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第71話 お坊ちゃん育ちの男
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「んああああああ!?」
「ほら、まだまだだぞ。こっちのトマトは区画を分けてやるけど、他は自分で耕すんだ」
「侯爵家の僕がこんな屈辱を……!!」
「追い出された身でなにを言っているんだか……」
熊親子も元気になったので次はタレスさんの面倒を少し見ることにした。
ここ数日は母さんの料理を持って行ってあげていたが、そろそろ独り立ちする時がきたのだ。
畑の区画を少し広げて、トマト畑は少し分けた。で、キャベツやらナスの開墾をスタートさせたというわけだ。
すでに泣き言を口にしているが、そこは容赦しない。
『くおーん』
「貴族のお兄ちゃん、クリンも頑張れって言っているよ」
「うるさい……!」
「タレスさん、あなたが奪ったハチミツのせいで死にかけていた子熊なんだぞ?」
「ま、魔物なんてどうなっても構わんだろう……ぐあ!?」
俺はその言葉を聞いて拳骨を食らわす。ちなみにクリンは子熊の名前で、危うく母さんの『ギャレン』が採用されるところだった。
珍しくクレアが「可愛くないです」と母さんに言い、クリンになった。
ちなみにお父さん熊は母さんの案でプラーボである。前世の記憶があるのかと疑ってしまう。ライ〇ー見てたっけ……
そしてクリンはルーが気に入ってしまい、昨日は屋敷に泊っていった。プラーボが寂しそうだったので俺とフリンクで体を洗ってやり、一緒に寝てやった。
主食が魚と木の実、果実だった。だけどウチのトマトを美味そうに食ってたなあ。
それはともかく俺はタレスさんへ言う。
「そのせいで村がひとつ無くなったのをもう忘れたのか? もし子熊が死んでいたら人間に被害があったかもしれないんだぞ? 魔物は動物よりも少し賢いからな」
「ぐぬ……」
「ほら、とっとと手を動かしてくださいねー」
「煽るなサーナ。なにをするかは言ってもいいけど、『やれ」 と言われてやったことは概ね身につかない。反省も難しいから放っておいていいと思う」
「うほ、レンさんかっこいい……」
サーナが身震いしてそんなことを言うが、ここは学校じゃない。
自分でなんとかしなければいけないのだ。
もちろん尋ねられれば教えるし、どうしても一人では無理だという作業があれば手伝うつもりだ。
「それじゃ俺はこっちで耕しているからわからないことがあれば聞いてくれ」
「……」
不貞腐れた顔をし、無言でまた鍬を持つ。まあ、最初はこんなものだろうし、貴族という地位から落とされていることをこれから痛感することになると思う。
『自分で食べる分はある程度稼がないと、本当に干からびちゃうからね』
「畑はおまけみたいなものだから、他に稼ぐ手段を見つけたらここは放棄してもいいからな?」
「なに? なるほど……なら僕は冒険者になってみるか」
「お、戦えるのか?」
「ふん、武芸は父上に仕込まれている。学院の剣術試合では三位だったぞ」
微妙……!
ついでに言うと学院の剣術試合とかお遊戯みたいなもんだからなあ。
俺の学校もそういうのがあったけど、実戦とは全然違う。
幼少期から狩りをしていた俺はそれがよーくわかるのだ。
「なら昼飯を食った後、ちょっと出てみるか? たまにフォレストウルフがウロウロしている時があるから一頭相手にしてみるのもいいかもしれない」
「ふむ、良かろう。……ついてきてくれるのだな?」
「不安がるな!? やめとくか……」
「い、いいいや、怖がってなどいない! そう、武器! いい武器がないとやはり難しいだろう!」
そこでルーのお父さんであるロザさんが近づいてくるのが見えた。
「ルー、昨日は楽しかったか?」
「うん! クリンと一緒だった!」
『くおーん』
「こいつが噂の……ってかヘイズグリズリーじゃねえか……」
なんか強そうな名前が出て来たな? 種族名かな? そう思っていると、タレスさんに視線が移る。
「貴族のお坊ちゃんはあんたか。侯爵様に言われて村人と同じ扱いでいいって聞いているぜ」
「……」
「そう睨むなよ。事実だろ? で、今、小耳に挟んだが装備が必要なんだって?」
「そうだ。畑を耕して金を稼ぐなどできるか! 大物を倒して一気に稼ぐ!」
「なるほど。その内、装備も届くだろうけど、ひとまず俺のを貸してやってもいいぞ」
「本当か!?」
「ああ、俺も冒険者だったし、得物は悪くないと思う」
ロザさんはそう言って笑うと、一度家へ戻っていく。再び畑を耕していると、少しの装備を持ってきた。
「ほら。レンの持っている鋼の剣より硬い、グリッド鉱石で出来ている剣だ。防具は自警団のを適当に持って来たから合うのだけつけてくれ」
「おお! これはいいな。ふふん、貴様のよりいい剣らしいぞ?」
「ま、剣の強さだけで戦っている訳じゃないしな。魔法は使えるのか?」
「当然だ。まあ、見ていなよ、僕の素晴らしい腕を!」
剣を抜いてドヤ顔をするタレスにフリンクがヒレで頭を叩いた。
「ぐあ!? なにをするこの不細工精霊!」
『村で剣を抜いたら危ないからだよ! 小さい子もいるのに!』
「はっはっは! 先を越されちまったな! ってことだお坊ちゃん。いきがるよりも、常識を身につけなよ」
「くっ……もういい、実力をみせてやる」
