88 / 105
第88話 他人事だと思って
しおりを挟む
「なら、伯父さんと一緒に実家へ行くんだな」
「そうするわ」
というわけでサーナと共に屋敷へ戻ると、母さん達に呼ばれて話し合いとなった。
あの場で話していた通り、両親は母さんの実家へ戻るようだ。父さんの両親はすでに居ないらしい。
「なら、その間は俺が野菜を売りに行くか」
「ん? なにを言っているのだレン。お前も来るんだぞ」
「え、なんで!?」
「なんでって、父上……っと、君の祖父母にあたる人と会うためだよ」
叔父さんに言われて確かにと俺は手を打つ。
身内なんだから、そりゃ顔合わせをしておいた方がいいだろう。
「となるとフランソアと熊親子をどうするかだな」
「わたしが見ていますよ?」
「うーん、目の届かないところに置きたくないけど……」
サーナがお世話を買って出てくれたが、なんだかんだで狂暴な熊だ。俺やフリンクがいなければ牙を剥くかもしれない。
しかし、話を聞く限りとても遠いので連れて行くわけにもいかないなあ。
「なら、サーナ。悪いけど頼むよ。顔を見せたらフリンクに乗ってサッと帰ってくる」
「はい! ……ところで、おじさま。その、家名をお伺いしても……?」
「む? ヤクリーニン家だが、知っているか?」
「……! 侯爵家じゃないですか!?」
サーナが揉み手すり手で伯父さんに爵位を尋ねていた。そしてまさかの侯爵家……ということはカイさんより上で、タレスと同じなのか……
「妻をいっぱい娶れますね!?」
「あ、ああ、まあ第二婦人といったところだが……というか君はなんなのかね!?」
「やめろサーナ」
伯父さんの服を掴んでガクガクと身体を揺するサーナを引きはがす。
「えっと、王都の宮廷魔法使いって分かります? そこに居るサーラって人の妹なんですよ」
「……!? ワイルドウィッチの妹だと……!?」
「なんです、それ?」
伯父さんが耳慣れないことを口にしたので尋ねるが、彼は首を振ってから口を開く。
「私から言えることは特にない。妹ならわかると思うが、アレに関わってはいけないのだ……」
『おおげさじゃない……?』
「いや、姉ちゃんなら有り得ますよ。さて、いい情報をいただいたので、わたしはお茶を用意しますね! んふふふふ~ん♪」
不穏な発言を残してサーナはリビングから消えた。そこで伯父さんが居ずまいを正してから咳ばらいをした。
「ごほん! それにしても、いい屋敷に住んでいたんだな? なんだかんだで、ミドリに合わせてくれたのか」
「いや……実は、そうじゃないんですよ」
父さんは頭を掻きながらバートリィ家とのことを話す。当事者は俺だが、結果的に一家の屋敷となったことを伝えた。
「はー……ならちょっと前までは本当に平民みたいな暮らしだったんだな……」
「ま、まあ、そうですが……不自由ないくらいに金は稼いでいますよ。だいたいこれくらい……」
「……!? 凄いなお前……!? 野菜を売るだけでそんなに稼げるのか?」
「うふふ」
どうにも貯金の額を伝えたらしい。貴族の伯父さんが驚くあたり、結構貯め込んでいるのだろうか?
まあ、父さんと母さんは欲しいものがあまり無いし、俺も村から出なかったので買い物はたまにパン屋で買い食いをするくらいだ。
そういえば学生時代はあんまり金に困っている印象は無かったなあ・
「いや、なるほど……それなら父上も納得するだろう。この屋敷も私から伝える」
「そうね! きっと大丈夫よ!」
「レンもいるし、神様の加護があってフリンクという精霊も居ればお義父さんも認めてくれるはずだ」
「まあ20年以上経っているしな。私の妻と子供にも会ってやってくれ」
「楽しみだわ。私の知っている人かしら?」
そんな感じで20年ぶりの兄妹再会は少しのわだかまりがあったものの、概ね良好な関係を維持できたようだ。主に父さんだけど。
元々、伯父さんとも知り合いだったから打ち首獄門みたいにならなかったのはでかい。まあそうなったら別の国に逃げると思うけど。
「はーい、お酒の追加と、デザートのプリンですよー」
『わーい!』
そこでサーナがお茶を持って帰って来た。父さん達には酒とつまみで、俺達は紅茶とプリンである。フリンクは塩水を所望していた。
「ふむ、レンよ」
「なんだいアオヤ伯父さん?」
「私も町で食べたのだが、そのプリンという食べ物はお前が作ったのか?」
「あれ、なんでそのことを……」
「レストランのマスターが言っていたぞ。最初は誰か分からなかったが、まさか甥とはな」
どうもマスターが考案したんじゃないということを広めているらしい。
「レシピ提供をした感じかな? それが?」
「……戻ったら娘に作ってやってくれんか?」
「え? ああ、別に構わないけど……小さい子しか喜ばないような……」
「まあ、来ればわかる。頼むぞ? さて、カブト、今までどうしていたか話してもらおうか」
「仕方ない……」
伯父さんは意味ありげにそう呟くと、父さんと酒を飲み始めた。もし子供が居たら俺よりも年上か、悪くても十歳は越えていると思うが……
「レンさん、レンさん」
「ん? どうしたサーナ?」
「まずはお付き合いからお願いします……!」
「もうその気になってんのかよ!? 母さんは貴族でも俺と父さんは違うかもしれないだろうが」
「えへ」
『まったく、たくましいなあ』
一番たくましいであろうフリンクがプリンに舌鼓を打ちながらそう呟き、サーナが襲い掛かった。
やれやれ、今度はちょっと長旅になりそうだな?
