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最終話 日々は常に変化する
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「むひゅー!」
『くおーん!』
「転ばないようにねー」
というわけでお家騒動から早7日《テム》が経過した。
父さんと母さんは爺様のいる町の近くにある町に住むことになり、屋敷で優雅に過ごすことになった。
父さんは久しぶりに剣を握っていたけど、基本的に町長の補佐をするようだ。
その内、町長になる予定とのこと。
母さんはいつもどおり、屋敷で過ごすことになるけど、ピアッシ叔母さんやヴィリジャが尋ねてくるから暇はしなさそうだ。先日、フリンクに乗って会いに行ってきた。
で、俺はというと、フォンダ村に戻りクレアと結婚するぞと彼女の両親に伝えたところ大喜びされた。早速、クレアは屋敷に住むことになり、ほぼ同棲という形に。
今日は町での仕事が無く、遊びに来たルーとクリンの面倒を見ている。
「どうしたんですか?」
「いや、フランソアをどうやったら株分けできるかなと。母さんが世話していたから寂しいって」
『~!』
もちろんサーナも居ついている。
こっちに帰った時、一応、姉に連絡はしたらしい。両親がすでに居ないのでもし式を挙げた場合サーラだけになるとのこと。
サーナを親として見守っているため、過保護になりすぎているところがあるみたいだ。
稼げる仕事をして来年、式を挙げられればなと思う。
「そのまま根っこを抜いてくれればいいって感じの動きですね」
「大丈夫なのか……?」
『~♪』
「いけそうですね? ウチはフランシスが残るし、お母様の下がいいでしょうね」
「今度行く予定があるからその時にな。さて、畑仕事をしたら漁と海の生態観察にいくかー」
「あ、いいですね! プラーボはどうしますか?」
「フリンクが持ち上げられるからゴンドラに乗せよう」
そして変わったことがもう一つ。
フリンクに積載制限がないということが分かった。要するにどれだけ重いのが載ったり、吊り下げたりしてもイルカ魔法で重さを感じなくすることができる。
俺達が乗った時に風を感じないのは恐らく重力を無視しているからのようだった。
なのでゴンドラを作成し、複数人を移動できる空の便が完成した。
スピードは今までと変わらないため、快適に両親や爺様たちの下へ行けるようになったのである。
そんなわけで馬達はお役御免になったため、ウチのハリソンとクレアのとこの馬は庭でのんびり暮らすことになった。仲も良いのでその内、子供も生まれるかもしれない。
「それじゃ、お昼は向こうでお弁当ね」
『お魚をおかずにしようねー! ごくり……』
「売り物も必要だから食い荒らすなよ?」
そんな調子で船も作り、魚を卸す仕事も始めた。フリンクがごっそり食っていくと絶滅しそうなのでほどほどにさせている。
「今日もいい天気だ」
『がう』
「それじゃあ、この辺で待っているから頑張ってね♪」
「おう。食卓を豪華にしてやるぜ」
『くおーん』
プラーボがいると男避けになるのは助かる。ビーチパラソルもどきも作って日よけも完璧だ。
「それじゃ昼には戻ってくる」
「はーい、いってらっしゃいー!」
『気を付けてね! プラーボ、しっかり守ってよ』
『がう!』
サーナに元気よく見送られて俺とフリンクは手とヒレを振って拠点《きゅうけいじょ》を後にする。
クレアに聞いたところ魚の生態なんかは本になっていないらしい。なので図鑑でも作ってみようというのも仕事のひとつにした。
『ふふ、今日はハマチが食いたいな』
「通だな」
ブリにまでなっていない個体は脂のノリがいいためハマチを好む人もいる。
刺身……そうだな、刺身もいいな……
「さて、それじゃ船を……ん? なんだ?」
『ん? どうした』
持って来た船を海に浮かべようとしたところで、浜辺に巨大な黒い物体が打ちあげられているのを発見した。
結構黒くてでかい。しかしよく見ると白い斑点もあるような――
『あ、あ、ああ……!? あれは!』
「あ! まさか!?」
『さ、さかまただ……!! あれ、さかまただぞ、レン!』
俺もピンと来た時点で船を置いて駆け出していた。あのフォルムは間違いなくシャチだ。
哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属で一種と思われていたけど、最近3種に分類分けされたあのシャチだ!