「先に畑を整地してからな? そのあと行くぞ」
「なっ……!?」
なぜここを放棄できると思ったのか? 俺は引き続き畑の開墾と収穫を行うのだった。
「ほら、まだまだだぞ。こっちのトマトは区画を分けてやるけど、他は自分で耕すんだ」
「侯爵家の僕がこんな屈辱を……!!」
「追い出された身でなにを言っているんだか……」
熊親子も元気になったので次はタレスさんの面倒を少し見ることにした。
ここ数日は母さんの料理を持って行ってあげていたが、そろそろ独り立ちする時がきたのだ。
畑の区画を少し広げて、トマト畑は少し分けた。で、キャベツやらナスの開墾をスタートさせたというわけだ。
すでに泣き言を口にしているが、そこは容赦しない。
『くおーん』
「貴族のお兄ちゃん、クリンも頑張れって言っているよ」
「うるさい……!」
「タレスさん、あなたが奪ったハチミツのせいで死にかけていた子熊なんだぞ?」
「ま、魔物なんてどうなっても構わんだろう……ぐあ!?」
俺はその言葉を聞いて拳骨を食らわす。ちなみにクリンは子熊の名前で、危うく母さんの『ギャレン』が採用されるところだった。
珍しくクレアが「可愛くないです」と母さんに言い、クリンになった。
ちなみにお父さん熊は母さんの案でプラーボである。前世の記憶があるのかと疑ってしまう。ライ〇ー見てたっけ……
そしてクリンはルーが気に入ってしまい、昨日は屋敷に泊っていった。プラーボが寂しそうだったので俺とフリンクで体を洗ってやり、一緒に寝てやった。
主食が魚と木の実、果実だった。だけどウチのトマトを美味そうに食ってたなあ。
それはともかく俺はタレスさんへ言う。
「そのせいで村がひとつ無くなったのをもう忘れたのか? もし子熊が死んでいたら人間に被害があったかもしれないんだぞ? 魔物は動物よりも少し賢いからな」
「ぐぬ……」
「ほら、とっとと手を動かしてくださいねー」
「煽るなサーナ。なにをするかは言ってもいいけど、『やれ」 と言われてやったことは概ね身につかない。反省も難しいから放っておいていいと思う」
「うほ、レンさんかっこいい……」
サーナが身震いしてそんなことを言うが、ここは学校じゃない。
自分でなんとかしなければいけないのだ。
もちろん尋ねられれば教えるし、どうしても一人では無理だという作業があれば手伝うつもりだ。
「それじゃ俺はこっちで耕しているからわからないことがあれば聞いてくれ」
「……」
不貞腐れた顔をし、無言でまた鍬を持つ。まあ、最初はこんなものだろうし、貴族という地位から落とされていることをこれから痛感することになると思う。
『自分で食べる分はある程度稼がないと、本当に干からびちゃうからね』
「畑はおまけみたいなものだから、他に稼ぐ手段を見つけたらここは放棄してもいいからな?」
「なに? なるほど……なら僕は冒険者になってみるか」
「お、戦えるのか?」
「ふん、武芸は父上に仕込まれている。学院の剣術試合では三位だったぞ」
微妙……!
ついでに言うと学院の剣術試合とかお遊戯みたいなもんだからなあ。
俺の学校もそういうのがあったけど、実戦とは全然違う。
幼少期から狩りをしていた俺はそれがよーくわかるのだ。
「なら昼飯を食った後、ちょっと出てみるか? たまにフォレストウルフがウロウロしている時があるから一頭相手にしてみるのもいいかもしれない」
「ふむ、良かろう。……ついてきてくれるのだな?」
「不安がるな!? やめとくか……」
「い、いいいや、怖がってなどいない! そう、武器! いい武器がないとやはり難しいだろう!」
そこでルーのお父さんであるロザさんが近づいてくるのが見えた。
「ルー、昨日は楽しかったか?」
「うん! クリンと一緒だった!」
『くおーん』
「こいつが噂の……ってかヘイズグリズリーじゃねえか……」
なんか強そうな名前が出て来たな? 種族名かな? そう思っていると、タレスさんに視線が移る。
「貴族のお坊ちゃんはあんたか。侯爵様に言われて村人と同じ扱いでいいって聞いているぜ」
「……」
「そう睨むなよ。事実だろ? で、今、小耳に挟んだが装備が必要なんだって?」
「そうだ。畑を耕して金を稼ぐなどできるか! 大物を倒して一気に稼ぐ!」
「なるほど。その内、装備も届くだろうけど、ひとまず俺のを貸してやってもいいぞ」
「本当か!?」
「ああ、俺も冒険者だったし、得物は悪くないと思う」
ロザさんはそう言って笑うと、一度家へ戻っていく。再び畑を耕していると、少しの装備を持ってきた。
「ほら。レンの持っている鋼の剣より硬い、グリッド鉱石で出来ている剣だ。防具は自警団のを適当に持って来たから合うのだけつけてくれ」
「おお! これはいいな。ふふん、貴様のよりいい剣らしいぞ?」
「ま、剣の強さだけで戦っている訳じゃないしな。魔法は使えるのか?」
「当然だ。まあ、見ていなよ、僕の素晴らしい腕を!」
剣を抜いてドヤ顔をするタレスにフリンクがヒレで頭を叩いた。
「ぐあ!? なにをするこの不細工精霊!」
『村で剣を抜いたら危ないからだよ! 小さい子もいるのに!』
「はっはっは! 先を越されちまったな! ってことだお坊ちゃん。いきがるよりも、常識を身につけなよ」
「くっ……もういい、実力をみせてやる」
「先に畑を整地してからな? そのあと行くぞ」
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