「そうするわ」
というわけでサーナと共に屋敷へ戻ると、母さん達に呼ばれて話し合いとなった。
あの場で話していた通り、両親は母さんの実家へ戻るようだ。父さんの両親はすでに居ないらしい。
「なら、その間は俺が野菜を売りに行くか」
「ん? なにを言っているのだレン。お前も来るんだぞ」
「え、なんで!?」
「なんでって、父上……っと、君の祖父母にあたる人と会うためだよ」
叔父さんに言われて確かにと俺は手を打つ。
身内なんだから、そりゃ顔合わせをしておいた方がいいだろう。
「となるとフランソアと熊親子をどうするかだな」
「わたしが見ていますよ?」
「うーん、目の届かないところに置きたくないけど……」
サーナがお世話を買って出てくれたが、なんだかんだで狂暴な熊だ。俺やフリンクがいなければ牙を剥くかもしれない。
しかし、話を聞く限りとても遠いので連れて行くわけにもいかないなあ。
「なら、サーナ。悪いけど頼むよ。顔を見せたらフリンクに乗ってサッと帰ってくる」
「はい! ……ところで、おじさま。その、家名をお伺いしても……?」
「む? ヤクリーニン家だが、知っているか?」
「……! 侯爵家じゃないですか!?」
サーナが揉み手すり手で伯父さんに爵位を尋ねていた。そしてまさかの侯爵家……ということはカイさんより上で、タレスと同じなのか……
「妻をいっぱい娶れますね!?」
「あ、ああ、まあ第二婦人といったところだが……というか君はなんなのかね!?」
「やめろサーナ」
伯父さんの服を掴んでガクガクと身体を揺するサーナを引きはがす。
「えっと、王都の宮廷魔法使いって分かります? そこに居るサーラって人の妹なんですよ」
「……!? ワイルドウィッチの妹だと……!?」
「なんです、それ?」
伯父さんが耳慣れないことを口にしたので尋ねるが、彼は首を振ってから口を開く。
「私から言えることは特にない。妹ならわかると思うが、アレに関わってはいけないのだ……」
『おおげさじゃない……?』
「いや、姉ちゃんなら有り得ますよ。さて、いい情報をいただいたので、わたしはお茶を用意しますね! んふふふふ~ん♪」
不穏な発言を残してサーナはリビングから消えた。そこで伯父さんが居ずまいを正してから咳ばらいをした。
「ごほん! それにしても、いい屋敷に住んでいたんだな? なんだかんだで、ミドリに合わせてくれたのか」
「いや……実は、そうじゃないんですよ」
父さんは頭を掻きながらバートリィ家とのことを話す。当事者は俺だが、結果的に一家の屋敷となったことを伝えた。
「はー……ならちょっと前までは本当に平民みたいな暮らしだったんだな……」
「ま、まあ、そうですが……不自由ないくらいに金は稼いでいますよ。だいたいこれくらい……」
「……!? 凄いなお前……!? 野菜を売るだけでそんなに稼げるのか?」
「うふふ」
どうにも貯金の額を伝えたらしい。貴族の伯父さんが驚くあたり、結構貯め込んでいるのだろうか?
まあ、父さんと母さんは欲しいものがあまり無いし、俺も村から出なかったので買い物はたまにパン屋で買い食いをするくらいだ。
そういえば学生時代はあんまり金に困っている印象は無かったなあ・
「いや、なるほど……それなら父上も納得するだろう。この屋敷も私から伝える」
「そうね! きっと大丈夫よ!」
「レンもいるし、神様の加護があってフリンクという精霊も居ればお義父さんも認めてくれるはずだ」
「まあ20年以上経っているしな。私の妻と子供にも会ってやってくれ」
「楽しみだわ。私の知っている人かしら?」
そんな感じで20年ぶりの兄妹再会は少しのわだかまりがあったものの、概ね良好な関係を維持できたようだ。主に父さんだけど。
元々、伯父さんとも知り合いだったから打ち首獄門みたいにならなかったのはでかい。まあそうなったら別の国に逃げると思うけど。
「はーい、お酒の追加と、デザートのプリンですよー」
『わーい!』
そこでサーナがお茶を持って帰って来た。父さん達には酒とつまみで、俺達は紅茶とプリンである。フリンクは塩水を所望していた。
「ふむ、レンよ」
「なんだいアオヤ伯父さん?」
「私も町で食べたのだが、そのプリンという食べ物はお前が作ったのか?」
「あれ、なんでそのことを……」
「レストランのマスターが言っていたぞ。最初は誰か分からなかったが、まさか甥とはな」
どうもマスターが考案したんじゃないということを広めているらしい。
「レシピ提供をした感じかな? それが?」
「……戻ったら娘に作ってやってくれんか?」
「え? ああ、別に構わないけど……小さい子しか喜ばないような……」
「まあ、来ればわかる。頼むぞ? さて、カブト、今までどうしていたか話してもらおうか」
「仕方ない……」
伯父さんは意味ありげにそう呟くと、父さんと酒を飲み始めた。もし子供が居たら俺よりも年上か、悪くても十歳は越えていると思うが……
「レンさん、レンさん」
「ん? どうしたサーナ?」
「まずはお付き合いからお願いします……!」
「もうその気になってんのかよ!? 母さんは貴族でも俺と父さんは違うかもしれないだろうが」
「えへ」
『まったく、たくましいなあ』
一番たくましいであろうフリンクがプリンに舌鼓を打ちながらそう呟き、サーナが襲い掛かった。
やれやれ、今度はちょっと長旅になりそうだな?
40
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる