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第5話 過剰ライフ

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「戻ったよ」
『ただいま~』
「早かったわね! まあ、あんた達に勝てる魔物なんてそうそう居ないからねえ」
『そうそう! お母さん褒めてー』
「はいはい、身体だけ大きくなっても子供ねえ」
「……」

 ふわふわと浮かぶフリンクが母さんの傍に行き、『撫で』を要求していた。
 これもいつもの光景だが、俺としてはこの可愛い声には違和感しかない。

「父さんはまだか」
「収穫物を町に売りに行ってるからまだかかるわよ。あんたの仕事は終わってるから、ゆっくりしていればいいんじゃない?」
「そうだな……なら部屋にいるから飯になったら呼んでくれよ」
『ご飯はなにかなあ』
「フリンクの好きなアジフライよ」
『……! 早く食べたい……』

 食い意地の張ったイルカは、ほわっとした顔で俺の後をついてきた。
 イルカはイルカなのでやはり魚が好物で、この世界は幸いと言っていいかわからないけど、と同じ魚介類が存在する。
 そしてこの村は海に近いので、魚は結構食えたりするのだ。

「海と山の間にあるのはありがたいよな」
『ああ。海に行けば潜って魚が食べ放題だ。まだ船の技術が浅いからな』
「ほどほどにな」

 かっこいい声に戻ったフリンクがベッドに横たわったので俺は彼を背もたれのクッションにして苦笑する。

「ふあ……」

 晩飯までゴロゴロするかと思ってあくびをする。フリンクも俺の頭にヒレを置いてあくびをしていた。
 その横顔はとても可愛らしい、俺が飼育していたバンドウイルカそのものなのだが、フォレストウルフを撃退した時のように戦力は高い。
 イルカ魔法……と呼んでいるが魔法と言っていいか怪しい技がいくつかあり――

 まずは『イルカアロー』だ。
 イルカには超音波で物体との距離を測ったりするのだが、それを放つ技である。
 元々、イルカは超音波が跳ね返って際にそこになにがあるのか? 例えば流木なのか魚なのかを確認できる。
 だがこのフリンクは魔物の種類くらいまではわかる。ちなみに俺も使えるけど、視ない千里眼みたいで怖い。
 ちなみにもうひとつ特殊な能力があるが、今は割愛しておこう。

 次に『イルカイヤー』だな。
 イルカの耳は先の超音波を聞き取る能力を持っている。それがパワーアップして、超音波に乗った『声』を聴きとることができたりする。
 ガキ共が泣き叫んでいたけど、あそこに三人いるというだけでなく、なにを言っているかまで聞こえている。

 さらに『イルカウイング』という魔法がある。
 いつも浮いているが、さらに高く浮きたい時に使うのだ。
 ちなみにこれのおかげで俺も空を飛ぶことができたりする。まあ、あまり使っていないから屋根の修理で飛び乗るくらいかな?

 そして最後に『イルカビーム』。
 熱光線……ではなく、超高圧の水流を発射するというとんでも魔法だ。
 俺は手の平から出し、フリンクは口から吐き出す。目標に水圧をぶつけるのだが、鉄の鎧くらいなら簡単に貫通する威力がある。
 試したことはないし、試す環境はないんだがダイヤモンドもいけそうだと俺は睨んでいる。
 威力の調節は可能なので水鉄砲から戦略兵器まで多様な用途を持つ。

 とりあえず基本がこんなところだな。
 後はフィジカルの部分も強いし、他にもまだ習得するらしいが、魔物と戦う時くらいしか使わないからイルカ魔法は増えていない。これでも十分だけど。

 そんなわけで、俺とフリンクは村一番の強さを持つというわけ。
 転生特典としちゃよくありそうな能力だけど、魔王と戦うみたいなシチュエーションはないため、正直過剰な能力だと感じている。
 
「剣も魔法も人並み以上でイルカ魔法のおまけ付き、か……」
『なんだ?』
「いや、十七年ほど生きてきたけど、この村から出ることは無いのに無駄に強いなと思ってな」
『イヴァルリヴァイ様のご厚意だぞ? それに皆を守れていいではないか。台風で溺れることも無い身体だ』
「言うなよ……」

 どこまで見越していたかわからないんだけど、俺かフリンクがいて助かったことは数多い。
 溺れそうになった子を助けたり、ゴブリンやオークを追い払ったりと、小説などである異世界モノにもれず、戦闘力や体幹はあった方が良いという事例が結構あった。
 
「ま、気楽に生きられるのは助かるよな。スローライフってやつを満喫できている」
『それはいいが、そろそろ結婚も視野に入れたらどうだ? ご両親はお前より二つ上くらいで結婚したらしいじゃないか』
「言うなよ……」

 自慢ではないが、村には俺が神様の加護を持っているというのは知れ渡っている。
 だから娘を嫁にという家族が多いんだよな……いや、別にそれ目的という女の子は誰一人いない。

『クレアなんかいいじゃないか、元気で』
「他人事だと思って……」

 能力はあるけど金持ちってわけじゃない。それと学校生活の延長のせいか、友達の関係はいいけど、恋人だとピンとこないというのもある。
 普通に接してくれるのが救いだろうか?
 クレアも特別仲がいいわけじゃないからなあ。

『意外とお姫様とかでもいいのではないか?』
「アホかこんな村出身の男が見初められるかって。そもそも――」
『ん?』

 ――『そもそも、お前が居るから村から出るつもりは無い』と言いかけて飲み込む。

 ぶっちゃけ、フリンクと俺は過剰とも言える能力を持っているため、あまり人目につくわけにはいかないと考えている。
 政治や戦争……思い当たるだけでもいくつか利用価値が出てくるほどには危険だと自覚もしているんだ。
 だから俺はこの村から出ることはないと思っている。

 ……何気にウチの両親は俺の前世の親と同じ存在らしいし、俺が今くらいの歳に飛行機事故で亡くなったんだよな……できるだけ一緒に居たいというのもある。

「まあ、二十歳くらいまでには何とかしたいな」
『フッ。俺が愛想を振りまけばすぐだろう』

 むしろお前がいると困るんだが?
 そんなことを話しつつ、晩飯を待つ俺達だった。
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