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ケース3: 結婚

9. セルナ失踪

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 「いやあ美味かった……異世界で刺身が食えるのは本当にありがたい。後は日本酒でもあれば……」

 宴会は大盛り上がりの上終了した。見かけはボロいけど、内装はセルナさんがしっかり掃除をしているので、父さんも母さんも大満足のようで何より。
 最初はどうなることかと思ったけど、めでたしめでた……

 「じゃないよ!? 俺、火山にも行けてないし、セルナさんの事も解決してないから!?」

 ベッドで寝転がっていた俺は慌てて起き上がり支度をする。酒を飲んで気持ちよくなっていたが、一瞬で頭が冷えた。
 隣では父さんとウェイクがすでに寝息を立てていた。すると、ドアをノックする音が聞こえ、俺を呼ぶ声がする。

 「クリスーまだ起きとるかー?」

 クロミアだった。鍵を開けると、わっと抱きついて来た。

 「おう!? どうした、こんな時間に」

 「もうみんな寝てしまってのう。そっちは……やっぱり寝ておるのか」

 「ああ、ちょっと俺は出てくる。すまんが相手をしている暇はないんだ」

 「どこへ行くのじゃ?」

 俺はクロミアへカクカクシカジカし、セルナさんと話をするため部屋へ向かうと告げる。

 「夜這いか。わらわにはしてくれないのに」

 「今の話聞いてた!? まあいい、お前も行くか?」

 「うむ、今後の参考にぜひ」

 何のこっちゃと思いながら、俺は宿を歩く。俺達以外に宿泊客は居ないのでものすごく静かだ。ロビーを歩いていると、親父さんに出くわした。

 「おや、こんな時間にどうされました?」

 「ああ、いえ……」

 お宅の娘さんに話がある、と言ったらどう反応するだろうか? 夜更けに部屋へ行こうとしている、イコール如何わしい事と思われても仕方がない。が、ここで嘘をついても仕方がないので正直に言った。

 「ええい! 親父さん、セルナさんとお話がしたいんですけどいいですか? 困っているようでしたので詳しい話を聞きたいと思って……」

 すると親父さんが涙を流しながら俺に言ってきた。

 「ありがたい事です、貴族様に気にかけてもらって……でも、もう……」

 「もう? もうって何ですか? セルナさんは部屋にいるんですよね?」

 黙ったまま首を振り、セルナさんはあの成金野郎の所へ話をつけに行くということだった。親父さんが行かなかったのは、セルナさんが嫁に行けば借金を帳消しにしてくれるからもう来なくていいと言われたからだそうだ。

 「馬鹿な!? だったらどうして俺に話したんだ! 親父さん、借金っていくらくらいなんだ?」

 「あ、ああ……金貨で二百枚……」

 「証文は!」

 「ちょ、ちょっと待っててください……」

 「クロミア、俺の荷物を持ってきてくれ」

 「わ、分かったのだ」

 俺の剣幕に驚いたのか、親父さんとクロミアは慌てて部屋へと戻る。しばらくしてから親父さんが戻ってきた。

 「こ、これです」

 ざっと目を通すと確かに印はあり、間違いなく借用書だった。しかし、俺は気になる事を親父さんに尋ねた。

 「この借金ってどうしてできたんだ? 金貨二百枚なら相当だ、この宿がもう一件建ってもお釣りがくる」

 「私の妻が亡くなった時に、葬式の資金とこれから頑張って二人でやって行こうと思い、宿をキレイにするためにですね……ですがその後から客足がどんどん遠のいてしまい今では月の返済も難しい……お恥ずかし限りで……ですが、自分が嫁に出れば無しにしてくれるからと、セルナが……」

 なるほど、こうなる事を見越して貸したと考えるのが妥当か。見たところ金利は問題ない。この領地の領主は公平だと聞いているから恐らく訴えられたときに回避するためだろう。そうなると、後は払えなくしてしまえば少なくともセルナさんは手に入る……でも恐らくは……

