144 / 155
第八章:過去の清算を
その141:慢心
しおりを挟む極北。
最果ての大地と言われている、人や生物が住みにくい場所だという。
さらに今はフェルの大封印魔法により凍土と化していて、さらに生物は居ない。
母やフェルは封印するならそこだと決めて追い詰めたらしい。
が、逆に直前で母が捕まり、一度は敗走。
二回目で成功したが、母は死んでしまったというわけだ。
なので今、眼下に広がっている影は魔族だが――
「結構吹き飛びましたね」
「だけど、まあぞろぞろと……でも、魔族にしちゃあ知能が低そうね」
「恐らく魔法生物に近い存在だろう、数で圧倒するなら作った方が早いとフェルも言っていたからな」
――ただ、敵を攻撃するための迎撃システムと見ていいだろう。
まあ、それならこちらも心置きなく潰せるというもの。
「よし、空から先制を仕掛けるぞ。黒竜達よ、炎を浴びせろ」
「「「グォォォォン!!」」」
「やっちゃえ!」
俺、ファム、ルーンベル、がそれぞれ乗った黒竜の炎が地上を焼いていく。
氷に覆われた大地は剥き出しになり、荒涼とした地面が姿を見せ、鱗のような肌と羽を持つ青い皮膚をした魔族は消滅していった。
「この調子なら反撃を受けずに皆さんが上陸できそうですね!」
「油断するなファム、来るぞ」
「え?」
直後、白く霞む空で、視界に黒い点がぽつぽつと増えてきた。羽が生えているのだ、これくらいはしてくるだろう。
「小回りが利くわたしが遊撃しますよ」
「頼む。そろそろ上陸してくるころだ、ルーンベルとファムはこのまま地上掃討を続けてくれ」
「ザガムさんは?」
「俺は……お客さんのようだからな」
「え?」
俺が視線を向けると、物凄いスピードでこちらへ向かってくる者が見えた。
その姿が確認できた時、ルーンベルが口を開く。
「あいつ……ゼゼリック……!」
「生き延びていましたね、やっぱり!」
「あいつが町と帝国を誘導していた魔族か。すぐに倒す――」
俺はブラッドロウを抜くが、ゼゼリックとやらは俺達に気づくと、不快な顔を見せながら口を開く。
『ふん、勇者とシスターか。そしてその剣……お前がザガム様か』
「お前に様などと言われる筋合いはないがな」
『クロウラー様のご子息であれば、ね? だが、反旗を翻すなら話は別だ』
「今度はきっちり倒してあげるわ」
ルーンベルが‟偽典”を開く。
だが、ゼゼリックはそれを一瞥した後、問いかけてきた。
『あの赤い髪のアホそうな男はどこだ? 借りを返しに来た。お前達の相手はその後だ。女はクロウラー様のところへ運ばねばならん……痛っ!?』
「なにをごちゃごちゃと言っているんですか? <ギガアイス>!」
『チッ、何者……!』
「イスラちゃんのひき逃げアタックを躱した……!?」
ペラペラと離しているゼゼリックに、イスラが背後から近づき、ロッドで後頭部を殴打さらに魔法で追い打ちをかけるが、それは打ち消されていた。
ゼゼリックは旋回するイスラを忌々し気に見た後、俺達の後方に視線を向けてほくそ笑む。
『……ん? なるほど、他の魔族も引き連れてきたのか。まるであの頃の再現ですね……人間は居ないようですが』
「150年前に封印されて時代に取り残された者が勝てると思うのか?」
『やりますよ? この力はそういうものの為にあるのですから!』
「む!」
一気に魔力を上げた瞬間、俺達の脇を抜けて上陸が始まったフェル達の船へと向かって行った。スピードは確かなようで、俺も追いつけるか分からない。
だが、向こうに行ってしまうならそれはそれで構わないなと、地上掃討へ戻る俺。
それはそうだろう?
