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第62話 点と線
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「困った……あのバカ息子はなにをしておるんだ……!!」
「キャベ様、あの熊型の魔物は賢いです。他の町や領から人を呼んで討伐隊を組み、人海戦術が良いかと……」
「そんなことをすればコールスロウ領は笑いものだ! 我等だけでなんとかせねば……! タレスはどうしている!」
コールスロウ領はキャベ侯爵が官僚の男に怒声を浴びせていた。
熊の魔物の対応について追われており、プライドが邪魔をして目の前のことしかでていない。
もちろん、通常であれば協力体制を敷くが、原因を作ったのは自分の息子ということもありそれを許さなかった。
「タレス様は恋人であるカミラ様とどこかへ行っているようですが……」
「探して連れ戻すのだ! あやつが魔物を刺激したりしなければこんなことには……うぐ!?」
「キャ、キャベ様!? お、お薬を!?」
精神安定剤を口に含み、官僚の男が水を渡すとキャベ侯爵は一息をついたあと、口を開く。
「うう……す、すまん……自由奔放が過ぎる……戻ってきたら覚悟しておれ……!!」
「ギルドには――」
「金は出す。魔物とタレス捜索を並行しろと伝えてくれ」
「承知しました。……しかし、どうしたものですか……」
官僚もタレスが悪いというのは分かっている。だが親の責任はやはりあるため、成人していたとしてもクレームはつけないといけないのだ。
「すまんな、マーガレットが亡くなって私一人で育てたのが間違いだったのかもしれん……甘やかした責任は取らねば」
「キャベ様……」
「……他にやらねばならんことは?」
「20テムほど前に村がひとつ壊滅しました件でなにか保証をと騒いでおります。如何いたしましょうか」
「あ? その件は自分で解決するようタレスに言っておいたが……まさか……」
「え!? タレス様が『父上が今は魔物優先。後回しで、後日策を出す』と……」
「あああああああ!? む、村の者達は――」
「キャ、キャンプ生活を余儀なくされております……!」
「う、うう……!?」
「ああ!? だ、誰か! 医者を――」
◆ ◇ ◆
初めて訪れた町の散策は事件に巻き込まれたため、ゆっくり見物というわけにはいかなかったが楽しめたと思う。
ちなみに母さんのお土産はクレアが見繕った新品のエプロンと、俺が買ったお皿などの雑貨である。
とても喜んでいて、今日はそれをつけて朝食を用意していた。食堂に行くとできたてパンやスープ、生魚などが並んでいた。
「広いお家になってからお掃除が大変だけど、キッチンが広くていいわねえ」
「使っていない部屋が多いから大変だよな。カイさんの時はメイドさんがたくさんいて分担してたけど」
「まあ私は暇だし、日によって分けて掃除とかでもいいし。はい、できたわよ」
『ふあ……やったぁ……』
「おい、それは皿だ」
『サラダ……』
「違うって……!?」
昨日ははしゃぎすぎたのかフリンクはまだ眠いらしい。ヒレで皿を掴んで口に入れようとしたので慌てて止めた。
「今日は畑仕事もないし、俺も町へは行かないからゆっくりしよう」
「そうするよ。たまにはのんびりしたい……けど、庭は見ておきたいな」
「あ、お母さんお花を植えたのよ! 後で見に行きましょうね」
『お鼻……』
「触るな!?」
とりあえず黙っていても飲み込むので、俺はフリンクの大きな口を開けて魚を放り込んでやる。
飼育員の時もこいつは甘えてきて水に浮かべたのを食べず、直接口に入れろと催促してきたなと思い出す。
『うまーい……』
「十匹も食えばいいだろ。後は寝てていいぞ」
「子供たちを乗せたりして遊びすぎたかな? 強盗退治と貴族様の送り迎えもしてたし」
「まあな。……って、なんでクレアがここにいる?」
