上 下
123 / 155
第七章:荒れる王都

その120:謎の女

しおりを挟む

 「ザガム様、如何しますか?」
 「自室で仮死状態を試みる。やり方はかなり昔にメギストスから教わったことがある」

 ファム達を見送った後、早々に屋敷へと引き上げるとイザールが出迎えてくれた。
 とりあえずこっちにはイザールとルックレスが残っていて、念のためミーヤはファムと同行している。

 この状況を好機と見る相手と言えばメギストスだけだが、ヴァルカンとメモリーを寄越しているのでこっちへ来ることはあるまい。
 
 「では、後は頼む」
 「みんなが戻ったら美味しい料理を作りますからね」

 ルックレスがそう言うと部屋から出て行き、イザールも一礼をして去っていく。

 「……さて、ではやるか」

 ‟凍血静寂”

 全身の血液を冷やす技。
 これにより限りなく死体に近い状態を作ることが出来る、というものだ。
 一度だけ臨死体験というのをやったことがあるが、その時は自分の体を自分で見ているという不思議な感覚だったことくらいしか覚えていない。

 「……問題は冥界とやらがあるのかどうかだな」

 俺は見つけることができなかった。
 しかしメモリーはあるという。長く生きるあいつが言うなら可能性はあるだろう。
 メギストスはそのことについて言及しなかったが、俺に知られると困ると判断したのかもしれない。

 「……はああ……」

 俺は寝転がると、魔力を集中して‟凍血静寂”を使う。
 全身が冷たくなっていく感覚と、気持ち悪さが同時に襲ってきた後、意識がぷつりと途切れた――

 ◆ ◇ ◆

 「ザガムさんが近くに居ないのは久しぶりですね」
 「そうね、でもあいつにしか出来ないことだし仕方ないわ」
 「それにしてもザガムさんって本当に色々出来ますよね。強いだけじゃないし、ヴァルカンさんやメモリーさんも凄そう」
 「ま、色々あるみたいだからね」

 そういってルーンベルさんがヴァルカンさん達に視線を向けた。
 ザガムさんの友人であるお二人はコギーちゃんの死に憤慨し、本気で相手を倒すつもりのようで、やっぱりザガムさんのお友達は優しいと思う。

 そんなことを考えていると、ルーンベルさんが私の隣で口を開く。

 「帰ったらザガムがファムに説明してくれるみたいだから、無事に帰りましょうね」
 「はい! でも話ってなんですかね?」
 「……隠していることがあるんでしょ。大魔王を倒したいザガムだけど、そいつが『神霊の園』で現れた。ファムはザガムのこと、なにも知らないんじゃない?」
 「そういえば、あまり気にしませんでしたね。でも多分ザガムさんになにか秘密があっても気にしないかも。命があるのはあの人のおかげですし」

 これは間違いない。
 あの時、お城へ一緒に怒鳴り込んでくれなければずっとギルドで実力以上の依頼を受けさせられて死んでいたと思う。
 だから秘密があったとしても、私はきっと受け入れられる。
 
 「ま、とりあえずぶちのめしてやりましょうか。上はイスラ達に任せるとして」
 「あ……」

 ルーンベルさんが上を見たので私も顔を上げると、ワイバーンが王都に向かって飛んでいくのが見えた。
 そこでヴァルカンさんが私達に近づいてきて言う。

 「チッ、動きが早ぇな。あっちはメリーナ達が居るが、あのちっこい魔法使いは大丈夫なんだろうな?」

 ヴァルカンさんも体が大きくて怖そうなのに、数日遊んだだけのコギーちゃんのために怒ってくれる優しい人だ。
 「イスラさんはとても強い魔法使いなので大丈夫ですよ! 
 「嫌がらせだけなら随一よね。……っと、お喋りはこれくらいね、そろそろ町に着くわよ」
 「……はい」

 まだここまで攻めて来ては居ないようですけど、いつ遭遇するか分からない。
 気を引き締めて頬を叩く私。

 ザガムさん、頑張ってくださいね……!!

 ◆ ◇ ◆

 「……ん? ここは……?」

 ――次に俺が気が付くと、そこは靄がかかったような場所に立っていた。
 確かに寝ていたはずなのに、と思っていると、靄の中からスッと人影が姿を現す。

 「ザガム……ここへ来たのね」
 「お前はいつぞやの」
 
 現れた人間はあの時、夢に出て来た黒髪の女だった。
 だが以前と違い、その表情は困惑に浮かんでいる。

 「どうしてここへ?」
 「俺の知り合いが襲撃されて死んだ。仮死状態から行けるという冥界で魂を返してもらうために。ちょうどいい、ここは詳しいか? どうした?」
 「……(やはりザガムはあの子に……なら、頃合い……もしくは――)」

 俺の言葉を聞いて、女はなにか考える仕草をしていた。
 もう一度、声をかけようと思った矢先に彼女は口を開く。

 「あんた優しいわね。他人のために動けるのはその証拠よ! いいわ、この世界を案内してあげる」
 「分かるのか、それは助かる。まあ、俺の仲間が悲しむのは見たくないからな」  
 「うんうん、いい子ねザガムは」
 「子ども扱いするな。いや、死んでいるから俺より年上なのか? ……そういえば名前を聞いていないな」
 「……ああ、そうね
 「ああ、そうね。私の名前は……ナルでいいわ、よろしくね」
 「承知した、では案内を頼む」

 踵を返して歩くナルについていくと、少し歩いたところで彼女が口を開いた。

 「そういえば嫁がいるのよね。どう、勇者の彼氏って?」
 「いきなりなんだ。それになぜファムのことを知っている。夢の中で出てくるだけかと思ったら……お前は死人なのか?」
 「まあ、ここに居るからそうよ。死んじゃうと暇だからねえ、面白そうな人を観察するのよ。大魔王の腹心で冥王のザガム。人間の勇者を嫁にするあんたは格好のカモ……もとい興味の対象よ」
 「気持ち悪いからこの件が終わったら二度と見るなよ? もしくは消してやろう」
 「えー、大魔王に勝てないザガムには無理よ?」

 ナルがからかうように笑ったことに少々苛立ちを覚え、俺は脅してやるかと首を掴みかかる。
 
 だが――

 「どこ見ているの?」
 「……!? 後ろだと?」

 ――逆に俺が首を掴まれていた。

 「やるな……」
 「まだ気配が駄々洩れだもの。さて、それじゃついたみたいだし、探しましょうか」
 「む」

 いつの間にか俺の前に『ようこそ冥界へ』と書かれた看板が見え、町のようなものが広がっていた。
 死者の魂……ここにあるのか? 胡散臭くないか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...