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第88話 他人事だと思って
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「なら、伯父さんと一緒に実家へ行くんだな」
「そうするわ」
というわけでサーナと共に屋敷へ戻ると、母さん達に呼ばれて話し合いとなった。
あの場で話していた通り、両親は母さんの実家へ戻るようだ。父さんの両親はすでに居ないらしい。
「なら、その間は俺が野菜を売りに行くか」
「ん? なにを言っているのだレン。お前も来るんだぞ」
「え、なんで!?」
「なんでって、父上……っと、君の祖父母にあたる人と会うためだよ」
叔父さんに言われて確かにと俺は手を打つ。
身内なんだから、そりゃ顔合わせをしておいた方がいいだろう。
「となるとフランソアと熊親子をどうするかだな」
「わたしが見ていますよ?」
「うーん、目の届かないところに置きたくないけど……」
サーナがお世話を買って出てくれたが、なんだかんだで狂暴な熊だ。俺やフリンクがいなければ牙を剥くかもしれない。
しかし、話を聞く限りとても遠いので連れて行くわけにもいかないなあ。
「なら、サーナ。悪いけど頼むよ。顔を見せたらフリンクに乗ってサッと帰ってくる」
「はい! ……ところで、おじさま。その、家名をお伺いしても……?」
「む? ヤクリーニン家だが、知っているか?」
「……! 侯爵家じゃないですか!?」
サーナが揉み手すり手で伯父さんに爵位を尋ねていた。そしてまさかの侯爵家……ということはカイさんより上で、タレスと同じなのか……
「妻をいっぱい娶れますね!?」
「あ、ああ、まあ第二婦人といったところだが……というか君はなんなのかね!?」
「やめろサーナ」
伯父さんの服を掴んでガクガクと身体を揺するサーナを引きはがす。
「えっと、王都の宮廷魔法使いって分かります? そこに居るサーラって人の妹なんですよ」
「……!? ワイルドウィッチの妹だと……!?」
「なんです、それ?」
伯父さんが耳慣れないことを口にしたので尋ねるが、彼は首を振ってから口を開く。
「私から言えることは特にない。妹ならわかると思うが、アレに関わってはいけないのだ……」
『おおげさじゃない……?』
「いや、姉ちゃんなら有り得ますよ。さて、いい情報をいただいたので、わたしはお茶を用意しますね! んふふふふ~ん♪」
不穏な発言を残してサーナはリビングから消えた。そこで伯父さんが居ずまいを正してから咳ばらいをした。
「ごほん! それにしても、いい屋敷に住んでいたんだな? なんだかんだで、ミドリに合わせてくれたのか」
「いや……実は、そうじゃないんですよ」
父さんは頭を掻きながらバートリィ家とのことを話す。当事者は俺だが、結果的に一家の屋敷となったことを伝えた。
「はー……ならちょっと前までは本当に平民みたいな暮らしだったんだな……」
「ま、まあ、そうですが……不自由ないくらいに金は稼いでいますよ。だいたいこれくらい……」
「……!? 凄いなお前……!? 野菜を売るだけでそんなに稼げるのか?」
「うふふ」
どうにも貯金の額を伝えたらしい。貴族の伯父さんが驚くあたり、結構貯め込んでいるのだろうか?
まあ、父さんと母さんは欲しいものがあまり無いし、俺も村から出なかったので買い物はたまにパン屋で買い食いをするくらいだ。
そういえば学生時代はあんまり金に困っている印象は無かったなあ・
「いや、なるほど……それなら父上も納得するだろう。この屋敷も私から伝える」
「そうね! きっと大丈夫よ!」
「レンもいるし、神様の加護があってフリンクという精霊も居ればお義父さんも認めてくれるはずだ」
「まあ20年以上経っているしな。私の妻と子供にも会ってやってくれ」
「楽しみだわ。私の知っている人かしら?」
そんな感じで20年ぶりの兄妹再会は少しのわだかまりがあったものの、概ね良好な関係を維持できたようだ。主に父さんだけど。
元々、伯父さんとも知り合いだったから打ち首獄門みたいにならなかったのはでかい。まあそうなったら別の国に逃げると思うけど。
「はーい、お酒の追加と、デザートのプリンですよー」
『わーい!』
そこでサーナがお茶を持って帰って来た。父さん達には酒とつまみで、俺達は紅茶とプリンである。フリンクは塩水を所望していた。
「ふむ、レンよ」
「なんだいアオヤ伯父さん?」
「私も町で食べたのだが、そのプリンという食べ物はお前が作ったのか?」
「あれ、なんでそのことを……」
「レストランのマスターが言っていたぞ。最初は誰か分からなかったが、まさか甥とはな」
どうもマスターが考案したんじゃないということを広めているらしい。
「レシピ提供をした感じかな? それが?」
「……戻ったら娘に作ってやってくれんか?」
「え? ああ、別に構わないけど……小さい子しか喜ばないような……」
「まあ、来ればわかる。頼むぞ? さて、カブト、今までどうしていたか話してもらおうか」
「仕方ない……」
伯父さんは意味ありげにそう呟くと、父さんと酒を飲み始めた。もし子供が居たら俺よりも年上か、悪くても十歳は越えていると思うが……
「レンさん、レンさん」
「ん? どうしたサーナ?」
「まずはお付き合いからお願いします……!」
「もうその気になってんのかよ!? 母さんは貴族でも俺と父さんは違うかもしれないだろうが」
「えへ」
『まったく、たくましいなあ』
一番たくましいであろうフリンクがプリンに舌鼓を打ちながらそう呟き、サーナが襲い掛かった。
やれやれ、今度はちょっと長旅になりそうだな?
「そうするわ」
というわけでサーナと共に屋敷へ戻ると、母さん達に呼ばれて話し合いとなった。
あの場で話していた通り、両親は母さんの実家へ戻るようだ。父さんの両親はすでに居ないらしい。
「なら、その間は俺が野菜を売りに行くか」
「ん? なにを言っているのだレン。お前も来るんだぞ」
「え、なんで!?」
「なんでって、父上……っと、君の祖父母にあたる人と会うためだよ」
叔父さんに言われて確かにと俺は手を打つ。
身内なんだから、そりゃ顔合わせをしておいた方がいいだろう。
「となるとフランソアと熊親子をどうするかだな」
「わたしが見ていますよ?」
「うーん、目の届かないところに置きたくないけど……」
サーナがお世話を買って出てくれたが、なんだかんだで狂暴な熊だ。俺やフリンクがいなければ牙を剥くかもしれない。
しかし、話を聞く限りとても遠いので連れて行くわけにもいかないなあ。
「なら、サーナ。悪いけど頼むよ。顔を見せたらフリンクに乗ってサッと帰ってくる」
「はい! ……ところで、おじさま。その、家名をお伺いしても……?」
「む? ヤクリーニン家だが、知っているか?」
「……! 侯爵家じゃないですか!?」
サーナが揉み手すり手で伯父さんに爵位を尋ねていた。そしてまさかの侯爵家……ということはカイさんより上で、タレスと同じなのか……
「妻をいっぱい娶れますね!?」
「あ、ああ、まあ第二婦人といったところだが……というか君はなんなのかね!?」
「やめろサーナ」
伯父さんの服を掴んでガクガクと身体を揺するサーナを引きはがす。
「えっと、王都の宮廷魔法使いって分かります? そこに居るサーラって人の妹なんですよ」
「……!? ワイルドウィッチの妹だと……!?」
「なんです、それ?」
伯父さんが耳慣れないことを口にしたので尋ねるが、彼は首を振ってから口を開く。
「私から言えることは特にない。妹ならわかると思うが、アレに関わってはいけないのだ……」
『おおげさじゃない……?』
「いや、姉ちゃんなら有り得ますよ。さて、いい情報をいただいたので、わたしはお茶を用意しますね! んふふふふ~ん♪」
不穏な発言を残してサーナはリビングから消えた。そこで伯父さんが居ずまいを正してから咳ばらいをした。
「ごほん! それにしても、いい屋敷に住んでいたんだな? なんだかんだで、ミドリに合わせてくれたのか」
「いや……実は、そうじゃないんですよ」
父さんは頭を掻きながらバートリィ家とのことを話す。当事者は俺だが、結果的に一家の屋敷となったことを伝えた。
「はー……ならちょっと前までは本当に平民みたいな暮らしだったんだな……」
「ま、まあ、そうですが……不自由ないくらいに金は稼いでいますよ。だいたいこれくらい……」
「……!? 凄いなお前……!? 野菜を売るだけでそんなに稼げるのか?」
「うふふ」
どうにも貯金の額を伝えたらしい。貴族の伯父さんが驚くあたり、結構貯め込んでいるのだろうか?
まあ、父さんと母さんは欲しいものがあまり無いし、俺も村から出なかったので買い物はたまにパン屋で買い食いをするくらいだ。
そういえば学生時代はあんまり金に困っている印象は無かったなあ・
「いや、なるほど……それなら父上も納得するだろう。この屋敷も私から伝える」
「そうね! きっと大丈夫よ!」
「レンもいるし、神様の加護があってフリンクという精霊も居ればお義父さんも認めてくれるはずだ」
「まあ20年以上経っているしな。私の妻と子供にも会ってやってくれ」
「楽しみだわ。私の知っている人かしら?」
そんな感じで20年ぶりの兄妹再会は少しのわだかまりがあったものの、概ね良好な関係を維持できたようだ。主に父さんだけど。
元々、伯父さんとも知り合いだったから打ち首獄門みたいにならなかったのはでかい。まあそうなったら別の国に逃げると思うけど。
「はーい、お酒の追加と、デザートのプリンですよー」
『わーい!』
そこでサーナがお茶を持って帰って来た。父さん達には酒とつまみで、俺達は紅茶とプリンである。フリンクは塩水を所望していた。
「ふむ、レンよ」
「なんだいアオヤ伯父さん?」
「私も町で食べたのだが、そのプリンという食べ物はお前が作ったのか?」
「あれ、なんでそのことを……」
「レストランのマスターが言っていたぞ。最初は誰か分からなかったが、まさか甥とはな」
どうもマスターが考案したんじゃないということを広めているらしい。
「レシピ提供をした感じかな? それが?」
「……戻ったら娘に作ってやってくれんか?」
「え? ああ、別に構わないけど……小さい子しか喜ばないような……」
「まあ、来ればわかる。頼むぞ? さて、カブト、今までどうしていたか話してもらおうか」
「仕方ない……」
伯父さんは意味ありげにそう呟くと、父さんと酒を飲み始めた。もし子供が居たら俺よりも年上か、悪くても十歳は越えていると思うが……
「レンさん、レンさん」
「ん? どうしたサーナ?」
「まずはお付き合いからお願いします……!」
「もうその気になってんのかよ!? 母さんは貴族でも俺と父さんは違うかもしれないだろうが」
「えへ」
『まったく、たくましいなあ』
一番たくましいであろうフリンクがプリンに舌鼓を打ちながらそう呟き、サーナが襲い掛かった。
やれやれ、今度はちょっと長旅になりそうだな?
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