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第八章:過去の清算を

その146:凄腕スケルトン

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 『ぬ……ス、スケルトンが私の剣を受けたですと!?』
 「な、なんだ……こいつ」

 スケルトンが武器を使うことは珍しくない。
 生前に戦士や兵士、騎士だったりすればその得物を無意識に持つことが多いからだ。
 しかし、目の前で僕を守ったスケルトンは地面から出てきた瞬間から武器を携えていたので、俺もキシュマテも驚いていた。

 「……ウ……カ……守……」
 『……!?』
 「鋭い……!」

 カタカタと口を動かしたと思った瞬間、両手で片刃の剣を縦に振り下ろし、下から斬り上げる。それも恐らく最適な動きだったらしく、キシュマテは冷や汗をかきながら距離を取った。

 「ぺっ……。なんだ、このスケルトン……」
 「い……く……ござ……」
 
 ぶつぶつ、いや、カタカタとなにかを呟きながら僕の前に立つ。
 そういえばこの武器、カタナとかいう剣じゃなかったか……?
 大昔のご先祖様が使役していたスケルトンが持っていたとかなんとか……
 滅茶苦茶強かったとも聞いたことがある。

 それを教えてくれたのは比較的僕達に優しかった祖母だった。でも2000年も前の話だし、誇張していると思っていたんだけど――

 『な、なんですかそいつは!?』

 ――こいつも驚くほどの剣筋だったらしい。

 「……おい、いけるのか? あれは僕の妹だ、助けて欲しい。キルミスが居なかったら魔法で一気にやれるんだ」
 「しょ……うち……」

 僕が話しかけると、ちょっと怪しいけどしっかり返事をし、次の瞬間には目の前から消えていた。

 『ちょ!? うおお!』
 「きゃあ!?」
 「なんだあの踏み込み!? ……そうか、地面の氷を上手く使っているのか! キルミス!」

 謎の凄腕スケルトンが仕掛け、人質にする間もなく胸板を狙われたキシュマテはキルミスを手放して応戦する。

 「大丈夫かい!」
 「イルミス! な、なんなのアイツ……絶対あたしより強いんだけど、あんなの呼び出せたの?」
 「僕もよくわからないんだけど、キルミスを助けたいって思ってたら出てきた……」
 
 キルミスを救出しながら答えていると、僕の手にあるダガーを見て言う。

 「それってご先祖様の武器……もしかして助けてくれたのかも?」
 「そう、かな?」

 親には捨てられたけど、ご先祖様は見守ってくれていたのか……
 いや、今は感傷に浸っている場合じゃない!

 「キルミスは腕が折れているんだろ? ここは僕がやるから休んでいてくれ」
 「ええ!? ど、どうしちゃったの!」
 「あいつがいれば一気に倒せるはずなんだ……!」

 僕はその場にキルミスを残して駆け出す。
 だけど、僕が思っているよりもあのスケルトンは強かった。

 『ま、まさかこんなことが……!?』
 「……」
 「強っ!?」

 ちょっと話している間にキシュマテはズタボロ。
 反撃に転じているけど、紙一重で回避するので、大振りのヤツは近接の素人である僕が見ても劣勢だ。
 刺突剣の良さは突きだが、間合いを一切取らせないので立ち回りが雑になっていた。

 それでもついていくキシュマテを凄いと思ったが、糸が切れる瞬間というのは一瞬だ。

 「……み、き……った」
 『うお……!? う、腕を――』
 「今……! <ギガファイア>!」
 『ガキが……!? ぐあ!?』

 切り落とされた左腕の方へ回り込んだ僕は傷口を含めてギガ級魔法を叩き込むと、爆発を起こしてキシュマテが呻く。バランスが崩れた、そう思った瞬間、スケルトンが正面からカタナを振り下ろし、

 『がっ……!?』

 キシュマテは真っ二つになった。
 慌てて手で抑えてずれるのを抑えようとしたけど、さらにカタナを振るうスケルトンにより細切れにされた。

 『馬鹿な……私はまだ可愛い女の子を調教したいのにぃぃぃぃ!?』
 「やかましいわね!」
 『ぐぎゃ……!? 幼女バンザ――』

 なにやら不穏なことを言いながら、キルミスに顔を潰され、灰となってヤツは消えた。

 「ふう……なんとか勝ったか……【霊王】だとか言っても、まだまだだね……」
 「ザガム様みたいにはなかなかなれないわよね♪ でも、このスケルトンを呼び出せたのも結構凄いんじゃない?」
 
 役目が終わったとばかりに動きをピタリと止めたスケルトンを撫でながらキルミスが言う。

 「うーん……」

 僕が唸っていると、僕達のところへ人影が。
 それは大魔王様だった。

 「ふうん、いい使い魔じゃないか。君達を雇ったのは間違いじゃなかったね、うん」
 「メギストス様……!? も、もう上陸が終わったんですね! あ……」

 キルミスが敬礼をしていると、メギストス様が回復魔法で治療してくれていた。

 「このスケルトンは特別な雰囲気がするね。僕のご先祖様の友人の連れていたスケルトンがこんな感じだったらしいけど、案外ご先祖様同士、友人だったのかもね?」
 「あ、はあ……」
 「だとしたらザガム様とは運命ですね! きゃはっ♪」
 「はっはっは、だとしたら面白いねえ。……さて、お客さんはこれで終わりみたいだし、後は僕がやるよ」

 そう言ってメギストス様が僕達の前に立ち、ヴァルカンやロックワイルドに射線を開けるように通達。

 そして――

 「<ドラゴニックブレイズ>!」
 「う、わ……!?」

 メギストス様が両手で魔法を使った瞬間、青白い竜の形をした閃光が地上を埋め尽くす。
 こちらの陣営の魔族は居ないことをきちんと確認しているのが流石だと言える……

 「ふむ、まだまだ出てくるか。空はザガム達に任せていいし、このまま行こうか。いけるかい? 【霊王】」
 「……もちろんです。行こう、キルミス、スケルトン」
 「はーい! でも、スケルトンって名前、不便じゃない? 名前つけてあげないと」
 「そうだな……」

 キルミスがそういうと、スケルトンがカタカタと口を動かす。

 「オ……グレ……」
 「オグレ? お前の名前か?」
 「……」
 「動かなくなっちゃった。でもそうみたいじゃない?」
 「じゃあ、お前はオグレだ。いいな」

 僕が言うと、カクンと首が動いたので肯定ということにしておく。
 やがて、後ろから兵士達やユースリアが展開しているのが見え、いよいよ本格的な信仰が開始される。

 「友人ねえ……」

 僕は空を飛んでいるザガムに目を向けながら鼻息を漏らすのだった。
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