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第69話 完全決着
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「すまないケリィ通してもらうぞ!」
「お、レンか……って魔物じゃねえか!?」
『ちょっと事情があってね。大丈夫、なにかあったら僕とレンが止めるよ!』
「でけぇ熊だな……」
俺は俺が先頭を走り、真ん中に熊、フリンクがしんがりでなにかあっても良い布陣にしてある。外に居た村人たちは驚いていたが、このまま自宅の屋敷まで駆け抜けていった。
「母さん、ミルクあるか!」
「あら、レンおかえりなさい。その熊はどうしたの?」
「また変なのを拾ってきて」
「今はツッコミを入れている場合じゃないんだ。子熊が死にそうで、ミルクが必要なんだよ」
「あら! それは大変ね!」
母さんがフランソアの水やりを中断して屋敷へ入っていく。するとクレアが寄ってきて話しかけて来た。
「もしかしてこの熊がさっき話していた……」
「そうみたいだ。ハチミツが子熊の栄養源だったようだけど、それを取られて怒り、食えそうなものを探していたらしい」
「あー」
芝生に寝かされた子熊は目を開けない。お腹は動いているので生きてはいるようだ。
「こっちはお父さん?」
『うん。母熊は産んでからすぐに死んじゃったんだって』
「だからミルクがないのね。あ、帰って来た」
「これでいいかしら? 私が飲ませてもいい?」
『がるぅ……』
『お願いって!』
フリンクが通訳すると、母さんが恐る恐る子熊を抱っこし、スプーンでミルクを口に運ぶ。一口、二口と飲み進めると子熊の手が母さんの手に催促するような感じで抱き着いた。
「あ、可愛い」
「少し元気が出たかしら? はいはい、どんどん飲んでちょうだい。小さいころのフリンクを思い出すわね」
『僕?』
「そうそう、フリンクも最初はミルクを飲んでたのよ」
『へー』
そうらしい。俺が産まれてからはずっと魚を食べているで最初からかと思ったけど、ちがったようだ。まあ、ただのイルカじゃないしな。
『くおーん……』
「鳴いた! 大丈夫になったか?」
『がぉぉぉぉん!』
『お父さんも良かったって言ってるよ!』
「危険な魔物だけど、やっぱり子供は簡単に殺したりしたらダメよね」
ぱちりと目を開けた子熊はミルクをさらにハイペースで飲んでいき、げっぷをしてまた目を閉じた。
「おねむみたいね。寝かせてあげましょうか」
「あ、なら適当にベッドを作ってやろう」
俺はハリソンの厩舎へ赴き、藁を持って来た。花壇の近くに敷いてやり、親熊と一緒に寝かせておく。
『がるぅ……』
「お前も休んどけ」
俺がそういうと親子は揃って丸まり、眠りについた。ウロウロしたり、村を襲っても子熊の食い物はロクに手に入らないだろうな。牛とか家畜を食ったらミルクは出ないし。
「一件落着……って感じかしら」
「だな。そういやサーナは?」
「タレス様のところへ行っているわ。なにをやっているか監視をして、程なくしたら帰ってくるって」
「そうか……というかあいつはウチのメイドでいいのか……?」
「乗り気だったわよ? ふふ、クレアちゃんとどっちを選ぶのかしら?」
「……」
「あ、なんか言いなさいよ」
藪蛇だったか。
俺はクレアに追及されながら庭にある椅子に座る。
『見張り? 僕がやろうか?』
「一緒に見張ろうぜ。ふあ……」
「フランソアちゃん、もしなにかあったらこのフライパンとお玉を叩いて教えてね」
『……!』
ツルを器用に使い、フライパンとお玉を握ったフランソアは花びらを大きく揺らして頷いていた。なんだこいつ。
小さい方はフランシスという名前にしたらしい。今は動いていないので、子熊と同じように栄養が必要な時期なのかもしれない。
「ちょっとひと眠りするよ。あ、魚を冷やしておいてくれ」
