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第九章:ラストバトル
その151:征服ではなく共存の道へ
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「んもう、忙しいったら無いわね」
「まあまあ、結婚式の招待状を作るだけなんですから戦うより楽ですよ」
「……でも、帝国が全滅しているとは思いませんでしたけどね」
――クロウラーとの戦いが終わってから半年。俺達は屋敷へと戻って来ていた。
三人が話すように、現在は俺と三人の結婚式の準備を行っているところ。
しかし、イスラの故郷でもある帝国はゼゼリックが蹂躙したようで無人都市へと変貌していた。
もちろんそこに住んでいた両親も消えてしまい、図らずして天涯孤独となってしまったのだ。仇を討てたことが僥倖だったと思う。
そして帝国の土地は全ての国、もちろん魔族領も含めた代表者同士が協議をした結果、大魔王クロウラーとの戦いで勝利を得た魔族領の一つとして運用することになり、王には俺が推薦されたが断った。
元々、やりたかったことは領地拡張なので、帝国の領地をそっくりそのままもらえたのならその願いは叶ったといっていい。
では誰が王となったかというと――
「あの戦いの時、ぜんっぜん目立てなかったのに……」
「まあ、いいじゃない。150年前の約束、果たしてもらえたしー?」
元人間のロックワイルドとメモリーの二人が夫婦となって統治することになった。
二人は恋人同士で、クロウラーを倒した暁には結婚しようと言っていたらしいのだが、惨敗したのでずっと保留になっていたのだとか。
人間には戻れないが、感覚的に人間に近いため異論はないと各国から任命を受けた。ま、下手に手を出すと自国が滅ぼされる可能性が高いというのもあると思うが。
ちなみにこの話し合いで大いに活躍してくれたのが国王アルバートと聖女の二人で、特に聖女は危ういところを助けられた部分を強調してくれたので、クロウラーの脅威とそれを倒した俺達の功績が優位なものとなった。今度の結婚式でお礼をしておこうと思う。
――そんな感じで色々と事態が収束していく中、俺はやることが無くなってソファで寝転がるだけの存在となってしまった。
「……本当に俺と結婚するのか? イスラは嫌だと言っていたような」
「忘れましたね!」
「いわば現時点の最高戦力のザガムについていかない理由は無いわね。聖女も別に候補が見つかったし、私は自由だもの」
「私は最初からそのつもりです!」
「……そうだったな」
ファムが元気よく拳を握ってウインクするのを見て俺は苦笑する。
思えばメギストス……フェルを倒すために勇者と手を組むという話から、本当の大魔王の討伐、出生の秘密を知ることになるとは思いもよらなかった。
「奥様方、ウェディングドレスの試着をお願いしたいとユースリア様が」
「あ、行きます行きます! ザガムさん、退屈かもしれないですけど、待っててくださいね」
「あれだったらコギーちゃんのところへ行ってみれば? ヴァルカンやキルミスが居るんじゃない?」
「そうだな」
「それじゃちょっと行ってきまーす!」
ヴァルカンは宣言通り、霊王兄妹を連れてコギーのところへ度々遊びに来ている。
見た目の年齢が近いキルミスは特にコギーと仲が良く、イルミスは何故か顔を赤くしてコギーと接していたが、今ならその気持ちは分かるな。
でも多分コギーはヴァルカンが好きだと思う。イルミスが今度巻き返せるか楽しみだな。
「フッ、なるほど、機微の感情に気づく……面白いものだ。さて、少し散歩でもしてくるか――」
◆ ◇ ◆
「うう……ファム、立派になって……ザガムさん、娘をお願いしますぞ」
「もちろんだ、親父殿」
「おめでとうルーンベル、今日から毎日まぐわうのね♪」
「ちょ、聖女様、祝いの席で卑猥なことを言うのやめてください!?」
「両親を呼ぶことも無かったでしょうが、いざ居ないと分かると少し寂しい気もしますね」
「これからは俺達が家族だ。それで我慢してくれ」
「そう、ですね」
「ぴぎゃー」
「ガオオン」
「へえ、火球の花火か、やるじゃないか」
さらに月日が流れ、今日は結婚式。
首に蝶ネクタイを結んだワイバーンと黒竜が空へ火を放ち、それを合図に執り行われる。
「ザガム=アーヴィングはファム、ルーンベル、イスラを――」
「誓おう」
「最後まで言わせてあげなさいよ……」
誓いの言葉と口づけを交わし、ブーケトスをする三人。
それぞれが知り合いの手元へとすいこまれるように収まった。
「ありゃ、わたし?」
「コギーが取った!? ああん! あたし欲しかった! そしてザガム様と……いやん」
「いや、今そのザガムの結婚式だけど……なあ、オグレ」
「カタカタ」
きょとんするコギーにキルミスが怪し気にトリップしているのを見て、イルミスが呆れてスケルトンに問うと、スケルトンがやれやれといったポーズで首を揺らしていた。
「姉さん、ついにルガードとかしら?」
「う、うーん……まだ冒険者をして稼がないと……」
「いいじゃねぇか、冒険者をする夫婦ってのも」
「わたしはルックレス様を追うからね!」
「うふふ、それでしたらお引越しをしないといけないかも?」
もう一つはルガードの彼女、マイラが受け取り困惑していた。
今日の料理を務めていたルックレスが遠くでくしゃみをしていたが、まあ、たまたまだろう。
で、最後のブーケは後ほど式を挙げる予定のメモリーが手にしていた。
「おめでとうザガム、ファムちゃん達もー」
「ありがとうございます、メモリーさん!! お二人の式にも必ず行きますね!」
「ああ。ユランはまだ中に居るのか?」
「はい、とても嬉しいって言ってます! 後で身内だけの集まりの時にお話があるそうですから、お願いしますね」
ロックワイルドとメモリーはファムの言葉に頷きブーケを振る。
「うう……私が取れると思ったのに……」
「あはは、ユースリアさんも結婚したいのね」
「そりゃそうよベル。ザガムが先に結婚するとは思わなかったわ、姉としてショックよ」
「美人ですからすぐに見つかると思いますけどね」
「ありがとイスラちゃん。ま、ザガムがきちんと大きくなってくれたからいいけどね。……クロウラーのことはフェルディナント様に聞いていたから、洗脳か敵に回らないかが心配だったのよ」
ユースリアは最初から魔族だが、殆どフェルの側近みたいな扱いでついていたらしい。姉役としてメモリーでなくユースリアを選んだのは鍛えるまでもなく、出会った時から強かったからだそうだ。
「新居には遊びに行くわよ」
「ええ」
ルーンベルがそう言うとそのまま食事会へ突入。
思い思いに酒を飲み、食べ、ヴァルカンがコギーに叱られ、俺とイスラはハンバーグに舌鼓をうつ。
そして――
「おめでとうザガム。叔父として、育ての親として嬉しく思うよ」
「ありがとう、フェル……叔父さん」
「はは、フェルでいいよ。僕は復讐の為にある意味ザガムを利用した。恨んでくれていいくらいだ」
「……いや、育ててくれなかったらどうなっていたかわからない。クロウラーに使われたか、野垂れ死んだか……。感謝している」
俺が頭を下げると、フェルは涙ぐみながら笑う。
「はは、元々真面目だったけど、無機質に突っかかって来たころが懐かしいね。うん、成長した。人間の国へ行ったことは君にとって良かったんだな」
「ああ。最初は人間を利用するつもりだったんだがな。……俺は人間であり魔族。恐らく、どっちがじゃなくて――」
――人間と魔族、両方が笑って暮らせる世界を作るべきなのだろうと、会場に居る者達を見てそう思うのだった。
そしてロックワイルドとメモリーの結婚式、帝国が共和国へ名前を変えて人間と魔族が同時に生活をするテストケース都市になるなど目まぐるしく変化していく。
さらに月日は流れ――
「まあまあ、結婚式の招待状を作るだけなんですから戦うより楽ですよ」
「……でも、帝国が全滅しているとは思いませんでしたけどね」
――クロウラーとの戦いが終わってから半年。俺達は屋敷へと戻って来ていた。
三人が話すように、現在は俺と三人の結婚式の準備を行っているところ。
しかし、イスラの故郷でもある帝国はゼゼリックが蹂躙したようで無人都市へと変貌していた。
もちろんそこに住んでいた両親も消えてしまい、図らずして天涯孤独となってしまったのだ。仇を討てたことが僥倖だったと思う。
そして帝国の土地は全ての国、もちろん魔族領も含めた代表者同士が協議をした結果、大魔王クロウラーとの戦いで勝利を得た魔族領の一つとして運用することになり、王には俺が推薦されたが断った。
元々、やりたかったことは領地拡張なので、帝国の領地をそっくりそのままもらえたのならその願いは叶ったといっていい。
では誰が王となったかというと――
「あの戦いの時、ぜんっぜん目立てなかったのに……」
「まあ、いいじゃない。150年前の約束、果たしてもらえたしー?」
元人間のロックワイルドとメモリーの二人が夫婦となって統治することになった。
二人は恋人同士で、クロウラーを倒した暁には結婚しようと言っていたらしいのだが、惨敗したのでずっと保留になっていたのだとか。
人間には戻れないが、感覚的に人間に近いため異論はないと各国から任命を受けた。ま、下手に手を出すと自国が滅ぼされる可能性が高いというのもあると思うが。
ちなみにこの話し合いで大いに活躍してくれたのが国王アルバートと聖女の二人で、特に聖女は危ういところを助けられた部分を強調してくれたので、クロウラーの脅威とそれを倒した俺達の功績が優位なものとなった。今度の結婚式でお礼をしておこうと思う。
――そんな感じで色々と事態が収束していく中、俺はやることが無くなってソファで寝転がるだけの存在となってしまった。
「……本当に俺と結婚するのか? イスラは嫌だと言っていたような」
「忘れましたね!」
「いわば現時点の最高戦力のザガムについていかない理由は無いわね。聖女も別に候補が見つかったし、私は自由だもの」
「私は最初からそのつもりです!」
「……そうだったな」
ファムが元気よく拳を握ってウインクするのを見て俺は苦笑する。
思えばメギストス……フェルを倒すために勇者と手を組むという話から、本当の大魔王の討伐、出生の秘密を知ることになるとは思いもよらなかった。
「奥様方、ウェディングドレスの試着をお願いしたいとユースリア様が」
「あ、行きます行きます! ザガムさん、退屈かもしれないですけど、待っててくださいね」
「あれだったらコギーちゃんのところへ行ってみれば? ヴァルカンやキルミスが居るんじゃない?」
「そうだな」
「それじゃちょっと行ってきまーす!」
ヴァルカンは宣言通り、霊王兄妹を連れてコギーのところへ度々遊びに来ている。
見た目の年齢が近いキルミスは特にコギーと仲が良く、イルミスは何故か顔を赤くしてコギーと接していたが、今ならその気持ちは分かるな。
でも多分コギーはヴァルカンが好きだと思う。イルミスが今度巻き返せるか楽しみだな。
「フッ、なるほど、機微の感情に気づく……面白いものだ。さて、少し散歩でもしてくるか――」
◆ ◇ ◆
「うう……ファム、立派になって……ザガムさん、娘をお願いしますぞ」
「もちろんだ、親父殿」
「おめでとうルーンベル、今日から毎日まぐわうのね♪」
「ちょ、聖女様、祝いの席で卑猥なことを言うのやめてください!?」
「両親を呼ぶことも無かったでしょうが、いざ居ないと分かると少し寂しい気もしますね」
「これからは俺達が家族だ。それで我慢してくれ」
「そう、ですね」