「し、死んでいるのか?」
『……』
フリンクは歯をカチカチ鳴らしながら慎重に取り囲む。俺はあんぐりと開いた口の上を叩いてみた。
すると――
『あ、ああ……に、人間か……み、水を……かけてくれ……』
――CV:大塚 〇忠みたいな声を出して救援を求めてきた。喋るのかこいつ!?
ひとまず要求を受け入れて水魔法を盛大にぶっかけた。すると干からびていた皮膚に艶が戻り、目をぱっちりと開けた。
『おお……生き返ったぜ……ありがとうよにんげ……ってレン! レンじゃあないか!』
「え? 俺を知っているのか?」
『目の上に傷があるな……お前、ライムか?』
「あ……!」
そこで少しだけ俺が飼育していたシャチを思い出す。小さいころに顔をぶつけすぎて目の上を怪我したライムだ。
『おー! もしかしてフリンクか! イヴァルリヴァイ様の言っていたことは本当だったんだな! はは!』
『ちょ、まとわりつくな!』
ダブル大塚な声なので見た目のファンシーさとは裏腹に戦場の空気を出しているな。それはさておき、フリンクと仲が悪いライムが好意的に話しているのが意外だ。
あの時、俺を取られたと思ったのかフリンクの居るプールに飛んで入り、暴れまわったりしていたのだ。
「イヴァルリヴァイだと? もしかしてお前も死んだのか……」
『そうだぜレン。俺を別の水族館に移送する途中、トラックとやらが事故にあったんだ。それで投げ出されたオレはそのまま干からびちまったってことよ』
「悲惨だな!?」
『それでイヴァルリヴァイ様が目の前に現れて、レンの下へ行くか聞かれたから行くと答えたんだぜ!』
『くっ……なぜお前が……』
苛立たし気に歯を鳴らすフリンク。そこへまるで人間が肩に手を回すような仕草でフリンクの背にヒレを回す。
『オレだってレンに飼育されていたからな。死後会えるならと思ったわけよ!』
『むう』
不満そうな声を出すが、イルカ仲間としてここへ来たのは嬉しい気持ちもありそうだ。
『そうそう、その時一緒に載せられていたミナミバンドウイルカのフォクシーも死んじまった』
『フォクシーも死んだ!? うう……なんという悲劇だ』
そういえばフォクシーも俺が担当したことがあるな。雌イルカでツンデレなヤツだった覚えがある。しかし、この近くには居ないみたいだ。
「なんでまた干からびていたんだ? お前って空を飛べるんじゃないか?」
『ははは、そうなんだけどな。イヴァルリヴァイ様とはぐれちまってな。魔力ってやつか? あれをまだ上手く使えねえんだ。危うく干からびるところだったぜ』
「ん? じゃあ、お前はその姿でここへ来たのか」
『だな』
『俺は子供からだったんだがな』
それはともかく、だ。
「イヴァルリヴァイが来ているのか?」
『ああ、はぐれちまったけどどこかにいるはずだ』
イヴァルリヴァイが連れて来たということはウチに住まわせる気だと思う。
ひとまず漁は中止にしてクレア達に事情を話そうと一旦戻ることに。
すると――
『がう!? がうがう!』
『くおーん!』
『……ほう、これは美味い』
「ちょ、お弁当!?」
「やめなさい! ……なんかフリンクに似ているわね?」
――拠点がやけに騒がしかった。熊親子とサーナが大声で叫んでいるのが聞こえて急いで現場に向かうと、そこには王冠とマントを羽織ったイルカがいた。
「イヴァルリヴァイ!?」
『お、レンか……ふむ、どうやらライムと合流で来たよう――』
「なにやってんだ!?」
『ワタシを落とすなんて酷いよイヴァルリヴァイ様』
二つ目のおにぎりに手をつけようとしたのでイヴァルリヴァイの頭を引っぱたいて阻止する。そこでCV:雨宮 〇みたいになったライムが憤慨していた。
「レン、このフリンクに似た生き物を知っているの?」
「ああ。こいつはイヴァルリヴァイと言って俺とフリンクの加護を担っている神様だ」
「神様!? このお弁当を強奪したナマモノが!?」
サーナの驚きもわかる。だが、事実だ。
「それになんだか新しいフリンクが居るわね……?」
『初めまして。ワタシはライム! フリンクの親戚よ!』
「あら、喋れるのね! 私はクレアよ」
「サーナです。フリンクさんより少し大きいですねえ」
『シャチはイルカより大きいんだよ。フフ……』
『キー!』
相変わらずフリンクを挑発するライムに、いよいよフリンクが飛び掛かった。
それはさておき、イヴァルリヴァイに話を聞くことにした。
「今回はライムを連れて来たのか?」
『うむ。実は前回来た時に彼等のことを話そうと思ったんだが、木の実を食べている内にすっかり忘れてしまってな……』
「あの時か!?」
『くおーん!』
あの時の恨みは忘れていないとクリンが二足で立って威嚇していた。というか初めて自力で立ってる!?
