イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

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第72話 タレスの実力

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『お散歩ー』
「おー!」
『くおーん!』
「子供たちは元気ですねえ。というかいいんですか?」

 ということで畑仕事が終わり、昼食休憩をしてから森へとやってきた。
 いつもの子供たち三人に加えてクリンが仲間入りである。
 まだ子熊なので二本足立ができない。
 そんな様子を見てサーナが俺に質問を投げかけて来た。ちなみにクレアの姿が無いのだが、町へ行っているそうだ。

「まあ、フリンクが居れば守れなくはないしな」
「いえ、お母様ですよ。プラーボを放置してきましたけど……」
「え? そこに居るぞ」
『がう』
「おおう!? いつの間に……!?」
「裏口から出て来たんだろう」

 まあイルカアローでフリンクが呼んだんだけど、そこは説明する必要もないし割愛しておく。
 さて、今日のメインはタレスさんだ。意気揚々と歩いていく彼はどこまで戦えるのか……?

「とりあえず一人で戦ってもらうけどいいんだな?」
「ふん、もちろんだ。手助けされては意味が無いだろう?」
『この辺はそれほど強い魔物も居ないしちょうどいいかもね』
「強い方が僕の強さを見せるチャンスなんだけどね。これでカミラも見直してくれるに違いない」

 あ、そこはこだわりがあったのか。サーナに襲い掛かったらしいので節操がないのかと思ったけど違うらしい。

「? なんですか? おっぱい触ります?」
「触らねえよ!?」

 サーナに視線を向けるとそんな言葉が返って来た。自分から好感度を減らしていくスタイルだよなこいつ……

「お父さんも居るから安心だね」
『くおん♪』
「でけえよな……だ、大丈夫なのかレン兄ちゃん……」
「ん? まあ、大丈夫だよな?」
『がう』
『乗ってもいいって』
「ほ、本当に……?」

 フリンクが通訳をすると、リーオが目を丸くして驚いていた。するとプラーボは四つ足になって伏せのポーズになる。

「おお! かっけえ!」
「僕も……!」
「ルーはクリンとお散歩するから大丈夫!」

 でかい熊の背中に乗って大興奮のモントとリーオ。かっこいいものに憧れるのは子供の特権だな。

「……」
「そっちの兄ちゃんも乗るかー?」
「ぼ、僕はいい! ……まったくそんな凶悪な魔物によく触れるな……」

 モントに声をかけられたがタレスさんはびくっと身体を震わせてから悪態をついていた。

「それにしても出てきませんね、魔物」
「うーん、もしかしたら俺達が一緒なのがいけないのかもしれない。フリンクやプラーボは強いから気配で委縮されているかも」
「あ、確かに」

 サーナが手をポンと打って頷く。それならと俺はタレスさんの背中に声をかける。

「タレスさん! 俺達、ちょっと離れて移動するよ。このままだと出てこないかもしれない」
「む、分かった。まあ、出番はないだろうがな」

 そう言って不敵に笑う。
 まあ、自信があるのはいいことだと一旦立ち止まってギリギリ見える位置になったところで進みだす。

「大丈夫か? あいつ全然強そうにみえないけど」
「剣は習っているみたいだし、出かける前に振ってもらったけど悪くなかったぞ」
『それでもレンやロザさんには勝てないけどねー』
「それは敷居が高いよ」

 モントがうんうんと頷いていた。気弱なくせにハッキリと言うよなお前。

 そんな感じで進むこと二十二ファール四十五ビン
 ついにその時がやってきた。

「ウウウゥウ……」
「出たな……!」

 それは相変わらずのフォレストウルフだった。個体数が多いので出くわすならこいつだと思っていたので驚かない。
 早速タレスさんが剣を抜いて構えると、

「アオォォォン!」
「なんだ……?!」

 フォレストウルフは遠吠えをした。
 するとさらに二頭のウルフがパッと茂みから飛び出してくる。

「なんだと……!? え、ええいやってやる!」

 数は増えたが果敢にも向かっていった。本当に大丈夫か……?
 離れたところから固唾を飲んで見守っていると――

「わああああ!? は、速い!? くそ……変な動きをしやがって……!!」
「ばうわう!!」
「がるるる!!」

 ――案の定というか、三頭のウルフに翻弄されていた。筋は悪くないけど、人間相手にしか訓練をしていないようなので獣特有の動きを掴み切れていない。
 初めて相手にしたのなら仕方がないなと俺は胸中で頷く。

「くそ、一頭なら何とかなりそうだが三頭は無理だ……!」

 戦力分析をしたタレスさんがそう口にするのが聴こえた。イルカイヤーは便利だ。

「お、おい! 助けろ!」
「……」

 俺は木の陰から動向を探る。サーナはあくびをする。

「なじぇ見ているだけなんだ!? 聞こえてないのか!?」

 焦りから滑舌が悪くなったタレスさんを見る俺。もちろん聞こえているが、人間は限界を越えたところで覚醒することもある。

「がうあああ!」
「うわああああ!?」
「流石に無理か……! フリンク!」
『うん!』

 俺とフリンクはその場を飛び出し、一気にフォレストウルフ達に迫る。
 油断していた三頭は不意打ちを受ける形となり、フリンクの体当たりと俺の鞘で殴られることになった。

「うおおん!?」
「うわ、足に絡みつかないでくれ!? ……よっと!」
「ぎゃわん!?」

 タレスさんが転がるように俺のところへ来て足に絡みついて来た。その隙にウルフが襲い掛かってくるが、鞘で拳骨を食らわすと踵を返して森の中へ消えて行った。

「わんわん!?」
「きゅーん……!」
『次はもっと痛いぞ!』

 フリンクの方も終わったようで、残り二頭も退散していった。

「大丈夫ですか?」
「死ぬがとおもっだぁぁぁ!!」
『あらら。やっぱり訓練してからだよね』
「だな、立ち回りは悪く無かったから慣れだろうな」
「ぐ、ぐぬう……貴様、まず最初に謝るのが筋だろうが……!」

 俺とフリンクが分析していると、立ち上がって怒声を浴びせて来た。しかし、俺は首を振って返す。

「タレスさんがそうなったのは自分で冒険者になるっていったからでしょうが。すぐ助けたら素養があるかもわからない。だから俺は謝らない」
「くううううう……!」

 貴族の資格はないのと同じだしな。我儘を言うとどうなるか……それを分かって欲しいものである。
 俺の言葉にイラつきながらも、返す言葉が無いと唇を噛んでいた。
 まあ、先生は多いしやる気があるならって感じはするな。
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