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第七章:荒れる王都

その112:最強は誰だ

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 「うわああああ……!?」
 「今のはファムの叫び声……一階ホールか……!」

 俺は庭に入った瞬間聞こえて来たファムの声を頼りに場所を突き止める。
 この屋敷には多人数のパーティに使える大きなホールがあり、そこへ駆けだす。

 まさかこのタイミングで奇襲をかけてくるとは思わず、油断したと言わざるを得ない。一か所に集めて人質にでもするつもりか?
 あいつは、【炎王】ヴァルカンはアホだがそんなことをするヤツではない。しかしメギストスに忠誠を誓っているので、命令されれば定かではない。

 「ぎゃあああああ!?」
 「今いくぞ……!」

 さらに悲鳴が聞こえ、俺は窓から直接乗り込むことに。
 いや、ちょっと待て、最後の悲鳴はヴァルカンじゃなかったか?

 派手にガラスが割れ、中腰で着地をし、すぐに周囲に目を凝らすと――

 「うわ、びっくりした!?」
 「あれ? ザガムさん! どうして窓から? お友達が来てますよ!」
 「ダイナミック帰宅とはやりますねザガムさん!」

 驚くルーンベルに、いつもどおりのファム。よくわからないことを言うイスラは放っておくとして、俺はある場所に目を向ける。

 「……ヴァルカンに加えてお前も居るとはな、メモリー」
 「はぁい、お邪魔してるわ」

 【樹王】メモリーまで居るとは。
 そしてヴァルカンはというと――

 「うぐお……!? またジョーカー!?」
 「あははは! ヴァルカン兄ちゃん弱いー!」
 「そんなはずはねぇ! 俺は【王】だぞ……! ああ!? メモリー、お前ジョーカー避けるんじゃねぇよ!?」

 ――トランプ片手に悶絶していた。

 「……どういう状況だ?」
 
 俺はさっと窓ガラスを掃除しに来たメリーナに尋ねると、彼女は珍しく困った顔で口を開く。

 「えっとぉ、ザガム様が出て行った後トランプで遊んでいたんです。で、コギーちゃんとクリフさんが尋ねて来たんですけど、その時なんでかお二人と一緒に居てミーヤが招き入れたんです」
 「ほう。そのミーヤは?」
 「不用意に招き入れたことに関することでイザールさんが連れて行きましたぁ」
 「分かった」

 正直わからんことの方が多いが。

 俺はジョーカー抜きをしているヴァルカンの背後に立つ。
 このゲームはポーカーフェイスができなければ勝つのは不可能。
 もちろんこいつにそれが出来るはずもなく、

 「ぐあああああ!? 何故だ……」

 余裕で負けた。

 「はい、私の勝ちです! ヴァルカンさん全敗ですね!」
 「全敗……ぷー!」
 「う、うるせえぞ小娘ども! お、帰って来たのかザガム! ここは女ばかりで居心地が悪い」
 「む」

 来るか?
 俺が身構えると、ヴァルカンはゆらりと立ち上がり口を開く。

 「お前、俺の隣に座れ。お前が俺からカードを引く側だ。絶対にジョーカーを引かせてやる……!」
 「お前は何しに来たんだ?」
 「わーい、やろうやろう! でもヴァルカンお兄ちゃんはまた最下位だと思うけど」
 「クソガキが、絶対泣かせてやる! おら、さっさと配れ!」
 「……本当に何しに来たんだ? メモリー、説明をしろ」
 
 アホがコギー相手に熱くなって話にならないのでメモリーに尋ねてみる。
 すると、メモリーのやつは眼鏡をくいっと上げてから言う。

 「……私に勝ったら教えてあげるわ!」
 「メモリー姉さんかっこいい! 今度は負けませんからねー」
 「ふふふ、かかってきなさいイスラちゃん!」
 「なぜ馴染んでいるんだ? おい、説明をしろ」
 「ほらザガム、あんたの番よ」
 「む、これだ」
 「チッ、運のいい野郎だ……」
 「あ、ヴァルカンさん持ってますね」
 「持ってるわね」
 「うおおおお何故だぁぁぁ!?」

