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第80話 広がっていく噂
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「怪しい影?」
お昼寝中にフリンクのヒレで揺り起こされた俺は海でそんな話を聞かされた。
『うん。僕みたいな巨大魚かもしれないけど、初めてみたかな』
「なにかまずいの?」
「うーん……」
まずいかどうかと言えば別に俺達には関係がないので気にする必要はない。
ただ、人食いの魔物とかだったら危ないので倒しておくべきかと悩む。
「……まあ、実害が出るまではって感じだな。俺達は自警団ってわけでもないし」
『わかったよ』
「でも、近くの漁師さん達には報せてもいいんじゃないですか? ほら、おあつらえ向きの人物が」
「ん?」
サーナが両手の指を別の方向へ向けると、色黒で屈強な男達がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「よお兄ちゃん達」
「こんにちは」
「どうもー」
「こんにちはー!」
とりあえず挨拶をしておくかと声をかけてきた男達に会釈をする。六人程度だが圧が凄いな。
「なんかすげえのがある……」
「浜辺にベッド……?」
「ああ、ちょっと昼寝用に作りました。すぐ壊せるんで大丈夫ですよ」
「ワッカメとドコンブを敷いているのか……」
男達はベッドを見て困惑していた。
浜辺を汚すなとか言われそうだったので先に壊せるとを伝えておくことにした。
「ところでなにか俺達に用が……?」
「ああ、いや、なんかでかい獲物がいるなと思ってきたんだ。そいつは食いでがありそうだな、と」
『……! 僕は食べ物じゃないよ……!! カッ!』
「「おう!? 魚が喋った!?」」
俺のベッドに横たわるフリンクを見て獲って来たものだと勘違いしたらしい。
怒りのフリンクが声を上げ、歯を鳴らして威嚇していた。
「こいつは精霊のフリンクと言って魚じゃない、俺の相棒なんだ」
「食べちゃダメですよ」
「精霊……ってことは最近、町で噂になっている神様の加護を持っている男はあんたか」
「え、噂になってんの!?」
髭のおっちゃんが顎に手を当ててからそんなことを口にした。俺が驚いて声をあげると別のお兄さんから声があがる。
「そうだぜ。不細工な精霊を連れている男が居るって話題なんだ。町へ魚を卸しに行ったときに聞いた」
『不細工じゃない……!』
「フリンク、落ち着いて」
身体を震わせて恨み節のような声を出したフリンクをクレアが宥める。
目立つのは分かるけど、やけに広がったなあ。
「なんかでかい獲物をゲットしていて、美女二人を連れているから気になって見に来たんだ。悪いな、邪魔をして」
「いえ、別に構いませんよ。浜辺でお昼を食べていただけなので」
「……やけに景気がいいな……」
「フリンクが獲って来てくれるので! この美女の為に……!」
サーナが胸を張ってそういうと、漁師たちは驚いていた。自分で美女と言うやつがあるか。
そういえば、と俺はさっきのフリンクが見たという影について話をする。
「そうそう、さっきこいつが潜って遊んでいる時にこれより少し大きな影を見たらしい。なにか心当たりはあるかい?」
「なに? 巨大魚か? ブーリ……でもここまではならないな。マッグロはもっと沖だしこの辺りだと分からないな」
『僕よりちょっと大きいよ』
「……ふーむ。というか精霊様はそのフォルムなのに魚じゃないのか……」
『違うよー』
分類としては哺乳類なので魚ではない。クジラもそうだ。
さて、特に彼等もよく知らないようなので、警告だけしておけば良さそうである。
「ま、そういう影があったということで注意しておいてもいいかもしれない」
「そうだな。ありがとうよ兄ちゃん! んじゃ、ゆっくりしていってくれ。魚、食いつくさないでくれよ?」
「はは、気を付けるよ!」
