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第84話 母、町へ行く
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「今日はお昼、町で食べてくるよ」
「あら、町へ行くの?」
「クリンが蛇に噛まれちゃってさ。クレアのところへ行こうかなって」
『くおん』
「あらあら」
ひとまず屋敷へ帰って昼飯が必要ないことを母さんに伝える。抱っこしたクリンが切なそうな声を上げると、困った顔で母さんが撫でていた。
「それじゃ私とサーナちゃんも行こうかしら」
「お、行くかい? 母さんが町へ行くの珍しいな」
「いいんですか?」
「折角だし、みんなでお昼にしましょうよ」
『じゃあ僕が乗せていくね』
珍しいと言ったものの、記憶では母さんがこの村から出た覚えが無い。
父さんが町で必要なものは買ってくるし、俺が村を出ないと言ったのもあるかもしれないけど、村の中だけで用事を済ませている。
そう考えると、俺に気を使ってくれていたのかもしれない。申し訳ないことだ。
「それじゃ、フランソアに水をやってから行くか」
そう言って俺達は屋敷の戸締りを行い、町へ出ることにした。
「おう、出かけるのか?」
「ちょっと町まで」
『くおん!』
『がう』
「そいつらも行くのか……? まあ、フリンクが認知されているみたいだからいいと思うけど」
門のところでケリィが立っていて挨拶をしてくれた。クリンの頭を撫でながらプラーボに目を向けて冷や汗をかく。
まあ、大人しいし、コントラさん達の許可はもらっているから町へ入るのは問題ないのである。テイマーは珍しいみたいだけど。
「気をつけてなー」
「サンキュー」
『ごー!』
フリンクが母さんとサーナを乗せ、俺はプラーボに乗せてもらい出発した。
馬車か馬を使わないとそれなりに遠いため、申し訳ないが乗せてもらった。
『がうがう♪』
「お、ご機嫌だな?」
『久しぶりに走れているからみたいだよ』
「あー、プラーボは村じゃそんなに走れないもんな」
図体がでかいから村だと家屋にぶつかるのだ……
クリンは子供たちと元気に遊んでいるため、運動不足にはならないけどプラーボはこの前堕落していたのを見たばかり。
もしかすると、定期的に町を往復させたらいいのかもしれない。
「久しぶりにフリンクに乗ったけど速いわねー」
「そうなんですか?」
「ええ。私は村から出ない人だったから。もう10年くらいかしら?」
「はえー」
サーナが退屈じゃなかったのかと驚いていたが母さんは特に不満は無かったと口にする。
「トウガ……あ、旦那のことよ。彼と出会ってから一緒に居られるだけで幸せだったし、レンが産まれてフリンクが大きくなっていくのが楽しくて仕方が無かったの。だから町に行かなくても良かったのよ」
「いやあ……お母さまは凄いですねえ……そういう家庭を持ちたいです……ね!!」
サーナが『ね!!』を強調しながら俺の方に顔を向けてきた。
まだ彼女でもないのでそれは気が早かろう……
そんな話をしているとやがて丘の下にある町が見えてきた。
「すみません、町へ入りたいんですけど」
「ああ、君か。……またとんでもないのを連れて来たな……」
「ダメですかね? コントラさんには許可をもらっていますけど」
見知った門番さんだったので気軽に挨拶を交わす。プラーボを見て顔を険しくしていた。そこでコントラさんの名前を出す。
「いや、構わないよ。なにかあれば精霊様が止めてくれるだろう?」
『まあね! でもプラーボは大丈夫だよ』
「ならOKだ。今日はどこかの貴族様が来ているみたいだから粗相のないようにね」
「コールスロー侯爵様ですか?」
「いや、俺もさっき交代したばかりで誰かまでは聞けていないんだ。まあ、馬車に家紋はついているし、服装を見ればすぐわかると思う」
サーナの質問に申し訳ないと肩を竦める門番さんは扉を開けながら言う。
