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ケース3: 結婚
11. クリス、怒りの沸点を越える
しおりを挟むグシャ! バキ! ドカ! シャキン……!
「ば、ばかな……二十人のゴロツキを……さ、三分も立たずに……ば、化け物か……!?」
マーチェスが剣を納め、シャルロッテが最後の相手を蹴り飛ばした後、残された男が冷や汗をかきながら呟く。それを聞いたシャルロッテが男に近づき胸ぐらを掴んで睨みつける。
「あなたはメッセンジャーボーイとして生かしておいたわ。帰ったらあなたの主に伝えなさい『次はお前が死ぬ番だと』ね」
「ひ、ひぃ!? ……い、息をしていない……こ、こいつも……う、うわああああ!?」
放り投げられた男が倒れているゴロツキが息をしていないことに気づき、恐怖の雄叫びを上げながら宿を飛び出し逃げ去って行った。
「しょーもない男ね……ふん!」
床を足で叩きつけると、衝撃波が床に伝わりゴロツキ達の体が一瞬浮いた。そして直後、咳き込む声や呻き声が次々と聞こえてくる。
「ひっく……お見事、腕……足は衰えていないようだね」
「まさか! 寝起きとはいえパパと二人でこんなのに、こんな時間かけちゃったのよ? ダメダメよ。宿屋で人死にも嫌だから手加減はしたけど」
「ふふ、子供が出来てからめっきり戦わなくなったもんね、ママは」
「あなたの剣はデュークが継いだけど、私の技は継いでほしくない……というか、折角貴族に産まれたんだから、やっぱりいい学校に行ってもっといい仕事について欲しいからね」
「そうかい? 武王の技なら継承に値すると思うけどね?」
「嫌よ……でも、みんなその素質はあるのよね……」
「ま、今はその話は無しにしよう。あー、親父さん、申し訳ないが警備団、呼んでもらえますかな?」
「は、はいぃ! ぐあ!?」
机の下で様子を伺っていた親父さんがガタンと慌てて立ち上がり頭を打ち、そのまま外へと走って行った。
「さて、その間に縛っておこうか……ロープ……ロープ……と」
「あーあ、寝間着が破れちゃったわ……こんなところアモルやウェイクにはみせられないわね……」
いそいそとゴロツキを縛って行く二人。そんな光景を階段の上から見ていた影があった。
「み、見てしまいましたわ……」
「み、みちゃった……母上、あんなに強かったの……?」
「ううう……」
「アモル?」
「素晴らしいですわ! あの技……あれさえあればお兄様に近づく女を一蹴できる……!」
「ちょ!? 何言ってるのさ!?」
「うふ、うふふ……」
トリップしたアモルにウェイクの言葉は届かなかった。
さて、その頃セルナを助けに行ったクリスは……
◆ ◇ ◆
「一階だったな!」
俺はホテルに駆けこむと、ロビーを抜けて奥を目指す。そこに、受付嬢が俺を止めるため声をかけてきた。
「あの、お客様……お外に出る際には鍵を預けているはずですが……」
「俺は宿泊客じゃない、あんたのとこの支配人を探している」
「支配人を……? それでしたら少々お待ちを……」
「待っている暇はない! 場所は分かっている、行かせてもらうぞ! クロミア行くぞ」
「合点じゃ!」
「あ、待ちなさい! 誰か! 誰かー!」
受付嬢が叫ぶと同時に警報のようなものが鳴り響く。チッ、割と冷静な人間を雇ってんな! だが、セルナさんを助ければ後は何とでもなる!
「くそ、見た目通りとはいえ広いな……」
「む、待てクリス」
きゃぁぁぁ!
「セルナさんの声だ! 近いぞ!」
声のする方へ走っていくと、声がどんどん大きくなっていく。怒声と悲鳴が入り混じった声がする部屋を俺は開け放った!
が、ダメ! 当然だが鍵がかかっていた!
