死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
33 / 48
ケース3: 結婚

7. 家族会議と成金野郎

しおりを挟む


 <宿:二階 女性部屋>


 「……もう一度言ってくれる?」

 「クリス様……異世界からの転生者、火山で自殺しようとしています……」

 「フィアがこんなに長い言葉を……!?」

 クリスの母、シャルロッテがフィアの言う事を理解できず、もう一度聞き返す。アモルはフィアが単語以外で喋っている所を初めて見て驚きの声を上げていた。そしてベッドでは……。

 「(あれ!? フィアにばれておるぞクリス!? どどどどうするんじゃ……)」

 昼寝をしていたクロミアが丁度目を覚ました時、フィアの言葉が聞こえ、慌てて寝たフリをした。音を立てないようにしつつ、聞き耳を立てる。

 「ふう……パパとウェイクを呼んでくるわ。少し待ってて」

 シャルロッテは重い腰を上げ、マーチェスとウェイクを呼びに部屋から出る。隣なのですぐに二人を連れて戻ってきた。シャルロッテからフィアから聞いた事を二人にも告げ、一家の空気は重くなる。

 「……どうするか……」

 「まさかクリスが……」

 異世界からの転生者など怖いに違いない……しかし隠しておく事はできなかった……フィアは目を伏せて悲しそうな顔をする。

 「自殺を考えているなんて……」

 「ええ、私達、何かあの子にしたかしら……」

 「え!?」

 え、そっち!? と、フィアはバッと顔を上げて驚く。普段は感情が表に出ないフィアだが、この時ばかりは驚いていた。

 「奥様……(ちょ、ちょっと!? 転生者ですよ転生者! 何かこう、変だなとか怖いとか気持ち悪いとかないんですか!?)」

 「え? あの子は間違いなく私が産んだ子よ? もしかしたら前世の記憶は持ってるかもしれないけど、クリスはクリスよ。逆にあれだけ研究できる理由が分かったからすっきりしたくらいね」

 「うむ。クリスが誕生して16年。転生者も前例が無いわけではないしな。まあちょっと開発が行き過ぎな気はするが、前世の事を話すわけでもないし、私達を家族と認識しているから大丈夫さ。血は繋がってるし」

 「旦那様……(マジですかーい! 優しい! 優しすぎるよこの一家!? でもまあ言われて見ればクリス様はクリス様なんですよね。あ、今なんか納得できた気がします)」

 ルーベイン家の空気は緩い。フィアも感化され、転生者という事象はあっという間に流された。

 「転生者とかクリス兄さんますます凄いなあ……」

 キラキラした目でここには居ない兄を思うウェイクしかし、アモルの言葉で再び空気は重くなった。

 「それはもういいですけど、お兄様の自殺願望はどうしますの?」

 「それだな……どうするか……」

 うーむと全員で考え込むがいい知恵は浮かばない。こういう時意見を出すのはいつもクリスだった。だが、今回はそのクリスが当事者なのだ。するとウェイクが口を開いた。

 「みんなで遠まわしに探るしかないと思うな。デューク兄さんなら得意そうなんだけど……」

 「それしかないか。よし、いつもクリスには色々やってもらっているから旅行中は労うとしよう! いいなみんな」

 父、マーチェスの言葉に頷く家族一同。クリスにとって少しだけ長い夜が始まる……。

 「(この家の家族はみんな優しいのう……わらわも入り浸っておるのに文句一つ言われた事が無い……何かお返しをせねばならんのう)」

 


 ---------------------------------------------------


 <ホテル:アプスタート>



 「……来ない……まさかセルナの宿に行った……? そういえばあの貴族一行の先導者は若い男だったな。セルナを狙って行ったと考えるが自然か。いや、でも家族が承諾するか?」

 ヨードは支配人の部屋で先程出会った家族を思い返していた。貴族といえば見栄を張るのが一般的。なのでボロい宿を選ぶのはお金の無い平民が殆どなのだ。

 「別の宿に行った可能性もあるが、あの男がセルナを狙っているとすればうまくないな」

 そう呟くとイスから立ち上がり、使用人が集まる部屋へと向かう。

 「入るぞ」

 ノックもせず中へと入るヨード。

 「へっへ、俺の勝ちだ。もらうぞ」

 「ちぇ! またサイゴの一人勝ちかよ! イカサマやってるんじゃねぇだろうな?」

 部屋では四人の男達がカードゲームに興じており、サイゴと呼ばれた男がヨードに向き直り、挨拶をしていた。

 「ヨードさん、どうしたんですかこんなむさくるしい所へ?」

 「ちょっと頼みたい事があってな……」

 するとサイゴは口元を歪めながら目を細める。この男、金についての匂いが利き、儲け話や賭け事で「マズイ」と直感が働くのだ。それが今は「いい方」に向いていると告げていた。

 「荒事ですかい? 殺し以外ならやりますが……」

 「そうだな……俺が狙っている女の宿、パーチを調べてきてくれ。貴族が泊まっているかどうか、もし止まっているなら男が一人いる。そいつの動向を探ってくれ」

 「お安い御用でさ。女はセルナでしたか、?」

 「……お前に任せる。いけそうなら……攫え」

 「へへ……お代は弾んでもらいますよ」

 いやらしい笑いを浮かべてサイゴは部屋から出て行った。

 「(さて、それはそれとしてもう一つ策を張っておくか……)」

 
 ---------------------------------------------------


 ついに転生者だと家族にばれたクリス。

 しかし、それよりも家族はクリスの真意を確かめるべく行動に出る。

 そして、今回登場しなかったクリスとオルコスは今?


 次回『不穏な空気』


 ご期待ください。

 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

西野歌夏
ファンタジー
天敵はガッシュクロース公爵夫人。だけど、後半になるまでほとんと登場しません……。 主人公は23歳のものすごく貧乏な女子で、ガッシュクロース公爵夫人に執拗に狙われています。上司の命令で王子に会いに行くところから物語がスタートします。 基本的にはシンデレラストーリーにしています。 好きなのに、嫌いなフリをしてしまう沙織と、クーデーターを起こされる危機と常に背中合わせの王子の『恋と冒険の物語』を基軸として、思うようにならない状況が続きます。 ガッシュクロース公爵夫人:23歳の沙織が命を狙われたことになった因縁の相手。真麻、サテン、シルク、彼女は思うがままに高級な素材を駆使してファッションをリードしていた。1512年の公爵夫人。 ※完成した作品のパラレルワールドのアナザーラインを書いてます。キャラ設定など微妙に違います。気軽にお読みくださればと思います。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

処理中です...