最近、よく関わっていたけど正直、ウチみたいな農家には本来有り得ないことである。フリンクが珍しいとしても精霊と聞いたら『くれ』なんて言う人間はそうそう居ない。
「父さんの様子でも見る?」
「先にお薬を買いに行きましょ。おいでクリン」
『くおーん♪』
フリンクから降りた母さんがプラーボの背に座っていたクリンを抱っこする。先にクレアにお昼を食べることを伝えて一緒にレストランにでも行こうという算段のようだ。
『……』
「……おう!?」
「く、熊だ……!?」
町の通りに差し掛かると人通りも増えてくる。そこでプラーボの存在感に恐れおののく人々が――
「あ、なんだ精霊様のところのペットか」
「なら大丈夫か」
「子熊可愛いな……」
「あいつだよ、この前クレアちゃんと一緒に居た」
「へえ、かっこいい顔じゃん」
――居なかった。
フリンクという巨大生物が横に居るのであまり脅威ではないらしい。
むしろクリンの愛くるしさが目立つようだ。
「有名なのねえ」
『そりゃあ僕とレンだもん』
「そりゃあの意味がわからんが……っと、ここだ」
危険でないとはいえ、町の人はプラーボの巨体とフリンクに目を引かれるため注目度は高い。
とりあえず母さんとサーナ、それとクリンを店の中へ行かせた。俺とプラーボとフリンクは外で待つことにする。
「店の中でもいいぞ?」
『なあに、どうせすぐ出てくるだろう? 待たせてもらうさ。タバコをくれ』
「ねえよ」
『がう』
『しけてんなあ。おや』
フリンクがおっさんくさいことを口にし、俺とプラーボが窘めていると馬車がゆっくりと通りすぎるのが見えた。
「あれが貴族の馬車ってやつか? カイさんのところのやつに似ている」
『そのようだ。馬も荷台も手入れがしっかりされているから持ち主は真面目な人間かもしれないな』
「そういやなんか毛並みが良かった気がする」
『がうがう!』
「ん? ああ、お前もブラッシングしているから結構いいよな。でもハンモックに寝ているから朝は台無しだぞ?」
『がう!?』
プラーボががっくりと肩を落とし俺は苦笑する。さて、お昼はプリンでも食べるとしようかな?
「あら、町へ行くの?」
「クリンが蛇に噛まれちゃってさ。クレアのところへ行こうかなって」
『くおん』
「あらあら」
ひとまず屋敷へ帰って昼飯が必要ないことを母さんに伝える。抱っこしたクリンが切なそうな声を上げると、困った顔で母さんが撫でていた。
「それじゃ私とサーナちゃんも行こうかしら」
「お、行くかい? 母さんが町へ行くの珍しいな」
「いいんですか?」
「折角だし、みんなでお昼にしましょうよ」
『じゃあ僕が乗せていくね』
珍しいと言ったものの、記憶では母さんがこの村から出た覚えが無い。
父さんが町で必要なものは買ってくるし、俺が村を出ないと言ったのもあるかもしれないけど、村の中だけで用事を済ませている。
そう考えると、俺に気を使ってくれていたのかもしれない。申し訳ないことだ。
「それじゃ、フランソアに水をやってから行くか」
そう言って俺達は屋敷の戸締りを行い、町へ出ることにした。
「おう、出かけるのか?」
「ちょっと町まで」
『くおん!』
『がう』
「そいつらも行くのか……? まあ、フリンクが認知されているみたいだからいいと思うけど」
門のところでケリィが立っていて挨拶をしてくれた。クリンの頭を撫でながらプラーボに目を向けて冷や汗をかく。
まあ、大人しいし、コントラさん達の許可はもらっているから町へ入るのは問題ないのである。テイマーは珍しいみたいだけど。
「気をつけてなー」
「サンキュー」
『ごー!』
フリンクが母さんとサーナを乗せ、俺はプラーボに乗せてもらい出発した。
馬車か馬を使わないとそれなりに遠いため、申し訳ないが乗せてもらった。
『がうがう♪』
「お、ご機嫌だな?」
『久しぶりに走れているからみたいだよ』
「あー、プラーボは村じゃそんなに走れないもんな」
図体がでかいから村だと家屋にぶつかるのだ……
