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World 1
1-27 第一世界 ファイナルラウンド
しおりを挟む偽国王の体が1.5倍くらいに膨れ上がり、通路を覆い隠さんばかりになる。地下通路の狭さで、ギリ二人が攻撃できるくらいの幅なので、俺達は中々ダメージを与えられずにいた。
<マスター、右から触手が>
「しゃらくさい! 綾香、やれ!」
ガシッ! 偽国王の触手を剣で払わず、手で掴んでやり拘束する。
「オッケー!」
ブシュ!
「ぐおお!? おのれ……」
「あ、再生しました!」
フィリアがちぎれた触手を焼きながら叫ぶと、確かに再生していた。変身した後の偽国王の背中には二本の触手があり、両腕と合わせて攻撃を仕掛けて来るので近づきにくいことこの上ない。
「あの偽領主みたいにさっさとやられてくれれば助かるんだけどな?」
「そうはいかん……あの方の命令だ、この世界は破壊させてもらう」
「この世界の人からすれば完全な八つ当たりよね?」
すると偽国王、渋い顔をして答えてきた。
「……それを言ったらワシ等もじゃ。まあ、いい思いさせてもらったからいいが、それが無かったらやっておれんわ。そして神には逆らえん、そういうことだ。せめて一級神になれば……」
遠い目をしてぶつぶつ言い始めた偽国王も何か苦労しているらしい。それはそれとして、一番とばっちりを受けたのは俺と綾香なので、容赦なくぶっ倒すことにしよう。
「死ね!」
「ハル君、勇者のセリフじゃないよそれ……まあいいや、僕も行こう!」
「援護します! <ライトニング>」
「陽の攻撃が終わったら次、行くわよ」
「ぬかせ! ぐちょぐちょにしてやる!」
俺の剣が触手を斬り払い、本体へと迫っていく。シルトと同時攻撃をしようとしたところで、ニヤリと偽国王が笑った。
「ぐあ……!」
「シルト!?」
足元にも触手!? こいつ、二本だけじゃなかったのか! シルトの足に巻きつき、もう一本は首へと絡みつくように伸びていた。
「ふん、こっちはこやつを殺せば仕事は終わり……少々残念だが、この世界を終わりにさせてもらうか」
勝ち誇ったように笑う偽国王だが、俺は構わず前進して斬りかかる! すかさずフィリアも魔法をぶっぱなしていた。
「ふん!」
「メガフレイム!」
「ぎゃあああ!? お、お前等こいつの命が惜しくないのか!?」
無防備な胴体をばっさり斬り、血を噴出させ、メガフレイムでその傷を焼いていた。正直、グロい。だが、シルトの拘束は解けていないようだった。
「こんな無防備な状態で何を言ってるんだ? お前が死ぬのが先か、シルトが死ぬのが先か勝負だ!」
「い、いや、僕は承諾してないけどね……? まあチャンスだし……やってくれ! ぐあ……!」
「任せろ!」
首を絞められながらも抵抗を続けるシルト。速攻をかけるてザクザクと斬りまくっていると、何本か触手がこちらへ飛んでくる。だが、シルトの方に意識を向けているせいか、残りの触手の動きはかなり鈍く、俺一人でも対抗するのは難しくない。
「ぐ……ふざけたヤツだが力は本物か……!? はあああ!」
「レベルも上がってるからな! くらえ『剣気一閃』!」
触手をかわしながら俺の技が偽国王の顔面を斬り裂くと、後ずさりしながら悲鳴を上げた。
「さすが陽ね」
「かっこいいです!」
「ひぎゃあああ!? くそ……異世界の勇者め、でたらめな強さをしておるわ……ではこれならどうだ!」
「む!」
しゅるる……と、触手を伸ばしてきたので身構えると、俺を通り越して後ろへと伸びて行った!
