イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
32 / 105

第32話 偽りの日常

しおりを挟む
 一方、バートリィ家では――

「よくわからないけど、治って良かったなあ」
「そうですわね、少し咳が出るようですけど良かったですわ。よくわからないですけども」
「よくわからないけど……ありがとうございます。お父様、お母様」
「……」

 ――朝食を食べながらカイが治っていることを改めて喜んでいた。
 
 結局、レンとフリンクの記憶は消したため謎が残り、「冒険者達の協力」で改善したという結論に落ち着いていた。
 しかし、サーナだけは記憶が残っているためいつものお調子者のなりは潜めて黙っていた。

「サーナ? 酷い汗ですよ? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですけど!? 元気ですけど!? 心配事なんてありませんから!」

 滝のような汗を流しているサーナに、カイが不安げに声をかけた。だが、彼女は千切れんばかりに首を振って否定した。

「そ、そうか。ならいいんだが、なにかあれば言ってくれ。君は――」
「お食事中失礼します。旦那様、宮廷魔法使い様が見えられました。応接室に通しております」

 そこへセキトが客を通したと報告にやってきた。宮廷魔法使いは未知の病だということで王都から度々訪問をしてくれているのだ。

「む、わかった。そういえば今日は定期訪問日だったな。もうすぐ終わるからもう少しお待ちいただいてくれ」
「承知しました」

 セキトがそれだけ言って下がると、一家は食事を続ける。

「そういえば村に療養をする屋敷を作ったが、どうしたものかな」
「まだ向こうにメイド達を置いて来ていますし、迎えに行かなくてはいけませんね」
「ソウデスネ……」
「まあ、別荘として使うのも悪くない。村には後日、礼を持って尋ねるとしよう。ひとまず宮廷魔法使い殿に報告だな」

◆ ◇ ◆

 程なくして一家が応接室へと向かう。ロークとアリシャの後ろにはサーナを引っ張るカイの姿もあった。

「わたしはいいですって……!」
「サーナは来ないとダメでしょう?」
「いえ、特に用事もないですし……むしろ仕事をした方がいいかと」
「まあまあ、後でできるじゃない」

 抵抗虚しく応接室へと到着し、中へと入る。
 そこには少しウェーブがかった黒髪ロングに、宮廷魔法使いの証であるローブを来た女性がお茶を飲みながら座っていた。
 ローク達に気付くと、女性は立ち上がってから胸に手を置いて頭を下げた。

「お久しぶりです」
「恐縮です。どうぞおかけになってください」

 宮廷魔法使いの地位はそれなりに高く、伯爵よりは確実にある。ロークが着席を促し、一家も座る。
 そこで宮廷魔法使いが視線を逸らしているサーナを見てニヤリと笑みを浮かべた。

「あら、サーナも来たのね♪」
「……お元気そうでなによりですサーラ姉ちゃん」

 眉をしかめてギギギと首を動かし、愛想笑いで返すサーナ。
 それを見てサーラと呼ばれた宮廷魔法使いは、ぷふーと噴き出した。

「似合う! サーナちゃんのメイド服可愛い!」
「や、やめなさいよ……ローク様の前でしょう!!」
「私も似合っていると思うわ」
「カイ!?」

 ドヤ顔で頷くカイにサーナがつっこむ。するとサーラは不思議そうな顔で口を開いた。

「カイさん、咳が出なくなった? 随分元気になったようだけど……そういえば村に療養屋敷を建てるとおっしゃっていましたね? 効果があったということですか」
「いや……それが――」

 そこでロークが満面の笑みで、よくわからないがカイの容態が治ったこと、原因であろう植物の魔物を冒険者が倒したこと、まだ胸に病原菌らしきものがあるのでサーラに見て欲しいことなどを語る。
 最初はふんふんと聞いていたが『よくわからない』ことが多く、段々冷や汗が噴き出し、笑みが消えた。

「いや、おかしいでしょう!?」
「どうしたのですか? 急に大きな声を出して」
「出さずにはおれませんよ! え? なに? よくわからないけど魔物が原因だと突き止め、それを倒したら実際に体調が良くなった? その魔物を発見したのは誰かよくわからない、と?」
「ああ」
「いやいやいやいや!? 冒険者の誰かとかではないんですか?」
「そのあたりはどうも皆うろ覚えでな。よくわからないし、多分誰かだろうという結論になった」
「よくわからない……」

 いよいよサーラが頭を抱えてひとこと呟く。
 
「いいですか? 結果に行きつくためには相応の過程が必要です。それが少し前のことであれば覚えていないとおかしいでしょう。魔物の残骸と冒険者がセットであったとしても、情報提供者が居ないなどありえない……!」
「それは昨日調査をした。しかし、誰もなにも覚えていないのだ。今も続行しているが、進展はないと思う。おっしゃるとおり気持ちの悪さを感じるが、どうしようもない」
「むう」

 サーラはロークが嘘をついている様子はないと判断して呻く。犯人探しならぬ解決者探しと言うべきか。そのことについて一人考える。

「(カイさんの病気は呪いの類に近いものだった。それを改善させたとなれば、報酬は思いのまま。それを名乗らずに消えるかしら……? 記憶が無い、というのも気になるわね。いや、むしろこのあたしがまだ調査しているのにそれをあっさり終わらせた上に雲隠れしたのがなんか腹立つわ)」

 普段から適当だが仕事はしっかりこなすタイプであるサーラが先を越されたことに難色を示していた。

「(別に治ったことは喜ぶべきだけどさ。は知りたい……)」

 そこでサーラは妹へ声をかけた。

「サーナはなにか覚えてないの?」
「はい」
「目を見て話しなさいよ……!? それにしても汗が凄いわね、体調大丈夫?」
「大丈夫です、はい。えっと具合が悪くなって来たんで出ていいですか?」
「どっちなのよ!?」

 と、ツッコミを入れるが、サーナは一礼をして立ち去っていく。
 
「(臭うわね……あたしの勘がそう言っている。あの子をもう少し突いてみるか――)」
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...