イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
71 / 105

第71話 お坊ちゃん育ちの男

しおりを挟む
「んああああああ!?」
「ほら、まだまだだぞ。こっちのトマトは区画を分けてやるけど、他は自分で耕すんだ」
「侯爵家の僕がこんな屈辱を……!!」
「追い出された身でなにを言っているんだか……」

 熊親子も元気になったので次はタレスさんの面倒を少し見ることにした。
 ここ数日は母さんの料理を持って行ってあげていたが、そろそろ独り立ちする時がきたのだ。
 畑の区画を少し広げて、トマト畑は少し分けた。で、キャベツやらナスの開墾をスタートさせたというわけだ。
 すでに泣き言を口にしているが、そこは容赦しない。

『くおーん』
「貴族のお兄ちゃん、クリンも頑張れって言っているよ」
「うるさい……!」
「タレスさん、あなたが奪ったハチミツのせいで死にかけていた子熊なんだぞ?」
「ま、魔物なんてどうなっても構わんだろう……ぐあ!?」

 俺はその言葉を聞いて拳骨を食らわす。ちなみにクリンは子熊の名前で、危うく母さんの『ギャレン』が採用されるところだった。
 珍しくクレアが「可愛くないです」と母さんに言い、クリンになった。
 ちなみにお父さん熊は母さんの案でプラーボである。前世の記憶があるのかと疑ってしまう。ライ〇ー見てたっけ……

 そしてクリンはルーが気に入ってしまい、昨日は屋敷に泊っていった。プラーボが寂しそうだったので俺とフリンクで体を洗ってやり、一緒に寝てやった。
 主食が魚と木の実、果実だった。だけどウチのトマトを美味そうに食ってたなあ。
 それはともかく俺はタレスさんへ言う。

「そのせいで村がひとつ無くなったのをもう忘れたのか? もし子熊が死んでいたら人間に被害があったかもしれないんだぞ? 魔物は動物よりも少し賢いからな」
「ぐぬ……」
「ほら、とっとと手を動かしてくださいねー」
「煽るなサーナ。なにをするかは言ってもいいけど、『やれ」 と言われてやったことは概ね身につかない。反省も難しいから放っておいていいと思う」
「うほ、レンさんかっこいい……」

 サーナが身震いしてそんなことを言うが、ここは学校じゃない。
 自分でなんとかしなければいけないのだ。
 もちろん尋ねられれば教えるし、どうしても一人では無理だという作業があれば手伝うつもりだ。

「それじゃ俺はこっちで耕しているからわからないことがあれば聞いてくれ」
「……」

 不貞腐れた顔をし、無言でまた鍬を持つ。まあ、最初はこんなものだろうし、貴族という地位から落とされていることをこれから痛感することになると思う。

『自分で食べる分はある程度稼がないと、本当に干からびちゃうからね』
「畑はおまけみたいなものだから、他に稼ぐ手段を見つけたらここは放棄してもいいからな?」
「なに? なるほど……なら僕は冒険者になってみるか」
「お、戦えるのか?」
「ふん、武芸は父上に仕込まれている。学院の剣術試合では三位だったぞ」

 微妙……!
 ついでに言うと学院の剣術試合とかお遊戯みたいなもんだからなあ。
 俺の学校もそういうのがあったけど、実戦とは全然違う。
 幼少期から狩りをしていた俺はそれがよーくわかるのだ。

「なら昼飯を食った後、ちょっと出てみるか? たまにフォレストウルフがウロウロしている時があるから一頭相手にしてみるのもいいかもしれない」
「ふむ、良かろう。……ついてきてくれるのだな?」
「不安がるな!? やめとくか……」
「い、いいいや、怖がってなどいない! そう、武器! いい武器がないとやはり難しいだろう!」

 そこでルーのお父さんであるロザさんが近づいてくるのが見えた。

「ルー、昨日は楽しかったか?」
「うん! クリンと一緒だった!」
『くおーん』
「こいつが噂の……ってかヘイズグリズリーじゃねえか……」

 なんか強そうな名前が出て来たな? 種族名かな? そう思っていると、タレスさんに視線が移る。

「貴族のお坊ちゃんはあんたか。侯爵様に言われて村人と同じ扱いでいいって聞いているぜ」
「……」
「そう睨むなよ。事実だろ? で、今、小耳に挟んだが装備が必要なんだって?」
「そうだ。畑を耕して金を稼ぐなどできるか! 大物を倒して一気に稼ぐ!」
「なるほど。その内、装備も届くだろうけど、ひとまず俺のを貸してやってもいいぞ」
「本当か!?」
「ああ、俺も冒険者だったし、得物は悪くないと思う」

 ロザさんはそう言って笑うと、一度家へ戻っていく。再び畑を耕していると、少しの装備を持ってきた。

「ほら。レンの持っている鋼の剣より硬い、グリッド鉱石で出来ている剣だ。防具は自警団のを適当に持って来たから合うのだけつけてくれ」
「おお! これはいいな。ふふん、貴様のよりいい剣らしいぞ?」
「ま、剣の強さだけで戦っている訳じゃないしな。魔法は使えるのか?」
「当然だ。まあ、見ていなよ、僕の素晴らしい腕を!」

 剣を抜いてドヤ顔をするタレスにフリンクがヒレで頭を叩いた。

「ぐあ!? なにをするこの不細工精霊!」
『村で剣を抜いたら危ないからだよ! 小さい子もいるのに!』
「はっはっは! 先を越されちまったな! ってことだお坊ちゃん。いきがるよりも、常識を身につけなよ」
「くっ……もういい、実力をみせてやる」
「先に畑を整地してからな? そのあと行くぞ」
「なっ……!?」

 なぜここを放棄できると思ったのか? 俺は引き続き畑の開墾と収穫を行うのだった。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...