「綾香! フィリア!」
狙いは二人か!? エロ爺の考えそうなことだと俺が叫ぶと、綾香の威勢のいい声が聞こえてきた。
「甘いわね!」
流石は綾香、剣で叩き斬って追い返していた。だが、問題は……
「きゃあ!?」
こちらも案の定といえばそうか……あっさりとぐるぐる巻きにされて偽国王の元へと引き寄せられた。そしてシルトを拘束していた触手も外しフィリアを締め上げる。
「う、うう……」
「力を使い過ぎた……ここは見逃してやる。国王はこの地下のどこかに居るから探してみることだな。シルトを殺し損ねたのは残念だが、貴様等もこのワシを倒さねばこの世界から帰還することはできんということを忘れる……おい、聞いているのか?」
「はい!」
元気よく返事をしたものの、俺の目はフィリアの胸元に釘付けである。
「ちょっと陽! フィリアを見過ぎじゃない? 言ってくれれば私もフィリアも見せてあげるのに」
「馬鹿言え! いつも隣にいる子がちょっとエッチな格好になっているのがいいんじゃないか! ふう……」
「ぐぬぬ……頭に来た! 力を回復してかならず殺してやる! この娘も次に会う時はワシに心も体も開け渡しているであろう! その時後悔するのはお前達だ!」
「は、陽、さん……わたしに構わずたおして……あう……」
「フィリア!(くっ……まるであの子がヒロインのよう……ミスった……!)陽、どうしよう!」
綾香が腹黒いことを考えている感じでフィリアを心配しているのバレバレだが、俺も本気で凝視していた訳ではない。
<マスター、成功です。>
「お前はここで倒す。それは俺の中で変わらない」
「ふはは……この娘を見殺しにすると? とんだ勇者様だな。一歩でも動けば惜しいがこの娘の心臓を貫く。ワシが消えるまで動かぬようにな……」
こちらを見ながら少しずつ通路の奥へを逃げる偽国王に俺は声をかける。
「さて、今お前はフィリアを捕まえている。触手は四本だな? それを全部使っているがいいのか?」
「何を……?」
と、足を止めたところで、脇から剣が振るわれた。
「ぐあ!? な、何だ……!?」
「僕を放置するとは間抜けにも程がある。ハル君が引きつけてくれていたとはいえ、お粗末だね」
シルトの攻撃でフィリアの拘束が解かれるのを確認し、俺と綾香は一気に駆ける!
「い、いつの間に……お前は苦しんでいたはず……」
「残念だったな、俺の奇行に釘付けになったお前の負けだ! この世界の勇者だぞ、それくらいでやられるものか!」
「あ、自分で奇行っていっちゃうんだ」
俺が剣を振りかぶり、綾香が剣を心臓部へと突きを出す。
「終わりだ……!」
「やあああああ!」
脳天に大剣がざっくり刺さり、綾香のレイピアが心臓を貫いた! まだ倒れない……!?
「ええい、お前だけでも……!」
「何っ!?」
偽国王は触手ではなく、ふところに仕込んでおいたナイフで俺の腹をえぐろうと手を伸ばす。これは刺さるか!? 毒とか塗ってあったらどうしよう! 綾香にヒールをかけてもらえば大丈夫だろうけど、痛いだろうな……。そんなことを考えていると、大剣からローラの声が響き光り出した。
<マスター! 防御機構、トランスフォーメーション!>
「眩しいっ」
ガキン!
光りで前が見えなくなったと同時に、俺の前で固い金属音が聞こえてきた。ゆっくりと目を開けてみると、大剣が変形して盾になってナイフを抑えていた。
「ぐ……おのれぇぇ……! こ、ここまでか……だが、ワシは死んだわけではないぞ、あの世へ帰るだけだ! 主の世界で……」
「うるさいわね」
「ぎゃああああ! ああああ……お、覚えておれよ……!!」
綾香が面倒くさそうにグリっと、心臓に刺さったレイピアを捻り、それがとどめとなり、キラキラと光りの粒子を撒き散らしながら消えて行った。
「……エグいな……うおっと!」
「ハルさぁぁぁん! 怖かったですよぉ! (チラっ、ニヤリ)」
「おー、良かったな手籠めにされないで」
「騙されちゃダメよ! この子まるで怯んでいなかったわ」
「おいおい、もしかしたら攫われていたかもしれないんだぞ? もう大丈夫だ」
「はい!」
「ぐぬぬ……」
俺達が労いあっていると、シルトがこちらに来て声をかけてきた。
「何とか倒せて良かった。正直、危なかったよ意識が飛びかけた……でもこれでこの世界は助かるんだね?」
シルトがやれやれと言った感じでため息を吐き、俺達に言う。
「悪い、気を引くのに時間がかかった。でも恐らく大ボスはあいつだったはずだ、国王を探しに行こう」
シルトが頷くと、綾香が思い出したように声をあげた。
「あ!」
「どうした?」
「そういや、さっきのヤツ名乗らなかったわ」
確かに……中ボスですら名乗ったのに……まあ、今更だし、ヤツの口ぶりだとまた会う気がする。今はこの世界が助かったことを喜ぼう、そう思った。
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