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第103話 王子の葛藤
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「では頼むぞ」
「かしこまりました」
『いってきまーす』
「粗相の無いようにな」
すでに派手な魔法をぶっ放した後だが、それはそれだ。ヒレを振って挨拶をするフリンクに釘を刺しておく。
「見初められたら困るわねえ」
「クレアは大丈夫ですよ。そうならレンさん以外に声をかけられた時に誰かと付き合ってたと思いますし」
「確かにな。お隣さんの時からべったりだったし」
母さんとサーナ、そして父さんが城へ行くクレアの背中を見てそんな話をしていた。俺も心配はしていない。あいつは金や顔で動くやつではないからな……決してそわそわしたりしない。
「そわそわしてますわね」
「まあ、相手が王子だしな」
してないって。
さて、それはともかくイルカイヤーに集中するか――
◆ ◇ ◆
「こちらです」
「ありがとうございます!」
『ありがとうー』
というわけでクレアと俺は王子様とやらに会うため、個室にやってきた。
王子とかいう若造の女性耐性をつける、ということらしいが俺からすれば鼻で笑うレベルの話だ。
「きゃ!? フリンク、急に水を出さないでよ」
『ごめんごめん』
おっと、少々興奮しすぎたか。噴気孔から水を出してしまった。クレアに謝罪をしつつ、部屋の奥へ入っていくと窓際に背の高い男が立っていた。
『えっと、王子様?』
「……! 喋った! おお、母上の言っていた精霊様はあなたか」
『そうそう!』
俺を見ていたく感動しているな? ふむ、悪い奴ではなさそうだ。まずは話を聞いてみるか。
とりあえずクレアの背中をヒレで軽く叩く。
『自己紹介しないと』
「あ、そっか! 初めまして、殿下にご挨拶いたします。フォンダ村のクレアと申します」
「あ、ああ、父上が言っていた子だね。と、とりあえずかけてくれたまへ」
『僕はフリンクだよ!』
クレアを見て少しどもっているところを見ると、本当なのだろうか? 俺は尾っぽを折りたたんでクレアとソファに座った。ライオネス王子も着席する。
「私はライオネスだ。……まずは謝罪をさせてくれ。すまない」
「え!? いきなりどうしたんですか!?」
『謝ることがあるの?』
「父上がこの場をセッティングしただろう? 私が女性を苦手としている、と」
「ええ、そう伺っておりますけど……」
恥をかかせたくないためクレアが僕と王子を交互に見ながら肯定する。話は通っているようだが?
「えっと、嘘ではないが……本当でもない、というのが真実だ」
「ん……? と、言いますと?」
「私は女性が苦手でも免疫がないわけでもない。ただ、心に決めた女性がいるため、そうやって誤魔化しているのだよ」
『なるほど、そういうこと』
「じゃあ、わざと遠ざけるように?」
クレアが尋ねるとライオネス王子はバツが悪そうに頷いた。
「昨日、食事会をした際にウチの父上……陛下が破天荒であることは分かったと思う」
『そうだね』
「フリンク!」
「いや、実際その通りだから良いのだ。で、私は執政を任され、いつでも交代できるような形を取っている」
「いいことですよね? 私とそう変わらないのにもうトップに立てるんですから」
「ありがとう。そうすると父上はこう言い出したんだ『早く次の後継を作らねばな』と」
なるほど。
それで見合いやパーティをして結婚相手を見繕おうとしたわけか。確かに、心に決めた相手が居れば煩わしさしかないものな。
……あいつは、ミントは元気だろうか? いや、すでに終わったことか。
「それで遠ざけようと……お城の人なら早々結婚相手にはならないですものね」
「聡明で助かるよ」
『なら、早くそのことを言えばいいのに』
「そうしたいのはやまやまなのだが……彼女は病に侵されていてな」
「え!? それは……」
「なので、どちらにせよ私の想いが遂げられることはないのだ」
困った顔で笑うライオネス王子。
言い出しにくい話では、あるな。一応、誰なのか聞いてみるか? 治療のアテがある病なら俺とレンでひとっ飛びすればいいわけだし。
『ちなみにその人の名前は?』
「ん? ああ、知っているかな? バートリィ家のカイという娘だ」
『え!? カイ!?』
「カイさんってカイ様!?」
「え、知っているのかい?」
知っているもなにもない……その病を治療、というか解決したのはレンと俺だ。
ライオネス王子は迷惑はかけられないと、諦めているらしい。
いや、そう決めるにはまだ早い……!!
「フォンダ村はバートリィ家のある町からは遠いんですけど、レンが関わったことがありまして」
『うん。それで、カイの病気はすっかり治っているよ! レンと僕が原因を取り除いたからね』
「え!? ど、どういうことだね……!!」
そしてかくかくしかじかをすると、ライオネス王子は目を大きく見開いて立ち上がった。
「なら私は行動に移るしかないではないか!!」
「ええ! 頑張ってください!」
『まさかここであの時の話になるとはねえ』
感慨深いものだ。外の世界に出るまで、こんなことはまったくなかった。
神の加護とやらでいいようにことが運ぶのだろうか?
この前、イヴァルリヴァイ様がこっちに来たらしいが木の実を食って帰ったから怪しいものだ。
「父上! 母上! 私の話を聞いてくださいー!」
「行っちゃった……」
『ま、いいんじゃない? 陛下の望みは叶ったわけだし』
俺は呆れた感じで鼻を鳴らし、クレアと共にレンの所へ戻るのだった。
「かしこまりました」
『いってきまーす』
「粗相の無いようにな」
すでに派手な魔法をぶっ放した後だが、それはそれだ。ヒレを振って挨拶をするフリンクに釘を刺しておく。
「見初められたら困るわねえ」
「クレアは大丈夫ですよ。そうならレンさん以外に声をかけられた時に誰かと付き合ってたと思いますし」
「確かにな。お隣さんの時からべったりだったし」
母さんとサーナ、そして父さんが城へ行くクレアの背中を見てそんな話をしていた。俺も心配はしていない。あいつは金や顔で動くやつではないからな……決してそわそわしたりしない。
「そわそわしてますわね」
「まあ、相手が王子だしな」
してないって。
さて、それはともかくイルカイヤーに集中するか――
◆ ◇ ◆
「こちらです」
「ありがとうございます!」
『ありがとうー』
というわけでクレアと俺は王子様とやらに会うため、個室にやってきた。
王子とかいう若造の女性耐性をつける、ということらしいが俺からすれば鼻で笑うレベルの話だ。
「きゃ!? フリンク、急に水を出さないでよ」
『ごめんごめん』
おっと、少々興奮しすぎたか。噴気孔から水を出してしまった。クレアに謝罪をしつつ、部屋の奥へ入っていくと窓際に背の高い男が立っていた。
『えっと、王子様?』
「……! 喋った! おお、母上の言っていた精霊様はあなたか」
『そうそう!』
俺を見ていたく感動しているな? ふむ、悪い奴ではなさそうだ。まずは話を聞いてみるか。
とりあえずクレアの背中をヒレで軽く叩く。
『自己紹介しないと』
「あ、そっか! 初めまして、殿下にご挨拶いたします。フォンダ村のクレアと申します」
「あ、ああ、父上が言っていた子だね。と、とりあえずかけてくれたまへ」
『僕はフリンクだよ!』
クレアを見て少しどもっているところを見ると、本当なのだろうか? 俺は尾っぽを折りたたんでクレアとソファに座った。ライオネス王子も着席する。
「私はライオネスだ。……まずは謝罪をさせてくれ。すまない」
「え!? いきなりどうしたんですか!?」
『謝ることがあるの?』
「父上がこの場をセッティングしただろう? 私が女性を苦手としている、と」
「ええ、そう伺っておりますけど……」
恥をかかせたくないためクレアが僕と王子を交互に見ながら肯定する。話は通っているようだが?
「えっと、嘘ではないが……本当でもない、というのが真実だ」
「ん……? と、言いますと?」
「私は女性が苦手でも免疫がないわけでもない。ただ、心に決めた女性がいるため、そうやって誤魔化しているのだよ」
『なるほど、そういうこと』
「じゃあ、わざと遠ざけるように?」
クレアが尋ねるとライオネス王子はバツが悪そうに頷いた。
「昨日、食事会をした際にウチの父上……陛下が破天荒であることは分かったと思う」
『そうだね』
「フリンク!」
「いや、実際その通りだから良いのだ。で、私は執政を任され、いつでも交代できるような形を取っている」
「いいことですよね? 私とそう変わらないのにもうトップに立てるんですから」
「ありがとう。そうすると父上はこう言い出したんだ『早く次の後継を作らねばな』と」
なるほど。
それで見合いやパーティをして結婚相手を見繕おうとしたわけか。確かに、心に決めた相手が居れば煩わしさしかないものな。
……あいつは、ミントは元気だろうか? いや、すでに終わったことか。
「それで遠ざけようと……お城の人なら早々結婚相手にはならないですものね」
「聡明で助かるよ」
『なら、早くそのことを言えばいいのに』
「そうしたいのはやまやまなのだが……彼女は病に侵されていてな」
「え!? それは……」
「なので、どちらにせよ私の想いが遂げられることはないのだ」
困った顔で笑うライオネス王子。
言い出しにくい話では、あるな。一応、誰なのか聞いてみるか? 治療のアテがある病なら俺とレンでひとっ飛びすればいいわけだし。
『ちなみにその人の名前は?』
「ん? ああ、知っているかな? バートリィ家のカイという娘だ」
『え!? カイ!?』
「カイさんってカイ様!?」
「え、知っているのかい?」
知っているもなにもない……その病を治療、というか解決したのはレンと俺だ。
ライオネス王子は迷惑はかけられないと、諦めているらしい。
いや、そう決めるにはまだ早い……!!
「フォンダ村はバートリィ家のある町からは遠いんですけど、レンが関わったことがありまして」
『うん。それで、カイの病気はすっかり治っているよ! レンと僕が原因を取り除いたからね』
「え!? ど、どういうことだね……!!」
そしてかくかくしかじかをすると、ライオネス王子は目を大きく見開いて立ち上がった。
「なら私は行動に移るしかないではないか!!」
「ええ! 頑張ってください!」
『まさかここであの時の話になるとはねえ』
感慨深いものだ。外の世界に出るまで、こんなことはまったくなかった。
神の加護とやらでいいようにことが運ぶのだろうか?
この前、イヴァルリヴァイ様がこっちに来たらしいが木の実を食って帰ったから怪しいものだ。
「父上! 母上! 私の話を聞いてくださいー!」
「行っちゃった……」
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