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第七章:荒れる王都

その114:勇者と【王】達

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 「ふぐう……」
 「早く食え、鬱陶しい」
 「あはは、コギーちゃんには頭が上がりませんね! ザガムさんは顔を顰めないの」

 一夜明けての朝食。
 結局コギーになにひとつトランプで勝てず食卓を涙で濡らすヴァルカンに優しいファム。こいつは早く帰ればいいと思った。

 「あふ……ファムは元気ねえ。コギーちゃんは今夜のお祝いに来るの?」
 「今度はお父さんと来ますって言ってました!」
 「そうか! なら今度こそ……! おい、シスターの姉ちゃん、練習だ!」
 「嫌よ!? ただでさえ寝不足なんだから、昼過ぎまで寝るわよ」
 「なら青いガキ!」
 「そのセリフの時点で却下ですね。折角なので王都を散策してきますよ」

 うむ、いいぞ二人とも。
 それでヴァルカンの戦意を削いでやってくれ。
 
 「な、なら、勇者は……」
 「ファムは俺とメモリーで訓練だ、他を当たれ」
 「マジか……!?」
 「ならイザールやメリーナと遊べばいいだろう。そもそも遊びに来たわけじゃないだろうお前」
 「勝てないのは悔しいからな……!」

 俺に突っかる理由と同じとは。
 まあ、こいつはこの負けず嫌いだから仕方ない。その分、努力しているから【王】になれたのだしな。
 
 とりあえずミーヤとイザールがヴァルカンの相手をすることになり、朝食は終了。
 ルーンベルは部屋に戻り、イスラがメリーナと出かけたので俺はメモリーを連れて外に出る。

 「私も寝たかったのに……」
 「お前は居候の身分だぞ、家主に協力するのは当然だろう」
 「え……?」

 やんわりあくびをしていたメモリーがぎょっとした顔を向け、ファムが慌てて手を振り回して言う。

 「お友達なのにそれは可哀想ですよ!?」
 「友人だからこそだ。こいつらは目的があってここへ来たんだ、それが終わるまで居るつもりだからな」
 「そうなんですか? 遊びに来たものだとばかり……」
 「私はどっちでもいいんだけどねえ? ま、そっちはヴァルカンに任せるとして、ファムちゃんの能力アップに付き合ってやりますか」
 「悪いな」
 「『あの方』はあんたに対して寛大だし、バレても大丈夫でしょ。どうせどっかで見てるし」
 「まあな」

 俺とメモリーは空を飛ぶ鳥を見ながら揃って口を開く。
 ホーミングピジョンを二人につけているくらいはするだろう。
 しばし無言で空を見ていたが、メモリーが背伸びをして俺達に向きなおる。

 「とりあえず、ファムちゃんの強さを見せてもらおうかしらね。ちょっと借りるわよ」
 「わ、木の枝が杖に! カッコいいです!」
 「ふふふ、あがめなさい、尊敬しなさい。私は見ての通り魔法が得意よ、かかってきなさい!」
 「はい!」

 ザっと二人は距離を取り俺がファムに木剣を投げると、不敵な笑みでしっかり空中でキャッチし構える。
 戦いに必要なのは技術。
 だが、それ以上に度胸と自信が大切だ。あまり過剰でもまずいが、ファムはメギストスに一撃を加えることができたおかげで以前よりぐっと自信がついた。