クリンは子供たちと元気に遊んでいるため、運動不足にはならないけどプラーボはこの前堕落していたのを見たばかり。
もしかすると、定期的に町を往復させたらいいのかもしれない。
「久しぶりにフリンクに乗ったけど速いわねー」
「そうなんですか?」
「ええ。私は村から出ない人だったから。もう10年くらいかしら?」
「はえー」
サーナが退屈じゃなかったのかと驚いていたが母さんは特に不満は無かったと口にする。
「トウガ……あ、旦那のことよ。彼と出会ってから一緒に居られるだけで幸せだったし、レンが産まれてフリンクが大きくなっていくのが楽しくて仕方が無かったの。だから町に行かなくても良かったのよ」
「いやあ……お母さまは凄いですねえ……そういう家庭を持ちたいです……ね!!」
サーナが『ね!!』を強調しながら俺の方に顔を向けてきた。
まだ彼女でもないのでそれは気が早かろう……
そんな話をしているとやがて丘の下にある町が見えてきた。
「すみません、町へ入りたいんですけど」
「ああ、君か。……またとんでもないのを連れて来たな……」
「ダメですかね? コントラさんには許可をもらっていますけど」
見知った門番さんだったので気軽に挨拶を交わす。プラーボを見て顔を険しくしていた。そこでコントラさんの名前を出す。
「いや、構わないよ。なにかあれば精霊様が止めてくれるだろう?」
『まあね! でもプラーボは大丈夫だよ』
「ならOKだ。今日はどこかの貴族様が来ているみたいだから粗相のないようにね」
「コールスロー侯爵様ですか?」
「いや、俺もさっき交代したばかりで誰かまでは聞けていないんだ。まあ、馬車に家紋はついているし、服装を見ればすぐわかると思う」
サーナの質問に申し訳ないと肩を竦める門番さんは扉を開けながら言う。
最近、よく関わっていたけど正直、ウチみたいな農家には本来有り得ないことである。フリンクが珍しいとしても精霊と聞いたら『くれ』なんて言う人間はそうそう居ない。
「父さんの様子でも見る?」
「先にお薬を買いに行きましょ。おいでクリン」
『くおーん♪』
フリンクから降りた母さんがプラーボの背に座っていたクリンを抱っこする。先にクレアにお昼を食べることを伝えて一緒にレストランにでも行こうという算段のようだ。
『……』
「……おう!?」
「く、熊だ……!?」
町の通りに差し掛かると人通りも増えてくる。そこでプラーボの存在感に恐れおののく人々が――
「あ、なんだ精霊様のところのペットか」
「なら大丈夫か」
「子熊可愛いな……」
「あいつだよ、この前クレアちゃんと一緒に居た」
「へえ、かっこいい顔じゃん」
――居なかった。
フリンクという巨大生物が横に居るのであまり脅威ではないらしい。
むしろクリンの愛くるしさが目立つようだ。
「有名なのねえ」
『そりゃあ僕とレンだもん』
「そりゃあの意味がわからんが……っと、ここだ」
危険でないとはいえ、町の人はプラーボの巨体とフリンクに目を引かれるため注目度は高い。
とりあえず母さんとサーナ、それとクリンを店の中へ行かせた。俺とプラーボとフリンクは外で待つことにする。
「店の中でもいいぞ?」
『なあに、どうせすぐ出てくるだろう? 待たせてもらうさ。タバコをくれ』
「ねえよ」
『がう』
『しけてんなあ。おや』
フリンクがおっさんくさいことを口にし、俺とプラーボが窘めていると馬車がゆっくりと通りすぎるのが見えた。
「あれが貴族の馬車ってやつか? カイさんのところのやつに似ている」
『そのようだ。馬も荷台も手入れがしっかりされているから持ち主は真面目な人間かもしれないな』
「そういやなんか毛並みが良かった気がする」
『がうがう!』
「ん? ああ、お前もブラッシングしているから結構いいよな。でもハンモックに寝ているから朝は台無しだぞ?」
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