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ケース1:海

6. 浜辺の思い出作り

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 さて、アシカを助けた俺。その助けた対象に背中へ乗れと急かされている状況である。

 ここで俺が選んだ選択とは!!


 「そおおおおおい!!」

 「アウゥゥゥ!?」


 ザッパーーーン!

 俺はおもむろにアシカを担ぎ上げ、海へと放り込んだ。
 命の恩人だと思っていた人間にこんなことをされるとは思うまい、これで俺を案内しようなどとは考えないだろう。

 すると、海にアシカの頭ひょこっと出てきて俺を見ていた。少し悲しそうな顔に見えたのは自惚れだったろうか?
 トプンと顔が海の中に入り、それから出てくることは無かった。

 これでいい、あまり変なルートを通ると計画がおかしくなる可能性が高い。堅実に……確実に死なねばならんのだから。

 「戻るか」

 俺は家族の居るビーチを目指していた。




 ---------------------------------------------------

 しばらくキョロキョロしていると、ウチの家族をようやく発見した。
 母さん……あの水着買ったんだ……。目立つな。

 そして一番最初に気付き、声をかけてくるのはアモルだった。



 「あ! 兄様ー! ってワカメがめちゃくちゃ足にまとわりついてますわよ!?」

 アモルに言われて気づいたが、アシカを海に投げ入れた時、海の中にワカメがあったのだろう。結構な量が絡みついていた。こっちのビーチとちがってそこまで整備されてなかったしな。

 「クリス兄さん、ちょっと気持ち悪いよ……」

 ウェイクが引き気味に後ずさる。うん、俺も気持ち悪いと思うわ。

 「あらよっ……っと」

 ワカメを剥ぎ取り、砂浜に埋め俺も上着を脱いで水着になる。下見は出来たしやることは決めたからとりあえずそれまでは思い出づくりといそしもう!

 カチッ

 <さっきのアシカに連れて行ってもらわなくて良かったんですか? 金銀財宝があたかもしれないのに>

 「(あたかもの使い方はそうじゃねぇよ。何かこんな海岸にアシカって怪しいだろ? これでいいんだよ)」

 <それじゃ私が面白くないじゃないですか!>

 「やかましいわ! お前を楽しませるために生きてるんじゃねぇんだよ!?」

 じわ……

 あ、やべ。アモルが居たのか!?

 <あーあ、なーかしたー!>

 カチッ

 「ああ、デジャヴ感が凄いが決してアモルに言ったわけじゃないからな?」

 「……はい……」

 ああんもう! 超落ち込んじゃったよ!? そういや買い物に行った時に渡されたやつ、今使うか……?

 「ほら、オイル塗ってやるから」

 「……はい! でもそれだけじゃ……今日は一緒に寝てくださいませんか?」

 うーん、アモルと二人きりは危ないが……まあ疲れてすぐ寝るだろうしいいか。

 「おう、いいぞ。だから機嫌治してくれ、な?」

 「クリスはアモルとウェイクには甘いね」

 「何言ってんだ、兄さんと俺しか居ない時、どれだけ俺を甘やかしてると……」

 「あ、アンジュ! あっちにキレイな貝殻があるよ、行ってみよう!」

 逃げたか……保護者かってくらい俺にべったりだったのをアンジュさんに伝えるチャンスだったんだが……。
 ブラコンとかじゃなくて本当に心配って感じで三歳くらいの時は常に手を繋がれていた気がする。

 「お、クリスも来たのか……体調はどうだ?」

 「今の父さんよりは確実にいいと思うよ」

 「もっと言ってあげて! 母さん何回も言ったのに!」
 父さんは酒の飲み過ぎで顔が真っ赤だ。足元はフラついていて危ない。
 俺は肩を支えてビーチチェアへと寝かせておいた。

 「ああ、大きくなったなあ……頼むから冒険者になるなど危ない事は言わないでくれ……むにゃむにゃ」

 「……」

 「瓶は危ないから回収して……と。私も好きな事はさせてあげたいけど、お金もあるしわざわざ死にに行くような事はさせたくないわね」

 父さんの髪を撫でながら母さんが呟く。うーむ、親孝行作戦は見破られていたか……。
 大事にしてくれているのは分かっているんだけどな……俺が死んだらどれだけ悲しむだろうか。

 兄さんもウェイクもアモルも居るから、寂しくは無いと思うけどね。

 「さて、それじゃ遊ぶか! フィアも来いよ」
 
 俺は母さんの横に仕えていたフィアも連れて行くことにした。二人の面倒を一人で見るよりいいし、フィアも遊びやすいだろう。

 「「はーい!」」

 「かしこまりましたクリス様(あーもー双子を世話するクリス様やさしいいいいい! 私を指名……ここから始まるラブロマンス……なーんてそんな、ねえ?)」

 冷静なメイドが居ると助かる。きちんと準備運動をするところはさすがだと思った。

 んで、波打ち際で水をかけあったり、潜って変な顔をしたりして遊んでいると、フィアがスイカがあると言いだした。
 ほほう、となるとこれしかない。

 「スイカ割り?」

 切って持ってきてもらう予定だったようだが、俺は予定を変更して砂浜にスイカを置く。
 ウェイクが興味深々で聞いてきた。

 「ああ、目隠しをして……お、ちょうどいい所に角材が……これでスイカをぱかーんとやるゲームだ」

 「へえ、面白そう! やるやる!」

 ウェイクに目隠しをして、角材を握らせる。
 身体を回していざスタート!!

 「もっと右ー」

 「ウェイク様、そのまま前へ」

 「ふふ、女の子みたいな顔だけどウェイクも男の子ねー」
 「ぐがー」

 「えい!」

 ボフ

 「あー惜しい!」
 俺が目隠しを取ってスイカの場所を指差すと、笑いながら全然だねーとか言いながらウェイクが手を叩いていた。
 そこにデューク兄さんが帰ってくる。

 「あれ? クリスがまた面白い事考えたのかな? 僕もやっていいかい?」
 角材を剣に見立てているので、剣術が好きな兄さんは食いつきがいい。アンジュと兄さんにルールを説明して、スタートだ!

 「あなた~、左にありますわ!」

 「デュークお兄様、右、右ですわ!」

 声援をもらいながら、ウロウロする兄さん。こういう姿は新鮮で中々面白い。

 「うーん、難しいね! ようし!」

 「?」

 兄さんが角材を腰に当て、いわゆる居合いのような構えを取った。

 「僕の前には人居ない?」

 「あ、ああ。大丈夫だけど……」

 「ありがとう! ”絶・真空波”!」

 角材を振り抜いた瞬間、スイカは真横に切れた!
 そしてそのまま……

 「うわあ!? 海が割れたぞ!? なんだこりゃ!」

 海を割っていた。

 「どうだい? 手ごたえはあったと思うんだけど……」

 「キレイな切断面です、兄さん」

 スイカを持ってきてみせると満足そうに笑ってビーチチェアに戻って行った。
 ウチの兄はすげぇな……。


 ---------------------------------------------------


 そんなこんなで海を堪能し、晩飯⇒風呂のコンボを決めた後、俺は庭で涼んでいた。

 「色々見てたけど、やっぱボートっぽいものは無いなあ。オールを使って沖まで行くのは大変だし……」

 あくまでも事故で死んだように見せたい。なので洗面器で窒息死などは最終手段だ。

 「……作ってみるか、足こぎボート」

 カチッ

 <おおおお! やる気ですねやる気ですね! 微力もお助けできませんけど、見ていますね(はあと)>

 「死ね、クソゴミ野郎」

 <おおっと、これは辛辣。何か嫌な事でもありましたか? どうぞこの私めにぶちまけてください。話すとスッキリすると言いますからね。……で、いつごろ完成なんですか?>

 「お前が居なければ最高なんだけどな! 今から概要を書いて明日職人さんへ持っていく事になるな。まあ五日は羽伸ばしだから、気長にやるわ」

 <……そうですか……>

 「え!? 何なのそのテンションの落ち方!? 作って欲しいんじゃなかったのか!?」

 <ああ、いえ……プライベートの事なので……はい……(給料日前だからボーナスが欲しかったなあ……)>

 「今なんか言ったね?」

 <何のことですかね? それではおやすみなさい~>

 カチッ

 「あ、おい! あいつ何を隠してるんだ……?」


 その夜、アモルは元気だった。興奮状態という奴だ。
 先に寝たらマズイ。本能がそう告げていた。



 ---------------------------------------------------


 
 

 アシカを華麗にスルーしたクリス。

 家族で楽しみ、足こぎボートの制作へと想いを馳せるクリスの前に現れるものとは?

 そしてついに実行される計画。

 「はっはーこれであいつもごぼごぼ……」

 クリスは無事(?)息絶える事ができるのか。


 次回『アシカじゃなかった』

 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。
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