 それはグェラ神聖国からここへ戻ってくるまで魔物と戦うことが多かったのだが、ファムの動きは確実に良くなっていた。
 
 「メモリー、手加減無しでいいぞ」
 「本気? ……なら――」
 「行きます……!」
 「おっと、せっかちね!」

 先制はファム。
 盾を前にし、肩口を目掛けて振り下ろす。メモリーは杖でそれをブロックし、眼鏡を直しながら杖に魔力を収束させる。

 「<ライティング>」
 「ん!? 眩しい!?」
 「とか言いながら避けるのね、面白い!」

 魔法の上手い使い方。流石は【樹王】。杖の一撃も鋭いが、ファムは勘で身をかがめてそれをやり過ごす。
 そのままファムは目を瞑ったまま足を刈りとろうと横薙ぎに振る。

 「っと、下がれば当たらないわよ<アースバインド>」
 「わわ!? 草が絡みついて――」
 「<グラスニードル>」
 「!?」

 髪の毛を数本抜いて魔法を唱えると、髪が手首くらいの太さになりファムへ放たれる。

 「なんの! とう!」
 「飛ぶのは悪手ね<ウッドトマホーク>」
 「ふえ、そんなところから!? た、盾を!」
 「足元が危ないわよ?」
 「すっぽり!? ……なんの! <ファイヤーボール>!」
 「お!」

 ファムが迂闊にジャンプ斬りの技であるハヤブサを繰り出す。が、メモリーの髪から飛び出した斧をしっかり防御。
 しかし着地地点に作られた落とし穴に困惑するファム。
 
 だが、意外なことにファイヤーボールの爆風でそれを回避し、その反動でメモリーに突っ込んでいく。

 「やああああ!」
 「いい判断だけど、強敵はもう一手先を行くわ。常に先を読むのよ! <サイクロン>!」
 「いやあああああ!? ふげ……」
 「そこまでだな」

 ファムはオリハルコンの支柱にぶつかり涙目になる。
 痛みが無ければ強くなれないと考えているので、ぶつかること際に助けない。
 とりあえず勝負がついたので、俺はファムに回復魔法をかけつつ抱き起す。

 「ありがとうございます!」
 「痛いところは無いか?」
 「大丈夫ですよー!」

 「……ふーん、大事にしてるんだ? それは義務? 道具だから?」
 「え?」
 「なにを……」
 「まあ、それはいいや。にしても、ファムちゃんは強いわ、確かに大魔王に匹敵する力が手に入るかもしれない」

 メモリーがふっと表情を緩めてファムを褒めた後、俺に真顔で尋ねてくる。

 「感情の揺さぶりはプラスにもマイナスにもなるからそれだけに左右されないようにね? 例えばこうしたらどうする?」
 「……!」
 「きゃあ!?」

 メモリーがファムに手を伸ばして人質にすると、首筋に斧を当てて不敵に笑う。
 どういうつもりだ……?


 ◆ ◇ ◆

 ――大魔王城――

 「ぐぬう……」
 「如何されましたか?」
 「ヴァルカンとメモリーがザガムの屋敷に着いたんだけど、楽しそうなんだよ! 私はめちゃくちゃ恨まれているのに!」
 「まあ自業自得ですし……混ざってくればいいじゃないですか」
 「無理だよ!? ザガムを殺しかけて嫁さん連中には睨まれるだろうし、そもそも大魔王だってバレているしね!?」
 「諦めてください。……ほら、わたしの胸へどうぞ」
 「うう……マリーナ……」

 そこへ――

 「メギストス様、今よろしいですか?」
 「なにかね」
 「変わり身が早い」

 すぐに玉座に座り直したメギストスが招き入れると、入って来たのは鳥の頭をした【天王】マルクスだった。

 「どうだった?」
 「ユースリアと行ってきましたが不気味でしたね。あの周辺の海域は生物が死滅しているのを発見したそうです」
 「……ふむ」
 「俺も空から見ていましたが、島全体が、その、生きているような感じを受けました」
 「なるほどね、偵察ありがとう助かったよ」
 「なぜ極北を? 今までそのようなことは言っていませんでしたが……」
 「ま、他にも移住するところがあったらいいじゃないか。ザガムは魔族領を拡張したいって言ってるしね」
 「は、はあ……」
 「ヴァルカンとメモリーが帰ったら今度は君にザガム討伐を頼むよ。それまで待機で」

 マルクスは言われるがまま、謁見の間を退出する。
 
 「……一体なにを考えておられるのだ大魔王様は……義理の息子であるザガムを殺しかけて……むう……」
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