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第六章:『神霊の園』

その102:聖女

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 「お前達、大丈夫か?」
 「あ、ザガムさん! はい、もう大丈夫です!」
 「色々危なかったけど……なんとかね」
 「新しい扉が開くところでした」
 「なぜキリッとしているんだイスラは?」

 落ち着いた様子の三人は部屋に入った俺を見て元気に返事を返してくれた。
 見たところ後遺症も無さそうなのと、他の女たちも徐々に回復傾向にあるらしいので一過性の薬と見ていいだろう。

 「良かったわねー」
 「あれ? ユースリアさん? どうしてここに?」
 「屋敷を尋ねたけど居なかったから追いかけて来たのよ」
 「あー、タイミングが悪かったかもですね、ごめんなさい」
 「いいのよ、ファムちゃんのせいじゃないし」

 そこでふと、ファムが俺達の後ろに立つメギストスを見て首を傾げる。

 「えっと、そちらの方は? ユースリアさんの彼氏さん、ですか」
 「絶対に有り得ないから二度と言わないでね?」
 「ひぃ、ユースリアさんが怖い」
 「酷いじゃないかユースリア……パパに向かって」
 「誰がパパよ。はあ……この人はフェルディナント。ザガムと私の父よ」
 
 そう紹介したのは事前に打ち合わせてあったからだ。
 一応、ファムにはユースリアと姉弟と話しているからな。

 「ええ!? お、お父様ですか!?」
 「……マジ?」
 「そうだよファムちゃん! いやあ、可愛い娘ができて私は嬉しいよ! そっちはルーンベルさんに、イスラさんかな? みんなザガムの嫁だと聞いているよ」
 「わたしなんか含まれてる!?」
 「すまん、少しだけ我慢してくれ」

 ルーンベルとイスラが驚愕の表情を浮かべている中、ファムは満面の笑みでメギストスと握手を交わす。

 「初めまして、ファムです! ザガムさんにはお世話になりっぱなしですけど……」
 「いいんだよ、あの仏頂面についてきてくれるだけでパパは嬉し――ぶべら」
 「ああ、すまん、手が滑った」
 「ダメですよザガムさん!?」
 「ザガム、ちょっと……」

 メギストスを全力で殴って吹き飛ばすとファムがびっくりして駆け寄り、その間ルーンベルに引っ張られる。
 
 「ねえ、あんたの父ってまさかとは思うけど……」
 「ああ、恥ずかしい限りだがあれが大魔王メギストスだ」
 「……!?!? ちょ、なんでこんなところに居るんですか!?」
 「わからん。先日【霊王】と戦った時になにか聞いたのかもしれない。ユースリアは【海王】だしな」
 「え!? ユースリアさんってそうなの!?」
 「言ってなかったか」

 ルーンベルが青い顔で振り返り、鼻血を出して笑うメギストスを見てため息を吐く。イスラは泡を吹いて動物がよくやる服従のポーズをしていた。

 「おい、パンツが見えているぞ」
 「この状況でそんなこと気にしている場合ですか!? 大魔王ですよ? 下手に刺激して殺されたり犯されたりするんですよ!?」

 声を荒げながらひそひそするという器用なことをするイスラに、俺は少し考えてから口を開く。

 「あいつは胸の小さい女は好みじゃないから大丈夫だろう」
 「心が痛い……!? いっそ殺せ……」
 「私は危険じゃない。……って、そうじゃなくてなんで来てるのよ」
 
 ルーンベルが至極当然の疑問を投げかけてきて、俺は頷く。
 ただ、真の目的は恐らくはぐらかしているだろう。

 「分からん。嫁を見たいなどと言っていたが、勇者の力がどの程度あるかという偵察みたいなものだろう」
 「……ならファム、危ないんじゃ」
 「ヤツがそういうつもりなら、その時はお前達を全力で逃がす。俺ではまだ勝てないが足止めはできる」
 「あんたが足止め程度って……どんだけ強いのよ……」
 「どうしたんですか? 皆さんひそひそして?」
 「わあ!?」

 突然ファムがひょっこり現れ、ルーンベルとイスラが驚いて飛びのく。
 俺はファムの頭に手を置いて言う。

 「なんでもない。とりあえず親父のことは後だ、聖女に話を聞くぞ」
 「そうですね!」
 「まあ、今は仕方ないか……」
 「こっちですにゃ。今はメリーナが付き添っていますのにゃ」

 俺達はミーヤの案内で、聖女が休んでいるという部屋へ向かう。
 聖堂とやらを通り、先へ進むと豪奢なベッドのある場所へと到着した。
 
 中へ入ると、聖女がおれたちに目を向けベッドから出て迎えてくれる。

 「あ、お待ちしておりました! この度は大変申し訳ありませんでした……改めて自己紹介させてください、聖女のクラフィアート=ルディウスです」
 「ザガムだ。Bランク冒険者をやっている」
 「ファムです! 一応勇者をやっています!」

 何故か俺の真似をして返事をするファム。
 メギストスとユースリアを除く他の者もそれぞれ自己紹介をすると、聖女が語り始める。

 「……あのヴァラキオンという魔族に憑かれてから7年になります。私は当時、16歳で聖女となって1年ほどのことでした」
 「……きっかけはなんだったんですか?」
 「それは突然でした。ある日、いつものお布施をもらって回復魔法で治癒するお仕事が終わった時、部屋で彼が待っていて、間髪入れずに体を乗っ取られたのです。疲れていたところを突かれたというわけですね。あ、突かれたと言っても襲われたわけじゃありませんから処女です」
 「え、ええ、それはいいですけど……それで?」

 そこからはヴァラキオンが自分に都合のいい施設へと『神霊の園』を作り変えて行った話をしていた。
 しかし、話を聞く限り、ヤツが女たちを食い物にしてたかったのだと思っていたがどうやら違うようで、

 「快楽から得られる力を集めているようなことを言っていました。『完全体まであと少し』。ヴァラキオンはそういって股間を濡らしていました」
 「ちょ」
 「それで?」
 「そのため娘達が犠牲になり、慰み者に……というわけです……本当に申し訳ありません……」
 「指! 輪っか作って人差し指を入れないでください!?」
 「え? ああ、無意識に……てへっ、いけないいけない♪」
 
 イスラが叫び、舌を出しながら自分で拳骨を作り頭を小突く聖女。

 「だから! 人差し指と中指の間から親指を出すなぁぁ!」
 「うーん、まだ憑かれているのかしら……?」
 「逆にえっちな感じになったような……」
 
 ルーンベルやファムが呆れた顔で笑う中、聖女は手を合わせて続ける。
 
 「とりあえず、この施設は元の通り聖女育成施設に戻します。その、恥ずかしいですがズッコンされた娘たちはケアをしつつ解放していくことになると思います」
 「言い方」
 「本来なら私も罰を受けねばならないのですが、次代の聖女が現れるまではしばらく懺悔をしながら務めさせていただきます。クリ上がりで出てくればいいのですが、今はそれどころじゃないですからね」
 「うん……いちいち卑猥に聞こえるのはどうしてかしらね……」

 ルーンベルが疲れた顔で首を振る。
 なんだかよく分からないが、今後の指針として施設内の浄化を図り、施設内従事者は女性のみにするのだという。
 まあ、俺としてはルーンベルがそれで良ければそれでいいのだが。

 「そういえば友人には会ったのか?」
 「あ、うん。まだ綺麗なままだったわ。ありがとうザガム。……数人はどこへ行ったかわからないけど、ね」
 「それについてもできるだけ捜索するように手配します」
 「本当ですか!」
 「良かったですね、ルーンベルさん」
 「ふむ、ヴァラキオンはなにが完全体になるか言っていたか?」
 「いえ、そこまでは……なにか主のような人が居る感じのくちぶりでしたが……すみません……」

 そういって頭を下げる聖女。
 結局、メギストスが殺してしまったせいでヤツについては何一つ知ることができなくなったわけか……。

 
 ――とはいえ、ひとまず『神霊の園』の件はこれで片付いた。
 
 変な女だが仕事はこなしてくれそうなので、これから大変だろうがそれをもって罰と考えるべきだろう。

 さて、問題はこっちか。

 俺はニヤニヤと笑いながら黙って様子を伺っていたメギストスに目を向けてどうするかを思案する。
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