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第六章:『神霊の園』

その97:潜入! 『神霊の園』

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 ――『神霊の園』内部――

 「クラフィアート様、本日は護衛もつけずどうなされましたか?」
 「この施設に不審者が来るということをお伝えに来たのですよ、ヘッベル」
 「不審者……?」

 ザガム達がまだ山を越えているころ、クラフィアートはすでに施設へと到着していた。
 
 「ええ、逃亡したルーンベルがこの施設の重要情報をもって謁見にやってきました。捕えようとしたのですが、なかなか手練れがいましてね」
 「なんですと!? 色香で見張りをおびき寄せて気絶させた後、ボヤ騒ぎを起こしてこの施設の隠された秘密が書かれた資料を持ち出して脱走したあのルーンベルが現れたのですか!?」
 「ええ。一応、焼いて捨てましたがこの施設に関する資料を持っていましたよ。……その報告は受けていませんでしたが?」
 「も、申し訳ありません……罰が下ると思い隠蔽しておりました」
 
 ヘッベルは脂汗を噴出しながら弁解する。
 下手に言い訳をしても仕方がないとの判断だったが、それは正しかったようで、

 「素直でよろしい」
 「ぐが……!?」
 「その粗末なイチモツをしばらく使えなくするくらいで許して差し上げましょう」
 「あ、ありがとう……ござ、います……」

 クラフィアートは立っているヘッベルに近づくと、股間に膝を入れた。
 泡を吹きながらヘッベルが崩れ落ちると、クラフィアートは満足気に微笑み話を続ける。
 
 「わたくしもしばらく滞在します。厳重な警戒を行うように」
 「は、はひ……。すぐに……手配をします。そ、それにしても乗り込んで来ますかね……?」
 「来るでしょう。友人なども居たようですし。5年前にこの施設を凌辱の園に変えたのはわたくしですし、責任をもって排除いたしますわ」
 「ははー……聖女様自らとは有り難き幸せ……」

 ぴょんぴょんと跳ねながらうやうやしく頭を下げるベッヘルに、そういえばと質問を投げかけた。

 「次代の聖女は決まりそうですか?」
 「ルーンベルほどの逸材はおりませんな。まあ、それでも後継は出さねばなりませんので、二、三人は候補がおります。慰み者にされて奴隷に売られる可能性があるので必死ですよ」
 「そうですか。聖女は処女でなければ務まりませんので、欲望のはけ口ばかりに気を取られぬように」
 「御意にございます。それではただちにネズミを捕える網を仕掛けます」

 ベッヘルはそう言って退出し、残されたクラフィアートは目を細めて微笑む。
 
 「……くく、この施設は無くさんよ。人間牧場として永遠に搾取し続けるのだ。あのお方もお喜びになる――」


 ◆ ◇ ◆

 
 「どうだ?」
 「……ダメね、私が使った抜け道は塞がっているわ」
 
 急な坂道に隠されていた扉を開いた先はルーンベルが脱走した地下通路……非常口。
 ……だったらしいが、現在そこは扉が残るだけで裏は土を盛られていた。

 「三年も経っていたら当然かもにゃ」
 「痕跡を消す余裕は無かったからね、となると正面からか他に通路がないか探すしかないんだけど……」

 周囲を見渡しながら呟くルーンベルにファムが土壁をつつきながら口を開く。

 「それにしてもよく逃げ出せたましたよね。私なら諦めちゃそうです」
 「色々策は考えてたもの。まず、巡回する見張りに色目を使っておびき寄せたわ。で、武器を手放したところで昏倒させ、鍵を奪ったその足でもぬけの殻になっていた詰所に火をつけてやったの」

 豪快な手を使ったものだと感心していると、ルーンベルは続ける。

 「それだけじゃすぐに追いつかれると思ったから夜食の鍋に下剤を投入して地下へ、って感じね」
 「やりますねえ」
 「あはは、結構余裕あったんじゃ……」

 イスラが顎に手を当てて頷く横でファムが苦笑していた。
 しかし、尻を糞尿まみれにしたまま追いかけるのは難しいので頑張った方だと思う。
 そこでイスラが肩を回しながら笑みを浮かべて壁に向かった。

 「では、ここはわたしが。ザガムさん、扉をひっぺがしてもらっていいですか」
 「……これでいいか?」
 「どうするの?」
 「ファムちゃんとルーンベルに追われている時に使った魔法を応用すれば行けるかと。<ディグアース>」
 「おおー」

 ファムの歓声と同時に埋められた土壁にぽっかりと穴が開いていく。
 なるほど、魔法使いとしての腕はいいらしい。
 程なくして通路までの穴が開き、侵入に成功する。

 「これからどうするんですか?」
 「やることは二つ。女達の解放と、施設運営者の討伐だ。その後はここを破壊しつくして二度と使えなくすればいい」
 「ありがとうザガム。彼女たちの部屋は恐らく変わっていないだろうから、私が案内するわ」
 「運営している人間はどこにいるか分かるか?」
 「……上層階は私達じゃ入れないから、ごめん、司祭連中の居場所まではわからないわ」

 ルーンベルが首を振る。
 まあ、施設破壊時に嫌でも顔を出すだろうからそこは気にしなくてもいいか。
 
 しかしその時――

 「……」
 「ザガムさん?」
 「急ぐぞ、聖女も来ている。恐らく探知された」
 「え!? だ、大丈夫なんですかそれ!」
 「知らん。ともかく行くぞ」
 「そうね、こっちよ!」

 ルーンベルが走り出し、俺達も後を追う。

 「ルーンベルと並走する。他は後ろについてくれ」
 「承知しました。わたくしめはしんがりを務めさせていただきます」
 「イザールさん、危険ですよ!?」
 「ふぉふぉ、ファム様達をお守りするためです、お気になさらず」

 そんなやりとりを聞きながら奥にあった階段を昇り、先にあった鉄製の扉は内側から鍵を開けられるようになっていたので内部侵入まではそれほど難しくなかったが――

 「あ!?」
 「む!? なんだ貴様らは!」
 「おい、ヘッベル様が言っていた侵入者だ!」
 
 角の出会い頭に槍と剣を持った見張り男が笛を吹き、あちこちから金属の具足の音が響いてくる。結構な数だなこれは。

 「げ!? 見張りがなんでもこんなに多いのよ!?」
 「俺達より前にここに辿り着いて対応したんだろう。……はっ!」
 「ぐっ!?」
 「げぇ!?」
 「さすがザガムさん!」
 「目の前の敵は任せろ、追ってこれない程度に倒してやる」

 ルーンベルが頷き、指をさしながら前へ。
 さて、人間はこれでいいが聖女はどう動く?
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