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第四章:魔族領からの刺客
その77:罰と勘違い
しおりを挟む「「ごめんなさい……」」
「うむ、大いに反省するのだ。では戻るとするか、ルーンベルけが人はいるんだったな」
「いや、そうだけど……この二人【王】なんでしょ? いいの?」
ルーンベルが正座している二人を見て訝し気な目を俺に向けてくる。ちなみにファムはミーヤが背負い、起きる気配はないのでこの会話は問題ない。
「あ、ルーンベル様はザガム様が【冥王】なのを知っているんですねぇ」
「色々あってな。イルミス、キルミスお前達はもう反省しているよな?」
「あ、はい……というかそこの人間の言う通り、これだけでいいの……?」
「死人が出ていたらもっと厳しい罰を与えるつもりだがな」
キルミスの言葉に俺が目を細めると、二人は両手を合わせて震えあがる。
次いでイルミスが口を開く。
「た、多分、大丈夫……です。アンデッドとアンデッドゴーレムにはリミッターをかけておいた、から」
「一般人はどうかわからないわよ」
「ほう……」
「や、やめろよ人間!?」
ルーンベルがキリっとした顔で有り得そうなことを口にするが、狼狽えぶりから手加減をしたのは本当らしい。
「まあ、帰ればわかることか。懲りたら俺に突っかかってくるのは止めるんだな」
「ザガム様、お待ちください!」
「ん? ああ、確か……ファルコンだったか?」
「ファイクルです!」
「惜しい!」
「ファ」しか合ってないから惜しいも何もないと思うが、ルーンベルを無視してファイクルに目を向ける。
「すまん、間違えた。で、なんだ? 責任をもって俺は治療に当たらねばならんのだが」
「あ、いえ、名前はどうでもいいのですが、ザガム様は何故人間の町に? 【王】を剥奪されたのはご存じですか?」
「さっき聞いた」
「近所のおばあちゃんレベルじゃないですか……。戻られないのですか?」
ファイクルが困った顔で俺に告げるが、知られてしまったのであれば隠す必要もないか。
「戻らない。メギストスのヤツが気づいているなら伝えろ。俺は必ずお前を倒すとな」
「な……!?」
「ええ!?」
「そんなことを……」
ファイクル、イルミス、キルミスと、控えていたその他大勢の魔族がどよめく。
「し、しかし、今まで勝ったことがないのに……し、失礼しました!?」
「気にするな、事実だ。だが、未知数ではあるものの勝てそうな要素を見つけた。だから次こそは倒す」
「……その娘たちですか? ザガム様が女性と一緒にいる、ということは苦手でも有用ということ……」
「いや、そういうわけでは……」
メリーナ達を見てなにかを納得するファイクルを諫めようとしたところで、
「嫁です。こっちで死にかけたのに能天気な顔で寝ている子もそうです」
「ルーンベル、なぜ嘘を吐く?」
そんなことを言いだした。
「なるほど……」
「お前も納得するな。別にお前は嫁になりたいわけじゃないだろ」
「さっきの強さを見てたら本能が」
「意味が解らん」
とりあえずルーンベルは無視してファイクルへ告げる。
「嫁云々は忘れろ。ともかく、そういうことだ。メギストスに報告するならしても構わない」
「お、大人の余裕……かっこいい……」
ゴクリと喉を鳴らすキルミスの顔が赤いようだが尻を叩きすぎただろうか?
だが、声をかける間もなくファイクルが敬礼をして俺に言う。
「承知しました! 大魔王様自ら来られない限りは多分問題ないと思いますし、適当に報告しておきます。お幸せに! 行きますよ【霊王】様」
「あ、ちょっ!?」
「……もう面倒だ、このまま連れて行ってもらおうキルミス。だが覚えていろ冥王! 僕達はこの屈辱を忘れない! 必ずまた強くなってリベン――」
「ザガムぅぅぅぅ! ああああああ……!?」
「おい、待てお前達。俺を殺してどうするつもり……行ってしまったか」
なにか二人して言いかけていたが魔族達含めてあっという間に空を飛び去って行ってしまった。
「フッ」
ただ、イルミスは懲りずにまた挑んでくるようなので強くなっていたら面白いかもしれない。
「ザガム様、今……」
「なんだ? 時間が惜しい、戻るぞ」
「はいですにゃ!」
「……結局なんだったの?」
それは俺が聞きたいが、まあユースリアあたりに聞けばいいか。
冥王モードを解いて町へ戻ると、傷ついた冒険者や兵士たちがそこら中に転がっており、戦いの熾烈さを浮き上がらせる。
手加減はしたと言っていたが、重傷者もいたので意外と人間を警戒しているのかもしれないな。
「ザガム! お前どこに行ってたんだ」
「ザガートか。む、怪我をしているな<ヒーリング>」
「ああ、サンキュ……って、今外から走って来たな? アンデッドも居なくなった……まさか」
「ああ、黒幕と戦ってきた。追い返したからもう大丈夫だ」
「……マジか……ああ、マイラを治してくれるかい? あいつ張り切りすぎちゃって」
「問題ない。お前達は屋敷に戻っていてくれ」
「わかりましたにゃ」
とりあえずルーンベル達を屋敷に戻り、俺は町中を駆けて治療をしていくことに。
夜明け前には何とか終わった俺は、城へ向かった――
◆ ◇ ◆
――数時間前
「ふうん……やっぱり冥王だったんだな。なら、あの強さにも納得がいく」
町へ戻って行くザガム達の後姿を見つめていたのは……騎士団長エイターだった。
伝令から大規模爆発の正体を探るように聞いてから移動していると、ファムたちの姿を見かけてこっそりついていったのだ。
結果、そこで見た光景は黒幕と思われる子供と、とてつもない存在感と戦闘力を見せたザガムだった。
会話の端々から彼が冥王であることを確信し、影でずっと状況を観察していたのだ。
「……さて、報告すべきか悩む事象だ。あそこまでこっぴどくやられていたらもう来ないとは思うけど、大魔王に知られているなら別の敵が来るかもしれない、か。子供でもあの強さだ、もしザガムがこの町を去ったら困るのは私達――」
キルミスの攻撃を軽くいなしていたが、あの攻撃一つ一つを自分が受けていたらギリギリ死なないが反撃の糸口は難しいだろうと冷や汗をかく。
だが、同時に使える情報も手に入れたのでエイターは顎に手を当てて考える。
「……相手は魔族だった。それと敵対していたのであれば大魔王を倒すというのは本当のようだ。仇がいるのは嘘だとしても、倒す理由が分からない。だが、これは陛下に話す材料としてはアリかもしれないな」
そう呟いてエイターはザガム達を追って町へと戻り、その足で城へと帰って行った――
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