イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
7 / 105

第7話 村の変化

しおりを挟む
 フォレストウルフを撃退した翌日。
 念のため俺とフリンクが森を徘徊してみたところ、あいつらは周辺5キール以内には存在しなかった。キールは日本で言うキロメートルだ。
 代が変わったらまた忘れたころに襲撃に来るかもしれないが、向こう十年くらいは問題なさそうなので遠目で手を振るだけにとどめておく。
 犬は好きだけど、あいつら懐かなさそうだもんな。

『殲滅してもいいのではないか?』
「やめてやれよ。あいつらだって群れがあるだろ。それに生態系が崩れる可能性も高い」
『そういうものか。まあ、レンが言うなら俺は従うまでだ』
「おう、そういうもんだ」

 物騒だが物分かりはいいフリンクの頭を撫でながら俺は笑顔で答えてやる。
 満更でもないようでフリンクは潮を吹いた。
 声はダンディだが、飼育していた時のように無邪気な一面をのぞかせるので、やはり可愛いものだ。

 そんな調子で森を一回りした後、村に戻る。
 畑仕事を終えてから出かけたので昼前の帰還となった。

『ん? なんだか村が騒がしいな?』
「本当だ。なんかあったかな?」

 とは言っても冒険者か商人が立ち寄ったとかくらいのものだろう。平穏なこの村にはその程度で刺激になるのだ。

「おう、レンにフリンクおかえり! なんかあった?」
「なにもないな。フォレストウルフはしばらく村に来ないだろうってくらいか」
「十分な情報だな! ありがとよ」

 ケリィが歯を見せて笑い、 フリンクに乗った俺とハイタッチを交わす。
 その彼に今度は俺が返すことにした。

「どちらかと言えば村になにかあったんじゃないか? 騒がしい気がする」
「お、よく分かるな。イルカイヤーってやつか? まあ、行ったら分かる。お前なら村長が紹介するかもしれないな」
「どういうことだ……?」
「お前は特別だってこった! 友人の俺も鼻が高いぜ? フリンクもな」
『よくわからないけど、村長さんの居場所は分かったから行ってみようか』

 フリンクが可愛い声でそう言うと、ケリィが手を振って見送ってくれた。
 嫌味のひとつも言わないいい奴である。

 そしてフリンクが村長のところへ移動を始めると、村でも少し高い場所にある丘へ向かっていることがわかった。

「ありゃ、なんでこんなところに?」
『なんでだろうな。ふむ、現地には結構人が居るみたいだが?』

 イルカアローで調べてみると、確かに複数人の反応が返って来た。
 十人くらいいるなと思いつつフリンクが進んでみると――

「ん? なんだあれは?!」
「おや?」

 ――良い服を着た見慣れない人達と、鎧兜をまとった冒険者が現場にいた。
 さらにその前には村長さんとログさん、バリアットさんなど重要な人物が集まっていた。

「おお、レンか。家に行ったら哨戒をしていると聞いたが、帰って来たのか」
「ええ、フォレストウルフは今後しばらくはここに来ないと思います。えっと、こちらの方々は?」

 俺がそう言うと、良い服を着た人が咳ばらいをして俺を睨みながら口を開く。

「我々はバートリィ家の者だ! 今度、あの丘の上に屋敷を建てることになったので交渉に来たのだ」
「あ、貴族の方でしたか。大変失礼をしました」
「む……まあいいだろう」

 気難しそうだが話は分かるタイプのようで、片目を瞑り問題ないと咳ばらいをしていた。

『どうしてこの村に作るのー?』
「おう!? な、なんだこいつは!? 魔物か!?」
『僕はフリンクだよ!』
「ああ、剣を納めてくださいセキト様。この村の守り神みたいな存在で、精霊や神獣という類です」
「「「はあ!?」」」

 村長が微笑みながらあっさりと口にし、その場にいたセキト様含むバートリィ家の人達が声を揃えて驚いていた。

「このレンが神様の加護を受けておりましてな。神の使いであるフリンクと一緒にこの村で生まれました」
「う、むう……神……本当か……」
「セキト様、このような魔物は見たことがありません。これだけ人語を喋る個体も私は知りませんよ」
「ですな。でもそれなら猶の事いいかもしれません」
「そうだな……」
「どういうことですか?」

 意外と受け入れられたな? 
 もうちょっと疑うと思ったんだけど、未知の存在であるフリンクが突っ込みようがないからかもしれないけど。
 それはともかく、俺とフリンクがいることがちょうどいい理由を尋ねてみると――

「バートリィ家の使いだと言ったろう? その家の方が療養のために住む屋敷を建てる。この村を選んだ理由は、この村はギルドに魔物の討伐依頼が無いという噂を聞きつけたからなのだ」
「そういうことですか」
「この村は自警団が居るのはもちろんですが、レンとフリンクがかなり強いため冒険者の手を必要としないんですよ。私も常駐冒険者でしたが、形無しですね!」
「そこまでなのか? 普通の若者に見えるが」

 ログさんがはっはっはと笑いながらそんな説明をしていた。そこはさすがに訝しむセキトさん。

「まあ、俺が強いかはともかき、この村で療養するならいいかもしれませんね。空気もいいし、水もキレイです。魔物は俺とフリンクが寄せないようにしますよ」
「ふむ、堂々としているな。それが本当かは追々わかるとして、実際に平和な村のようだ。すまないが、屋敷を立てさせてもらう。もちろん資金は提供するとおっしゃっている」
「承知しました」

 村長さんが頷くと、セキトさんが握手をしてこれから契約書を作成するとのことで、村長さんの家へバートリィ家の人達は招かれていった。

『どんな人が来るのかなあ』
「さあな。でも、やることはいつもと変わらないって。貴族なんてそれこそ関わりになることはないだろうし」
『そうかな? そうかも! 平和が一番だよねー』

 ふふんと目を細めて鼻を鳴らすフリンクと一緒に、村長さん達を見送る俺達。
 それから数日後、屋敷を完成させるため工事の人が出入りするようになる。

 まあ、フリンクの記憶が消えたり復活したりしているのを見て『脳は大丈夫かな』と心配になる俺であった――
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...