「ぴぎゃー」
「ガオオン」
「へえ、火球の花火か、やるじゃないか」
さらに月日が流れ、今日は結婚式。
首に蝶ネクタイを結んだワイバーンと黒竜が空へ火を放ち、それを合図に執り行われる。
「ザガム=アーヴィングはファム、ルーンベル、イスラを――」
「誓おう」
「最後まで言わせてあげなさいよ……」
誓いの言葉と口づけを交わし、ブーケトスをする三人。
それぞれが知り合いの手元へとすいこまれるように収まった。
「ありゃ、わたし?」
「コギーが取った!? ああん! あたし欲しかった! そしてザガム様と……いやん」
「いや、今そのザガムの結婚式だけど……なあ、オグレ」
「カタカタ」
きょとんするコギーにキルミスが怪し気にトリップしているのを見て、イルミスが呆れてスケルトンに問うと、スケルトンがやれやれといったポーズで首を揺らしていた。
「姉さん、ついにルガードとかしら?」
「う、うーん……まだ冒険者をして稼がないと……」
「いいじゃねぇか、冒険者をする夫婦ってのも」
「わたしはルックレス様を追うからね!」
「うふふ、それでしたらお引越しをしないといけないかも?」
もう一つはルガードの彼女、マイラが受け取り困惑していた。
今日の料理を務めていたルックレスが遠くでくしゃみをしていたが、まあ、たまたまだろう。
で、最後のブーケは後ほど式を挙げる予定のメモリーが手にしていた。
「おめでとうザガム、ファムちゃん達もー」
「ありがとうございます、メモリーさん!! お二人の式にも必ず行きますね!」
「ああ。ユランはまだ中に居るのか?」
「はい、とても嬉しいって言ってます! 後で身内だけの集まりの時にお話があるそうですから、お願いしますね」
ロックワイルドとメモリーはファムの言葉に頷きブーケを振る。
「うう……私が取れると思ったのに……」
「あはは、ユースリアさんも結婚したいのね」
「そりゃそうよベル。ザガムが先に結婚するとは思わなかったわ、姉としてショックよ」
「美人ですからすぐに見つかると思いますけどね」
「ありがとイスラちゃん。ま、ザガムがきちんと大きくなってくれたからいいけどね。……クロウラーのことはフェルディナント様に聞いていたから、洗脳か敵に回らないかが心配だったのよ」
ユースリアは最初から魔族だが、殆どフェルの側近みたいな扱いでついていたらしい。姉役としてメモリーでなくユースリアを選んだのは鍛えるまでもなく、出会った時から強かったからだそうだ。
「新居には遊びに行くわよ」
「ええ」
ルーンベルがそう言うとそのまま食事会へ突入。
思い思いに酒を飲み、食べ、ヴァルカンがコギーに叱られ、俺とイスラはハンバーグに舌鼓をうつ。
そして――
「おめでとうザガム。叔父として、育ての親として嬉しく思うよ」
「ありがとう、フェル……叔父さん」
「はは、フェルでいいよ。僕は復讐の為にある意味ザガムを利用した。恨んでくれていいくらいだ」
「……いや、育ててくれなかったらどうなっていたかわからない。クロウラーに使われたか、野垂れ死んだか……。感謝している」
俺が頭を下げると、フェルは涙ぐみながら笑う。
「はは、元々真面目だったけど、無機質に突っかかって来たころが懐かしいね。うん、成長した。人間の国へ行ったことは君にとって良かったんだな」
「ああ。最初は人間を利用するつもりだったんだがな。……俺は人間であり魔族。恐らく、どっちがじゃなくて――」
――人間と魔族、両方が笑って暮らせる世界を作るべきなのだろうと、会場に居る者達を見てそう思うのだった。
そしてロックワイルドとメモリーの結婚式、帝国が共和国へ名前を変えて人間と魔族が同時に生活をするテストケース都市になるなど目まぐるしく変化していく。
さらに月日は流れ――
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