 ◆ ◇ ◆

 「……」
 「10戦10敗か、お前らしいなヴァルカン」
 「元気だしなよヴァルカンお兄ちゃん。こういうこともあるって」
 「やめとけコギー、目が死んでおるわ」

 クリフ爺さんにも勝てず、ヴァルカンは真っ白に燃え尽きていた。
 たまに俺がヤツからジョーカーを引くが、巡り巡ってまたヴァルカンへ。
 そもそもヴァルカンの隣にメモリーが居るので、こいつが勝てる道理が無いのだ。

 トータル勝者はルーンベル。
 ルーンベルとメモリーはなかなかのイチ抜け率を誇るが、一歩ルーンベルが勝っていた。次いでファムとコギー、俺とイスラという感じだ。
 賢いが感情がむき出しなイスラにこのゲームは難しかったのかもしれない。

 「ぐぬぬ……この大魔法使いたるわたしが……」
 「あー、面白かった。これ、他のゲームは無いの?」
 「ポウカーとか大貴族ならこの人数で出来るかしらね」

 ルーンベルが華麗にカードをシャッフルする中、メモリーが問う。
 とりあえずようやく小休止したのだ、俺は改めて二人に聞くことにした。

 「……それでヴァルカンにメモリー、お前達はなにしにきた? だいたいわかるが言え」
 「ハッ!?」
 「あ、蘇った」
 
 コギーに突かれていたヴァルカンが目を覚まし、俺に怒りの表情を向けてくる。
 
 「俺達はだいま――」
 「いかん」
 「ぐほ!?」
 「ちょ、ちょっとザガムさん、お友達に膝蹴りはまずいですよ!?」

 いきなりの攻撃にファムが本気で驚き慌てて俺の服を引っ張ってきた。
 よく考えたらファムやクリフは俺が冥王だということを知らないのだ、ファムには俺から話すとしてもコギーやクリフにばれて言いふらされても困る。

 「や、やりやがったな!?ぶっころ――」
 「ザガム様、お食事の用意が出来ましたが、どうしますか?」
 「――してやるのは飯を食った後だ!」
 「ということだイザール。今から行く。ファム達は先に行ってくれ、俺はこの二人に用がある」
 「はーい! コギーちゃん行こう」
 「いいの?」
 「食っていけ。クリフも」
 「おうおう、賑やかな食事になりそうじゃのう」
 「ヴァルカンお兄ちゃん先に行ってるよー」
 「お、おう」

 ファムとコギーが連れ立って出て行き、俺とヴァルカン、そしてメモリーだけになる。

 「で、どういうつもりだ?」
 「どうもこうもねえ、裏切り者を始末しに来たんだよ。わかってんだろ?」
 「まあ、大魔王様の命令ってやつよ。でも、ま、結構楽しそうじゃないのー。人間の嫁三人って向こうにいたころのザガムから想像できないし」
 「それはいい。俺の嫁と分かっていながらどうして仕掛けなかった? 今のファム達なら殺れたはずだ」

 俺が目を細めるとヴァルカンは大きく手を広げて笑う。

 「馬鹿言うな、目的はお前だ。……それにガキなんざ殺したら寝覚めが悪くて仕方ねえだろうが」
 「……まあ、そうだな。ならどうする、やるか?」
 「そうだな……」

 ヴァルカンがスッと目を細め、メモリーが不敵に笑う。
 まずは外に押し出してから本格的な戦闘をするか。幸い、庭は広いしな。
 俺がそう覚悟を決めた瞬間、ヴァルカンが動いた。

 「とりあえず飯を食おうぜ……頭を使いすぎて腹が減っちまったよ俺ぁ」
 「人間の領地にある果物が楽しみね」
 「……」

 どうやらご相伴にあずかるらしい。
 ……本当に何しに来たんだこいつら……。

 まさかこの俺が呆れるとは、思わなかった。
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