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第六章:『神霊の園』

その101:大魔王メギストス……?

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 急に現れたメギストスに驚愕する俺。
 まさか人間の国に現れるとは……というよりどうしてここに居ることが分かった?
 するとそこで聞きなれた声がメギストスの後ろから聞こえて来た。

 「い、いきなり殺すのはまずいのでは? 情報を持っていたかもしれないですし……」
 「ユースリア? お前も来ていたのか……どうしてこいつと一緒にいる?」
 「はははは、嫌だなあザガム。ユースリアは私の部下だよ一緒でもおかしくないだろ?」
 「そうだな、どうしてお前がここに居るのかも重要だな……!」
 「あ、痛い、痛いよザガム。剣で頬を突くのはやめてくれ」

 相変わらず面の皮が厚い。結構本気で押し付けているのだが薄皮一枚剝げやしない。

 「まあいい。とりあえずこの魔族、ユースリアやイザールは知っているか?」
 「……」
 「イザール?」
 「ハッ!? い、いいえ、存じ上げあげませんぞ!」
 「私も初めて見るわね。ザガムよりは弱いけど、ほかの【王】くらいは強いんじゃない? メギストス様は」
 「え? 知らないよこんなやつ」

 あっさり言い放つメギストス。
 俺は胸倉を掴んで詰問してやることにした。

 「こいつはハッキリ『大魔王の側近』だと言っていたぞ。知らないはずがないだろうが」
「そう言われてもねえ? 私の部下は【王】達を含めても魔族領に居る者が基本だ。ああ、ザガムはもう部下じゃないよ?」
 「それは別にいい。何故ここに――」
 「ザガム様、お話は後にしましょう。今は事態を収拾せねば」
 「む……」

 イザールの指し示す方向には『神霊の園』の兵士たちが中庭に入ってくる様子だった。仕方ないかと俺は魔族の体を持ち上げて兵士たちの前へ出る。

 「……聖女はこの魔族に憑りつかれていた。司祭ヘッベルも拘束してある。お前達はもう終わりだ、この施設は解放させてもらう」
 「な、なんだって……?」
 「聖女様に魔族が? ヘッベル様はそれを知っていたのか?」

 困惑する兵士たちをよそに、俺は適当な魔法で力を誇示する。
 即座に勝てぬ相手をみた奴らは事態の収束に尽力することになった。
 まあ、騙されていたとはいえ、女性に姦淫したことは間違いないので、罰は与えるべきだろうな。

 「……俺は仲間の様子を見に行くが、お前達はどうするつもりだ?」
 「そりゃついていくよ。君の嫁さんを見たくてここまで来たんだし」
 「ユースリア……」
 「ぴゅ、ぴゅーぷすー♪」

 俺が睨みつけると、ユースリアはそっぽを向いてへたくそな口笛を吹く。
 遊び半分で来ていたのか……
 とりあえず兵士たちの鎮圧とヘッベルを捕まえたことの証明をするため施設内を巡り巡った。

 ――結局、目を覚まさなかった聖女や、催淫されたファム達の容態が回復するまで動くことはできず、聖女が話をできるようになるまで待機になった。

 その間、俺はメギストスやユースリアといった魔族だけを集めて会議をする。

 「とりあえず知っていることを吐くか、大人しく帰るか選べ」
 「嫁に合わせてくれたら帰るよ」
 「……!」
 「痛い!? 痛いよザガム、お義父さんになってことをするんだ」
 「おやめくださいザガム様!? いつも冷静なのにどうして大魔王様の時は荒ぶるのです」
 「ええい、離せイザール。やはり生かしてはおけん」
 
 痛いといいつつ、俺の拳に涼しい顔で肩を竦めて首を振るメギストス。
 これだけ強いのになにもしないこの態度が気に入らないのだ。
 
 「……お嫁さん、勇者なんだって? 協力して私を倒すつもりかい? なら、さっきの魔族みたいに殺しちゃおうかな」
 「貴様……!」

 聞き捨てならないことを笑顔で言い放ち、俺は全力で拳を振るう。しかし、手ごたえは無い。

 「チッ」
 「ふふ、残像だよ。まだ未熟のようだし、摘むなら今の内だろう? 私だって死にたくはない。だけど、可愛いザガムのためだ、条件をつけようじゃないか」
 「……」

 何日以内に自分を倒せ、か? それとも俺の手でファムを殺せとでも言うのか?
 次の言葉を待って構えていると――

 「私を結婚式に呼ぶこと! それなら見逃してあげようじゃないか」
 「……なにを言っている……」
 「いや、だって絶対呼ばないでしょザガム」
 「呼ばん。というか、ファムには大魔王を倒してから結婚すると言ってあるから、どのみち無理だぞ」
 「そりゃないよ……!? 手塩に育ててきたザガムの晴れ姿を見たかったのに……」
 「お前、俺に倒される自覚があるのか?」

 さめざめとウソ泣きをするメギストスに問うと、ニヤリと笑って顔を上げる。

 「もちろんさ。それはそれで息子の成長が嬉しいからね。とりあえず【霊王】から聞いたけど、笑うようになったんだって?」

 急に話を変えられ訝しむ。
 笑う、か。そういえば楽しいと思ったのは初めてかもしれない。

 「ん? ……自覚はないが、さっきヴァラキオンと戦っていた時は楽しかった、かもしれん」
 「うんうん、いい傾向だ。やはりお嫁ちゃんの効果かねえ。イザール、どう思う?」
 「はっ……いや、それはあるかと思います……はい……」
 
 何故か顔色の悪いイザールがしどろもどろに応えていた。
 俺につくということはメギストスを裏切ったのと同義なので、焦っているのかもしれない。

 「メギストスさまぁ、ファム様達に手を出すならみんなで戦いますからねぇ?」
 「ほう、それほどかメリーナ。というより『達』とはどういうことかね?」
 「三人お嫁さんがいるからですぅ♪」
 「おい、止めろメリーナ」
 「おおおお!あの仏頂面で愛想もクソもないザガムに三人も女の子が! うん、やはりもう少し様子を見よう。……後は勇者の力を覚醒させれば――」
 「おい、今なんと言った?」
 「いや、なんでもないよ? いやあ会うのが待ち遠しいなあ」

 くそ、面倒くさい……ユースリアのやつをとっちめねば気が済まない。
 そんな話をしていると、見張り役をやってくれていたミーヤが入って来た。

 「ザガム様、皆さん意識を取り戻しましたにゃ」
 「……そうか、聖女は?」
 「お話がしたいそうですにゃ」
 「分かった、案内してくれ」
 「わくわく」
 「ついてくるな」
 「父に挨拶させてくれよー」
 「相変わらず仲がいいですにゃ」
 「うるさい」

 結局押し切られ、俺達は聖女の休んでいる聖堂へと向かう。
 見知らぬ魔族を倒したあの日より二日後のことだった。

 ……そういえばはぐらかされたがあの魔族の話を聞いてないな。メギストスの態度では知っているとおもうのだが。
 
 まずは聖女の話を聞くとするか――
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