俺がそういうと男達は来た道を引き返していく。本当にフリンクを見て、興味本位で来ただけのようだった。
(あー、二人とも可愛かったな……)
(神様の加護がある奴の女を取る訳にはいかねえしなあ)
「……」
「どうしたのレン?」
「なんでもない」
イルカイヤーで聞いてみると、ナンパ目的もあったようだ。油断ならないもである。しかし、特に嫌味を言う訳でも、強引に連れて行こうとするような人達でなくて良かった。その場合は戦争だ。
「さて、陽も傾いて来たけど、どうだフリンク?」
『満足したよ! そろそろ帰ろうか。お父さんとお母さんにお土産を持って帰らないと』
「そうですね! えっと、このベッドどうしますか?」
「もちろん壊す! イルカパンチ……!」
俺はイルカ魔法を使って固めたベッドに一撃をお見舞いする。その瞬間、固まっていた砂が崩れ去った。
「結構詰まってたわよ!? 手、大丈夫?」
「魔法だから大丈夫だよ。ワッカメとドコンブはダシを取るのに使えるから持って帰ろう」
『そうだねー』
「あのー」
「はい?」
フリンクがヒレを合わせて拍手をしていると、今度は別の人が話しかけて来た。
「その寝床、壊しちゃうんですか? もしよかったら貸して欲しいんですけど」
「え? 使います、これ?」
「はい! そこの焚火も!」
男女のカップルだった。
ここで星を見るから良かったら貸して欲しいという話だった。焚火はやはりここで陽が暮れる間、料理をするとか。
「別に構いませんよ。焚火も撤去してくれるなら」
「もちろんです!」
ということでそのまま貸すことにした。ビーチパラソルっぽい木もなんか良かったらしい。
「いいことをしたわねー。でもどこかの誰かさんはデートにすら誘ってくれないだけど?」
「……」
「あ、そっぽを向きましたよ!」
こっちはなんだか藪蛇だった。
……後日談だが、あの場所は砂浜の中でも海に近いところに作っていた。あまりにも壊れないため「そういうもの」として置いてくれと、あの屈強な漁師達に頼まれたという……
早いもの勝ちなので、追加を依頼されているのだがそれはまた別の話だ。
それにしても巨大な影はなんだったのか――
お昼寝中にフリンクのヒレで揺り起こされた俺は海でそんな話を聞かされた。
『うん。僕みたいな巨大魚かもしれないけど、初めてみたかな』
「なにかまずいの?」
「うーん……」
まずいかどうかと言えば別に俺達には関係がないので気にする必要はない。
ただ、人食いの魔物とかだったら危ないので倒しておくべきかと悩む。
「……まあ、実害が出るまではって感じだな。俺達は自警団ってわけでもないし」
『わかったよ』
「でも、近くの漁師さん達には報せてもいいんじゃないですか? ほら、おあつらえ向きの人物が」
「ん?」
サーナが両手の指を別の方向へ向けると、色黒で屈強な男達がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「よお兄ちゃん達」
「こんにちは」
「どうもー」
「こんにちはー!」
とりあえず挨拶をしておくかと声をかけてきた男達に会釈をする。六人程度だが圧が凄いな。
「なんかすげえのがある……」
「浜辺にベッド……?」
「ああ、ちょっと昼寝用に作りました。すぐ壊せるんで大丈夫ですよ」
「ワッカメとドコンブを敷いているのか……」
男達はベッドを見て困惑していた。
浜辺を汚すなとか言われそうだったので先に壊せるとを伝えておくことにした。
「ところでなにか俺達に用が……?」
「ああ、いや、なんかでかい獲物がいるなと思ってきたんだ。そいつは食いでがありそうだな、と」
『……! 僕は食べ物じゃないよ……!! カッ!』
「「おう!? 魚が喋った!?」」
俺のベッドに横たわるフリンクを見て獲って来たものだと勘違いしたらしい。
怒りのフリンクが声を上げ、歯を鳴らして威嚇していた。
「こいつは精霊のフリンクと言って魚じゃない、俺の相棒なんだ」
「食べちゃダメですよ」
