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第85話 浮かれる母
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「それじゃ行きましょうか」
「終わった? お、包帯かクリン」
『くおーん♪』
母さんとサーナが店から出てきた。抱っこされているクリンを見ると、蛇に噛まれたところを治療してもらい、包帯を巻いていた。
「クレアはお昼に合流できるみたいです。どこで食べるか教えて欲しいそうで」
「プリンのレストランでいいんじゃないか?」
「クレアー! プリンのレストランだそうですぅぅぅ!!」
「うるさ!?」
サーナが店の扉を開けて大声で叫んでいた。中からクレアの声で『わかったー』とだけ聞こえてくる。イルカイヤーは便利だ。
というか仲いいよなお前達。
『乗る?』
「ううん、折角だし歩くわ。ありがとうフリンク」
『えへへ』
「クリンはお父さんの背中でいいか」
母さんがクリンをプラーボの背中に乗せた。とくにぐずることもなく大人しく赤ちゃん座りで固定された。偉いぞと撫でてやったら甘えた声を出す。
「そういえばプリンってなんでしたっけ?」
「あ、サーナには持って帰らなかったっけ。前にも言った気がするが、俺のおススメしたレシピのデザートなんだ」
あの時はクレアと子供たちだけだったなと思い返す。
今日は母さんとサーナにもご馳走しようかと、父さんの居る露店に向かって歩いていく。
「あなたー」
「ん? おや!? ミドリじゃないか、レンとサーナちゃんも」
「お疲れ様です!」
『がう』
『くおーん』
「なんだ、熊たちもいるのか? どうした? あ、まいどー」
父さんがお客さんに売買しながら呆れた顔をこちらに向けてきた。俺がかくかくしかじかすると、クリンを撫でた。
「なんだ、災難だったなあ。それで町にか。ミドリも久しぶりだな」
「ええ! なんだかワクワクするわ。お昼はみんなで食べようってことになったから」
「例のプリンがあるレストランに行くよ」
「わかった。なら散歩でもしてくるといいよ。フリンクにプラーボなら安全だろう。男に声をかけられたら母さんを守るんだぞ、レン」
「いや、さすがに母さんは声をかけられないだろう」
サーナならともかく、とは言わない。調子に乗りそうだからな。
『それじゃまた後でー』
「おー」
「おお……動くぞ……」
「でけえなあ……」
フリンクがヒレを振って父さんに挨拶をし、俺達は仕事の邪魔にならないよう立ち去る。周囲の人が離れていてくれたので歩きやすい。助かる。
「お買い物に行こうかしら」
「服とかいいんじゃないか?」
「エプロンが欲しいかも。サーナちゃんとクレアちゃんのも買いましょうね♪」
「恐れ多いですよ……」
「いや、お前の家の方がいいだろ……」
宮廷魔法使いの姉が居るのだから貴族ないし、それなりの階級のはずだ。まあ、サーナの両親が実は平民で、姉だけ地位が高いとかはあるが……
姉を家長としてみなしていなければサーナが俺と同じというパターンは有り得る。
「そんじゃリエナの店がいいかな」
「……レンさん、また新しい女を……?」
「違うわい!? クレアの友達がいる服の店だ」
「ふうん」
サーナが訝し気な目を向けてくるが無視でいい。程なくして店に到着する。しかし、やはり熊が扉を入れないため俺と一緒に待つことに。
「クリンは連れて行ってやってくれ。フリンクもリエナにナイトキャップのお礼をしとけよ」
『あ、そうだね! 行ってきますー!』
「また後でねレン」
フリンクが扉を開けると『いらっしゃいませーって、でかっ!?』という焼き回しのようなセリフが聞こえてきた。それからしばらくプラーボと待ちとなった。
◆ ◇ ◆
「ふあ……水飲むか?」
『がう』
のんびり出てくるのを待っている間、店の壁を背に道行く人を眺めていた。
子供がプラーボに興味を持って近づいてきたりしたので触らせてやるなど適当に暇つぶしをする。
そういえば女性ばかりなので話も弾んでいるのかもなあ。フリンクは雄だけど、声は可愛い。
指から水魔法を出してプラーボに飲ませていると、店から母さん達が出てきた。
