上 下
45 / 48
ラストケース:全ての決着

5. お気楽女神

しおりを挟む

 あの光はマズイ。

 そう思った俺は風呂敷の中身である黒い箱に覆いかぶさった。

 予想は当たっていたようで、この世界に産まれてから感じたことの無かった『痛み』を体に受けた。

 「あなた!? あなた!」

 「クリスーーー!」

 「クリス様っ!?」

 嫁達が俺に声をかけてくる声が聞こえてきた。ああ……心配するな、俺は死なないんだ……これくらいどうってことは、ない。いつものことじゃないか。

 「ヒュー……ヒュー……」

 おかしいな……声が出ない……。

 俺はごろんと仰向けになって痛みを感じるお腹のあたりに目をやると、そこはぽっかりとあなが開いたようにえぐり取られていた。

 「――……――……!」

 セルナ達が何か言っているようだけどもう何も聞こえない……眠い……この感覚は……覚えているな……徹夜して倒れた時に、似て、いる……。

 

 その時、俺は死んだのだということに思い至った。




 ◆ ◇ ◆



 <あの世>


 <主任、現地は大丈夫でしょうか>

 <あの一帯は吹き飛ぶかもしれんが、それ以外は問題あるまい。まあ一緒に居た現地人には悪いとは思うがな>

 主任と呼ばれた男が廊下を歩きながら事務室へと戻って行く。

 オルコスは拘束され、すでに移送が完了しており、後は尋問と刑罰を行うだけとなっていた。とはいえ、ほぼ証拠は固まり、状況証拠も先程手に入れたので消滅は免れない。

 
 <しかしあの男、よくもまあこれだけのポイントを稼ぎましたね>

 <ああ。まさか完全な記憶を残したまま異世界へ送り込むとは……>

 <ハイジアを含めて、何やらスライドショーを見せて異世界に興味を持たせる、ということも行っていたようで、何人か関与の疑いがありますが……>

 <もはや今更だろう。オルコスを主犯として見せしめで消す。それで効果はあるだろう>

 デスクで頬杖をつきながらため息を吐く主任は考える。

 ポイント制度は別に昨日今日始まった制度ではなく、異世界に送った後でふとした切っ掛けで思い出す発明に対して付与されるものだが、基本的には通常業務で増やしていくのが当たり前なのだ。ただ、異世界の発展に貢献した場合の上り幅は大きいのでオルコスはそちらを重要視し、異世界人の記憶を持たせたまま送ったのだろうと推測した。

 <大人の記憶をもったまま赤子になるなど不幸でしかないがな……>

 それは、利用されたクリスのことだが、同時にその記憶のせいで死ぬことになったことも示していた。

 <オルコスの審判は明日行うと伝えてくれ>

 <かしこまりました。では自分はこれで>

 <ああ、ご苦労だった>

 部下を下がらせながら目を瞑る主任。考えることはオルコスのことだが……。

 <(あのずる賢さを他に活かせないものか……上級神を出し抜く胆力といい、うまく使えば……)> 



 ◆ ◇ ◆



 「ハッ!?」


 『おや、目が覚めたみたいね』

 俺が目を次に目を覚ました時、そこは真っ白い空間だった。

 『調子はどう? 痛いところとかない?』

 セミロングの赤い髪に、白い布のような服をまとった女の子が俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

 顔はいわゆるかわいい系の顔立ちだが胸は残念だった。

 「……ここはあの世か?」

 『おっと、正解よ! 正解者には賞品として私の世界へ転生することになりますー!」

 どこから出したのかラッパをプープー吹きながら俺の肩を叩く、が、すぐに真顔に戻り話し出す。

 『……という茶番はここまでにして、ここの世界を知っているのは分かっていたの。本来なら通常の二級業務神に送られるからね。私は特別な事情がある人しかこの部屋に招かないの』

 「特別……? あのメロディから貰った箱のせいで死んだんじゃ……あ! そうだ、セルナ達は無事なのか!」

 『そこは貴方が身を挺して守ったから大丈夫よ』

 ピッっとリモコンのようなものを使って壁に映像を出すと、泣きじゃくる三人の姿が目に移った。

 「……ここに来たから分かっていたけど、やっぱり死んだんだな……」

 『ええ。本来、あの贈り物は無害……というよりも発展に貢献できる機械技術が詰まった箱だったんだけど、ウチの特捜神がマイクロブラックホールに組み換えたの」

 な!?

 「マイクロブラックホールだと!? どうしてそんなものを!」

 『そこは後でね。で、本来ならあの一帯をすべて吹き飛ばして、貴方……クリスさんとセルナさんを消滅させるつもりだったのよ。クリスさんの身体が丈夫だったおかげで収縮したブラックホールが成長しきれずクリスさんのお腹を抉る程度済んだってわけ』

 一応、俺の身体は仕事をしていたのか……というかブラックホールを抑え込むとかやばいな。だが、おかげでセルナ達を守るこができたのは僥倖だったといえるか。

 「しかし、何でまた俺達が殺されなきゃならんのだ?」

 『それはね――』

 赤い髪の女の子は語る。

 色々はしょった結論を言うと。

 「オルコスのアホがぁぁぁぁぁ! やっぱりアイツが逐一話しかけてくるのはおかしかったんだな」

 『そうね。記憶を持ったまま送っても問題ないケースはあるんだけどね、さっき少しだけ言ったけど自分の作った世界に送り込むのはいいのよ。ほぼそのまま送り込むことになるから赤ちゃんからスタートすることも無い。だけどオルコスは二級神で自分の世界は無いから違法ってやつなの。で、内通者の存在からオルコスの行いが明るみになったのよ。そのとばっちりを受けたのは申し訳ないわ、主任も相談なしでいきなりやっちゃうから、慌てて魂をここに引き寄せたのよ』

 どこに送られても死んだことに変わりはないと思うんだが。それはそうと、オルコスはもうすでに檻のなからしい。

 「むう……となると、あの馬鹿を殴ることはもうできないのか……」

 『まあ、通常なら無理ね』

 「やっぱそうだよな。くそ! 死に損かよ! ……ん? ちょっと待て今何て言った?」

 『通常なら、無理。そう言ったのよ』

 「……あいつを殴る手段があるってのか?」

 すると、赤い髪の女神はニヤリと笑って俺に告げる。

 『勿論よ。久々に面白いことになりそうね。私に任せておきなさい!』

 凄く不安になる笑顔と高笑いを聞きながら、楽しんでいるようなことを言うお気楽なこいつに少しだけイラついていた。だが、このまま死んでしまうのも納得がいかない……この女神が何を企んでいるのか分からないが、ひとまず協力することにした。

 ……壁のスクリーンを見ると、まだ三人は泣いていた。

 あれほど死にたいと思っていたのに、いざ死んでしまうととても寂しく感じる。幸せってのは長続きしないんだな……。





 ---------------------------------------------------



 あの世へと再び送られたクリスは謎の女神の言葉と共にオルコスの元へと向かうことになる。

 クリスの運命はいかに? そして現地のクリスの身体は火葬できるのか?


 そして赤い髪の女神の目的とは?


 次回『フリーパス』


 ご期待ください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

転生したら倉庫キャラ♀でした。

ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。 ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。 どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。 死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。   「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」 鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。 加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。 ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。 道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。 今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。

処理中です...