上 下
134 / 155
第七章:荒れる王都

その131:イスラさん、調子に乗る

しおりを挟む

 サンダーストーム。
 師匠が長い時間をかけて開発した雷を呼ぶ大規模魔法で、空気・湿度・温度といった様々な要因で発生する雷を、魔法を使い条件を合わせることで放出することができる、というものですね。

 あれです、寒い日に金属に触れたらバチっとするじゃありませんか? あれの超強力版だと思っていただければ幸いです。

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!?」
 「嘘だろ、こんなことでワイバーン部隊が――」
 「ぶくぶく……」

 効果は抜群ですね!
 残っていたワイバーン部隊は煙を上げたり、気絶した状態で落下。
 黒竜の三馬鹿についてはというと、

 「グォォォォ……」
 「あ、がが……」
 「ち、くしょう……こんな馬鹿げた魔法……で……」

 肉薄していた二頭の動きが鈍り、騎手は髪の毛が爆発したみたいになって兜が転げ落ちましたねえ。

 「ぷくく……」
 「笑っちゃいけませんよう……ぷふー」
 「フルス、キリック!? まさかドラゴンまで効果がある魔法とは……! あ!?」

 残った一頭が旋回し、救援に来るのが見えた瞬間、メリーナさんが黒竜へ飛び移り――

 「えい♪」
 「な――」
 「あば!?」

 ――騎手二人を、捨てた。

 「容赦ないな……」
 「まあ、一番戦力を削ぎやすいですしね、騎手潰し。これは騎馬でもおなじことでは?」
 「まあ、落馬と違って助からないだろうがな」

 スパイクさんが落下していく二人を見ながら冷や汗をかく。
 この場合は落竜ですかね?

 そんなことを考えていると、まだ動ける黒竜が急降下して救出。
 その間にスパイクさんを黒竜へと移します。

 「でかいな、こりゃ」
 「安定感が違いますねぇ。さて、魔法抵抗力が高いので魅了はまだ難しいですけど、再騎乗はこれでできないからいいでしょう。後は残りを叩くだけですけど、どうしましょうか」
 「小回りの利くブレイブ君で攪乱し、叩き落としてやりましょう! 行きますよ!」
 「ぴぎゃぁぁぁん!」
 「あ、援護できないから突っ込まないでくださいよぅ!?」

ブレイブ君の翼を癒し、急下降しメリーナさんの言葉を振り切り黒竜へ。

 「生意気な……!」
 「こっちは三人居るんだ、近づいたら叩き落としてやる!」
 「ククク……その狭い足場でどこまで耐えられますかね? <ギガロック>!」
 「なんとぉ!?」

 巨大な岩の塊を頭上に出現させ、確実にトドメを刺しにかかるわたし。
 魔法は効きませんが、こういう物理的な力なら届くんですよねえ。
 
 「町の人を殺した罪、その身で償いなさい!!」
 「くそ、黒竜よ! 叩き潰せ!」
 「ガルォォォォ!!」
 「あら!?」

 黒竜が落ちてくる岩石に目を向け、両の拳で粉砕し、その破片がわたしたちに飛んできました!?

 「ぴぎゃ!?」
 「ああ、ブレイブ君!? いたっ!?」
 「ふん、自身の魔法を返された気分はどうだ! ワイバーンが気絶した、黒竜よ尻尾を掴め!」

 騎士の指示で飛び掛かって来た黒竜に、岩が頭に当たって落下を始めたブレイブ君に為すすべなく捕まり、落ちそうになったわたしは背中にしがみ付く。

 「この……<ギガアイス>」
 「魔法は掻き消えるんだよ。さて、このまま槍を投げたらお前は串刺しだな。かみ砕かせるのもいいか。……ん?」
 「こっちは任せろ」

 上空からスパイクさんが矢で援護をしてくれますが、三人いるので防御面も安心とばかりに迎撃。
 その瞬間、ブレイブ君の尻尾がくしゃりと潰されるのを見て、わたしは息を飲む。

 「まあ、とっとと殺そう。また、つまらねえ手を使われたら困るしな。あばよ」
 「あ……」

 っという間に、騎士の手から槍が離れ、わたしはそれを避けるため身を翻す。

 が、ダメ。

 そのまま体は落下を始めた。
 スパイダーネットは間に合わない……! さらに上空に見える黒竜が動かないところを見ると、制御は出来ていないらしい。
 顔を出しているスパイクさんとメリーナさんのぎょっとした顔と目が合い――