「くそ、クリンがいい感じに成長しているのに俺はイヴァルリヴァイの話を聞かねばならんとは……それでライムとフォクシーが死んだというのは聞いた。この世界に住まわせていいのか?」
『まあ、許可は得ているからな……』
名残惜しそうにヒレについた米粒を舐めながら気だるそうに言う。
『フォクシーもその内連れてくるから、その時は……頼むぞ』
「連れてくるのか……屋敷は広いけど、これ以上増やすなよ?」
『……問題ない。レンに飼育されていたのはこの三頭だけだからな』
「飼育……?」
「いや、なんでもない。それじゃ今日のところは……」
『弁当を食ったら帰る』
「今すぐ帰れ……!!」
『ははは、相変わらずだなレンは。ふぐお!?』
『よそ見するなー!』
サーナからまた弁当を奪い、おにぎりを食べ始めるイヴァルリヴァイを引っぱたくと、それを見て笑うライム。さらにライムをフリンクが尻尾を使ってぶっ飛ばしていた。
「ああ、こうやって平和は崩れていくんだな……」
「いいんじゃない? よく、わからないけどレンが神様にすごく好かれているっていうのはわかるわ! あのライムって子も家族になるのね?」
「家族……そう、そうだな。はあ……悪いな、クレア、サーナ。どうも落ち着いて暮らすのは難しいらしい」
「構いませんよ! 賑やかな方が楽しいじゃないですか」
サーナもそう言って笑う。
『がう!!』
『む、なんだ。私は神だぞ。お前達はいつも食べているからたまには捧げるのだ』
『くおーん!!』
熊親子がイヴァルリヴァイの横暴に腹を立てているのが妙におかしくて俺は大きな声で笑う。
「プッ……はははは! そうだな、賑やかな方が楽しいか。フリンク、ライムこっちへ来いよ!」
――平凡、とは言い難いけど恐らく俺はこのまま面白おかしくこの世界で生きていくのだろう。
運悪く死んだけど、特典がこれならいいんじゃないかな?
勇者も魔王も居ないし、刺激もない。けど、俺はこれくらいゆるくてちょうどいい。なんせ、イルカの神様は適当だからな?
さて、明日はどんな暮らしが待っているだろうか? ――
~Fin~
◆ ◇ ◆
はい、というわけで『飼育員だった俺がイルカと一緒に異世界へ ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~』
これにて終幕でございます!
最後は駆け足になってしまい申し訳ありません……
あまり読まれなかったので、20万文字くらいでケリをつけると決めていたのです。
この後はシャチとミナミバンドウイルカが加わり、レンに兄弟ができたり、結婚式の大騒動など構想がありましたが終わりとさせていただきます!
それではまた次回作や既存作にてお会いしましょう!
八神 凪
『くおーん!』
「転ばないようにねー」
というわけでお家騒動から早7日《テム》が経過した。
父さんと母さんは爺様のいる町の近くにある町に住むことになり、屋敷で優雅に過ごすことになった。
父さんは久しぶりに剣を握っていたけど、基本的に町長の補佐をするようだ。
その内、町長になる予定とのこと。
母さんはいつもどおり、屋敷で過ごすことになるけど、ピアッシ叔母さんやヴィリジャが尋ねてくるから暇はしなさそうだ。先日、フリンクに乗って会いに行ってきた。
で、俺はというと、フォンダ村に戻りクレアと結婚するぞと彼女の両親に伝えたところ大喜びされた。早速、クレアは屋敷に住むことになり、ほぼ同棲という形に。
今日は町での仕事が無く、遊びに来たルーとクリンの面倒を見ている。
「どうしたんですか?」
「いや、フランソアをどうやったら株分けできるかなと。母さんが世話していたから寂しいって」
『~!』
もちろんサーナも居ついている。
こっちに帰った時、一応、姉に連絡はしたらしい。両親がすでに居ないのでもし式を挙げた場合サーラだけになるとのこと。
サーナを親として見守っているため、過保護になりすぎているところがあるみたいだ。
稼げる仕事をして来年、式を挙げられればなと思う。
「そのまま根っこを抜いてくれればいいって感じの動きですね」
「大丈夫なのか……?」
『~♪』
「いけそうですね? ウチはフランシスが残るし、お母様の下がいいでしょうね」
「今度行く予定があるからその時にな。さて、畑仕事をしたら漁と海の生態観察にいくかー」
「あ、いいですね! プラーボはどうしますか?」
「フリンクが持ち上げられるからゴンドラに乗せよう」
そして変わったことがもう一つ。
フリンクに積載制限がないということが分かった。要するにどれだけ重いのが載ったり、吊り下げたりしてもイルカ魔法で重さを感じなくすることができる。
俺達が乗った時に風を感じないのは恐らく重力を無視しているからのようだった。
なのでゴンドラを作成し、複数人を移動できる空の便が完成した。
スピードは今までと変わらないため、快適に両親や爺様たちの下へ行けるようになったのである。
そんなわけで馬達はお役御免になったため、ウチのハリソンとクレアのとこの馬は庭でのんびり暮らすことになった。仲も良いのでその内、子供も生まれるかもしれない。
「それじゃ、お昼は向こうでお弁当ね」
『お魚をおかずにしようねー! ごくり……』
「売り物も必要だから食い荒らすなよ?」
そんな調子で船も作り、魚を卸す仕事も始めた。フリンクがごっそり食っていくと絶滅しそうなのでほどほどにさせている。
「今日もいい天気だ」
『がう』
「それじゃあ、この辺で待っているから頑張ってね♪」
「おう。食卓を豪華にしてやるぜ」
『くおーん』
プラーボがいると男避けになるのは助かる。ビーチパラソルもどきも作って日よけも完璧だ。
「それじゃ昼には戻ってくる」
「はーい、いってらっしゃいー!」
『気を付けてね! プラーボ、しっかり守ってよ』
『がう!』
サーナに元気よく見送られて俺とフリンクは手とヒレを振って拠点《きゅうけいじょ》を後にする。
クレアに聞いたところ魚の生態なんかは本になっていないらしい。なので図鑑でも作ってみようというのも仕事のひとつにした。
『ふふ、今日はハマチが食いたいな』
「通だな」
ブリにまでなっていない個体は脂のノリがいいためハマチを好む人もいる。
刺身……そうだな、刺身もいいな……
「さて、それじゃ船を……ん? なんだ?」
『ん? どうした』
持って来た船を海に浮かべようとしたところで、浜辺に巨大な黒い物体が打ちあげられているのを発見した。
結構黒くてでかい。しかしよく見ると白い斑点もあるような――
『あ、あ、ああ……!? あれは!』
「あ! まさか!?」
『さ、さかまただ……!! あれ、さかまただぞ、レン!』
俺もピンと来た時点で船を置いて駆け出していた。あのフォルムは間違いなくシャチだ。
哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属で一種と思われていたけど、最近3種に分類分けされたあのシャチだ!
「し、死んでいるのか?」
『……』
フリンクは歯をカチカチ鳴らしながら慎重に取り囲む。俺はあんぐりと開いた口の上を叩いてみた。
すると――
『あ、ああ……に、人間か……み、水を……かけてくれ……』
――CV:大塚 〇忠みたいな声を出して救援を求めてきた。喋るのかこいつ!?
ひとまず要求を受け入れて水魔法を盛大にぶっかけた。すると干からびていた皮膚に艶が戻り、目をぱっちりと開けた。
『おお……生き返ったぜ……ありがとうよにんげ……ってレン! レンじゃあないか!』
「え? 俺を知っているのか?」
『目の上に傷があるな……お前、ライムか?』
「あ……!」
そこで少しだけ俺が飼育していたシャチを思い出す。小さいころに顔をぶつけすぎて目の上を怪我したライムだ。
『おー! もしかしてフリンクか! イヴァルリヴァイ様の言っていたことは本当だったんだな! はは!』
『ちょ、まとわりつくな!』
ダブル大塚な声なので見た目のファンシーさとは裏腹に戦場の空気を出しているな。それはさておき、フリンクと仲が悪いライムが好意的に話しているのが意外だ。
あの時、俺を取られたと思ったのかフリンクの居るプールに飛んで入り、暴れまわったりしていたのだ。
「イヴァルリヴァイだと? もしかしてお前も死んだのか……」
『そうだぜレン。俺を別の水族館に移送する途中、トラックとやらが事故にあったんだ。それで投げ出されたオレはそのまま干からびちまったってことよ』
「悲惨だな!?」
『それでイヴァルリヴァイ様が目の前に現れて、レンの下へ行くか聞かれたから行くと答えたんだぜ!』
『くっ……なぜお前が……』
苛立たし気に歯を鳴らすフリンク。そこへまるで人間が肩に手を回すような仕草でフリンクの背にヒレを回す。
『オレだってレンに飼育されていたからな。死後会えるならと思ったわけよ!』
『むう』
不満そうな声を出すが、イルカ仲間としてここへ来たのは嬉しい気持ちもありそうだ。
『そうそう、その時一緒に載せられていたミナミバンドウイルカのフォクシーも死んじまった』
『フォクシーも死んだ!? うう……なんという悲劇だ』
そういえばフォクシーも俺が担当したことがあるな。雌イルカでツンデレなヤツだった覚えがある。しかし、この近くには居ないみたいだ。
「なんでまた干からびていたんだ? お前って空を飛べるんじゃないか?」
『ははは、そうなんだけどな。イヴァルリヴァイ様とはぐれちまってな。魔力ってやつか? あれをまだ上手く使えねえんだ。危うく干からびるところだったぜ』
「ん? じゃあ、お前はその姿でここへ来たのか」
『だな』
『俺は子供からだったんだがな』
それはともかく、だ。
「イヴァルリヴァイが来ているのか?」
『ああ、はぐれちまったけどどこかにいるはずだ』
イヴァルリヴァイが連れて来たということはウチに住まわせる気だと思う。
ひとまず漁は中止にしてクレア達に事情を話そうと一旦戻ることに。
すると――
『がう!? がうがう!』
『くおーん!』
『……ほう、これは美味い』
「ちょ、お弁当!?」
「やめなさい! ……なんかフリンクに似ているわね?」
――拠点がやけに騒がしかった。熊親子とサーナが大声で叫んでいるのが聞こえて急いで現場に向かうと、そこには王冠とマントを羽織ったイルカがいた。
「イヴァルリヴァイ!?」
『お、レンか……ふむ、どうやらライムと合流で来たよう――』
「なにやってんだ!?」
『ワタシを落とすなんて酷いよイヴァルリヴァイ様』
二つ目のおにぎりに手をつけようとしたのでイヴァルリヴァイの頭を引っぱたいて阻止する。そこでCV:雨宮 〇みたいになったライムが憤慨していた。
「レン、このフリンクに似た生き物を知っているの?」
「ああ。こいつはイヴァルリヴァイと言って俺とフリンクの加護を担っている神様だ」
「神様!? このお弁当を強奪したナマモノが!?」
サーナの驚きもわかる。だが、事実だ。
「それになんだか新しいフリンクが居るわね……?」
『初めまして。ワタシはライム! フリンクの親戚よ!』
「あら、喋れるのね! 私はクレアよ」
「サーナです。フリンクさんより少し大きいですねえ」
『シャチはイルカより大きいんだよ。フフ……』
『キー!』
相変わらずフリンクを挑発するライムに、いよいよフリンクが飛び掛かった。
それはさておき、イヴァルリヴァイに話を聞くことにした。
「今回はライムを連れて来たのか?」
『うむ。実は前回来た時に彼等のことを話そうと思ったんだが、木の実を食べている内にすっかり忘れてしまってな……』
「あの時か!?」
『くおーん!』
あの時の恨みは忘れていないとクリンが二足で立って威嚇していた。というか初めて自力で立ってる!?
「くそ、クリンがいい感じに成長しているのに俺はイヴァルリヴァイの話を聞かねばならんとは……それでライムとフォクシーが死んだというのは聞いた。この世界に住まわせていいのか?」
『まあ、許可は得ているからな……』
名残惜しそうにヒレについた米粒を舐めながら気だるそうに言う。
『フォクシーもその内連れてくるから、その時は……頼むぞ』
「連れてくるのか……屋敷は広いけど、これ以上増やすなよ?」
『……問題ない。レンに飼育されていたのはこの三頭だけだからな』
「飼育……?」
「いや、なんでもない。それじゃ今日のところは……」
『弁当を食ったら帰る』
「今すぐ帰れ……!!」
『ははは、相変わらずだなレンは。ふぐお!?』
『よそ見するなー!』
サーナからまた弁当を奪い、おにぎりを食べ始めるイヴァルリヴァイを引っぱたくと、それを見て笑うライム。さらにライムをフリンクが尻尾を使ってぶっ飛ばしていた。
「ああ、こうやって平和は崩れていくんだな……」
「いいんじゃない? よく、わからないけどレンが神様にすごく好かれているっていうのはわかるわ! あのライムって子も家族になるのね?」
「家族……そう、そうだな。はあ……悪いな、クレア、サーナ。どうも落ち着いて暮らすのは難しいらしい」
「構いませんよ! 賑やかな方が楽しいじゃないですか」
サーナもそう言って笑う。
『がう!!』
『む、なんだ。私は神だぞ。お前達はいつも食べているからたまには捧げるのだ』
『くおーん!!』
熊親子がイヴァルリヴァイの横暴に腹を立てているのが妙におかしくて俺は大きな声で笑う。
「プッ……はははは! そうだな、賑やかな方が楽しいか。フリンク、ライムこっちへ来いよ!」
――平凡、とは言い難いけど恐らく俺はこのまま面白おかしくこの世界で生きていくのだろう。
運悪く死んだけど、特典がこれならいいんじゃないかな?
勇者も魔王も居ないし、刺激もない。けど、俺はこれくらいゆるくてちょうどいい。なんせ、イルカの神様は適当だからな?
さて、明日はどんな暮らしが待っているだろうか? ――
~Fin~
◆ ◇ ◆
はい、というわけで『飼育員だった俺がイルカと一緒に異世界へ ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~』
これにて終幕でございます!
最後は駆け足になってしまい申し訳ありません……
あまり読まれなかったので、20万文字くらいでケリをつけると決めていたのです。
この後はシャチとミナミバンドウイルカが加わり、レンに兄弟ができたり、結婚式の大騒動など構想がありましたが終わりとさせていただきます!
それではまた次回作や既存作にてお会いしましょう!
八神 凪
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>yanaさん
最後までありがとうございました! 色々やりたいことはあったのですがあまりに伸びないので完結(ノД`)・゜・。 一応おさまるところにはって感じですが、タレスのその後とかも書きたかったですねえ。
>リョウさん
海洋生物最強ですからね、シャチ(笑)
ホッキョクグマをも食べるどう猛さとかがいいのかもしれません……
最後までありがとうございました!