117 / 155
第七章:荒れる王都
その114:勇者と【王】達
しおりを挟む「ふぐう……」
「早く食え、鬱陶しい」
「あはは、コギーちゃんには頭が上がりませんね! ザガムさんは顔を顰めないの」
一夜明けての朝食。
結局コギーになにひとつトランプで勝てず食卓を涙で濡らすヴァルカンに優しいファム。こいつは早く帰ればいいと思った。
「あふ……ファムは元気ねえ。コギーちゃんは今夜のお祝いに来るの?」
「今度はお父さんと来ますって言ってました!」
「そうか! なら今度こそ……! おい、シスターの姉ちゃん、練習だ!」
「嫌よ!? ただでさえ寝不足なんだから、昼過ぎまで寝るわよ」
「なら青いガキ!」
「そのセリフの時点で却下ですね。折角なので王都を散策してきますよ」
うむ、いいぞ二人とも。
それでヴァルカンの戦意を削いでやってくれ。
「な、なら、勇者は……」
「ファムは俺とメモリーで訓練だ、他を当たれ」
「マジか……!?」
「ならイザールやメリーナと遊べばいいだろう。そもそも遊びに来たわけじゃないだろうお前」
「勝てないのは悔しいからな……!」
俺に突っかる理由と同じとは。
まあ、こいつはこの負けず嫌いだから仕方ない。その分、努力しているから【王】になれたのだしな。
とりあえずミーヤとイザールがヴァルカンの相手をすることになり、朝食は終了。
ルーンベルは部屋に戻り、イスラがメリーナと出かけたので俺はメモリーを連れて外に出る。
「私も寝たかったのに……」
「お前は居候の身分だぞ、家主に協力するのは当然だろう」
「え……?」
やんわりあくびをしていたメモリーがぎょっとした顔を向け、ファムが慌てて手を振り回して言う。
「お友達なのにそれは可哀想ですよ!?」
「友人だからこそだ。こいつらは目的があってここへ来たんだ、それが終わるまで居るつもりだからな」
「そうなんですか? 遊びに来たものだとばかり……」
「私はどっちでもいいんだけどねえ? ま、そっちはヴァルカンに任せるとして、ファムちゃんの能力アップに付き合ってやりますか」
「悪いな」
「『あの方』はあんたに対して寛大だし、バレても大丈夫でしょ。どうせどっかで見てるし」
「まあな」
俺とメモリーは空を飛ぶ鳥を見ながら揃って口を開く。
ホーミングピジョンを二人につけているくらいはするだろう。
しばし無言で空を見ていたが、メモリーが背伸びをして俺達に向きなおる。
「とりあえず、ファムちゃんの強さを見せてもらおうかしらね。ちょっと借りるわよ」
「わ、木の枝が杖に! カッコいいです!」
「ふふふ、あがめなさい、尊敬しなさい。私は見ての通り魔法が得意よ、かかってきなさい!」
「はい!」
ザっと二人は距離を取り俺がファムに木剣を投げると、不敵な笑みでしっかり空中でキャッチし構える。
戦いに必要なのは技術。
だが、それ以上に度胸と自信が大切だ。あまり過剰でもまずいが、ファムはメギストスに一撃を加えることができたおかげで以前よりぐっと自信がついた。
それはグェラ神聖国からここへ戻ってくるまで魔物と戦うことが多かったのだが、ファムの動きは確実に良くなっていた。
「メモリー、手加減無しでいいぞ」
「本気? ……なら――」
「行きます……!」
「おっと、せっかちね!」
先制はファム。
盾を前にし、肩口を目掛けて振り下ろす。メモリーは杖でそれをブロックし、眼鏡を直しながら杖に魔力を収束させる。
「<ライティング>」
「ん!? 眩しい!?」
「とか言いながら避けるのね、面白い!」
魔法の上手い使い方。流石は【樹王】。杖の一撃も鋭いが、ファムは勘で身をかがめてそれをやり過ごす。
そのままファムは目を瞑ったまま足を刈りとろうと横薙ぎに振る。
「っと、下がれば当たらないわよ<アースバインド>」
「わわ!? 草が絡みついて――」
「<グラスニードル>」
「!?」
髪の毛を数本抜いて魔法を唱えると、髪が手首くらいの太さになりファムへ放たれる。
「なんの! とう!」
「飛ぶのは悪手ね<ウッドトマホーク>」
「ふえ、そんなところから!? た、盾を!」
「足元が危ないわよ?」
「すっぽり!? ……なんの! <ファイヤーボール>!」
「お!」
ファムが迂闊にジャンプ斬りの技であるハヤブサを繰り出す。が、メモリーの髪から飛び出した斧をしっかり防御。
しかし着地地点に作られた落とし穴に困惑するファム。
だが、意外なことにファイヤーボールの爆風でそれを回避し、その反動でメモリーに突っ込んでいく。
「やああああ!」
「いい判断だけど、強敵はもう一手先を行くわ。常に先を読むのよ! <サイクロン>!」
「いやあああああ!? ふげ……」
「そこまでだな」
ファムはオリハルコンの支柱にぶつかり涙目になる。
痛みが無ければ強くなれないと考えているので、ぶつかること際に助けない。
とりあえず勝負がついたので、俺はファムに回復魔法をかけつつ抱き起す。
「ありがとうございます!」
「痛いところは無いか?」
「大丈夫ですよー!」
「……ふーん、大事にしてるんだ? それは義務? 道具だから?」
「え?」
「なにを……」
「まあ、それはいいや。にしても、ファムちゃんは強いわ、確かに大魔王に匹敵する力が手に入るかもしれない」
メモリーがふっと表情を緩めてファムを褒めた後、俺に真顔で尋ねてくる。
「感情の揺さぶりはプラスにもマイナスにもなるからそれだけに左右されないようにね? 例えばこうしたらどうする?」
「……!」
「きゃあ!?」
メモリーがファムに手を伸ばして人質にすると、首筋に斧を当てて不敵に笑う。
どういうつもりだ……?
◆ ◇ ◆
――大魔王城――
「ぐぬう……」
「如何されましたか?」
「ヴァルカンとメモリーがザガムの屋敷に着いたんだけど、楽しそうなんだよ! 私はめちゃくちゃ恨まれているのに!」
「まあ自業自得ですし……混ざってくればいいじゃないですか」
「無理だよ!? ザガムを殺しかけて嫁さん連中には睨まれるだろうし、そもそも大魔王だってバレているしね!?」
「諦めてください。……ほら、わたしの胸へどうぞ」
「うう……マリーナ……」
そこへ――
「メギストス様、今よろしいですか?」
「なにかね」
「変わり身が早い」
すぐに玉座に座り直したメギストスが招き入れると、入って来たのは鳥の頭をした【天王】マルクスだった。
「どうだった?」
「ユースリアと行ってきましたが不気味でしたね。あの周辺の海域は生物が死滅しているのを発見したそうです」
「……ふむ」
「俺も空から見ていましたが、島全体が、その、生きているような感じを受けました」
「なるほどね、偵察ありがとう助かったよ」
「なぜ極北を? 今までそのようなことは言っていませんでしたが……」
「ま、他にも移住するところがあったらいいじゃないか。ザガムは魔族領を拡張したいって言ってるしね」
「は、はあ……」
「ヴァルカンとメモリーが帰ったら今度は君にザガム討伐を頼むよ。それまで待機で」
マルクスは言われるがまま、謁見の間を退出する。
「……一体なにを考えておられるのだ大魔王様は……義理の息子であるザガムを殺しかけて……むう……」
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる