イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

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第42話 また会う日まで?

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「ぐは……」
「神様の加護があるレンさんに対しての態度と考えれば神罰覿面、ということでしょうかね」

 サーラが床に転がり、それを見下ろしながらサーナがそんな感想を口にしていた。
 俺達の怒りを買った彼女は然るべき形で処した。

「それにしても記憶が残っているとは……どういうことだ? 最初は効いていたよな」

 悪は滅びたので話を戻すことにする。
 屋敷の件は受領したし、気になる点と言えば記憶が消えていなかったとされるサーナのことだ。

「もちろんです。多分二回目も薄っすらですが覚えている部分はありましたしね。わたしは妙な能力がありまして」
「妙な能力?」
「はい。魔法や魔力を抑制する能力……わたしと姉ちゃんはこれを『ニンフ』と呼んでいます」
「妖精……またどうしてそんな名に」
「伝説ではいたずら好きという意味がありますしね。わたし自身、たまにコントロールできないことはありますので魔動器が勝手にオンオフしたりします」

 なるほどそれでいたずら妖精ニンフか。
 記憶を消すという『魔法』が頭にあるから無意識にイルカアローを抑制していたという感じかな。もしくは自分でその力を使ったかもしれないが。

「そ、それでも姉ちゃんにはレンさんのことは話していませんからね!?」
「まあ、知っていたら一緒に来るだろうし試すような真似はしなかったろうからそれは信用するよ」
「さすがレンさん! 懐が深い! 抱いて!」
「抱くか!?」
「レンさんを困らせたらいけませんよ」

 俺の腕に絡んでくるサーナを頬を膨らませたカイさんが引き剥がす。
 
「あらあら、モテるわねレン」
「これを見てどこがそう見えるんだよ。とりあえずサーナが特殊な力を持っているってことだな? だからカイさんのメイドをしていたのか」
「鋭いですね。療養と合わせてわたしのニンフがあればかなり魔力の放出を抑制できると考えてのことですよ」
「それでも指輪と合わせてようやくってレベルだったからもうちょっと遅かったら死んでいたかもしれないし」
「うわ、復活した!?」

 いつの間にか蘇ったサーラ曰く、王都まではそれなりに距離はあるが、ローク様が緊急で馬車を走らせたからなんとかなったそうだ。
 症状とそれに関するアイテムをサッと作ったらしいので宮廷魔法使いの肩書は伊達じゃないようである。

「さて、それじゃ話はこれくらいかしら?」
「我々バートリィ家はもう終わりだな。またこの村へ遊びに来た際は部屋を貸してもらおう。いいかな?」
「それはもう! 元々ローク様達の持ち物ですし」

 父さんが冗談気味に言うローク様に頭をかきながら答える。すると今度はアリシャ様が口を開いた。

「もう帰るのですか? 折角フリンクも帰って来たことだし、もう一泊くらい良いのでは?」
『んんんん……』
「うわあフリンク!?」

 アリシャ様がフリンクの噴気孔に手を置いていたので痙攣をし始めた。俺は慌てて彼女からフリンクを回収する。

「だ、ダメですよアリシャ様。この上にある穴はこいつの鼻なんで塞いだら」
「まあ、そうなのですか。気になって指を入れたりしてしまいましたわ」

 だからフリンクはアリシャ様を嫌がっていたのか……すまない、相棒。

『はわ!?』
「お、目が覚めたか」
『なんだか今、ホホジロザメに襲われる夢をみたよ……』
「大丈夫だぞ、まだ寝てても」
『よく寝たから大丈夫……はわわ!?』

 あくびをしながらそう言うが、アリシャ様を発見してサッと母さんのところへ逃げた。

「どうしたのフリンク?」
『な、なんでもないよ』

 母さんのところで歯をカチカチ鳴らしていた。まあ、流石にこれから先アリシャ様に会うことはなくなるだろうし平穏が帰ってくる。

「アリシャ、私達も帰るのに時間がかかる。仕事もあるからそういうわけにもいかないさ」
「残念ですわ……また、遊びに来ますからねフリンク」
『……』

 アリシャ様が微笑むがフリンクは答えなかった。正直なやつである。

「それじゃあたしも行こうかな。王都に帰らないと」
「カイの胸に残った残滓の治療をするんですよ? それまでは帰れませんからね」
「おっと、そうだった……あ、サーナちゃんはどうするの? 一緒に帰る?」
「うーん……できれば村に残ってレンさんを誘惑したいところですね」
「ハッキリ言うなあ」

 性格はアレだが、口が堅いのと顔はいいというのは悪くない。声は『ジャッジメントですの』とかいいそうな感じだが。
 
「ま、とりあえず一緒に帰りましょ。レンは興味深いけど、これ以上居たらきらわれそうだしねー?」
「まあ、サーナはともかくあんたはな」
「ハッキリ言うわね……!?」

 悪態をついたがどうやらここに残るという選択を誰も取らなかったことにホッとする。彼らはとてもいい人達だが、やはりイレギュラーだと思う。

「また会いましょうレンさん!」
「ああ、機会があれば」
「また来ますからねー!」
「お前は来なくていいよ」
「酷い!?」

 そんな会話をしながら俺は馬車に乗って去っていくバートリィ家とサーラを見送った。記憶は……消していない。

「いいのね?」
「ま、なるようになるかなって。父さんが町に行く時は手伝えるよ」
「それは助かるが……まずは村長に説明をしないとな」
『そうだねー。今日からフカフカベッドは嬉しいけど』

 俺達は踵を返して村へと戻る。まずは村長さんの家か……まあ、なんとなるだろう。

◆ ◇ ◆

「カイは良かったのですか?」
「お母様がそれを聞くのですか? ……命の恩人を好きにならないわけがありませんけど、記憶を消すというのは正直、怖いと思いました」
「そうか。彼ならお前を任せてもいいと思うのだが」
「ふふ、でも彼も心変わりがあったみたいですし、また会いたいと思っていますよ」

 馬車内でバートリィ家がそんな会話をしていた。レンの怖いところは『なかったことにする』ことだと。
 しかしそれは『逃げ』でしかなく、怖いと同時に欠点でもあるとカイは思っているのだった。

「あら、村へ向かうのかしら?」

 そこでカイは窓の外ですれ違う馬に乗った女の子に気づいた。向こうも貴族の馬車だと気づき会釈をしていた。

「旅人もフリンクを見たらびっくりするかもしれないわね」

 カイはそう言いながら笑っていたが――

「……貴族の馬車が村から来た? どうしたのかしら? ウチの村って平和そのものだと思うけど」

 ――女の子は立ち止まり、不思議そうな顔でそう呟く。そのまま村へ向かい、そして――

「ただいまー! やっと帰ってこれたわ」
「お!? クレアか! 久しぶりだなあ」

 門番に笑顔で迎えられていた。
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