「ぬおおお!?」
「(な、なんだ!?)」
中からあのハゲの焦る声が聞こえる。しかし……扉が……あか、ない……。
「クリス、わらわがやるのじゃ!」
「た、頼む……」
クロミアが扉に手をかけて一気に引っ張るといともたやすく扉が引きはがされただの板切れと化した。ううむ、流石はドラゴン……人型でもその脅威は変わらない……。
「無事かセルナさ……」
「ク、クリスさん……!」
そこには上半身が露わになり、ベッドに組み伏せられたセルナさんが泣きながらこちらを見て呟いた。驚いた顔でこちらをみるハゲことヨード。その光景を見て俺は……。
ぷちん
俺の中で何かがキレた。
もちろんセルナさんは覚悟の上でここまで来た。だが、それはこの男に騙されたことが原因だ、セルナさんがこんな目にあっていいはずがない!
「なななな、何だお前は……ハッ!? あの時の貴族! ええい、サイゴは、ゴロツキどもは何をしている!?」
「ゴロツキ? 他にも何か企んでいたのか? セルナさんを離せ、借金の金貨二百枚はここにある」
金貨の入った皮袋を床に投げつけると、ヨードはすぐに皮袋に飛びついた。
「……た、確かに二百枚……ふ、ククク……こうも簡単に渡すとは、甘い……貴族というのは本当にアホですねぇ!」
「まったくだ。頭が茹で上がっているのは分かるが、早計すぎるぜ坊ちゃん」
俺の首筋にナイフを押しあて、男がぼそりと呟いた。いつの間に……! 俺が暴れて振りほどこうとしたところで、ヨードに動きがあった。
「お、おお、サイゴ! いい所にこの男と幼女を始末しろ! 幼女は殺さなくても構わん、奴隷にでも売ればいい金になる! お前はこっちに来るんだ……!」
「いや!? クリスさん! クリスさんー!」
「隠し扉!? くそ!」
「おっと……ナイフを見てもびびらねぇのか、肝は強いな坊ちゃん」
「やかましい! 邪魔するなら叩きのめすぞ、クロミアが!」
「わらわ!?」
「ふ、はっは! はははは! 坊ちゃんおもしれぇな! ……行きな、まだ間に合うだろ」
「……? どういうつもりだ?」
「どうもこうもねぇ、そのままだ。あの嬢ちゃんがこのままだと忍びない……それだけだ。俺は理不尽なことが嫌いでね。こんな商売をしちゃいるが、スジは通さないといけないと思っている」
「……仕事がなくなるかもしれないぞ」
「俺の心配している場合か、早くいけ!」
「チッ、礼は言わないぞ!」
「急ぐのじゃ!」
俺は隠し扉をくぐって後を追う。すぐに屋外へ通じる扉があり、外へ出ると、未完成の建物が目に入る。明かりが点いている所を見ると、禿はここに逃げ込んだに違いない。
今度は逃がすまいと、入り口からそっと様子を伺うと、やはり、居た。
「くっく……あなたが手に入り、金貨もGET! 笑いが止まりませんね!」
「最低ですね……! 関係の無い人を巻き込んで……!」
「何とでも言いなさい……あなたも飽きたら奴隷商人にでも売りますかね、証拠はできるだけ始末しておいた方がいいですし……今頃あなたの宿もめちゃくちゃ……手を下したゴロツキも始末する予定ですし」
「……このクズ……!」
「あの貴族の男もサイゴに殺されるでしょう、あなたと関わったばかりに可哀相に。さ、これで邪魔者は居なくなりました。お楽しみと行きましょう」
なるほど、ゴロツキ達も社会的にではなく、確実にこの世から消すつもりだったのか。まあそんなヤツはどうでもいいがこの男は俺を怒らせた。
「行くか、クリス」
「当然だ」
クロミアの言葉に俺は手近にあった角材を拾い、肩に担いだ。
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ヨードの手からセルナを取り戻す為、建設中の建物で最後の決戦に挑むクリス。
また、母の真の姿を見たアモルが目指すものは?
そして、ヨードは生き残る事ができるか?
次回『撲殺』
ご期待ください。
※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
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