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第83話 子熊のクリン
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「さて、今日も畑を見に行くか……」
「あ、ならクリンちゃんをお散歩に連れて行ってあげて。ハンモックがお気に入りみたいだけど、運動しないのも良くないし」
「あー、確かに。プラーボも連れて行くかな」
熊小屋は完成したものの、快晴だと熊親子は基本的にハンモックで過ごすようになった。
特に父熊は毎日フランソアから蜜を貰ってハンモックで食べるという生活を送っている。これじゃプラーボというよりプーさんだ。
『僕はよく飛んでいるから太らないんだよね。また町へ行こうよ』
「畑仕事が終わったらな。サーナは?」
「今日はタレス君のお料理練習をしているわ。呼ぶ?」
「いや、それならいいや。どうせ村にいるし、昼までには帰るからな」
「はいはい。私はどっちでもいいからねー?」
なんのことか聞き返すことなく俺はフリンクを連れて屋敷を出る。サーナが居座っているせいで最近よく聞かれるな。できれば両方……いや、貴族でないし……
『プラーボ、クリン、お散歩だよー』
『くおん♪』
『がう? ……がう』
「こら、プラーボ。たまには身体を動かさないと、いざって時に動けないぞ」
『が、がう……』
ハンモックに揺られるプラーボの鼻先を撫でると、バツが悪そうな声を上げた。
狩りに行くのが一番いいと思うけど、食事は母さんが用意するからなあ。
「ほら、ひとまず散歩だ。明日は狩りに行こう。食い扶持を獲れば母さんも喜ぶぞ?」
『そうだよ。ぶくぶく太ってプラーボが食べられる側になったらクリンが困るよ」『くおーん……』
『がう……』
フリンクが説得に応じると渋々ながらもプラーボはハンモックから降りてくれた。
俺は背中を撫でてやり、二頭に声をかけた。
「よし、それじゃ行くぞ」
というわけで熊二頭とイルカを連れて鬼退治……ということはなく、畑へと向かう。
「お、レンじゃないか」
「よう、今日は休みか?」
「ああ。今から町に行ってくるよ。相変わらずでかいなあ。クリンは可愛いのに」
『がう』
『くおん』
友人とすれ違い挨拶をする。
何度か二頭とも村を歩かせているので知った顔だ。だから驚いたりはしない。
「さて、ルーでも居れば遊んでもらうんだが、今は学校か」
『残念だな』
人の目が無くなったので渋い声に戻ったフリンクがプラーボの背中を尻尾で撫でながら呟く。
「あら、今日はお父さんも散歩かい?」
『がう……』
「怠けてたら子供が真似するからねえ。あはは」
近所のおばさんにそう言われて小さくなるプラーボ。俺は肩に手を置いて首を振る。
「言われてるぞ」
『が、がう……』
『ちゃんと運動と狩りをすべきだな。フランソアにも言っておかなければ』
「でも、確かにあいつの蜜はパンにつけて食べると美味いんだよなあ」
『がうがう』
『くおん』
『お父さん、量を減らそうって言っているな』
「賢い子だ」
このままじゃダメ親父である。
まあ、狩りに連れ出せば威厳も戻るだろうとひとまず仕事に精を出すことにした。
「先日の雨で水やりはしなくてもよさそうだ。トマトは干からびているくらいでいい」
『甘くなるんだよな。クリンはトマト好きだったな』
『くおーん♪』
丸々とした赤いトマトを前に舌をペロリとするクリンが可愛い。
俺や父さんがもいでからでないと食べられないことを覚えているためそわそわしながら見守るばかりである。小さい尻尾がぴこぴこ動く。
「明日収穫して売りに行くだろうから、その時プレゼントだな」
『くおん!』
「お、なんだ」
俺がそういうとクリンが俺の足をよじ登って肩に乗って来た。
木登りが得意な熊だけど、以前やろうとして登れずに転がっていたのだが、できるようになったようだ。
俺の顔を舐めてご満悦な声を上げていた。
「はは、お前も成長しているな」
『ハンモックに乗るようになってコツを掴んだのかもしれないな』
「それはありそうだ。あれだな、アスレチックみたいな道具を作ってやってもいいかもしれない」
ルーたちが来た時に遊具があるといいかもと思い立つ。ふむ、滑り台は悪くないな……
『く、くおん……!』
「ん? どうした? お……!」
ぎゅっと俺の首に抱き着いて来たのでなにかと思えば、視線の先にちょっと大きめの蛇がいた。畑仕事ならまあ、よくあることなので一瞬びっくりしたもののそういうものである。
『毒なしか』
「だな」
頭の形から毒を持っていないタイプの蛇というのが分かったのでさらに危険度は低くなった。
それでも小さい子が噛まれたり、大人でも噛まれたところから菌が入って破傷風になることもあるため油断してはいけないのだ。
「どっか遠くに捨ててくるか。っと」
俺が近づくと噛みつこうと首を伸ばしてきた。これもよくあることなのでフリンクと一緒に回り込むか、イルカアローで脳を揺さぶるかどっちかだなと思っていた。
すると次の瞬間――
『くおーん!』
『あ』
クリンが蛇に飛び掛かった!