そして特に約束をしていたわけでもないのにクレアが優雅にお茶を飲んでいた。
「ジャムを持ってきてくれたから一緒にどうって言ったのよ」
「犯人は母さんだったか」
「なによー、幼馴染が家に来て嬉しくないの?」
「昨日会って遊んだろうが!?」
「ならレンにはジャム無し」
「まあ、おばさんのジャムは美味いから居ることを許可する」
クレアの母親が作るキイチゴのジャムは俺のお気に入りなので仕方がない。
早速パンにジャムを塗りながらクレアに尋ねる。
「美味いな」
「ふふん、いいでしょ♪ 仕事でずっと町に行ってたから届けられなかったもんね」
「だな。助かるよ。そういや、昨日は仕事場に行かなくて良かったのか?」
「あー、またなにか頼まれると嫌だからやめておいたわ」
クレアはそう言って苦笑しながらお茶を口にする。喉を鳴らした後、周囲を見て嬉しそうに話し出す。
「いやあ、それにしてもまさか戻ってきたら一家揃ってこんなお屋敷に引っ越しているとはねえ」
「不可抗力だけどな。でも広くなったのは正直、結構悪くない。フリンクが自由に動き回れるし」
「確かにね。キッチンは私も見たけど羨ましいわ。ここに住んでもいい?」
「いいわよ」
「母さんが答えるなよ……!?」
クレアがやったぁと、母さんと共にハイタッチを決める。部屋はたくさんあるがおばさんに怒られるだろ。
そう思いながらパンをかじっていると、玄関のチャイム魔道器の音がした。
「お客さんかしら? ちょっと出てくるわね」
「誰だろ。お母さんは来れないって言ってたし」
「村長さんとかじゃないのか? ルーとかかもしれない」
「今日は学校でしょー」
「ま、平和な村だし知った顔だろ」
父さんも目玉焼きを食べながらそう口にする。狭くも広くもない村だしそんなもんだよなと思っていたところで母さんが戻って来た。
「レン、お客様よ」
「え? 俺?」
「やあやあ、レンさんの愛するサーナちゃんがやってきましたよ!」
「な……!?」
「は?」
瞬間、部屋の温度が下がった気がした。
「キャベ様、あの熊型の魔物は賢いです。他の町や領から人を呼んで討伐隊を組み、人海戦術が良いかと……」
「そんなことをすればコールスロウ領は笑いものだ! 我等だけでなんとかせねば……! タレスはどうしている!」
コールスロウ領はキャベ侯爵が官僚の男に怒声を浴びせていた。
熊の魔物の対応について追われており、プライドが邪魔をして目の前のことしかでていない。
もちろん、通常であれば協力体制を敷くが、原因を作ったのは自分の息子ということもありそれを許さなかった。
「タレス様は恋人であるカミラ様とどこかへ行っているようですが……」
「探して連れ戻すのだ! あやつが魔物を刺激したりしなければこんなことには……うぐ!?」
「キャ、キャベ様!? お、お薬を!?」
精神安定剤を口に含み、官僚の男が水を渡すとキャベ侯爵は一息をついたあと、口を開く。
「うう……す、すまん……自由奔放が過ぎる……戻ってきたら覚悟しておれ……!!」
「ギルドには――」
「金は出す。魔物とタレス捜索を並行しろと伝えてくれ」
「承知しました。……しかし、どうしたものですか……」
官僚もタレスが悪いというのは分かっている。だが親の責任はやはりあるため、成人していたとしてもクレームはつけないといけないのだ。
「すまんな、マーガレットが亡くなって私一人で育てたのが間違いだったのかもしれん……甘やかした責任は取らねば」
「キャベ様……」
「……他にやらねばならんことは?」
「20テムほど前に村がひとつ壊滅しました件でなにか保証をと騒いでおります。如何いたしましょうか」
「あ? その件は自分で解決するようタレスに言っておいたが……まさか……」
「え!? タレス様が『父上が今は魔物優先。後回しで、後日策を出す』と……」
「あああああああ!? む、村の者達は――」