「またお願いしますね♪」
「リエナちゃんありがとう。楽しかったわ!」
「いい服がたくさんあったので、また来ますね! あ、レンさん」
「楽しかったみたいだな」
俺がそういうとサーナが笑顔で頷いていた。
「むふ」
「なんだリエナ?」
「いえいえ、クレアちゃんも大変だなあと。……それじゃ私はこれでー」
俺が顔をしかめるとリエナは店に入っていった。逃げたか。
『見て見てレン、手袋!』
「ヒレ袋だろう……」
なにやら新しい装飾ももらったらしいフリンクが俺に手袋ならぬヒレ袋を見せびらかしてきた。母さんも買い物カゴに入っているエプロンをたまに取り出してご満悦である。
「結構長居したなあ。このままレストランで待ち合わせるか」
「中で待っていてもいいかも?」
「人気店になっているからどうかな……」
そんな感じでレストランへ足を運ぶ。すると、先ほど見た貴族の馬車が停車しているのが見えた。
「おや、貴族の人がレストランに……?」
「プリン、食べに来たんでしょうか。……というかあの家紋、フィファール家のものですね? 王都に近いところの貴族ですよ」
サーナが目を細めて馬車の荷台に注目する。遠いところからわざわざ来たのならと俺は話を続けた。
「プリンは最近の話だし、冒険者達が広めるには早すぎると思うぞ」
「なら、たまたまでしょうか。入れるか聞いてみましょう! ……あれ? お母さま?」
すると母さんがサーナの肩に手を置き、踵を返してから言う。
「えっと、ここは今日止めましょう! サーナちゃん、クレアちゃんにレストランは中止だと伝えに行ってもらえるかしら?」
「え? え?」
「どうしたんだ母さん? 父さんも来たぞ」
「あなた、ダメ!」
「母さん――」
と、何故か焦る母さんを訝しんでいると、レストランから貴族が出てきた。
「プリンというのは美味しかったですな」
「王都にも……ん?」
「あ!?」
そこで貴族がこちらを見て怪訝な顔をする。さらに父さんも焦っていた。
「お、お前はカブト!? よくみればそっちはミドリか!? こ、こんなところに居たのか!?」
そして、なぜか貴族のおじさんは父さんと母さんの名を叫んでいた。
ど、どういうことだ……?
「終わった? お、包帯かクリン」
『くおーん♪』
母さんとサーナが店から出てきた。抱っこされているクリンを見ると、蛇に噛まれたところを治療してもらい、包帯を巻いていた。
「クレアはお昼に合流できるみたいです。どこで食べるか教えて欲しいそうで」
「プリンのレストランでいいんじゃないか?」
「クレアー! プリンのレストランだそうですぅぅぅ!!」
「うるさ!?」
サーナが店の扉を開けて大声で叫んでいた。中からクレアの声で『わかったー』とだけ聞こえてくる。イルカイヤーは便利だ。
というか仲いいよなお前達。
『乗る?』
「ううん、折角だし歩くわ。ありがとうフリンク」
『えへへ』
「クリンはお父さんの背中でいいか」
母さんがクリンをプラーボの背中に乗せた。とくにぐずることもなく大人しく赤ちゃん座りで固定された。偉いぞと撫でてやったら甘えた声を出す。
「そういえばプリンってなんでしたっけ?」
「あ、サーナには持って帰らなかったっけ。前にも言った気がするが、俺のおススメしたレシピのデザートなんだ」
あの時はクレアと子供たちだけだったなと思い返す。
今日は母さんとサーナにもご馳走しようかと、父さんの居る露店に向かって歩いていく。
「あなたー」
「ん? おや!? ミドリじゃないか、レンとサーナちゃんも」
「お疲れ様です!」
『がう』
『くおーん』
「なんだ、熊たちもいるのか? どうした? あ、まいどー」
父さんがお客さんに売買しながら呆れた顔をこちらに向けてきた。俺がかくかくしかじかすると、クリンを撫でた。
「なんだ、災難だったなあ。それで町にか。ミドリも久しぶりだな」
「ええ! なんだかワクワクするわ。お昼はみんなで食べようってことになったから」
「例のプリンがあるレストランに行くよ」
「わかった。なら散歩でもしてくるといいよ。フリンクにプラーボなら安全だろう。男に声をかけられたら母さんを守るんだぞ、レン」
「いや、さすがに母さんは声をかけられないだろう」
サーナならともかく、とは言わない。調子に乗りそうだからな。
『それじゃまた後でー』
「おー」
「おお……動くぞ……」
「でけえなあ……」
フリンクがヒレを振って父さんに挨拶をし、俺達は仕事の邪魔にならないよう立ち去る。周囲の人が離れていてくれたので歩きやすい。助かる。
「お買い物に行こうかしら」
「服とかいいんじゃないか?」
「エプロンが欲しいかも。サーナちゃんとクレアちゃんのも買いましょうね♪」
「恐れ多いですよ……」
「いや、お前の家の方がいいだろ……」
宮廷魔法使いの姉が居るのだから貴族ないし、それなりの階級のはずだ。まあ、サーナの両親が実は平民で、姉だけ地位が高いとかはあるが……
姉を家長としてみなしていなければサーナが俺と同じというパターンは有り得る。
「そんじゃリエナの店がいいかな」
「……レンさん、また新しい女を……?」
「違うわい!? クレアの友達がいる服の店だ」
「ふうん」
サーナが訝し気な目を向けてくるが無視でいい。程なくして店に到着する。しかし、やはり熊が扉を入れないため俺と一緒に待つことに。
「クリンは連れて行ってやってくれ。フリンクもリエナにナイトキャップのお礼をしとけよ」
『あ、そうだね! 行ってきますー!』
「また後でねレン」
フリンクが扉を開けると『いらっしゃいませーって、でかっ!?』という焼き回しのようなセリフが聞こえてきた。それからしばらくプラーボと待ちとなった。
◆ ◇ ◆
「ふあ……水飲むか?」
『がう』
のんびり出てくるのを待っている間、店の壁を背に道行く人を眺めていた。
子供がプラーボに興味を持って近づいてきたりしたので触らせてやるなど適当に暇つぶしをする。
そういえば女性ばかりなので話も弾んでいるのかもなあ。フリンクは雄だけど、声は可愛い。
指から水魔法を出してプラーボに飲ませていると、店から母さん達が出てきた。
「またお願いしますね♪」
「リエナちゃんありがとう。楽しかったわ!」
「いい服がたくさんあったので、また来ますね! あ、レンさん」
「楽しかったみたいだな」
俺がそういうとサーナが笑顔で頷いていた。
「むふ」
「なんだリエナ?」
「いえいえ、クレアちゃんも大変だなあと。……それじゃ私はこれでー」
俺が顔をしかめるとリエナは店に入っていった。逃げたか。
『見て見てレン、手袋!』
「ヒレ袋だろう……」
なにやら新しい装飾ももらったらしいフリンクが俺に手袋ならぬヒレ袋を見せびらかしてきた。母さんも買い物カゴに入っているエプロンをたまに取り出してご満悦である。
「結構長居したなあ。このままレストランで待ち合わせるか」
「中で待っていてもいいかも?」
「人気店になっているからどうかな……」
そんな感じでレストランへ足を運ぶ。すると、先ほど見た貴族の馬車が停車しているのが見えた。
「おや、貴族の人がレストランに……?」
「プリン、食べに来たんでしょうか。……というかあの家紋、フィファール家のものですね? 王都に近いところの貴族ですよ」
サーナが目を細めて馬車の荷台に注目する。遠いところからわざわざ来たのならと俺は話を続けた。
「プリンは最近の話だし、冒険者達が広めるには早すぎると思うぞ」
「なら、たまたまでしょうか。入れるか聞いてみましょう! ……あれ? お母さま?」
すると母さんがサーナの肩に手を置き、踵を返してから言う。
「えっと、ここは今日止めましょう! サーナちゃん、クレアちゃんにレストランは中止だと伝えに行ってもらえるかしら?」
「え? え?」
「どうしたんだ母さん? 父さんも来たぞ」
「あなた、ダメ!」
「母さん――」
と、何故か焦る母さんを訝しんでいると、レストランから貴族が出てきた。
「プリンというのは美味しかったですな」
「王都にも……ん?」
「あ!?」
そこで貴族がこちらを見て怪訝な顔をする。さらに父さんも焦っていた。
「お、お前はカブト!? よくみればそっちはミドリか!? こ、こんなところに居たのか!?」
そして、なぜか貴族のおじさんは父さんと母さんの名を叫んでいた。
ど、どういうことだ……?
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