俺が攻撃されると思ったからなのか、勇敢にも正面から突っ込み、手で蛇の頭を地面に叩きつける。
『くおんくおん!』
バシバシと叩き続け、やがて蛇は動かなくなった。やっつけたようだ。
「おお、ありがとうクリン」
『くおーん!』
「うおっと」
怖かったのかすぐに俺の足に抱き着いてきた。抱き抱えて背中を撫でてやると少し落ち着いたようだった。
「やるなあ。いい子に育つぞ、なあ?」
『がう』
『流石はうちの子だって言っているぞ。なら怠けずに狩りをしっかりな』
『が、がう!』
プラーボは二足で立つと自身を鼓舞するように叫んだ。そこで俺のシャツに血がついていることに気付く。
「ありゃ、噛まれたのか?」
『くおん』
「薬……うちには無いんだよな。折角だし、クレアのところへ薬を買いに行くか」
『くおん♪』
クレアと聞いて甘い声を出した。ルーとクレアはこいつの中で大好きの部類に入っているのだ。サーナは普通で、違いはわからない。
「畑をもうちょっと手入れしたら行くか」
『うむ』
今日の予定は決まったと、俺とフリンクは頷きあうのだった。
「あ、ならクリンちゃんをお散歩に連れて行ってあげて。ハンモックがお気に入りみたいだけど、運動しないのも良くないし」
「あー、確かに。プラーボも連れて行くかな」
熊小屋は完成したものの、快晴だと熊親子は基本的にハンモックで過ごすようになった。
特に父熊は毎日フランソアから蜜を貰ってハンモックで食べるという生活を送っている。これじゃプラーボというよりプーさんだ。
『僕はよく飛んでいるから太らないんだよね。また町へ行こうよ』
「畑仕事が終わったらな。サーナは?」
「今日はタレス君のお料理練習をしているわ。呼ぶ?」
「いや、それならいいや。どうせ村にいるし、昼までには帰るからな」
「はいはい。私はどっちでもいいからねー?」
なんのことか聞き返すことなく俺はフリンクを連れて屋敷を出る。サーナが居座っているせいで最近よく聞かれるな。できれば両方……いや、貴族でないし……
『プラーボ、クリン、お散歩だよー』
『くおん♪』
『がう? ……がう』
「こら、プラーボ。たまには身体を動かさないと、いざって時に動けないぞ」
『が、がう……』
ハンモックに揺られるプラーボの鼻先を撫でると、バツが悪そうな声を上げた。
狩りに行くのが一番いいと思うけど、食事は母さんが用意するからなあ。
「ほら、ひとまず散歩だ。明日は狩りに行こう。食い扶持を獲れば母さんも喜ぶぞ?」
『そうだよ。ぶくぶく太ってプラーボが食べられる側になったらクリンが困るよ」『くおーん……』
『がう……』
フリンクが説得に応じると渋々ながらもプラーボはハンモックから降りてくれた。
俺は背中を撫でてやり、二頭に声をかけた。
「よし、それじゃ行くぞ」
というわけで熊二頭とイルカを連れて鬼退治……ということはなく、畑へと向かう。
「お、レンじゃないか」
「よう、今日は休みか?」
「ああ。今から町に行ってくるよ。相変わらずでかいなあ。クリンは可愛いのに」
『がう』
『くおん』
友人とすれ違い挨拶をする。
何度か二頭とも村を歩かせているので知った顔だ。だから驚いたりはしない。
「さて、ルーでも居れば遊んでもらうんだが、今は学校か」
『残念だな』
人の目が無くなったので渋い声に戻ったフリンクがプラーボの背中を尻尾で撫でながら呟く。
「あら、今日はお父さんも散歩かい?」
『がう……』
「怠けてたら子供が真似するからねえ。あはは」
