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第八章:過去の清算を

その136:変わっていく者

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 「ふう、いい朝だな」
 「そうですねぇ」
 「ザガム様、飲み物でございます」

 酒を飲んで寝ていた俺に、イザールが水を渡してくれたのでそれをぐっと飲む。
 昨日は楽しいひと時だったが……

 「ああああ頭がぁぁぁぁ……」
 「痛いです……!?」
 「今から魔族領だっていうのに、はしゃぐからよ」

 徹夜……というわけにはいかないが、駐竜させる時間も限りがあるので深夜には酒場を立ち去り、黒竜の上で仮眠することになった。

 が、ファムとイスラは調子に乗りすぎてしまい、二日酔いというやつに悩まされているようだ。まあ、ハンバーグステーキをつまみに飲む酒は美味かったが。

 バリーとリアのコンビとも挨拶を交わせたし、良い時間だった。
 
 「オロロロロロロ……」
 「ぴぎゃ!?」
 「イスラ、ワイバーンの背中に吐いたらダメよ? ファム、お水を飲みなさい」
 「ありがとうございます、ルーンベルお母さん……」
 「誰がお母さんよ!?」

 ……すぐに戦闘というわけではないだろうが、どこかで一晩しっかり休む必要もありそうだ。
 キアンズの町を出発して六時間ほど経ったころ、いくつかの国を越え、ついに魔族領が見えて来た。

 「とりあえず接収されていそうだが屋敷へ行くか――」
 
 もう少しで回復しそうな感じはするが、全開で行くなら休むべきだ、そう判断して屋敷に進路を取った瞬間、目の前に見知った男が現れた。

 「その必要はない」
 「マルクスか、久しぶりだな」
 「ああ、元気そう……というか相変わらずというか。初めまして、お嬢さん達、俺は【天王】マルクス。ザガムの友人だ」
 
 イザール達に目をやった後、ファム達に目を向けてお辞儀をするマルクス。
 礼儀正しいのはヴァルカンと大違いだ。

 「初めまして……勇者の……ファム、です……」
 「イスラですよ……かっこいいとさかですねえ……」
 「死にかけている!?」
 「ルーンベルよ。まあ、ただの二日酔いだから」
 「大魔王様に会うのに二日酔いってすごいな……ま、まあいい、とりあえず大魔王城に連れてこいと仰せつかった。そこでしばらく休むといい」

 マルクスがそんなことを言い、俺は目を細めてから口を開く。
 どうせ行くつもりだからいいが、どういうつもりか尋ねてみるか。

 「メギストスが?」
 「そうだ。取って食うというわけではなく、大魔王様もお前の話を聞きたいらしい」
 「ヴァルカンは?」
 「メモリーやミーヤと一緒に戻っているぞ」
 「なるほど、流石に早いな。それで俺が来るのが伝わっていたというわけか」

 回りくどい策など必要も無いかと、俺は頷きそのまま大魔王城へと向かう。
 広々とした庭に黒竜とワイバーンを降ろし、食事を与えてから城内へ。

 「外は暗いですけど、中は清潔感がありますね……」
 「無理して喋るな」
 
 「では、我々は大魔王様にご挨拶をしてきますぞ」
 「僕はハンバーグステーキを作らせてもらえないか聞いて来ます。外に居る黒竜が尻尾肉を使っていいと言っていたので」
 「それはやめてやれ、可哀想だろう」
 「そうですか……」

 眷属をなんだと思っているのか。
 ルックレスは料理になるとちょっと危ないのだろうか。こんな一面は初めて見た気がする。

 「それじゃ、俺も報告に戻る。ユースリアもいるから【王】は全て揃っている。話し合いの場で会おう」
 「分かった」
 
 マルクスがフッと笑い部屋から出て行くと部屋には久しぶりに俺達は四人だけになった。

 「久しぶりに静かだな」
 「ふふ、そうね。まあ、ファムとイスラがこれじゃあね」
 「うう……敵地でこの体たらく……骨は拾ってくださいっ!」
 「ザガムさんと結婚した……かった……です」
 「うるさい」

 俺は二人の後頭部を軽く叩くと、ファムが舌を出して笑う。

 「えへへ。最近、ザガムさんが近くて嬉しいです」
 「ん? いつも一緒じゃないか」
 「そういうのじゃなくて、心を許してくれているというか……会った時はもっと素っ気なかったです」
 「そうか……?」
 「私もそれは思うわよ? 感情が戻ることで人間らしさが戻ったんじゃないかしら」

 ルーンベルがトランプをシャッフルしながら冷静にそんなことを言う。
 確かに、女性への不快感は減ったからファム以外も気にならなくなってきたうえ、こうやって茶々を入れるのも自分からはしなかったか。

 「……大丈夫、ですよね」
 「どうした、急に?」
 「えっと、『神霊の園』でザガムさんが胸を貫かれて死にかけた時、本当に心臓が止まるかと思いました……。大魔王が本気になればあっという間にやられるかもしれません。これも罠かも、と」
 「あいつはお茶らけているが、意味のないことはしない。俺を殺しかけたのもなにかあったのだろう」

 ……冥界という存在を知ったのはつい最近。

 誰にも言っていないが、仮死状態になれることにはあの時に気づいたといっても過言ではない。
 もしかすると、このことを予測して俺を殺そうとしたのではないかと考えていたりする。
 だからこそ、俺はここへ来ることにしたのだ。

 ――そしてここへ来てから半日。

 「居るかい? 大魔王様がお呼びだよ」
 「あは♪ ザガムさまぁ、会いたかったですぅ」
 「お前達か、しばらくぶりだな」

 夜も更けたころ、俺達を呼びに【霊王】の兄妹がやって来た。
 
 「準備ができた、ということでいいのだな」
 「ああ。【王】の集まる円卓……あんたなら知っているだろ、そこで話があるそうだ」
 「そうか。では行くとしよう」
 「はい」
 「オッケー」

 俺が言うと三人とも立ち上がり部屋を出る。廊下を歩いていると、妹のキルミスが俺の腕に絡んできた。

 「ちょっと、お子様がザガムさんにくっつくなんて生意気ですよ」
 「はあ? おばさんは黙ってなさい……よ! きゃあ!?」
 「足元がお留守ですよ……?」
 「残像……や、やるわね……」
 「ここ最近、化け物たちばかり相手にしてきましたからねえ」

 魔法で残像を攻撃させられ、さらに魔法でスリップして尻もちをついたキルミスが口元を拭いながら喉を鳴らす。

 「遊んでる時間は終わりだ……着いたぞ」
 「開けるよ」

 イルミスが扉を開けると、目の前にはすべての王が揃っているのが目に入り、一番奥には――

 「やあ、ザガムおかえり! パパはこの日を待ちわびていたよ」
 「誰がパパだ」

 ――大魔王メギストスが不敵な笑みを浮かべながら歓迎してくれた。
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