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第七章:荒れる王都

その125:【炎王】と【樹王】

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 「とりあえずそろそろ接敵するはずだ。伝令の話を逆算すると、次の町は奪われていると考えた方がいいだろう」
 「相手は五千程だという。すまんが、期待させてくれ」

 こちらの軍勢は約七千くらいだって言ってたかな? ザガムさんと同じくらいの強さであるヴァルカンさんとメモリーさんが居れば多分、余裕なんですよね。

 あ、私ファムです。
 とりあえず私達が王都を出発して一日が経過し、二つ目の町へ向かうために行軍を進めているところで小隊長の人が休憩中に先ほどの話をしてくれました。

 ひとつ前の町もそうでしたけど、伝令の人が注意喚起をしてくれていたおかげで、皆さん警戒をしていたのが良かったです。
 恐らく次の町も警戒と門を閉ざして簡単には侵入できないようにしているはずですけど、期間的に制圧されていてもおかしくないのだとか。

 「……心配ですね」
 「耐えてくれていればいいけど、ね。ケガ人くらいなら私が治療できるからせめて死者がいませんようにってお祈りしておくしかないわ」

 隣を歩くルーンベルさんも緊張した顔で私に返してくる。
 少し前に惨劇を目の当たりにしたばかりなので、お互いテンションは低い。
 ザガムさんが居ないのもマイナス点なのです。

 そんなことを考えていると、鼻をひくひくとさせながらミーヤさんが話し出す。

 「もし町が占領されていたら、攻めるのが大変にゃね」
 「まあ、ぶちのめすだけだけどな。ザガムはいねえし、数人首をとってやりゃびびって下がるんじゃねえか?」
 「町に関しては私に手があるわ、最後方に回るからヴァルカン、後よろしくねー?」
 「お、おう……」

 すっごく冷ややかな目と声色をしたメモリーさんが軽い口調で後方へ。
 
 「なんでそんなに焦っているんですかヴァルカンさん?」
 「あん? ……メモリーが怒っているからだよ。あいつは俺達の中でも、一番性格が緩い。が、怒らせると一番やべえヤツなんだよ」
 「ふうん、木や枝を使った攻撃とかしそうだし、範囲攻撃は得意そうよね」
 「ああ、いや、そういうのじゃねえんだ、あいつの怖さは」
 
 そう口にしながらぶるりと身を震わせるヴァルカンさんは話を続ける。

 「にしても、あいつがあんなに怒るとはな。屋敷に居た奴等を気に入ったってか」
 「コギーちゃん、いい子ですからね」

 小さい子まで無差別に殺されたら誰だってそうなると思う。
 私はなるべく平和的にいきたいと考えるけど、今度ばかりは怒っています!

 「それを言ったら、私から見て『あんた達』がコギーちゃんのために怒るのも意外だったけどねえ」
 「……別に俺たちゃ、人間が嫌いってわけじゃねえ。今回はあくまでもザガムを倒すために来たんだ。あの夜、決着をつけようとしたらあの襲撃だ。こっちも収まりがつかねえ」
 「とか言って、ザガムさんと仲いいですよね! ……それに、コギーちゃん、ヴァルカンさんに懐いていましたし」
 「……ふん、ガキは嫌いなんだよ。あいつには負け越しているからな、勝ち逃げされたくねえ」

 ヴァルカンさんは私の言葉に鼻を鳴らすと、大股で前方へ歩いていく。
 それを見て、やっぱりザガムさんのお友達だけあって優しいなと、私は笑みがこぼれる。

 「さて、ここは乗り切れるだろうけどその後が問題よね」
 「なんですか?」
 「ああ、ザガムが戻って来てからの話よ。帰ったら話すことがあるって言ってたでしょ? 多分、そこが始まりになるかなって」
 「なにか知っているんですか?」
 「……ううん、特に変わったことは知らないわ」

 ……怪しい。
 ルーンベルさんはアンデッドの村から一緒だけど、ザガムさんについてなにか余裕のようなものを感じるんですよね。
 同じ境遇ですけど、正妻の余裕のような……これが嫉妬というやつでしょうか?

 私の村は良くも悪くも普通の村で、悪い人はいませんでした。
 だから、町に出てきて悪意をぶつけられた時、私は本当にショックを受け何度村に帰ろうと思ったことか……。

 そこで出会ったのがザガムさん。
 物凄くぶっきらぼうで、無表情、たまに不穏なことを言うけど、基本的には優しい私の大好きな人。

 あの窮地を救ってくれ、さらに国王様に直談判をするような人に惚れない方が難しい。だからこそ、私は彼の一番でありたい。

 ……たとえ、勇者の力だけを欲していたとしても、なにか秘密があったとしても。
 
 そして、私を好きじゃなかったとしてもザガムさんの役に立つため動く。
 それが私の勇者としての生き方と決めた。

 まあ、とりあえずコギーちゃん達の仇をまず打ちましょう!
 そしてザガムさんから大切な話……まさか、プロポーズだったり……?

 「変な顔してどうしたのファム? 着いたわよ」
 「へ、変じゃないですよ! ……あ、本当だ」

 前を見れば大きな門が目に入り、騎士さんや兵士さん達が名乗りながら門を叩いていた。一応、伝令さんの言うことを聞いてか門を完全に閉じているけど……?

 「さて、門が開くかどうか、ね。占領されていたら攻撃が来るわよ」
 「は、はい……!」

 構えた直後、門がゆっくりと開かれ――

 「おお、騎士様お待ちしておりました! お話は聞いております、救助に来られたんですよね?」
 「ああ、どうやらまだ大丈夫そうだな」
 「ええ、良かったですよ、ホント」

 町の人達が数人、出迎えてくれ私達はぞろぞろと町中へ入っていく。
 
 「良かったですね、間に合って」
 「……ファム、剣を抜きなさい」
 「え? ど、どうしてですか?」
 「最初に話をしてきた男の人が『救助』と言ったわ。『援軍』でなくて」
 「あ……!?」

 確かにそうだ!
 まだ襲われていないなら援軍に来てくれたと言うはず。町の人たちも戦えない訳じゃないしね。
 
 ということは――

 「ぐあ!?」
 「ぎゃああ!?」

 門の影にいたらしい敵が蔦に締め上げられ、悲鳴を出しながら倒れた。
 そこで後方に居たメモリーさんが口を開く。

 「……ま、そんなことだろうと思ったわー。右の二階建ての建物に二人、左奥の建物裏に三人居るわ」
 「な、なに!? もう潜り込んでいたというのか!?」
 「ぼやっとすんな、来るぞ! ヒートナックル!」
 「がああああああっ!?」

 ヴァルカンさんが躍り出た敵兵を燃やしながら吹き飛ばす。
 その瞬間、どこに隠れていたのか敵兵があちこちから姿を現した。
 屋根には弓兵、地上には重装兵を始め、剣士や槍兵がずらりと私達の前に立ちふさがった。

 「中に入れて囲むつもりだったがどういうことだ? 探知魔法でも使っているのか?」
 「……私の能力は草木の操作。全ての樹木は私で、私は樹木そのもの。だから――」
 「が、あ……!? な、んで……?」

 急に近くの大木がもぞもぞと動き、腕のような太さの枝が兵士の兜を貫いて、絶命させた。

 「運の悪い奴等……このメモリーを怒らせたことを、身を持って後悔しなさい」

 蛇のように目を細めて、メモリーさんは口を半月状に歪めて笑った。
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