 「も、持ってきたのじゃ!」

 「助かる! なあ、親父さん。あの成金に娘を差し出すのは容認できるのかい?」

 「……セルナの幸せを考えるなら……あの男には……ゴロツキを雇って色々やっていると黒い噂もある……できれば好きな男と結婚させてやりたい……!」

 「そうか。俺はあの子を助けたい。そしてここに金貨二百枚ある。俺から借金するつもりは無いか? なあに、悪いようにはしないさ」

 「! ……そ、そんな私達のような平民に……いえ、あの男に差し出すくらいなら……お願いします」

 「交渉成立だ、行くぞクロミア!」

 「何かよく分からんが分かったぞ!」

 「わ、私も……」

 「親父さんはここに居てくれ、ウチの両親が起きたらうまくごまかしてくれると助かる!」


 それだけ言って俺とクロミアは外へ飛び出す。するとそこに何とフィアが立っていた。

 「おわ!? びっくりした!? どうしたフィア、こんな時間に」

 「あた!? 急に止まると危ないじゃろ……あれ? フィアじゃ」

 怒っているのか、泣いているのか、そんな顔をしたフィアが俺をじっと見つめる。こんな感情が出た表情を見るのは初めてだった。
 だが時間が無い、走り出そうとしたところでフィアが口を開いた。

 「……どこへ行くのですか? あの娘の所でしょうか……? あの娘は自分で決めて行ったのですよ、クリス様が口を出すのはおかしいのではありませんか? それとも……クリス様と同じ転生者だから、あの娘に肩入れをするのですか? あの娘が好きなのですか?」

 一気に捲し立てるように喋るフィア、ま、まさか……そんな、フィアが……俺はごくりと唾を飲みこみ、冷や汗が出るのを隠せないでいた。横にいるクロミアも冷や汗をかき、震えている。恐らく考えている事は同じだと思う。そして同時に口を開いた。

 「「フィアが一行以上喋ったぁぁぁぁぁ!?」」



 ---------------------------------------------------


 <あの世>


 <まったくハイジアはどこへ……おっと、そういえば最近クリスさんの様子を見ていませんでしたね。そろそろあの娘とくっついている頃でしょうか? 先にあの娘を見てみましょうか……>

 オルコスはハイジアのパスワードを使い、セルナの様子を映すモニターを勝手に使い始めた。温泉、美少女、転生者とくれば心が動かないはずはない……ほくそ笑むオルコスだが、映し出された場面をみて目が飛び出た。



 「やあやあ、ようこそいらっしゃいました! こんな時間にどういったご用件で?」

 「……借金を帳消しにしてもらいに来ました。私はあなたと結婚します、だから……」

 「ふ、ふふふ……そうですか、やっとその気になりましたか! それではこちらへ……」

 「待って! その前にあなたの持っている借用書を出して廃棄して。そうじゃなきゃ私は……」

 セルナが詰め寄ろうとしたところで後ろから羽交い絞めにされた。それは宿を見張っていたサイゴだった。

 「すまんね、これも仕事なんでな」

 「では、連れて行ってください」

 「だ、騙したの!」

 「大丈夫……ちゃんとチャラにしますよ、まああなたのお父さんには気の毒ですが……」

 「どういうこと……?」

 するとさも可笑しそうにヨードは笑い始める。

 「貴女がここまで来てくれたおかげで計画は早まりました。借金は確かに頂きません、が、あの宿を売ってお金にさせてもらいますよ。そろそろ誘拐でもしてここに連れて来ようと思っていましたから好都合でした」

 「お父さん……お父さんはどうするの!?」

 「そうですね……行方不明になる、というのはどうですか? あははははは! もうゴロツキを数人向かわせてますからご安心を……あの貴族もお金をもってそうでしたし、脅せばいいお金になりそうです」

 「う、ぐ……外道め……! 離して! う……」

 「……おい、親父の宿を襲撃するのは聞いてねぇぞ」

 セルナを気絶させたサイゴがヨードに問うと、まだ笑っているヨードがピタっと止まり返す。

 「貴方は黙って私に従っていればいいんですよ。冒険者崩れが意見しようなどおこがましい……さ、彼女を寝室へ運んでください、既成事実を作っておきましょうかね」

 「……」

 サイゴは無言でセルナを背負い歩き出す。

 「(親父さんのために来たってのに残酷なもんだ……俺は……)」


 <あれ!? ちょっとどうなってるんです!? 結婚どころか誘拐されてますけど!? クリスさん、クリスさーーーん!>

 一部始終を見て焦るオルコス。

 酒など飲んでおらず、クリスとセルナの様子をモニターしていれば回避できた事柄だけにオルコスの罪は重い。普段くだらない事でスイッチを使うのに、こういう時に役に立たないのであった。

 
 ---------------------------------------------------


 三行も喋ったフィアに戦慄するクリスとクロミア。

 その問いにクリスはどう答えるのか?

 そしてやはり外道であったヨードに誘拐されたセルナの運命は?

 次回『クリスの襲撃』

 ご期待ください。

 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
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