俺以外の【王】は全て向こうにいる上にフェルも戦闘に参加する。
いくら力をつけていたとしても――
◆ ◇ ◆
『ふははは、見つけたぞ赤毛の男!』
「お、てめぇはあの時の! 俺とケリをつけに来たか?」
ザガム達から『逃れた』ゼゼリックは先に上陸していたヴァルカンを発見し、嬉々として語り出す。
『それもあるが……まずは周りの者達を殲滅させてやろうと思いましてね。小物とはいえ、この数は面倒ですし一気にやらせてもらおうかと』
「ふうん、できるものならって感じねー」
『貴様もあの時いた女か。後で相手をしてやる、覚悟しておけ……!』
「くく……」
そこでフェルディナントが含み笑いをし、ゼゼリックは訝しむ。
『なにがおかしい? このあふれ出る力を前に気でも触れたか。それにお前達は……よく見れば150年前にクロウラー様と戦った人間か……?』
「ああ、覚えていたんだ? いやいや、僕達を侮るのは勝手だけど、あの時まるで相手にならなかったのは……そっちの方だよねえ?」
『な……! 今は違――』
憤慨した直後、超上空からの攻撃を受けて地面に叩きつけられるゼゼリック。
飛来した人物が腕組みをしながら口を開いた。
「一人でこちらに乗り込んできたのは中々褒められたものだが……戦力を見誤っていたな」
『ぐ……?』
見下ろしていたのは天王マルクス。
空の警戒を行っていた彼が蹴りを放ち、ゼゼリックは地面に叩きつけられた。
それを見ていたフェルディナントが肩を竦めながら言う。
「力があるとは言っても、もはやローカル。悪いけどウチの【王】達には勝てないだろうね」
『馬鹿な……。し、しかし、そっちの男はあの時、私に押されていたぞ』
「……なら、試してみるか? 大魔王様、よろしいですか?」
「うん、構わないよ。ほら、みんなは下船を急いで、ザガム達が地上掃討をしてくれているから、一気に攻めたい」
フェルディナントがゼゼリックには興味がないとヴァルカンに一任し、背を向ける。
「て、ことだ。今度は逃がさねえぞ?」
『くく……一斉にかかってくればいいものを……! 私に押されていた貴様が勝てるとでも? ……ふぐ!?』
「ごちゃごちゃ言ってねえでやろうぜ、なあ? まあ、なんつーか、生き返ったから良かったけどよ、あいつが死ぬきっかけになったてめぇはこの手で消したかったんだわ」
『おのれ……!』
「あの時は勇者とか他の人間も居たし、本気を出しにくかったが、ここなら全力でやれる」
『戯言を!! <ヴァーミリオンサイス>!』
ゼゼリックの攻撃を回避し続けるヴァルカンに対し、畳みかけるゼゼリック。しかしその攻撃が触れることなく、放った魔法も、
「ふん!」
『な……!?』
「『な!?』じゃねぇんだよ。ザガムに比べりゃクソみたいなもんだぜてめぇなんざ。まあ、ちょっとだけ俺の方が強いがな」
『ふざけ――』
ゼゼリックがなにかを言いかけたその時、ヴァルカンの身体が大きく膨らみ魔族としての姿をさらした。
そのまま突っかかって来たゼゼリックの首を掴んで憮然とした顔で持ち上げる。
『くっ……離せ……!』
「ああ、俺に掴まったらもう無理だ。そういや炎が得意だって言ってたな? これに耐えられたら認めてやるよ。【クリムゾンジャケット】」
『あ? ああ……!?』
ゼゼリックの身体から煙が立ちのぼり始め、悲鳴をあげる。
やがて黒煙が上がり、身体は真っ赤に熱を帯び始め、それは赤い上着を着ているようにも見えた。
『あ、熱い!? 熱が……内側から……!?』
「干からびて死ね」
『あ……が……ば、かな……クロウラー様ぁぁぁぁ……』
「ふん!」
ヴァルカンが気合を入れた瞬間、ゼゼリックの身体が黒炭のように真っ黒になり、ぼそりと灰になって崩れ落ちた。
「馬鹿が、黙って奇襲でもしてりゃちっとは戦力が削げたかもしれねえのによ。その慢心が主を殺す。安心しろ、クロウラーとやらもきっちりそっちに葬ってやるからよ――」
ヴァルカンは鼻を鳴らし、手に着いた灰を払うと、肩を回しながら進軍してきた魔族へ向きなおるのだった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる