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第32話 偽りの日常
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一方、バートリィ家では――
「よくわからないけど、治って良かったなあ」
「そうですわね、少し咳が出るようですけど良かったですわ。よくわからないですけども」
「よくわからないけど……ありがとうございます。お父様、お母様」
「……」
――朝食を食べながらカイが治っていることを改めて喜んでいた。
結局、レンとフリンクの記憶は消したため謎が残り、「冒険者達の協力」で改善したという結論に落ち着いていた。
しかし、サーナだけは記憶が残っているためいつものお調子者のなりは潜めて黙っていた。
「サーナ? 酷い汗ですよ? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですけど!? 元気ですけど!? 心配事なんてありませんから!」
滝のような汗を流しているサーナに、カイが不安げに声をかけた。だが、彼女は千切れんばかりに首を振って否定した。
「そ、そうか。ならいいんだが、なにかあれば言ってくれ。君は――」
「お食事中失礼します。旦那様、宮廷魔法使い様が見えられました。応接室に通しております」
そこへセキトが客を通したと報告にやってきた。宮廷魔法使いは未知の病だということで王都から度々訪問をしてくれているのだ。
「む、わかった。そういえば今日は定期訪問日だったな。もうすぐ終わるからもう少しお待ちいただいてくれ」
「承知しました」
セキトがそれだけ言って下がると、一家は食事を続ける。
「そういえば村に療養をする屋敷を作ったが、どうしたものかな」
「まだ向こうにメイド達を置いて来ていますし、迎えに行かなくてはいけませんね」
「ソウデスネ……」
「まあ、別荘として使うのも悪くない。村には後日、礼を持って尋ねるとしよう。ひとまず宮廷魔法使い殿に報告だな」
◆ ◇ ◆
程なくして一家が応接室へと向かう。ロークとアリシャの後ろにはサーナを引っ張るカイの姿もあった。
「わたしはいいですって……!」
「サーナは来ないとダメでしょう?」
「いえ、特に用事もないですし……むしろ仕事をした方がいいかと」
「まあまあ、後でできるじゃない」
抵抗虚しく応接室へと到着し、中へと入る。
そこには少しウェーブがかった黒髪ロングに、宮廷魔法使いの証であるローブを来た女性がお茶を飲みながら座っていた。
ローク達に気付くと、女性は立ち上がってから胸に手を置いて頭を下げた。
「お久しぶりです」
「恐縮です。どうぞおかけになってください」
宮廷魔法使いの地位はそれなりに高く、伯爵よりは確実にある。ロークが着席を促し、一家も座る。
そこで宮廷魔法使いが視線を逸らしているサーナを見てニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、サーナも来たのね♪」
「……お元気そうでなによりですサーラ姉ちゃん」
眉をしかめてギギギと首を動かし、愛想笑いで返すサーナ。
それを見てサーラと呼ばれた宮廷魔法使いは、ぷふーと噴き出した。
「似合う! サーナちゃんのメイド服可愛い!」
「や、やめなさいよ……ローク様の前でしょう!!」
「私も似合っていると思うわ」
「カイ!?」
ドヤ顔で頷くカイにサーナがつっこむ。するとサーラは不思議そうな顔で口を開いた。
「カイさん、咳が出なくなった? 随分元気になったようだけど……そういえば村に療養屋敷を建てるとおっしゃっていましたね? 効果があったということですか」
「いや……それが――」
そこでロークが満面の笑みで、よくわからないがカイの容態が治ったこと、原因であろう植物の魔物を冒険者が倒したこと、まだ胸に病原菌らしきものがあるのでサーラに見て欲しいことなどを語る。
最初はふんふんと聞いていたが『よくわからない』ことが多く、段々冷や汗が噴き出し、笑みが消えた。
「いや、おかしいでしょう!?」
「どうしたのですか? 急に大きな声を出して」
「出さずにはおれませんよ! え? なに? よくわからないけど魔物が原因だと突き止め、それを倒したら実際に体調が良くなった? その魔物を発見したのは誰かよくわからない、と?」
「ああ」
「いやいやいやいや!? 冒険者の誰かとかではないんですか?」
「そのあたりはどうも皆うろ覚えでな。よくわからないし、多分誰かだろうという結論になった」
「よくわからない……」
いよいよサーラが頭を抱えてひとこと呟く。
「いいですか? 結果に行きつくためには相応の過程が必要です。それが少し前のことであれば覚えていないとおかしいでしょう。魔物の残骸と冒険者がセットであったとしても、情報提供者が居ないなどありえない……!」
「それは昨日調査をした。しかし、誰もなにも覚えていないのだ。今も続行しているが、進展はないと思う。おっしゃるとおり気持ちの悪さを感じるが、どうしようもない」
「むう」
サーラはロークが嘘をついている様子はないと判断して呻く。犯人探しならぬ解決者探しと言うべきか。そのことについて一人考える。
「(カイさんの病気は呪いの類に近いものだった。それを改善させたとなれば、報酬は思いのまま。それを名乗らずに消えるかしら……? 記憶が無い、というのも気になるわね。いや、むしろこのあたしがまだ調査しているのにそれをあっさり終わらせた上に雲隠れしたのがなんか腹立つわ)」
普段から適当だが仕事はしっかりこなすタイプであるサーラが先を越されたことに難色を示していた。
「(別に治ったことは喜ぶべきだけどさ。どう解決したのかは知りたい……)」
そこでサーラは妹へ声をかけた。
「サーナはなにか覚えてないの?」
「はい」
「目を見て話しなさいよ……!? それにしても汗が凄いわね、体調大丈夫?」
「大丈夫です、はい。えっと具合が悪くなって来たんで出ていいですか?」
「どっちなのよ!?」
と、ツッコミを入れるが、サーナは一礼をして立ち去っていく。
「(臭うわね……あたしの勘がそう言っている。あの子をもう少し突いてみるか――)」
「よくわからないけど、治って良かったなあ」
「そうですわね、少し咳が出るようですけど良かったですわ。よくわからないですけども」
「よくわからないけど……ありがとうございます。お父様、お母様」
「……」
――朝食を食べながらカイが治っていることを改めて喜んでいた。
結局、レンとフリンクの記憶は消したため謎が残り、「冒険者達の協力」で改善したという結論に落ち着いていた。
しかし、サーナだけは記憶が残っているためいつものお調子者のなりは潜めて黙っていた。
「サーナ? 酷い汗ですよ? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですけど!? 元気ですけど!? 心配事なんてありませんから!」
滝のような汗を流しているサーナに、カイが不安げに声をかけた。だが、彼女は千切れんばかりに首を振って否定した。
「そ、そうか。ならいいんだが、なにかあれば言ってくれ。君は――」
「お食事中失礼します。旦那様、宮廷魔法使い様が見えられました。応接室に通しております」
そこへセキトが客を通したと報告にやってきた。宮廷魔法使いは未知の病だということで王都から度々訪問をしてくれているのだ。
「む、わかった。そういえば今日は定期訪問日だったな。もうすぐ終わるからもう少しお待ちいただいてくれ」
「承知しました」
セキトがそれだけ言って下がると、一家は食事を続ける。
「そういえば村に療養をする屋敷を作ったが、どうしたものかな」
「まだ向こうにメイド達を置いて来ていますし、迎えに行かなくてはいけませんね」
「ソウデスネ……」
「まあ、別荘として使うのも悪くない。村には後日、礼を持って尋ねるとしよう。ひとまず宮廷魔法使い殿に報告だな」
◆ ◇ ◆
程なくして一家が応接室へと向かう。ロークとアリシャの後ろにはサーナを引っ張るカイの姿もあった。
「わたしはいいですって……!」
「サーナは来ないとダメでしょう?」
「いえ、特に用事もないですし……むしろ仕事をした方がいいかと」
「まあまあ、後でできるじゃない」
抵抗虚しく応接室へと到着し、中へと入る。
そこには少しウェーブがかった黒髪ロングに、宮廷魔法使いの証であるローブを来た女性がお茶を飲みながら座っていた。
ローク達に気付くと、女性は立ち上がってから胸に手を置いて頭を下げた。
「お久しぶりです」
「恐縮です。どうぞおかけになってください」
宮廷魔法使いの地位はそれなりに高く、伯爵よりは確実にある。ロークが着席を促し、一家も座る。
そこで宮廷魔法使いが視線を逸らしているサーナを見てニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、サーナも来たのね♪」
「……お元気そうでなによりですサーラ姉ちゃん」
眉をしかめてギギギと首を動かし、愛想笑いで返すサーナ。
それを見てサーラと呼ばれた宮廷魔法使いは、ぷふーと噴き出した。
「似合う! サーナちゃんのメイド服可愛い!」
「や、やめなさいよ……ローク様の前でしょう!!」
「私も似合っていると思うわ」
「カイ!?」
ドヤ顔で頷くカイにサーナがつっこむ。するとサーラは不思議そうな顔で口を開いた。
「カイさん、咳が出なくなった? 随分元気になったようだけど……そういえば村に療養屋敷を建てるとおっしゃっていましたね? 効果があったということですか」
「いや……それが――」
そこでロークが満面の笑みで、よくわからないがカイの容態が治ったこと、原因であろう植物の魔物を冒険者が倒したこと、まだ胸に病原菌らしきものがあるのでサーラに見て欲しいことなどを語る。
最初はふんふんと聞いていたが『よくわからない』ことが多く、段々冷や汗が噴き出し、笑みが消えた。
「いや、おかしいでしょう!?」
「どうしたのですか? 急に大きな声を出して」
「出さずにはおれませんよ! え? なに? よくわからないけど魔物が原因だと突き止め、それを倒したら実際に体調が良くなった? その魔物を発見したのは誰かよくわからない、と?」
「ああ」
「いやいやいやいや!? 冒険者の誰かとかではないんですか?」
「そのあたりはどうも皆うろ覚えでな。よくわからないし、多分誰かだろうという結論になった」
「よくわからない……」
いよいよサーラが頭を抱えてひとこと呟く。
「いいですか? 結果に行きつくためには相応の過程が必要です。それが少し前のことであれば覚えていないとおかしいでしょう。魔物の残骸と冒険者がセットであったとしても、情報提供者が居ないなどありえない……!」
「それは昨日調査をした。しかし、誰もなにも覚えていないのだ。今も続行しているが、進展はないと思う。おっしゃるとおり気持ちの悪さを感じるが、どうしようもない」
「むう」
サーラはロークが嘘をついている様子はないと判断して呻く。犯人探しならぬ解決者探しと言うべきか。そのことについて一人考える。
「(カイさんの病気は呪いの類に近いものだった。それを改善させたとなれば、報酬は思いのまま。それを名乗らずに消えるかしら……? 記憶が無い、というのも気になるわね。いや、むしろこのあたしがまだ調査しているのにそれをあっさり終わらせた上に雲隠れしたのがなんか腹立つわ)」
普段から適当だが仕事はしっかりこなすタイプであるサーラが先を越されたことに難色を示していた。
「(別に治ったことは喜ぶべきだけどさ。どう解決したのかは知りたい……)」
そこでサーラは妹へ声をかけた。
「サーナはなにか覚えてないの?」
「はい」
「目を見て話しなさいよ……!? それにしても汗が凄いわね、体調大丈夫?」
「大丈夫です、はい。えっと具合が悪くなって来たんで出ていいですか?」
「どっちなのよ!?」
と、ツッコミを入れるが、サーナは一礼をして立ち去っていく。
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