「キャ、キャンプ生活を余儀なくされております……!」
「う、うう……!?」
「ああ!? だ、誰か! 医者を――」
◆ ◇ ◆
初めて訪れた町の散策は事件に巻き込まれたため、ゆっくり見物というわけにはいかなかったが楽しめたと思う。
ちなみに母さんのお土産はクレアが見繕った新品のエプロンと、俺が買ったお皿などの雑貨である。
とても喜んでいて、今日はそれをつけて朝食を用意していた。食堂に行くとできたてパンやスープ、生魚などが並んでいた。
「広いお家になってからお掃除が大変だけど、キッチンが広くていいわねえ」
「使っていない部屋が多いから大変だよな。カイさんの時はメイドさんがたくさんいて分担してたけど」
「まあ私は暇だし、日によって分けて掃除とかでもいいし。はい、できたわよ」
『ふあ……やったぁ……』
「おい、それは皿だ」
『サラダ……』
「違うって……!?」
昨日ははしゃぎすぎたのかフリンクはまだ眠いらしい。ヒレで皿を掴んで口に入れようとしたので慌てて止めた。
「今日は畑仕事もないし、俺も町へは行かないからゆっくりしよう」
「そうするよ。たまにはのんびりしたい……けど、庭は見ておきたいな」
「あ、お母さんお花を植えたのよ! 後で見に行きましょうね」
『お鼻……』
「触るな!?」
とりあえず黙っていても飲み込むので、俺はフリンクの大きな口を開けて魚を放り込んでやる。
飼育員の時もこいつは甘えてきて水に浮かべたのを食べず、直接口に入れろと催促してきたなと思い出す。
『うまーい……』
「十匹も食えばいいだろ。後は寝てていいぞ」
「子供たちを乗せたりして遊びすぎたかな? 強盗退治と貴族様の送り迎えもしてたし」
「まあな。……って、なんでクレアがここにいる?」
そして特に約束をしていたわけでもないのにクレアが優雅にお茶を飲んでいた。
「ジャムを持ってきてくれたから一緒にどうって言ったのよ」
「犯人は母さんだったか」
「なによー、幼馴染が家に来て嬉しくないの?」
「昨日会って遊んだろうが!?」
「ならレンにはジャム無し」
「まあ、おばさんのジャムは美味いから居ることを許可する」
クレアの母親が作るキイチゴのジャムは俺のお気に入りなので仕方がない。
早速パンにジャムを塗りながらクレアに尋ねる。
「美味いな」
「ふふん、いいでしょ♪ 仕事でずっと町に行ってたから届けられなかったもんね」
「だな。助かるよ。そういや、昨日は仕事場に行かなくて良かったのか?」
「あー、またなにか頼まれると嫌だからやめておいたわ」
クレアはそう言って苦笑しながらお茶を口にする。喉を鳴らした後、周囲を見て嬉しそうに話し出す。
「いやあ、それにしてもまさか戻ってきたら一家揃ってこんなお屋敷に引っ越しているとはねえ」
「不可抗力だけどな。でも広くなったのは正直、結構悪くない。フリンクが自由に動き回れるし」
「確かにね。キッチンは私も見たけど羨ましいわ。ここに住んでもいい?」
「いいわよ」
「母さんが答えるなよ……!?」
クレアがやったぁと、母さんと共にハイタッチを決める。部屋はたくさんあるがおばさんに怒られるだろ。
そう思いながらパンをかじっていると、玄関のチャイム魔道器の音がした。
「お客さんかしら? ちょっと出てくるわね」
「誰だろ。お母さんは来れないって言ってたし」
「村長さんとかじゃないのか? ルーとかかもしれない」
「今日は学校でしょー」
「ま、平和な村だし知った顔だろ」
父さんも目玉焼きを食べながらそう口にする。狭くも広くもない村だしそんなもんだよなと思っていたところで母さんが戻って来た。
「レン、お客様よ」
「え? 俺?」
「やあやあ、レンさんの愛するサーナちゃんがやってきましたよ!」
「な……!?」
「は?」
瞬間、部屋の温度が下がった気がした。
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