「もう。おばさん、お昼は私も手伝うわ」
「ありがとうクレアちゃん。サーナちゃんが帰ってきたら――」
そんな二人の声を聞きながら俺は目を瞑る。
……さて、ひとまずこれで全部解決か? カイさんと強盗団の件が繋がっていたのはちょっと驚きだった。
タレスさんはトラブルメーカーだと言えるな。
『どうしたんだ?』
「いや、これでようやく平和になるなと思ってな」
『フッ、違いない』
俺達は少しの休息をとるのだった――
◆ ◇ ◆
「とりあえず今日の食事はレンさんのお母様が用意してくれたのでこれを食べてください」
「あ、明日からは……」
「さあ。町へ行くか村の食堂でお金を出すんですね。畑の一画をやはりレンさんのお父さんが貸してくれるそうなのでそこを耕して食料にするも良し、売りに行くのも良しです。お金は自分で稼ぐように!」
サーナがタレスの家へ訪問し、食事を渡していた。
それに加えて、畑仕事をしても良し、他に働き口を見つけても良しと通達。
この話自体はコールスロウ侯爵からもされていたが、改めて口頭で伝えた。
「ぐぬ……たかがメイドが……」
「ウチの姉ちゃんはこの国の宮廷魔法使いですよ? もちろんわたしもそれなりに力はあります」
「そうなのかい? フッ、僕と付き合わないか? この通り、顔はいいだろう? 元の侯爵家に戻ったらいい目を――」
「いえ、あなたに興味はありません」
サーナがぴしゃりと言い放ち、タレスが固まる。
「ではこれにて。あなたのお父上様から頼まれてもいるので、たまに様子を見に来ますからね」
「……言わせておけば! 辱めてやる!」
「……!」
タレスがサーナへ襲い掛かった! 恋人も居ないので手籠めにしてやろうと!
だが――
「ふん!」
「ぐあ……!? ば、馬鹿な――」
サーナの肝臓打ちがカウンター気味に入り、タレスが悶絶した。
「わたしはこれでもまあまあ強いんですよ。お坊ちゃん育ちのあなた程度には負けませんからねえ? さ、それではごきげんよう」
「う、うおおん……」
タレスは情けない声を上げるしか、できなかった――
「お、レンか……って魔物じゃねえか!?」
『ちょっと事情があってね。大丈夫、なにかあったら僕とレンが止めるよ!』
「でけぇ熊だな……」
俺は俺が先頭を走り、真ん中に熊、フリンクがしんがりでなにかあっても良い布陣にしてある。外に居た村人たちは驚いていたが、このまま自宅の屋敷まで駆け抜けていった。
「母さん、ミルクあるか!」
「あら、レンおかえりなさい。その熊はどうしたの?」
「また変なのを拾ってきて」
「今はツッコミを入れている場合じゃないんだ。子熊が死にそうで、ミルクが必要なんだよ」
「あら! それは大変ね!」
母さんがフランソアの水やりを中断して屋敷へ入っていく。するとクレアが寄ってきて話しかけて来た。
「もしかしてこの熊がさっき話していた……」
「そうみたいだ。ハチミツが子熊の栄養源だったようだけど、それを取られて怒り、食えそうなものを探していたらしい」
「あー」
芝生に寝かされた子熊は目を開けない。お腹は動いているので生きてはいるようだ。
「こっちはお父さん?」
『うん。母熊は産んでからすぐに死んじゃったんだって』
「だからミルクがないのね。あ、帰って来た」
「これでいいかしら? 私が飲ませてもいい?」
『がるぅ……』
『お願いって!』
フリンクが通訳すると、母さんが恐る恐る子熊を抱っこし、スプーンでミルクを口に運ぶ。一口、二口と飲み進めると子熊の手が母さんの手に催促するような感じで抱き着いた。
「あ、可愛い」
「少し元気が出たかしら? はいはい、どんどん飲んでちょうだい。小さいころのフリンクを思い出すわね」
『僕?』
「そうそう、フリンクも最初はミルクを飲んでたのよ」
『へー』
そうらしい。俺が産まれてからはずっと魚を食べているで最初からかと思ったけど、ちがったようだ。まあ、ただのイルカじゃないしな。
『くおーん……』
「鳴いた! 大丈夫になったか?」
『がぉぉぉぉん!』
『お父さんも良かったって言ってるよ!』
「危険な魔物だけど、やっぱり子供は簡単に殺したりしたらダメよね」
ぱちりと目を開けた子熊はミルクをさらにハイペースで飲んでいき、げっぷをしてまた目を閉じた。
「おねむみたいね。寝かせてあげましょうか」
「あ、なら適当にベッドを作ってやろう」
俺はハリソンの厩舎へ赴き、藁を持って来た。花壇の近くに敷いてやり、親熊と一緒に寝かせておく。
『がるぅ……』
「お前も休んどけ」
俺がそういうと親子は揃って丸まり、眠りについた。ウロウロしたり、村を襲っても子熊の食い物はロクに手に入らないだろうな。牛とか家畜を食ったらミルクは出ないし。
「一件落着……って感じかしら」
「だな。そういやサーナは?」
「タレス様のところへ行っているわ。なにをやっているか監視をして、程なくしたら帰ってくるって」
「そうか……というかあいつはウチのメイドでいいのか……?」
「乗り気だったわよ? ふふ、クレアちゃんとどっちを選ぶのかしら?」
「……」
「あ、なんか言いなさいよ」
藪蛇だったか。
俺はクレアに追及されながら庭にある椅子に座る。
『見張り? 僕がやろうか?』
「一緒に見張ろうぜ。ふあ……」
「フランソアちゃん、もしなにかあったらこのフライパンとお玉を叩いて教えてね」
『……!』
ツルを器用に使い、フライパンとお玉を握ったフランソアは花びらを大きく揺らして頷いていた。なんだこいつ。
小さい方はフランシスという名前にしたらしい。今は動いていないので、子熊と同じように栄養が必要な時期なのかもしれない。
「ちょっとひと眠りするよ。あ、魚を冷やしておいてくれ」
「もう。おばさん、お昼は私も手伝うわ」
「ありがとうクレアちゃん。サーナちゃんが帰ってきたら――」
そんな二人の声を聞きながら俺は目を瞑る。
……さて、ひとまずこれで全部解決か? カイさんと強盗団の件が繋がっていたのはちょっと驚きだった。
タレスさんはトラブルメーカーだと言えるな。
『どうしたんだ?』
「いや、これでようやく平和になるなと思ってな」
『フッ、違いない』
俺達は少しの休息をとるのだった――
◆ ◇ ◆
「とりあえず今日の食事はレンさんのお母様が用意してくれたのでこれを食べてください」
「あ、明日からは……」
「さあ。町へ行くか村の食堂でお金を出すんですね。畑の一画をやはりレンさんのお父さんが貸してくれるそうなのでそこを耕して食料にするも良し、売りに行くのも良しです。お金は自分で稼ぐように!」
サーナがタレスの家へ訪問し、食事を渡していた。
それに加えて、畑仕事をしても良し、他に働き口を見つけても良しと通達。
この話自体はコールスロウ侯爵からもされていたが、改めて口頭で伝えた。
「ぐぬ……たかがメイドが……」
「ウチの姉ちゃんはこの国の宮廷魔法使いですよ? もちろんわたしもそれなりに力はあります」
「そうなのかい? フッ、僕と付き合わないか? この通り、顔はいいだろう? 元の侯爵家に戻ったらいい目を――」
「いえ、あなたに興味はありません」
サーナがぴしゃりと言い放ち、タレスが固まる。
「ではこれにて。あなたのお父上様から頼まれてもいるので、たまに様子を見に来ますからね」
「……言わせておけば! 辱めてやる!」
「……!」
タレスがサーナへ襲い掛かった! 恋人も居ないので手籠めにしてやろうと!
だが――
「ふん!」
「ぐあ……!? ば、馬鹿な――」
サーナの肝臓打ちがカウンター気味に入り、タレスが悶絶した。
「わたしはこれでもまあまあ強いんですよ。お坊ちゃん育ちのあなた程度には負けませんからねえ? さ、それではごきげんよう」
「う、うおおん……」
タレスは情けない声を上げるしか、できなかった――
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