「精霊……ってことは最近、町で噂になっている神様の加護を持っている男はあんたか」
「え、噂になってんの!?」
髭のおっちゃんが顎に手を当ててからそんなことを口にした。俺が驚いて声をあげると別のお兄さんから声があがる。
「そうだぜ。不細工な精霊を連れている男が居るって話題なんだ。町へ魚を卸しに行ったときに聞いた」
『不細工じゃない……!』
「フリンク、落ち着いて」
身体を震わせて恨み節のような声を出したフリンクをクレアが宥める。
目立つのは分かるけど、やけに広がったなあ。
「なんかでかい獲物をゲットしていて、美女二人を連れているから気になって見に来たんだ。悪いな、邪魔をして」
「いえ、別に構いませんよ。浜辺でお昼を食べていただけなので」
「……やけに景気がいいな……」
「フリンクが獲って来てくれるので! この美女の為に……!」
サーナが胸を張ってそういうと、漁師たちは驚いていた。自分で美女と言うやつがあるか。
そういえば、と俺はさっきのフリンクが見たという影について話をする。
「そうそう、さっきこいつが潜って遊んでいる時にこれより少し大きな影を見たらしい。なにか心当たりはあるかい?」
「なに? 巨大魚か? ブーリ……でもここまではならないな。マッグロはもっと沖だしこの辺りだと分からないな」
『僕よりちょっと大きいよ』
「……ふーむ。というか精霊様はそのフォルムなのに魚じゃないのか……」
『違うよー』
分類としては哺乳類なので魚ではない。クジラもそうだ。
さて、特に彼等もよく知らないようなので、警告だけしておけば良さそうである。
「ま、そういう影があったということで注意しておいてもいいかもしれない」
「そうだな。ありがとうよ兄ちゃん! んじゃ、ゆっくりしていってくれ。魚、食いつくさないでくれよ?」
「はは、気を付けるよ!」
俺がそういうと男達は来た道を引き返していく。本当にフリンクを見て、興味本位で来ただけのようだった。
(あー、二人とも可愛かったな……)
(神様の加護がある奴の女を取る訳にはいかねえしなあ)
「……」
「どうしたのレン?」
「なんでもない」
イルカイヤーで聞いてみると、ナンパ目的もあったようだ。油断ならないもである。しかし、特に嫌味を言う訳でも、強引に連れて行こうとするような人達でなくて良かった。その場合は戦争だ。
「さて、陽も傾いて来たけど、どうだフリンク?」
『満足したよ! そろそろ帰ろうか。お父さんとお母さんにお土産を持って帰らないと』
「そうですね! えっと、このベッドどうしますか?」
「もちろん壊す! イルカパンチ……!」
俺はイルカ魔法を使って固めたベッドに一撃をお見舞いする。その瞬間、固まっていた砂が崩れ去った。
「結構詰まってたわよ!? 手、大丈夫?」
「魔法だから大丈夫だよ。ワッカメとドコンブはダシを取るのに使えるから持って帰ろう」
『そうだねー』
「あのー」
「はい?」
フリンクがヒレを合わせて拍手をしていると、今度は別の人が話しかけて来た。
「その寝床、壊しちゃうんですか? もしよかったら貸して欲しいんですけど」
「え? 使います、これ?」
「はい! そこの焚火も!」
男女のカップルだった。
ここで星を見るから良かったら貸して欲しいという話だった。焚火はやはりここで陽が暮れる間、料理をするとか。
「別に構いませんよ。焚火も撤去してくれるなら」
「もちろんです!」
ということでそのまま貸すことにした。ビーチパラソルっぽい木もなんか良かったらしい。
「いいことをしたわねー。でもどこかの誰かさんはデートにすら誘ってくれないだけど?」
「……」
「あ、そっぽを向きましたよ!」
こっちはなんだか藪蛇だった。
……後日談だが、あの場所は砂浜の中でも海に近いところに作っていた。あまりにも壊れないため「そういうもの」として置いてくれと、あの屈強な漁師達に頼まれたという……
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