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第91話 久しぶりの神様
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温泉を後にした俺はその辺の木から果物などを回収し、晩飯にあてることにした。その間にフリンクへイルカアローを飛ばしておく。
(すまんフリンク。クレアかサーナに言って晩飯を調達してくれないか?)
(む。レンか。承知した)
(ハリソンと熊親子の分も頼むぜ)
目を閉じて超音波を飛ばすとフリンクに繋がり、食事について打診をする。
(問題ない)
(そっちはどうだ?)
フリンクと意思疎通を行い、状況を確認する。俺の言葉に承諾をしてくれたので晩飯は良さそうだ。ついでに町の状況を聞いてみる。
(特に気になることはないな。クレアとサーナがナンパされていたが、伯父が撃退していた)
(助かる。お前は?)
(威嚇はしていたぞ)
歯を鳴らしていたらしい。
しかし、ちょっと買い物をしに出ただけでも声をかけられるとは……
ひとまず撃退してくれてホッとする。フリンクは攻撃力が高すぎるので、いざという時に威嚇くらいしかできないのが勿体ない。全力の尻尾は一撃で人を殺す。
(イルカアローで距離はわかるだろ? この辺に居るから持ってきてくれ。温泉があるから入っているかもしれないけど)
(わかった。温泉か、広いのか?)
(お前でも泳げるくらいだ)
(そうか。ではまた後でな)
心なしか嬉しそうな声色だったな。風呂にはあまり入らず、水浴びが多いんだけどな?
「さて、飯の確保はできたし陽が落ちるまでなにをするかなあ」
『がう』
『くおーん♪』
「お、なんだクリン。遊びたいのか?」
焚火の薪もさっき拾ってきたしやることがない。寝ると変な時間になりそうなので起きていたいのだ。
するとハンモックからクリンが飛び降りてきて俺の膝に乗っかって来た。
「おやつだぞー」
『くおんくおん!』
背中を撫でてやりながら、さっき採って来た木いちごを口に入れてやった。
ご機嫌である。
あまり甘やかすとよくないので数個上げてから荷台へと放り込んでおこう。
「温泉に入りたいけどもう少し陽が落ちてからがいいな」
『くおん?』
「お風呂だよ。クリン達は水浴びしかしないからわからないか。後で行こうな」
『くーん♪』
それから適当にクリンを転がしたりして遊んでやる。ハリソンは身体を横たえてゆっくり休み、プラーボもハンモックに揺られて楽し気に鼻を鳴らしていた。
パチパチと焚火の弾ける音が心地いい。
「……貴族とはなあ」
なんとなくそんなことを呟いてしまう。
外に出てからなんだか色々と目まぐるしく変化が訪れていて、驚くことばかりだ。
いや、周りからすれば俺とフリンクが異端なのでお互い様というかどっこいしょというか……
正直、楽しいことが多く、幸せな日々なのでなんも問題は無い。
むしろこの状態で前世みたいに不意に死ぬようなことがあったら……という方が怖いなと感じる。
「簡単に死なないようとは思うけど……」
『そうだな。そういう風に転生させたし。この木の実、なかなか美味いじゃないか……』
「うおお!?」
『くおおおん!』
俺が呟いた瞬間、そこには王冠を被り、マントを羽織ったイルカが居た。
毛を逆立てて吠えるクリンが頼もしい。だけど、俺はクリンを抱っこして大人しくさせる。
「イヴァルリヴァイじゃないか」
『うむ。息災のようだな……』
相変わらずけだるげな声で木の実をもちゅもちゅと食べるイヴァルリヴァイ。
フリンクは居ないがどうしたのか聞いてみることにした。
「どうしたんだ? こっちにはあまり干渉できないんじゃなかったか?」
『その通りだ。しかし、少し伝えたいことがあってな』
「伝えたいこと……?」
『うむ。それほど重要ではないが、直接伝えておこうと思ってな』
「ごくり……」
イヴァルリヴァイがかしこまってそんなことを言い出す。俺は耳を傾けて静かに待つ。
すると――
『お前の母親は実は平民ではない。貴族の娘だった――』
「知ってるわ!? つい最近知ったが!?」
『なんだと……!』
「情報が古い!」
クワッと目を見開き、イヴァルリヴァイが意外だという声を上げた。木いちごを食べる手は止まらない。
「お前、俺の様子とか見ていないのか……?」
『それほど暇ではない。そうか知ったのか。外の世界に出たのは知っていたが』
「それを伝えてどうするつもりだったんだよ」
『なあに、外の世界に出た場合フリンクが枷になることもあるだろう。だが、貴族の後ろ盾があればおいそれとお前や家族に手を出せないだろうと考えていた』
「なるほど、それは助かる話だ」
曰く、今の両親を選んだのはそういうところも踏まえてのようだった。余計な先入観を抱かせないため、大きくなってから伝えるつもりだったとか。不器用イルカである。
『ならばもう用は無いな。上手くすれば結婚相手も引手あまただろう。ではな』
「お、帰るのか? フリンクに会わなくていいのか?」
『ヤツに話すことは特にない。お前から伝えておいてくれ』
「分かった」
俺が頷くと、なんとなくニヤリと笑ったような顔をしてスッと消えた。イルカは笑っている顔に見えるものだが。
『くおーん……』
「どうしたクリン? ……あ!?」
見れば俺が採って来た木いちごは食い荒らされていた……神様のくせに食い意地が張ってるな!?
そんな感じで急な来訪者があったものの、後は静かに過ごしていた。
やがて陽が暮れ、フリンクが食事を持って来たのだが――
(すまんフリンク。クレアかサーナに言って晩飯を調達してくれないか?)
(む。レンか。承知した)
(ハリソンと熊親子の分も頼むぜ)
目を閉じて超音波を飛ばすとフリンクに繋がり、食事について打診をする。
(問題ない)
(そっちはどうだ?)
フリンクと意思疎通を行い、状況を確認する。俺の言葉に承諾をしてくれたので晩飯は良さそうだ。ついでに町の状況を聞いてみる。
(特に気になることはないな。クレアとサーナがナンパされていたが、伯父が撃退していた)
(助かる。お前は?)
(威嚇はしていたぞ)
歯を鳴らしていたらしい。
しかし、ちょっと買い物をしに出ただけでも声をかけられるとは……
ひとまず撃退してくれてホッとする。フリンクは攻撃力が高すぎるので、いざという時に威嚇くらいしかできないのが勿体ない。全力の尻尾は一撃で人を殺す。
(イルカアローで距離はわかるだろ? この辺に居るから持ってきてくれ。温泉があるから入っているかもしれないけど)
(わかった。温泉か、広いのか?)
(お前でも泳げるくらいだ)
(そうか。ではまた後でな)
心なしか嬉しそうな声色だったな。風呂にはあまり入らず、水浴びが多いんだけどな?
「さて、飯の確保はできたし陽が落ちるまでなにをするかなあ」
『がう』
『くおーん♪』
「お、なんだクリン。遊びたいのか?」
焚火の薪もさっき拾ってきたしやることがない。寝ると変な時間になりそうなので起きていたいのだ。
するとハンモックからクリンが飛び降りてきて俺の膝に乗っかって来た。
「おやつだぞー」
『くおんくおん!』
背中を撫でてやりながら、さっき採って来た木いちごを口に入れてやった。
ご機嫌である。
あまり甘やかすとよくないので数個上げてから荷台へと放り込んでおこう。
「温泉に入りたいけどもう少し陽が落ちてからがいいな」
『くおん?』
「お風呂だよ。クリン達は水浴びしかしないからわからないか。後で行こうな」
『くーん♪』
それから適当にクリンを転がしたりして遊んでやる。ハリソンは身体を横たえてゆっくり休み、プラーボもハンモックに揺られて楽し気に鼻を鳴らしていた。
パチパチと焚火の弾ける音が心地いい。
「……貴族とはなあ」
なんとなくそんなことを呟いてしまう。
外に出てからなんだか色々と目まぐるしく変化が訪れていて、驚くことばかりだ。
いや、周りからすれば俺とフリンクが異端なのでお互い様というかどっこいしょというか……
正直、楽しいことが多く、幸せな日々なのでなんも問題は無い。
むしろこの状態で前世みたいに不意に死ぬようなことがあったら……という方が怖いなと感じる。
「簡単に死なないようとは思うけど……」
『そうだな。そういう風に転生させたし。この木の実、なかなか美味いじゃないか……』
「うおお!?」
『くおおおん!』
俺が呟いた瞬間、そこには王冠を被り、マントを羽織ったイルカが居た。
毛を逆立てて吠えるクリンが頼もしい。だけど、俺はクリンを抱っこして大人しくさせる。
「イヴァルリヴァイじゃないか」
『うむ。息災のようだな……』
相変わらずけだるげな声で木の実をもちゅもちゅと食べるイヴァルリヴァイ。
フリンクは居ないがどうしたのか聞いてみることにした。
「どうしたんだ? こっちにはあまり干渉できないんじゃなかったか?」
『その通りだ。しかし、少し伝えたいことがあってな』
「伝えたいこと……?」
『うむ。それほど重要ではないが、直接伝えておこうと思ってな』
「ごくり……」
イヴァルリヴァイがかしこまってそんなことを言い出す。俺は耳を傾けて静かに待つ。
すると――
『お前の母親は実は平民ではない。貴族の娘だった――』
「知ってるわ!? つい最近知ったが!?」
『なんだと……!』
「情報が古い!」
クワッと目を見開き、イヴァルリヴァイが意外だという声を上げた。木いちごを食べる手は止まらない。
「お前、俺の様子とか見ていないのか……?」
『それほど暇ではない。そうか知ったのか。外の世界に出たのは知っていたが』
「それを伝えてどうするつもりだったんだよ」
『なあに、外の世界に出た場合フリンクが枷になることもあるだろう。だが、貴族の後ろ盾があればおいそれとお前や家族に手を出せないだろうと考えていた』
「なるほど、それは助かる話だ」
曰く、今の両親を選んだのはそういうところも踏まえてのようだった。余計な先入観を抱かせないため、大きくなってから伝えるつもりだったとか。不器用イルカである。
『ならばもう用は無いな。上手くすれば結婚相手も引手あまただろう。ではな』
「お、帰るのか? フリンクに会わなくていいのか?」
『ヤツに話すことは特にない。お前から伝えておいてくれ』
「分かった」
俺が頷くと、なんとなくニヤリと笑ったような顔をしてスッと消えた。イルカは笑っている顔に見えるものだが。
『くおーん……』
「どうしたクリン? ……あ!?」
見れば俺が採って来た木いちごは食い荒らされていた……神様のくせに食い意地が張ってるな!?
そんな感じで急な来訪者があったものの、後は静かに過ごしていた。
やがて陽が暮れ、フリンクが食事を持って来たのだが――
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