無人機を出してやればいいと思う。
「まったく、フェルゼはなにを考えているのか……」
<八番ゲートはこれより第二グレイスへ向け出港をシーケンスを開始します。大気圏外へ出るまではシートベルトの着用を――>
聞きなれたいつものアナウンスを聞きながらシートベルトを締める真司。客室乗務員が確認に回った後、しばらくしてシャトルは宇宙へ向けて発信した。
窓へ視線を移し、離れていく地上を目にしながらまた仕事かと苦笑する。
「ま、お偉いさんや世界防衛機構がなにを考えていても俺は自分の仕事をやるだけだ。……武装するロボットってのはできれば作りたくはないが」
別に人型ロボットに搭乗するタイプが嫌いなわけではなく、合理的に考えると意味が無いと考えているだけなのだ。
彼自身、子供の頃に見たそういう物語にワクワクした。だからこそロボット工学の道へ進んだのだから。
<大気圏を出て、これから宇宙空間になります。シートベルトを外して問題ありません。到着は四時間後を予定しています、良い宇宙の旅を>
シャトルが大気圏を離脱し宇宙へと戻って来た。真司はシートベルトを外し、コーヒーを飲みほしてから端末に目を移した。
「現実は物語のようにはいかないってね。さて、到着したら忙しくなるし少し寝ておくかな?」
外は暗い宇宙が広がり、他のグレイスへ向かうシャトルも目に入る。航路と時間は地球の航空機と同じような感じで複数往来がある。真司のシャトルもその一つだ。
そして宇宙空間へ出て数十分が経ったその時、それは起きた――
「……!? な、なんだ!?」
「シャトルが!」
「爆発した!?」
――別の方向へ遠ざかっていくシャトルがなんの前触れもなく爆発して宇宙に散った。
「う、嘘だろ……?」
「整備不良……? このシャトルは大丈夫なのか」
シャトル内が慌ただしくなり、そこかしこで不安げな声をあげる乗客。真司も冷や汗をかきながらその状況を目にしており心臓のあたりの服を強く握りしめていた。
「シャトルが壊れる寸前、なにか光っていなかったか……? 攻撃された? しかし盗賊なら破壊はしないはず――」
そう呟いた瞬間、目の前に信じられないものが現れた。
「なんだあれは!? 人型のロボット……!」
「なんか武器を持っているぞ! まさかあれが――」
「グレイスも狙われている……!? 数は……な、何機いるんだ――」
<緊急事態発生、緊急事態発生。謎の武装メカによる襲撃によりシャトルが撃沈。これより全速力でこの宙域を離脱します。乗客の皆様にはご不便をおかけしますがシートベ――>
「これは敵、か? ……くっ、データを先輩に……!!」
命の危険を感じた真司は手元の端末を使って処理を開始。転送シーケンスが100%を表示したところで乗客の悲鳴を聞いて我に返る。
そして窓の外に見えたのはライフルのような銃口だった。
シャトルにも海賊撃退用の機銃はついているが、焼け石に水といっていいほど効果が無かった。
「くそ、どうすることもできないとは……!! 明日菜! 若菜ぁぁぁぁぁ!! 生きて――」
しかしその音声が最後まで流れることは無く、真司の乗っていたシャトルは数秒後に爆散した――
宇宙開発の権利という世界規模の大きな戦争があった五十年前の反省から人は学び、今では各国が協力して復興を成し遂げ宇宙への移住を確保するに至る。
ガソリンは消え、原子炉は縮小という状況においてエネルギーをめぐる問題はあった。それにより多少の小競り合いが残っていた。
だが、そんな中で太陽光を効率よくエネルギーに変えることに成功し、エネルギー問題が解決。人はようやく平和という環境を作ることができたのだった。
――惑星歴95年
そんな地上と宇宙において『各国の治安維持』という名目で作られた「世界防衛機構」通称 W・D・Mという人種の垣根を越えた世界を維持する治安部隊により各国と宇宙は平和を保っていた――
「ママを頼んだぞ」
「うん! 次はいつ地球に帰ってくるの?」
「今度はちょっと短いかな? 一か月ってところだな」
「わかった! ママと待っているから頑張ってね」
「それじゃ、行ってくる」
「気を付けて真司。若菜と一緒に待っているから」
「頼むよ明日菜。ま、デスクワークに危険はそうそう無いよ」
そう言って高柳真司は肩を竦めながら妻の明日菜と娘の若菜へ笑いかける。その時、アナウンスがロビーに響く。
[トウキョウ宇宙港、八番ゲートのシャトルへ搭乗の方は搭乗口へお集まりください。繰り返します――]
「おっと、時間か。お土産、期待しててくれよ」
「はーい! 行ってらっしゃい!」
中学生三年になる可愛い娘に微笑みかけて、真司が娘の頭に手を置く。
その腕にある時計を見てあまり猶予がないことに気づいた彼はスーツケースを手にしてゲートへ向かう。
「それじゃあ行ってくる」
「気を付けて!」
「気をつけてねー!」
家族に手を振り踵を返すと、時間を気にしながら少し早足に歩き出す。家族との時間を取り過ぎたかと苦笑しながら、旧世代ではスマホと呼ばれていた電子携帯機器でチェックをする。
<OK>
無機質な音声が問題ないことを告げる。
真司はそのまま迷いなく自身が乗るシャトルの入口を目指した。
「ふう……。また一か月、か。グレイスⅢは遠いんだよな……」
窓から空を見上げて困った顔で笑う。
グレイスと呼ばれる宇宙居住区に戻ることは仕事なので仕方が無いが、家族と過ごせるのが一週間程度なのはもう少し何とかして欲しいと考えていた。
「次の仕事が終わったら地球勤務にならないか言ってみるかなあ。若菜が産まれた時は育児休暇を聞いてくれたし。色々な奴等に教えてきたから重要な仕事は先輩に任せてそろそろ引き継いでもいいころだろう」
真司は指定席に腰を落ち着けると、客室乗務員にコーヒーを要求しパソコンを開く。
「宇宙作業用人型ロボットは順調に開発が進んでいるが、OSは俺が作った『SKUYA』でいいだろう。裏コードは先輩にだけ教えとくか。くく、コキ使ってくれた礼だ。で、後は動力系をどうするか――」
そういって良く知る先輩の顔が『また君は』と呆れるのを思い浮かべて笑う。
彼、高柳真司の仕事はロボット工学技術開発。
現状、リモコン操作で危険な宇宙にわざわざ出ずとも有線・無線問わず遠隔操作のロボが投入されている。
しかしクライアントの要望で『人型を模した』ロボットが作れないかというオーダーがあった。
「……さらに人間が乗って操縦できるもの、か」
旧時代なら難しかったかもしれないが今の時代ならそれこそ大昔のアニメーションのような人型に搭乗して操縦するロボットを作ることはできる。
だが真司は資料に目を通し、コーヒーを口にした後で一人呟く。
「ナンセンスなんだよなあ。どう考えても宇宙空間に人間が乗って操縦するメリットが無い。作業なら船内やグレイスからの操作で問題ないはずだ」
確かに夢物語ではなくなったが『そんなことをする必要が無い』と考える現実主義なのでクライアントの要望はさっぱり理解できなかった。
紫外線、太陽風といった危険に晒される可能性が高いので密閉性の高いコクピットが必要だ。宇宙服もそれに合わせたものが必要になる。
「コストがバカ高くなるだけなんだが。まあ、仕事だしな。……ん?」
そこで端末へからの通知音に気付いた。会社からのメールかと真司がそれを開くと、目を疑う情報が記載されていた。
「……武器? 持たせるのか? え、本気で……? W・D・Mに納品――」
なるほど、と真司はこの理解不能な一連の依頼に納得がいったと眉を顰める。
書かれている内容は世界防衛機構に依頼され、武装しグレイス防衛の利用にテストケースとしてグレイスⅣへ配備するといったものだった。
「防衛ということならまあ、分からないでもない。戦闘機だとその場に留まるのが難しいから人型はアリだ」
しかし納得はしたが理解はやはりまだできない。
なぜなら武装をするということは『なにかと戦う』想定をしているということになる。
一昔前ならグレイス間の貨物船を狙った盗賊行為をするということがあったが、今では貨物船にも武器がついているので簡単には襲われなくなった。
というよりそれこそ武装化した無人機を出してやればいいと思う。
「まったく、フェルゼはなにを考えているのか……」
<八番ゲートはこれより第二グレイスへ向け出港をシーケンスを開始します。大気圏外へ出るまではシートベルトの着用を――>
聞きなれたいつものアナウンスを聞きながらシートベルトを締める真司。客室乗務員が確認に回った後、しばらくしてシャトルは宇宙へ向けて発信した。
窓へ視線を移し、離れていく地上を目にしながらまた仕事かと苦笑する。
「ま、お偉いさんや世界防衛機構がなにを考えていても俺は自分の仕事をやるだけだ。……武装するロボットってのはできれば作りたくはないが」
別に人型ロボットに搭乗するタイプが嫌いなわけではなく、合理的に考えると意味が無いと考えているだけなのだ。
彼自身、子供の頃に見たそういう物語にワクワクした。だからこそロボット工学の道へ進んだのだから。
<大気圏を出て、これから宇宙空間になります。シートベルトを外して問題ありません。到着は四時間後を予定しています、良い宇宙の旅を>
シャトルが大気圏を離脱し宇宙へと戻って来た。真司はシートベルトを外し、コーヒーを飲みほしてから端末に目を移した。
「現実は物語のようにはいかないってね。さて、到着したら忙しくなるし少し寝ておくかな?」
外は暗い宇宙が広がり、他のグレイスへ向かうシャトルも目に入る。航路と時間は地球の航空機と同じような感じで複数往来がある。真司のシャトルもその一つだ。
そして宇宙空間へ出て数十分が経ったその時、それは起きた――
「……!? な、なんだ!?」
「シャトルが!」
「爆発した!?」
――別の方向へ遠ざかっていくシャトルがなんの前触れもなく爆発して宇宙に散った。
「う、嘘だろ……?」
「整備不良……? このシャトルは大丈夫なのか」
シャトル内が慌ただしくなり、そこかしこで不安げな声をあげる乗客。真司も冷や汗をかきながらその状況を目にしており心臓のあたりの服を強く握りしめていた。
「シャトルが壊れる寸前、なにか光っていなかったか……? 攻撃された? しかし盗賊なら破壊はしないはず――」
そう呟いた瞬間、目の前に信じられないものが現れた。
「なんだあれは!? 人型のロボット……!」
「なんか武器を持っているぞ! まさかあれが――」
「グレイスも狙われている……!? 数は……な、何機いるんだ――」
<緊急事態発生、緊急事態発生。謎の武装メカによる襲撃によりシャトルが撃沈。これより全速力でこの宙域を離脱します。乗客の皆様にはご不便をおかけしますがシートベ――>
「これは敵、か? ……くっ、データを先輩に……!!」
命の危険を感じた真司は手元の端末を使って処理を開始。転送シーケンスが100%を表示したところで乗客の悲鳴を聞いて我に返る。
そして窓の外に見えたのはライフルのような銃口だった。
シャトルにも海賊撃退用の機銃はついているが、焼け石に水といっていいほど効果が無かった。
「くそ、どうすることもできないとは……!! 明日菜! 若菜ぁぁぁぁぁ!! 生きて――」
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