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第七章:荒れる王都
その120:謎の女
しおりを挟む「ザガム様、如何しますか?」
「自室で仮死状態を試みる。やり方はかなり昔にメギストスから教わったことがある」
ファム達を見送った後、早々に屋敷へと引き上げるとイザールが出迎えてくれた。
とりあえずこっちにはイザールとルックレスが残っていて、念のためミーヤはファムと同行している。
この状況を好機と見る相手と言えばメギストスだけだが、ヴァルカンとメモリーを寄越しているのでこっちへ来ることはあるまい。
「では、後は頼む」
「みんなが戻ったら美味しい料理を作りますからね」
ルックレスがそう言うと部屋から出て行き、イザールも一礼をして去っていく。
「……さて、ではやるか」
‟凍血静寂”
全身の血液を冷やす技。
これにより限りなく死体に近い状態を作ることが出来る、というものだ。
一度だけ臨死体験というのをやったことがあるが、その時は自分の体を自分で見ているという不思議な感覚だったことくらいしか覚えていない。
「……問題は冥界とやらがあるのかどうかだな」
俺は見つけることができなかった。
しかしメモリーはあるという。長く生きるあいつが言うなら可能性はあるだろう。
メギストスはそのことについて言及しなかったが、俺に知られると困ると判断したのかもしれない。
「……はああ……」
俺は寝転がると、魔力を集中して‟凍血静寂”を使う。
全身が冷たくなっていく感覚と、気持ち悪さが同時に襲ってきた後、意識がぷつりと途切れた――
◆ ◇ ◆
「ザガムさんが近くに居ないのは久しぶりですね」
「そうね、でもあいつにしか出来ないことだし仕方ないわ」
「それにしてもザガムさんって本当に色々出来ますよね。強いだけじゃないし、ヴァルカンさんやメモリーさんも凄そう」
「ま、色々あるみたいだからね」
そういってルーンベルさんがヴァルカンさん達に視線を向けた。
ザガムさんの友人であるお二人はコギーちゃんの死に憤慨し、本気で相手を倒すつもりのようで、やっぱりザガムさんのお友達は優しいと思う。
そんなことを考えていると、ルーンベルさんが私の隣で口を開く。
「帰ったらザガムがファムに説明してくれるみたいだから、無事に帰りましょうね」
「はい! でも話ってなんですかね?」
「……隠していることがあるんでしょ。大魔王を倒したいザガムだけど、そいつが『神霊の園』で現れた。ファムはザガムのこと、なにも知らないんじゃない?」
「そういえば、あまり気にしませんでしたね。でも多分ザガムさんになにか秘密があっても気にしないかも。命があるのはあの人のおかげですし」
これは間違いない。
あの時、お城へ一緒に怒鳴り込んでくれなければずっとギルドで実力以上の依頼を受けさせられて死んでいたと思う。
だから秘密があったとしても、私はきっと受け入れられる。
「ま、とりあえずぶちのめしてやりましょうか。上はイスラ達に任せるとして」
「あ……」
ルーンベルさんが上を見たので私も顔を上げると、ワイバーンが王都に向かって飛んでいくのが見えた。
そこでヴァルカンさんが私達に近づいてきて言う。
「チッ、動きが早ぇな。あっちはメリーナ達が居るが、あのちっこい魔法使いは大丈夫なんだろうな?」
ヴァルカンさんも体が大きくて怖そうなのに、数日遊んだだけのコギーちゃんのために怒ってくれる優しい人だ。
「イスラさんはとても強い魔法使いなので大丈夫ですよ!
「嫌がらせだけなら随一よね。……っと、お喋りはこれくらいね、そろそろ町に着くわよ」
「……はい」
まだここまで攻めて来ては居ないようですけど、いつ遭遇するか分からない。
気を引き締めて頬を叩く私。
ザガムさん、頑張ってくださいね……!!
◆ ◇ ◆
「……ん? ここは……?」
――次に俺が気が付くと、そこは靄がかかったような場所に立っていた。
確かに寝ていたはずなのに、と思っていると、靄の中からスッと人影が姿を現す。
「ザガム……ここへ来たのね」
「お前はいつぞやの」
現れた人間はあの時、夢に出て来た黒髪の女だった。
だが以前と違い、その表情は困惑に浮かんでいる。
「どうしてここへ?」
「俺の知り合いが襲撃されて死んだ。仮死状態から行けるという冥界で魂を返してもらうために。ちょうどいい、ここは詳しいか? どうした?」
「……(やはりザガムはあの子に……なら、頃合い……もしくは――)」
俺の言葉を聞いて、女はなにか考える仕草をしていた。
もう一度、声をかけようと思った矢先に彼女は口を開く。
「あんた優しいわね。他人のために動けるのはその証拠よ! いいわ、この世界を案内してあげる」
「分かるのか、それは助かる。まあ、俺の仲間が悲しむのは見たくないからな」
「うんうん、いい子ねザガムは」
「子ども扱いするな。いや、死んでいるから俺より年上なのか? ……そういえば名前を聞いていないな」
「……ああ、そうね
「ああ、そうね。私の名前は……ナルでいいわ、よろしくね」
「承知した、では案内を頼む」
踵を返して歩くナルについていくと、少し歩いたところで彼女が口を開いた。
「そういえば嫁がいるのよね。どう、勇者の彼氏って?」
「いきなりなんだ。それになぜファムのことを知っている。夢の中で出てくるだけかと思ったら……お前は死人なのか?」
「まあ、ここに居るからそうよ。死んじゃうと暇だからねえ、面白そうな人を観察するのよ。大魔王の腹心で冥王のザガム。人間の勇者を嫁にするあんたは格好のカモ……もとい興味の対象よ」
「気持ち悪いからこの件が終わったら二度と見るなよ? もしくは消してやろう」
「えー、大魔王に勝てないザガムには無理よ?」
ナルがからかうように笑ったことに少々苛立ちを覚え、俺は脅してやるかと首を掴みかかる。
だが――
「どこ見ているの?」
「……!? 後ろだと?」
――逆に俺が首を掴まれていた。
「やるな……」
「まだ気配が駄々洩れだもの。さて、それじゃついたみたいだし、探しましょうか」
「む」
いつの間にか俺の前に『ようこそ冥界へ』と書かれた看板が見え、町のようなものが広がっていた。
死者の魂……ここにあるのか? 胡散臭くないか?
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