近所のおばさんにそう言われて小さくなるプラーボ。俺は肩に手を置いて首を振る。
「言われてるぞ」
『が、がう……』
『ちゃんと運動と狩りをすべきだな。フランソアにも言っておかなければ』
「でも、確かにあいつの蜜はパンにつけて食べると美味いんだよなあ」
『がうがう』
『くおん』
『お父さん、量を減らそうって言っているな』
「賢い子だ」
このままじゃダメ親父である。
まあ、狩りに連れ出せば威厳も戻るだろうとひとまず仕事に精を出すことにした。
「先日の雨で水やりはしなくてもよさそうだ。トマトは干からびているくらいでいい」
『甘くなるんだよな。クリンはトマト好きだったな』
『くおーん♪』
丸々とした赤いトマトを前に舌をペロリとするクリンが可愛い。
俺や父さんがもいでからでないと食べられないことを覚えているためそわそわしながら見守るばかりである。小さい尻尾がぴこぴこ動く。
「明日収穫して売りに行くだろうから、その時プレゼントだな」
『くおん!』
「お、なんだ」
俺がそういうとクリンが俺の足をよじ登って肩に乗って来た。
木登りが得意な熊だけど、以前やろうとして登れずに転がっていたのだが、できるようになったようだ。
俺の顔を舐めてご満悦な声を上げていた。
「はは、お前も成長しているな」
『ハンモックに乗るようになってコツを掴んだのかもしれないな』
「それはありそうだ。あれだな、アスレチックみたいな道具を作ってやってもいいかもしれない」
ルーたちが来た時に遊具があるといいかもと思い立つ。ふむ、滑り台は悪くないな……
『く、くおん……!』
「ん? どうした? お……!」
ぎゅっと俺の首に抱き着いて来たのでなにかと思えば、視線の先にちょっと大きめの蛇がいた。畑仕事ならまあ、よくあることなので一瞬びっくりしたもののそういうものである。
『毒なしか』
「だな」
頭の形から毒を持っていないタイプの蛇というのが分かったのでさらに危険度は低くなった。
それでも小さい子が噛まれたり、大人でも噛まれたところから菌が入って破傷風になることもあるため油断してはいけないのだ。
「どっか遠くに捨ててくるか。っと」
俺が近づくと噛みつこうと首を伸ばしてきた。これもよくあることなのでフリンクと一緒に回り込むか、イルカアローで脳を揺さぶるかどっちかだなと思っていた。
すると次の瞬間――
『くおーん!』
『あ』
クリンが蛇に飛び掛かった!
俺が攻撃されると思ったからなのか、勇敢にも正面から突っ込み、手で蛇の頭を地面に叩きつける。
『くおんくおん!』
バシバシと叩き続け、やがて蛇は動かなくなった。やっつけたようだ。
「おお、ありがとうクリン」
『くおーん!』
「うおっと」
怖かったのかすぐに俺の足に抱き着いてきた。抱き抱えて背中を撫でてやると少し落ち着いたようだった。
「やるなあ。いい子に育つぞ、なあ?」
『がう』
『流石はうちの子だって言っているぞ。なら怠けずに狩りをしっかりな』
『が、がう!』
プラーボは二足で立つと自身を鼓舞するように叫んだ。そこで俺のシャツに血がついていることに気付く。
「ありゃ、噛まれたのか?」
『くおん』
「薬……うちには無いんだよな。折角だし、クレアのところへ薬を買いに行くか」
『くおん♪』
クレアと聞いて甘い声を出した。ルーとクレアはこいつの中で大好きの部類に入っているのだ。サーナは普通で、違いはわからない。
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