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第4話 もはや魔王イルカ
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『こっちか』
フリンクは迷うことなく森の中を進み、帰ってこないガキどもの場所へ一直線に向かう。
「この前、ゴブリンが出たらしいし森も最近、危ないよな」
『いっそ巣ごと蹴散らすか』
「色々と問題になりそうだから、村に危険がある時だけな」
やろうと思えばできるが、あいつらが根こそぎいなくなると今度は他の魔物が増えたりするんだよな。
「――けてー!」
「今、声が聞こえた!」
『ああ。イルカイヤーでキャッチした。魔物もいるようだ』
「いそいでくれ!」
フリンクの背中をぺしぺしと叩いて急かすと、尾っぽを器用に動かして木々の間をすり抜けていく。
それから数十秒ほどで開けた場所へ到着した。
「無事かガキども!」
「あ! レン兄ちゃん!!」
「フリンクー!」
いつもの悪ガキ三人衆が身を寄せ合って岩壁にある穴に閉じこもっていた。
その、ほら穴の前にはさほど大きくないフォレストウルフという魔物が三頭ほど立っていた。まだ成狼ではなさそうだが、子供には大変な脅威である。
「待ってろ、すぐに助けて――」
『たぁ!』
「きゃいん!?」
俺が背中から降りようとしたが、それよりも早くフリンクが突撃して尻尾でフォレストウルフ達を蹴散らした。
「ガルルルル!!」
「なんの! イルカビームですよ!」
「きゃいん!?」
その中で一頭だけ、果敢にもフリンクへ飛び掛かって来た。しかし、フリンクの『イルカ魔法』であるイルカビームによってあえなく撃退。
残る二頭は一目散にこの場を去っていった。
「よかったー!」
「ありがとうフリンク!」
「レン兄ちゃん怖かったよー」
「よしよし、ほらフリンクの背に乗るんだ」
『乗ったら村に帰るからねー!』
「はぁい!」
……お気づきだろうか? フリンクの態度が変わっていることに。
このイルカ、実は他人《ひと》前では態度をコロッと変える。
というかあのハードボイルドな声で話すのは俺の前だけなのだ。
それ以外はそれこそウチの両親相手でも『CV:小原 〇美』のような可愛い声で愛嬌を振り撒くのである。
まあ、それで困ったことはないから別に構わないけど知っている俺からすると不気味な変わりようだ。
『なにやってるの? 行くよレン』
「……ああ、そうだな」
「わーい、フリンクとお散歩ー!」
「おいガキども、なんでこんなところに居たんだ? 村の外から出たらダメだっていつも言われているだろ?」
俺はフリンクの背ではしゃぐ三人の子供たちに説教をする。するとその中の一人、いかにもな腕白坊主であるモントが困った顔で後ろ頭を掻いた。
「いやあ、ルーのヤツが森にある花畑に行きたいっていいだしてさ。そんなに遠くないしいいかと思ったんだけど、途中であいつらに追われたんだー」
「ったく。親父さん達が心配してたぞ、探しに出ているって」
「やべっ……」
三人組の一人、リーオが肩を竦めて冷や汗をかいていた。拳骨は免れない。
『遊びに行く時は僕に声をかけてね。何度か言ってるけど、遠くからでもすぐ駆けつけられるし』
「レン兄ちゃんと一緒に探したんだけど、その時は見つけきらなかったんだよ。やっぱ村の外は怖いなあ。レン兄ちゃんくらい強くなりたいよ」
「剣術を教えてよー」
モントとリーオがフリンクの上からそんなことを口にするが、俺は苦笑しながら返してやる。
「もうちょっと大きくなったらな。まだ10歳にもなってないだろ?」
「えー、でもレン兄ちゃんは8歳でログのおじちゃんと互角だったんでしょ?」
「俺は特別なんだよ。……自分で言うのもなんだけど」
ログというのはこの村に常駐している戦士で、もう三十過ぎのおっさんだ。
ふらりとやってきた旅人だったんだけど、今の奥さんに惚れて住むようになった。
