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ケース1:海

2. 親を説得するのに困った時は兄弟にも相談しよう(解決するとは言っていない)

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 「おらあ! 誰がメンタル弱いんだ! ……はあはあ……くそ、死んだら覚えてろよマジで……」

 スイッチは切ったままらしく、自室で怒鳴りつけるがまるで無反応だった。こういう所もムカツク要因の一つだ。このままだときっと禿る。

 「しかしまいったな、ここまで拒否反応を示すとは母さんはともかく、父さんは流れに身を任せて頷くと思ったんだが……」

 また時期が来たら聞いてみよう。あれだ、冒険者は危険じゃない宣伝を書いたパンフレットでも用意するか。

 しかし何とか早めに死にたい……良い方法は無いか……。

 コンコン

 ベッドの上で考え込んでいると、ドアがノックされた。

 「開いてるよー」

 「やあ、クリス。父さんたちに何て言ったんだい? めちゃくちゃ落ち込んでたけど……」

 おや、俺の部屋に来るとは珍しい。
 このめっちゃ優しそうな目をした金髪イケメンは兄のデューク=ルーベイン。21歳である。

 「んー、俺も16になったろ? だから家を出て冒険者になりたいって……」

 そこまで言った所でガクっと膝をつく我が兄。

 「それは困ったことを言ったね……。僕が言うのも何だけど、父さんと母さんは親バカだよ? そんな危険な事を許す訳がないじゃないか」

 とか言うこの兄も相当の兄バカなんだよなあ……。

 俺が6歳、兄さんが10歳の時に、俺は初めて町へ買い物に出かけたんだけど、身なりのいい子供ってのは狙われやすい。この世界はそういうものだってその時に分からされたね。

 ちょっと兄さんと離れた隙に、例によって(?)肩にトゲのついたジャケットを着て、モヒカン頭をした二人組に絡まれて裏路地へ。そしてお決まりの「有り金を置いていけ」と言われたわけだ。

 俺は仕方なく財布を取り出したんだけど、その時に乱暴に盗られ、俺は突き飛ばされて転んだ。

 そこまではまあカツアゲとしてありそうな場面だが、その後が大変だった。
 俺を必死で探していた兄さんが、俺が転んだ場面に出くわし、近くにあった角材でモヒカンをボッコボコにしはじめたからだ。

 「く、くそ! このやろう! あべ!?」「ひ、ひいい! 何だこい……ひで……!?」

 モヒカンは抵抗するがまるで敵わない。
 それもそのはず。10歳で皆伝レベルの腕前を持つ兄さんなので、その辺の不良程度の男達が敵うはずが無い。
 
 いつもは暴力なんて微塵も振るわない人だったから、騒ぎをかけつけて来たみんなが驚いてたよ……。

 「弟がやられて黙って見ているなんて兄としてそんなことは出来なかった」と、質問してきた自警団に向かって真っすぐ目を逸らさず言い切った兄を俺はカッコいいと思った。やりすぎだと怒られていたが。

 普段は優しいけど、いざという時はやはり兄だなと感じたよ。

 カチッ

 「やっぱり難しいかな……」

 「というか何で冒険者なんだい? クリスは発明したお金とかあるし、何なら他にも発明するための資金にして研究者になればいいじゃないか」

 うーむ、まさか「自殺したいから」など、言えない……。

 <そうですよ、お兄さんの言うとおり研究者がいいじゃありませんか! その世界をどんどん発展させてくださいよ、そしたら私の給料も……おおっと、危ない危ない>

 「お前今何て言った!?」

 「ど、どうしたんだい!? ……ああ、例の発作か」

 すいません。

 「そ、そうそう。いきなり悪いね。こればっかりは後回しにするってのが出来ないから……」

 <私に構わず、話を続けてください。何かあれば言いますから>

 「(言わなくていいんだよ! どっか行け!)」

 <はあ、仕方ありませんね……>

 カチッ

 「……ふう」

 「凄い汗だよ? もう休んだ方がいいんじゃないかい?」

 「そうする……。兄さんは?」

 「僕はアンジュと一緒にちょっと出掛けてくるよ。おみやげは期待していいよ」

 アンジュさんは兄さんの妻だ。兄さんは何気に結婚してたりする。

 まあアンジュさんもおっとりしていて母さんっぽいけど、母さんよりさらにゆるくした感じの人だ。

 でもいざという時に強い。

 追いつめられるほど真価を発揮する人だけど、俺からは恐ろしくてこれ以上言えない。

 「気を付けて、とは言え領内最強の兄さんに言う事でもないか……」

 「ははは、クリスに言われたら自信がつくね。それじゃ、ゆっくり休むんだよ」

 はいよっと。片手をあげて見送った。

 恐らく兄さんは両親の放った刺客だ。冒険者にさせまいと牽制を入れてきたな……?

 「ま、今は考えても仕方ないし寝るか」

 スイッチが切れている今の内に寝る事にした。


 ---------------------------------------------------


 カチッ


 「兄さんー」

 「お兄様ー」

 ドアの向こうから声がして、俺は目を覚ます。ありゃ……2時間も寝てたのか……。

 来訪者はいつもの二人だな……頭を掻きながらドアを開けて招き入れてやる。

 「ああ、良かった! 起きていたんですね。呼んでも返事が無かったからてっきり……」

 てっきりなんだ?

 「もう、寝るならわたくしが添い寝しましたのに!」

 やめてくれ。

 この若干黒い二人は双子の兄妹で俺の弟と妹になる。

 ウェイク=ルーベインが弟で、アモル=ルーベインが妹で共に10歳。

 ウェイクはサラサラ金髪(母親似)で、男だけど女の子みたいな顔をしている。

 アモルは金髪ツインテールというテンプレでやはり母さん似(双子だしなあ)
 

 「父上に聞きましたよ! 冒険者になりたいって! いいなあ、僕も冒険者になりたいなあ!」

 「ダメよ! お兄様は私とずっとここで暮らすんだもん!」

 ウェイクは俺が大好きで事あるごとに付いてくることが多かった。
 というより、見た目女の子みたいだから、からかわれることが多くてな、よく助けてたんだけどそれで懐かれたってのはあるな。
 でも、別に気弱って訳じゃないんだ。ある日、やっぱりからかわれているところに遭遇したから助けようとしたんだ。
 その時、俺を馬鹿にする事を相手が言ったらしくて、ウェイクが初めてブチ切れた。

 ……近くになったナイフで長かった髪を切って「僕は男だ! 兄さんまで馬鹿にするなら許さないぞ!」と、もみくちゃになりながらも相手に勝利していた。2年前の話か……懐かしいな。
 いざという時の爆発力は恐らくかなり凄い。我が弟ながら先が楽しみな存在だ。

 アモルは……ヤバイ意味で俺が大好きだ。勘違いじゃなく愛されていると思っていい。
 事あるごとにキスをねだり、夜な夜なベッドへ忍び込んでくるという事案レベルで危ない。

 他の兄妹や両親の前では言動程度におさまっているが、二人きりになると途端に野獣になる。それがアモルだ。
 「お兄様と結婚する」というフレーズ。小さい頃は可愛かったが、今は他の人から聞いたとしても戦慄を覚えるフレーズと化した。

 基本的には常識人でいい子なんだけどねー。俺に対する愛情が振り切っているだけで。
 いざという時は……いや、もういいか……。

 「冒険者なんてすごく男らしい! 兄さん、冒険者になったら僕も連れてってね!」

 「あ、ああ……でも父さんと母さんに止められたんだけどな」

 <ガーン!>

 ウェイクが、ガーンという効果音と共に膝から崩れ落ちて涙を流す。つか、今のガーンは違うだろ!?

 「ふふん、冒険者なんて危険で臭そうな仕事はお兄様には合いませんわ、それよりホットケーキみたいなお菓子はもう作らないんですの?」

 「とりあえずアモルは冒険者に謝ろうな? そうだなー材料があれば考えるけど……」

 <そうそう、そういうのでいいんだ! 妹ちゃんナイスですよ!>

 「ああん!?」

 <ヒイ! 目が合った気がした!?>

 「アモル、女の子がしちゃいけない顔になってるぞ。それじゃあ俺は好きになれないなあ」

 「そ、そんな!? えへへ♪ これでいいですかあ?」

 むしろその変わり身の早さにお兄ちゃんドン引きだよ。

 「ま、それはともかくアモルには悪いがまだ諦めちゃいないんだ。何とかして次のプランを……」

 「あ、そうなんですね。良かったぁー」

 割と早く復活したウェイクがホッと胸を撫で下ろすと、アモルが複雑そうな顔のまま俺にパンフレットを見せてきた。

 「ん? 旅行のパンフか? ……ほう、海か」

 「う、うん。お兄様は忙しいと思うけど、みんなでどうかな? って思って。デュークお兄様が結婚してから家族で出かけてないでしょ?」

 アモルは俺に対することを除けばとてもいい子なのだ。大事だから二回言う。
 海か……釣り、海水浴……あ!

 「そうだな、俺からも父さんと母さんに聞いてみるよ!」

 <一体どうしたんですか? 海なんて珍しい>

 「やかましい! ふふふ、見てろよ……」

 <おー怖い怖い……あ、もうご飯の時間ですか今行きまーす>

 カチッ
 
 「(例の発作かな?)」
 「(例の発作よ、おさまるまで待ちましょう)」

 嫌な気の使われ方だった。

 しかし俺はアモルのおかげでいい事を思いついた。これなら『丈夫な体』の俺でもきっと……!
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