 「ああああああああああああああああ!? 死ぬ! このままだと確実に死にますねぇぇぇ!? 何故こんなことになってしまったのか……それはわたしが可愛いからに違いありません……!!」

 自分でもなにを言っているのか分からないですが、とりあえずこのままでは原型が残るかどうかも怪しい死に方を……あ、意識が遠く……

 気絶して死ぬならまあいいかと目を瞑って思いつつ、最後に着地する瞬間、爆発魔法を撃てばふわりと浮いて助からないかと考えを巡らせる。

 「ええい、ままよ……!」
 「なにをぶつぶつ言っているんだ、お前は?」

 聞き覚えのある声が聞こえたその瞬間、体がふわりと浮かび浮遊感が消えた。
 恐る恐る目を開けてみると――

 「黒竜三頭とは驚いたな。あれを相手にしていたのか、よく止めてくれた」
 「ああああ! ザガムさん!!」
 
 黒い鎧にマントを羽織ったザガムさんがわたしをお姫様抱っこして顔を覗き込んできていました!? うう……この人、結構ずるいですよねえ……カッコいいし……
 だから一緒についてきたというのは内緒ですが。

 「そうだ、ブレイブ君! あのワイバーンを助けてあげてください! 一番の功労者!」
 「む、派手にやられたな。任せろ」

 そう言うと、わたしを抱えたまま上昇して黒竜へと迫り――

 「あん!? そ、空を飛んでいる男が出て来たぞ!?」
 「馬鹿言ってないで上昇しろ、俺達のドラゴンを取り返――ええ!?」
 
 驚愕の表情で騎士達が叫ぶが、構わずブレイブ君を摑まえている黒竜の眼前でザガムさんが止まり、口を開く。

「お前達なかなか強そうだな。ウチで飼ってやろう。だが、まずはお仕置きからだな」
 「グルォォォォ……!!」
 「わわわ!?」

 カチンときたという咆哮を上げ、空いた腕で殴りかかってくる黒竜。
 しかし、ザガムさんはそれをただの拳で払った後、ブレイブ君を掴んでいる右腕を殴った。
 
 「ギャオォォォォ!?」
 「む、折れたか? すまん、手加減をしたつもりなんだが。ワイバーン、大丈夫か? <マクスヒール>」
 「ぴぎゃ?」
 「おお!」

 片腕でわたしを支え、ブレイブ君をもう片方で尻尾を掴んだ後、聞いたことない回復魔法を使うザガムさん。
 すると一瞬で傷が癒えた上に目を覚ましましたよ。

 「すまんがこいつの背に乗っていてくれ」
 「あ、はい! 良かったですねえブレイブ君」
 「ぴぎゃー♪」

 嬉しそうに鳴くブレイブ君はもうウチの一員ですね!
 後は、目の前に居る三馬鹿を倒すのみ! 

 「グルゥゥゥ……」
 「く、くそ、空飛ぶ魔法なんて知らんぞ……!」
 「大きさならこちらが上だ! 黒竜やれるな!」
 「グ……グオオオオオオ!」
 「その意気や良し。少し力が余っていてな、使わせてもらう……!」

 ザガムさんが目を細めると、周囲の空気が一気に冷え、背筋が寒くなる。
 いえ、違いますね……これは……ザガムさんに恐怖しているから……
 ちょっと力を出しただけでこれ、ですか!? 【冥王】とはいえいくらなんでも――

 「む、なんだ?」
 「ぐるるん……」
 「「「……」」」

 それはわたしだけでなく、相手にも伝わったのでしょう。黒竜は折れてない腕で白旗を上げ、三馬鹿は気絶。
 空中戦の決着がついた瞬間でした――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

うみ
ファンタジー
『イル・モーロ・スフォルツァ。喜べ、一番の愚息であるお前が今日から王になるのだ』 隣国から帰国した翌日、玉座にふざけたことが書かれた手紙が置いてあった。 王宮はもぬけの殻で、王族連中はこぞって逃げ出していたのだ! 残された俺の元には唯一の護衛である騎士と侍女しかいなかった。 重税につぐ重税で国家は荒廃し、農民は何度も反乱を起こしているという最悪の状況だった。 更に王都に伯爵率いる反乱軍が迫って来ており、自分が残された王族としてスケープゴートにされたのだと知る。 王宮から脱出した俺は伯爵を打ち倒し、荒廃しきった国を最強国にまで導くことを誓う。 いずれ逃げ出した王族たちに痛撃を食らわせることを心に秘めながら。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...