それまでは村人が助け合って魔物を撃退していたので物凄くありがたかったんだ。
だけど、イヴァルリヴァイの加護がある俺は彼をあっさりと倒してしまったんだよな……
『僕は僕は?』
「フリンクも凄いよー! 遠くからでもわたし達がわかるもんね」
「あの口から吐く水もだよな」
「というか空を飛ぶ時点でおかしいって父ちゃんが……」
『うふふー』
褒められてご満悦のフリンク。
ガキ共とそんな話をしながら村へ戻ると、集まっていた大人たちが一斉にこっちを見た。
「おお! 帰って来た!」
「レンとフリンクが行ってくれたと聞いたから無事だと思ったが、良かった……」
ウチのエンカンタ村は五百人程度の集落で、悪い人間というのが存在しない。
なので、子供が行方不明になったら総出で探して回ることも多い。
だけどもちろん悪いことをしたら――
「がっ!?」
「ぎっ!?」
「ぐぅ!?」
「お前等はまた勝手に村を出て! ほら、帰るぞ!」
「うわーん! 痛いよー!」
「フリンクとレン兄ちゃんと遊ぶー!」
「今日はもうおしまい!」
『あはは、今日は仕方ないよ。またねー』
――当然、叱られる。三人ともそれぞれの親に拳骨をくらい、引きずられるように帰っていった。
涙目になって帰る三人に苦笑していると、ポンと肩を叩かれた。
「おかえり! 相変わらず仕事が早いな!」
「ログさんか。まあだいたいはこいつのおかげだよ」
『えへへ』
「なに言ってんだ。お前も同じことができるくせに」
「むう」
「ウチの娘を早く貰ってくれよ、加護付きのお前になら任せられる!」
「ルーは8歳だろうが……」
なにげにルーはログさんの娘である。俺に負けてから落ち込むどころか『凄い奴だ』と褒めちぎってくれるおっさんだ。悪い気はしないが幼い愛娘を差し出すな。
「んじゃ俺は帰るよ」
「おう! すまねえな、迷い子探しはお前達が一番頼りになる」
くっくと笑うログさんに片手を上げて俺は家へ足を向けた。
『無事でなによりだ』
「そうだな」
周囲に誰も居なくなった瞬間、ハードボイルドに戻ったフリンクの背中を撫でながら帰路についた。
フリンクは迷うことなく森の中を進み、帰ってこないガキどもの場所へ一直線に向かう。
「この前、ゴブリンが出たらしいし森も最近、危ないよな」
『いっそ巣ごと蹴散らすか』
「色々と問題になりそうだから、村に危険がある時だけな」
やろうと思えばできるが、あいつらが根こそぎいなくなると今度は他の魔物が増えたりするんだよな。
「――けてー!」
「今、声が聞こえた!」
『ああ。イルカイヤーでキャッチした。魔物もいるようだ』
「いそいでくれ!」
フリンクの背中をぺしぺしと叩いて急かすと、尾っぽを器用に動かして木々の間をすり抜けていく。
それから数十秒ほどで開けた場所へ到着した。
「無事かガキども!」
「あ! レン兄ちゃん!!」
「フリンクー!」
いつもの悪ガキ三人衆が身を寄せ合って岩壁にある穴に閉じこもっていた。
その、ほら穴の前にはさほど大きくないフォレストウルフという魔物が三頭ほど立っていた。まだ成狼ではなさそうだが、子供には大変な脅威である。
「待ってろ、すぐに助けて――」
『たぁ!』
「きゃいん!?」
俺が背中から降りようとしたが、それよりも早くフリンクが突撃して尻尾でフォレストウルフ達を蹴散らした。
「ガルルルル!!」
「なんの! イルカビームですよ!」
「きゃいん!?」
その中で一頭だけ、果敢にもフリンクへ飛び掛かって来た。しかし、フリンクの『イルカ魔法』であるイルカビームによってあえなく撃退。
残る二頭は一目散にこの場を去っていった。
「よかったー!」
「ありがとうフリンク!」
「レン兄ちゃん怖かったよー」
「よしよし、ほらフリンクの背に乗るんだ」
『乗ったら村に帰るからねー!』
「はぁい!」
……お気づきだろうか? フリンクの態度が変わっていることに。
このイルカ、実は他人《ひと》前では態度をコロッと変える。
というかあのハードボイルドな声で話すのは俺の前だけなのだ。
それ以外はそれこそウチの両親相手でも『CV:小原 〇美』のような可愛い声で愛嬌を振り撒くのである。
まあ、それで困ったことはないから別に構わないけど知っている俺からすると不気味な変わりようだ。
『なにやってるの? 行くよレン』
「……ああ、そうだな」
「わーい、フリンクとお散歩ー!」
「おいガキども、なんでこんなところに居たんだ? 村の外から出たらダメだっていつも言われているだろ?」
俺はフリンクの背ではしゃぐ三人の子供たちに説教をする。するとその中の一人、いかにもな腕白坊主であるモントが困った顔で後ろ頭を掻いた。
「いやあ、ルーのヤツが森にある花畑に行きたいっていいだしてさ。そんなに遠くないしいいかと思ったんだけど、途中であいつらに追われたんだー」
「ったく。親父さん達が心配してたぞ、探しに出ているって」
「やべっ……」
三人組の一人、リーオが肩を竦めて冷や汗をかいていた。拳骨は免れない。
『遊びに行く時は僕に声をかけてね。何度か言ってるけど、遠くからでもすぐ駆けつけられるし』
「レン兄ちゃんと一緒に探したんだけど、その時は見つけきらなかったんだよ。やっぱ村の外は怖いなあ。レン兄ちゃんくらい強くなりたいよ」
「剣術を教えてよー」
モントとリーオがフリンクの上からそんなことを口にするが、俺は苦笑しながら返してやる。
「もうちょっと大きくなったらな。まだ10歳にもなってないだろ?」
「えー、でもレン兄ちゃんは8歳でログのおじちゃんと互角だったんでしょ?」
「俺は特別なんだよ。……自分で言うのもなんだけど」
ログというのはこの村に常駐している戦士で、もう三十過ぎのおっさんだ。
ふらりとやってきた旅人だったんだけど、今の奥さんに惚れて住むようになった。
それまでは村人が助け合って魔物を撃退していたので物凄くありがたかったんだ。
だけど、イヴァルリヴァイの加護がある俺は彼をあっさりと倒してしまったんだよな……
『僕は僕は?』
「フリンクも凄いよー! 遠くからでもわたし達がわかるもんね」
「あの口から吐く水もだよな」
「というか空を飛ぶ時点でおかしいって父ちゃんが……」
『うふふー』
褒められてご満悦のフリンク。
ガキ共とそんな話をしながら村へ戻ると、集まっていた大人たちが一斉にこっちを見た。
「おお! 帰って来た!」
「レンとフリンクが行ってくれたと聞いたから無事だと思ったが、良かった……」
ウチのエンカンタ村は五百人程度の集落で、悪い人間というのが存在しない。
なので、子供が行方不明になったら総出で探して回ることも多い。
だけどもちろん悪いことをしたら――
「がっ!?」
「ぎっ!?」
「ぐぅ!?」
「お前等はまた勝手に村を出て! ほら、帰るぞ!」
「うわーん! 痛いよー!」
「フリンクとレン兄ちゃんと遊ぶー!」
「今日はもうおしまい!」
『あはは、今日は仕方ないよ。またねー』
――当然、叱られる。三人ともそれぞれの親に拳骨をくらい、引きずられるように帰っていった。
涙目になって帰る三人に苦笑していると、ポンと肩を叩かれた。
「おかえり! 相変わらず仕事が早いな!」
「ログさんか。まあだいたいはこいつのおかげだよ」
『えへへ』
「なに言ってんだ。お前も同じことができるくせに」
「むう」
「ウチの娘を早く貰ってくれよ、加護付きのお前になら任せられる!」
「ルーは8歳だろうが……」
なにげにルーはログさんの娘である。俺に負けてから落ち込むどころか『凄い奴だ』と褒めちぎってくれるおっさんだ。悪い気はしないが幼い愛娘を差し出すな。
「んじゃ俺は帰るよ」
「おう! すまねえな、迷い子探しはお前達が一番頼りになる」
くっくと笑うログさんに片手を上げて俺は家へ足を向けた。
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