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第五章:陰湿な逃亡者

その81:ギャンブラー・ザガム

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 「いよっし、フルハウスよ!」
 「くっ、相変わらずやるな」

 入店三十分。
 カードゲーム『ポウカー』で元手の1万ルピからすでに7万ルピの稼ぎを出していた。
 四つの記号……僧侶や騎士と言ったマークがあり、記号ごとに1から13の数字が描かれているカードと陰険な顔をしたピエロが書かれたジョーカーとやらを使って組み合わせを作り、手札が高い方が勝ちというシンプルなものだ。

 「面白そうですねー」
 「そうだな、これくらいなら俺達でもできるんじゃないか? ……俺も一口頼む」
 「お、ルーンベルの連れか。金があるなら誰でもいいんだぜ」
 「頑張ってくださいね!」
 「大丈夫?」
 「今、ルーンベルが手本を見せてくれたからな」

 いけそうならファムにも遊んでもらおう。
 そう思いながら席に着いてカードが配られるのを待つ。イカサマについてはイザールに監視を頼んでいるが、そういった素振りは無いらしいので、普通に楽しめるだろう。

 「さあ、コールするか、レイズするか決めてくれ」
 
 ふむ、手札は『1,2、3、5、11』で2と5が僧侶であとはバラバラ。先ほどから見ていると五つの数字がならんだ状態でストレートというものがあるそうなので、ここは4を狙うべきだろう。

 「一枚コールだ」
 「オッケー」
 「……」

 来たカードは9……後二回変更ができる。
 
 「二枚交換でお願い」
 「こっちは三枚だ」
 「む、俺も一枚頼む」
 「はいはいっと」

 ディーラーという職の男が不敵な笑みでカードを配る。この男に
 俺の手は……来たか、4。

 「フッ」
 「……私は降りるわ」
 「俺もだ」
 「なに? 勝負しないというのか?」
 「そうよー」
 「はは、ディーラーとして初心者指南と行こうか。一応、ベットしておくよ」

 ……少ない。
 ルーンベルと他二名が勝負を降り、ディーラーは少ない掛け金を提示する。
 これでは勝っても大して実入りはない。

 「オープン」
 「……ストレートだ」
 「おっと、こっちは2ペアだ。あんたの勝ちだな」
 「むう」
 「良かったじゃないですか勝てて!」

 ファムにそういわれるもこのモヤっとした何かが払しょくされることはない。
 そこでルーンベルが笑いながら説明をしてくれる。

 「ふふ、ザガムはいい手が来たって顔に出てるのよ。配られた手札はまあまあ、で、二回目の交換で笑ったでしょ」
 「……そうかもしれん」
 「ポウカーフェイスって言ってね、表情で相手のスキを突いたり、ブラフをかけたりするのよ。初心者だから仕方ないけど、慣れたら面白いわよ。あんたって殆ど表情変わらないから強いと思うけど」
 「ふむ」
 「ザガム様が笑うようになった弊害がここで……!?」
 「うるさいぞイザール」

 皆が言うには俺は笑うようになったらしい。
 実感はないが、昔から居るイザールやメリーナが言うのだからそうなのだろう。
 
 「ザガムさん眉を寄せたりしますもんね」
 「そうか?」

 どうやら俺も無表情ではないようだ。
 すると今度はファムが代わると申し出る。

 「次やりたいですー!」
 「はは、元気な娘だな。よし、初心者相手だ、みなよろしく頼むぜ」
 「問題ないぜ」
 「おう」

 そうして始まるファムのポウカー。
 配られたカードを後ろから眺めていると――

 「うううう……こ、こっち、いや、こっちかも……」
 「さぁてどうかしらねー♪ レイズ」
 「ああああ!? ルーンベルさん絶対いい手だぁぁあ!? で、でも行きます! 交換を!! ……ふひゅん……」
 「惜しいな」
 「ははは、そうだね」

 そしてオープン。
 ファムの手はワンペアに終わった。

 「あー、降りると思ったんだけどなあ。ハイカードよ」
 「おっと、俺は2ぺアで勝ちだな」
 「ぐぬぬ……」

 ルーンベルはブラフだったか。
 ディーラーと向かいの男が勝ち分を取り、場が緊張から解かれた。

 「ファムの泣きそうな顔で交換しないの。すーぐばれちゃうし、独り言も多いわ」
 「あうう……」
 「まあ、可愛いけど、やっぱり二人はギャンブルに向いてないわ。カード売ってるからそれを買って練習でもしましょう。……さて、もう少し稼がせてもらうわよ」
 「それじゃ私が入ろうかな?」
 「ひゅう……騎士団長様直々にかい。見回りだけじゃ?」
 「たまにはいいだろう?」
 
 すでに駆け引きが始まっているのか、ディーラーとエイターが不敵な笑みを浮かべて対峙する。
 ルーンベルもうっすらと笑いを浮かべて目を細めてエイター達を見ていた。

 「気迫が違うな」
 「いつものちゃらんぽらんなルーンベルさんとは大違い……」
 「うるさいわよ!? ……さあ、いざ勝負!」

 気合の入ったルーンベル達が一進一退の攻防を繰り広げ、勝った負けたを繰り返す。
 大勝りもあれば負けることもあるので、手持ち自体はそれほど派手に増えたりはしていない。いざという時の勝負で勘を働かせ、大負けがなく思わず凄いと思える。

 「今日はどれくらいやるんでしょうね?」
 「わからん。だが、これなら問題ないだろう」
 「うー、でもせっかく来たのに見ているだけなのも勿体ないですね。……ん? あれなんてどうですかね?」
 「ん?」

 ファムの指さした先には『ルーレット』と呼ばれる賭け事があった。
 近づいてみると、回るテーブルに数字が書いてあり、どこに入るか予測するもののようだ。

 「これなら表情は関係ないし、簡単じゃありません?」
 「悪くないな。やってみるか」
 「ザガム様、ルーンベル様が単独では賭け事をしないよう申されていましたが……」
 「大丈夫だ、あいつが満足するまで少し遊ぶだけだからな」
 「は、はあ……」

 ◆ ◇ ◆

 「くそ、もってけ盗賊!」
 「ありがと♪」
 「ったく、相変わらず運が強いな。……でも、またあの人に目をつけられるぜ?」
 「……それが狙いだからいいのよ」
 「あいつは強ぇ、やめときなって」

 ディーラーと一緒に遊んでいた男が渋い顔で私に忠告してくれる。だけど、わたしはどうしてもヤツを引っ張り出さなければならない。

 「ま、それはそれとしてエイターさんもやるわね、プラスになったんじゃない」
 「ルールくらいは知っているからね。……あれ? ザガム殿とファムさんは?」
 「そういえば――」

 嫌な予感がする。
 私は慌てて周囲を見ると、ルーレットコーナーに二人は、居た。

 「うあああん、また外れました……」
 「もう一度だ」
 「い、いや、お客様センスないんでもう止めた方が……」
 「金は……ある」
 「無いわよ!?」

 真顔でチップを出すザガムの頭を私は思いっきり引っぱたいた。
 ああ……イザールさんが見てくれていると思ったのに……


 
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