イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
91 / 105

第91話 久しぶりの神様

しおりを挟む
 温泉を後にした俺はその辺の木から果物などを回収し、晩飯にあてることにした。その間にフリンクへイルカアローを飛ばしておく。

(すまんフリンク。クレアかサーナに言って晩飯を調達してくれないか?)
(む。レンか。承知した)
(ハリソンと熊親子の分も頼むぜ)

 目を閉じて超音波を飛ばすとフリンクに繋がり、食事について打診をする。

(問題ない)
(そっちはどうだ?)

 フリンクと意思疎通を行い、状況を確認する。俺の言葉に承諾をしてくれたので晩飯は良さそうだ。ついでに町の状況を聞いてみる。

(特に気になることはないな。クレアとサーナがナンパされていたが、伯父が撃退していた)
(助かる。お前は?)
(威嚇はしていたぞ)

 歯を鳴らしていたらしい。
 しかし、ちょっと買い物をしに出ただけでも声をかけられるとは……
 ひとまず撃退してくれてホッとする。フリンクは攻撃力が高すぎるので、いざという時に威嚇くらいしかできないのが勿体ない。全力の尻尾は一撃で人を殺す。

(イルカアローで距離はわかるだろ? この辺に居るから持ってきてくれ。温泉があるから入っているかもしれないけど)
(わかった。温泉か、広いのか?)
(お前でも泳げるくらいだ)
(そうか。ではまた後でな)

 心なしか嬉しそうな声色だったな。風呂にはあまり入らず、水浴びが多いんだけどな?

「さて、飯の確保はできたし陽が落ちるまでなにをするかなあ」
『がう』
『くおーん♪』
「お、なんだクリン。遊びたいのか?」

 焚火の薪もさっき拾ってきたしやることがない。寝ると変な時間になりそうなので起きていたいのだ。
 するとハンモックからクリンが飛び降りてきて俺の膝に乗っかって来た。

「おやつだぞー」
『くおんくおん!』

 背中を撫でてやりながら、さっき採って来た木いちごを口に入れてやった。
 ご機嫌である。
 あまり甘やかすとよくないので数個上げてから荷台へと放り込んでおこう。

「温泉に入りたいけどもう少し陽が落ちてからがいいな」
『くおん?』
「お風呂だよ。クリン達は水浴びしかしないからわからないか。後で行こうな」
『くーん♪』

 それから適当にクリンを転がしたりして遊んでやる。ハリソンは身体を横たえてゆっくり休み、プラーボもハンモックに揺られて楽し気に鼻を鳴らしていた。
 パチパチと焚火の弾ける音が心地いい。

「……貴族とはなあ」

 なんとなくそんなことを呟いてしまう。
 外に出てからなんだか色々と目まぐるしく変化が訪れていて、驚くことばかりだ。
 いや、周りからすれば俺とフリンクが異端なのでお互い様というかどっこいしょというか……
 正直、楽しいことが多く、幸せな日々なのでなんも問題は無い。
 むしろこの状態で前世みたいに不意に死ぬようなことがあったら……という方が怖いなと感じる。
 
「簡単に死なないようとは思うけど……」
『そうだな。そういう風に転生させたし。この木の実、なかなか美味いじゃないか……』
「うおお!?」
『くおおおん!』

 俺が呟いた瞬間、そこには王冠を被り、マントを羽織ったイルカが居た。
 毛を逆立てて吠えるクリンが頼もしい。だけど、俺はクリンを抱っこして大人しくさせる。

「イヴァルリヴァイじゃないか」
『うむ。息災のようだな……』

 相変わらずけだるげな声で木の実をもちゅもちゅと食べるイヴァルリヴァイ。
 フリンクは居ないがどうしたのか聞いてみることにした。

「どうしたんだ? こっちにはあまり干渉できないんじゃなかったか?」
『その通りだ。しかし、少し伝えたいことがあってな』
「伝えたいこと……?」
『うむ。それほど重要ではないが、直接伝えておこうと思ってな』
「ごくり……」

 イヴァルリヴァイがかしこまってそんなことを言い出す。俺は耳を傾けて静かに待つ。

 すると――

『お前の母親は実は平民ではない。貴族の娘だった――』
「知ってるわ!? つい最近知ったが!?」
『なんだと……!』
「情報が古い!」

 クワッと目を見開き、イヴァルリヴァイが意外だという声を上げた。木いちごを食べる手は止まらない。

「お前、俺の様子とか見ていないのか……?」
『それほど暇ではない。そうか知ったのか。外の世界に出たのは知っていたが』
「それを伝えてどうするつもりだったんだよ」
『なあに、外の世界に出た場合フリンクが枷になることもあるだろう。だが、貴族の後ろ盾があればおいそれとお前や家族に手を出せないだろうと考えていた』
「なるほど、それは助かる話だ」

 曰く、今の両親を選んだのはそういうところも踏まえてのようだった。余計な先入観を抱かせないため、大きくなってから伝えるつもりだったとか。不器用イルカである。

『ならばもう用は無いな。上手くすれば結婚相手も引手あまただろう。ではな』
「お、帰るのか? フリンクに会わなくていいのか?」
『ヤツに話すことは特にない。お前から伝えておいてくれ』
「分かった」

 俺が頷くと、なんとなくニヤリと笑ったような顔をしてスッと消えた。イルカは笑っている顔に見えるものだが。

『くおーん……』
「どうしたクリン? ……あ!?」

 見れば俺が採って来た木いちごは食い荒らされていた……神様のくせに食い意地が張ってるな!?
 そんな感じで急な来訪者があったものの、後は静かに過ごしていた。
 やがて陽が暮れ、フリンクが食事を持って来たのだが――
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...