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第38話 これは当然の権利だ
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「なんですって……!? 姉ちゃん、皆さんにいったいなにを!?」
「そんなに大したことじゃ無いわ。『記憶を消した』という『魔法』だから上手くすれば解除できるかと思ったのよ。ほら、カイさんにも」
ロークが記憶を取り戻したことに驚愕したサーナが詰め寄ると、あっさりと種明かしをするサーラ。
そのままカイの頭に触れてなにかをすると、彼女の目がくわっと開いた。
「あ……」
「カイ!? 大丈夫ですか?」
「え、ええ……レンさんとフリンク様のことを、思い出しました……」
「おお……」
サーナ的には隠しておきたかった話を姉があっさりと解放したことで膝から崩れ落ちた。
「まさか記憶を消すことができるとはな……さすがは神に選ばれた者、ということか」
「飛躍してますよローク様。はあ、ということはここに来た目的は屋敷の人達の記憶を戻して話を聞くつもりでしたか」
「まあね~。だけど、本人が釣れたからどっちでも良かったんだけど」
「……なるほど」
自分たちが来るまでになにかあったようなことを言ったので、レンはそれで家を出たのだとサーナはピンと来た。
「それで、ここまでして一体なにを企んでいるんですか? レンさんは平穏な暮らしがしたいと言っていたんですよ?」
「可愛い妹のため……」
「嘘をつくな……!?」
ニヤリと笑うサーラにイラっとしたサーナがあまりしてはいけない顔でツッコんだ。そこでロークが口を開く。
「どちらにせよ、彼に会って礼をせねばならん。あの時、荷物を取りに行くと言ってからそのまま忘れていたからな」
「そうですね。このお屋敷を差し上げてもいいかもしれません」
「それはいいかもしれませんね」
カイが手を合わせてロークの案に喜び、サーラも笑顔でそう返す。それを見ていたサーナが眉を顰めて言う。
「それはいいですけど、まだ姉ちゃんの目的は聞いていませんよ?」
「んー、この報酬が目的の一つかな?」
「どうして」
よくわからないことを言う姉の肩にパンチを繰り出していると、困った顔で返して来た。
「危ういと思ったからよ。この村にいる間は安心安全でこのまま暮らせると思っているかもしれないけど、そこまで甘くないってこと」
「ふむ……続けて、どうぞ」
「生意気!」
そう言いながら妹を抱きしめるサーラに、心底迷惑そうな顔で引き剥がそうとするサーナ。
「それは私も聞きたいです。レンさんとこのお屋敷をプレゼントすることが危うい、ということでしょうか?」
「あー、違うんですよカイさん。危ういというのは、持っている力に対してのことよ。えっと、17歳だっけ? レンがここまで何もなく生活できていたのは一重に結界のおかげよ――」
そこから早口でレンのことを語り始める。
基本的に村で過ごすことに異論はないが、正体を隠したままというのは実のところ『後から発覚した』場合、その時の処理で負担がかかりすぎるのだと。
たまたま今まではそういうことが無かったが、今後もそうであるとは限らない。
そして現に、今、こうして面倒くさい事態になっているということをサーナやカイ、ロークに告げる。
「まあ、大ぴらに吹聴して回るのは違うと思うけど、こういう人間が村に居るってのは隠さない方がいいと考えているわ」
「それだと平穏が消えませんか?」
「後ろ盾を作ればいいのよ。そのための『屋敷』とロークさん、そしてあたしやサーナちゃんという貴族」
「なるほど……! それならこの国の人間が下手に手を出すことはできませんね」
「そうそう。貴族の称号くらいなら陛下に頼んでもいいけど……」
「それは止めておいた方がいいと思います……」
カイが苦笑しながら釘を刺した。
そこまですると、レンが本当に家から出て行ってしまう可能性が高いからである。
「そういうことならサーナちゃんもいいかしら?」
「まあ、遅かれ早かれ姉ちゃんみたいに村の結界に気づいて破壊する人が居ないとも限らない……そこを説得すればいいと思いますね」
「……外にいけば自然と行動範囲が広がる……そしていつか王都に来たら……」
「なんです?」
「ああ、いやなんでもないわ。それじゃレンが帰って来た時の話を詰めましょうか」
「そうだな。屋敷は彼等の一家に渡せるように準備をするか。……というかいつ帰ってくるんだ?」
「わかりませんけど、まあ親御さん達を移住させた後でもいいかと」
サーナがそういうとカイも同意した。
そこからしばらく、屋敷を引き払う手はずを整え、ロークは村長とレンの両親を呼んでカイの病が治ったことと、レンがそれをやったことを説明する。
「なんですと!?」
「まあ、俺達は知っていたからな……」
「そうね」
「なら言ってくれ!?」
特に驚くことなく、トウガとミドリは顔を見合わせて、うんうんと頷いており、村長は驚愕していた。
「レンが特殊な子だったのは知っているだろ? だからなるべくあいつの意思を尊重していたんだよ」
「そうじゃっけ……?」
「記憶を消されている!? これはこれで厄介だな……」
「犯罪に知恵を回さないのが本当に幸いですね、お父様……」
そういう能力があるから『絶対』はない。
気づけば忘れさせられている可能性もあるため、カイは呆れながらそう口にしていた。
「そんなに大したことじゃ無いわ。『記憶を消した』という『魔法』だから上手くすれば解除できるかと思ったのよ。ほら、カイさんにも」
ロークが記憶を取り戻したことに驚愕したサーナが詰め寄ると、あっさりと種明かしをするサーラ。
そのままカイの頭に触れてなにかをすると、彼女の目がくわっと開いた。
「あ……」
「カイ!? 大丈夫ですか?」
「え、ええ……レンさんとフリンク様のことを、思い出しました……」
「おお……」
サーナ的には隠しておきたかった話を姉があっさりと解放したことで膝から崩れ落ちた。
「まさか記憶を消すことができるとはな……さすがは神に選ばれた者、ということか」
「飛躍してますよローク様。はあ、ということはここに来た目的は屋敷の人達の記憶を戻して話を聞くつもりでしたか」
「まあね~。だけど、本人が釣れたからどっちでも良かったんだけど」
「……なるほど」
自分たちが来るまでになにかあったようなことを言ったので、レンはそれで家を出たのだとサーナはピンと来た。
「それで、ここまでして一体なにを企んでいるんですか? レンさんは平穏な暮らしがしたいと言っていたんですよ?」
「可愛い妹のため……」
「嘘をつくな……!?」
ニヤリと笑うサーラにイラっとしたサーナがあまりしてはいけない顔でツッコんだ。そこでロークが口を開く。
「どちらにせよ、彼に会って礼をせねばならん。あの時、荷物を取りに行くと言ってからそのまま忘れていたからな」
「そうですね。このお屋敷を差し上げてもいいかもしれません」
「それはいいかもしれませんね」
カイが手を合わせてロークの案に喜び、サーラも笑顔でそう返す。それを見ていたサーナが眉を顰めて言う。
「それはいいですけど、まだ姉ちゃんの目的は聞いていませんよ?」
「んー、この報酬が目的の一つかな?」
「どうして」
よくわからないことを言う姉の肩にパンチを繰り出していると、困った顔で返して来た。
「危ういと思ったからよ。この村にいる間は安心安全でこのまま暮らせると思っているかもしれないけど、そこまで甘くないってこと」
「ふむ……続けて、どうぞ」
「生意気!」
そう言いながら妹を抱きしめるサーラに、心底迷惑そうな顔で引き剥がそうとするサーナ。
「それは私も聞きたいです。レンさんとこのお屋敷をプレゼントすることが危うい、ということでしょうか?」
「あー、違うんですよカイさん。危ういというのは、持っている力に対してのことよ。えっと、17歳だっけ? レンがここまで何もなく生活できていたのは一重に結界のおかげよ――」
そこから早口でレンのことを語り始める。
基本的に村で過ごすことに異論はないが、正体を隠したままというのは実のところ『後から発覚した』場合、その時の処理で負担がかかりすぎるのだと。
たまたま今まではそういうことが無かったが、今後もそうであるとは限らない。
そして現に、今、こうして面倒くさい事態になっているということをサーナやカイ、ロークに告げる。
「まあ、大ぴらに吹聴して回るのは違うと思うけど、こういう人間が村に居るってのは隠さない方がいいと考えているわ」
「それだと平穏が消えませんか?」
「後ろ盾を作ればいいのよ。そのための『屋敷』とロークさん、そしてあたしやサーナちゃんという貴族」
「なるほど……! それならこの国の人間が下手に手を出すことはできませんね」
「そうそう。貴族の称号くらいなら陛下に頼んでもいいけど……」
「それは止めておいた方がいいと思います……」
カイが苦笑しながら釘を刺した。
そこまですると、レンが本当に家から出て行ってしまう可能性が高いからである。
「そういうことならサーナちゃんもいいかしら?」
「まあ、遅かれ早かれ姉ちゃんみたいに村の結界に気づいて破壊する人が居ないとも限らない……そこを説得すればいいと思いますね」
「……外にいけば自然と行動範囲が広がる……そしていつか王都に来たら……」
「なんです?」
「ああ、いやなんでもないわ。それじゃレンが帰って来た時の話を詰めましょうか」
「そうだな。屋敷は彼等の一家に渡せるように準備をするか。……というかいつ帰ってくるんだ?」
「わかりませんけど、まあ親御さん達を移住させた後でもいいかと」
サーナがそういうとカイも同意した。
そこからしばらく、屋敷を引き払う手はずを整え、ロークは村長とレンの両親を呼んでカイの病が治ったことと、レンがそれをやったことを説明する。
「なんですと!?」
「まあ、俺達は知っていたからな……」
「そうね」
「なら言ってくれ!?」
特に驚くことなく、トウガとミドリは顔を見合わせて、うんうんと頷いており、村長は驚愕していた。
「レンが特殊な子だったのは知っているだろ? だからなるべくあいつの意思を尊重していたんだよ」
「そうじゃっけ……?」
「記憶を消されている!? これはこれで厄介だな……」
「犯罪に知恵を回さないのが本当に幸いですね、お父様……」
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