上 下
76 / 155
第四章:魔族領からの刺客

その74:混乱する城下町

しおりを挟む

 「ええい、なんだこの数は! 魔法使いは騎士と兵士の援護をしっかりせんか! 落ちてくるアンデッドを蹴散らしておけよ!」
 「へ、陛下……その、騎士達に任せてもらえませんか……? 前線に出るのはちょっと……」

 エイターがザガム達の屋敷を出てすぐに城へ戻り、くつろいでいた国王アレハンドロが外の状況を確認して町へ出兵していた。

 もちろん騎士達が出て行くのは承知していたが、アレハンドロも装備に身を包み戦いに躍り出ていたのである。
 大臣のザップは引き留めようと一緒に出てきて巻き込まれた形だ。
 
 「一番後方に居るからいいではないか! 町の者は無事なんだろうな!」
 「伝令の話では、確認が完全に取れていないらしいですが、見つけた者は確保していることです! わわわ!?」
 「ふん! どうだ、ザップ。なかなかサマになっておるであろう」
 「は、はあ……しかし、これが陛下を狙う罠だったらどうするのです!?」
 「心配いらん。恐らくこれはそうではなかろう」

 自信ありげに空の魔法陣を見つめながらそう口にし、ザップが眉を顰める。
 
 「もし私が狙いなら直接城を攻めるだろうが、城には一匹たりとも来ておらん。町を混乱に陥れるか、他に目的があるか、だな」
 「な、なるほど……」

 ザガムに説教をされてから目が覚めたアレハンドロは色々と目先を変えて王として励んでいたりする。いつか必ずザガムを見返してやるという勢いだけだが、意外にも噛み合っていた。

 その時――
 
 「うお!? な、なんだ今の爆発は!?」
 「商店街通りか……? おい、そこの者、エイターを向かわせてなにが起こっているか確かめさせろ」
 「は、はい!」

 近くの兵士の首根っこを掴んで指示を出すと、スケルトンを倒して後退する。

 「ふん、一度戻るぞ。ザップが居ては戦いにくい」
 「も、申し訳ありません……」
 「まあ、いい」

 アレハンドロは下がりながら終わらない戦いに顔を顰める。

 「それにしても城下町を襲うとは何者だ……? 魔族が攻めてきたか? いや、ここを狙う理由は人間にしかないしな。それにしてもザガムのやつに私の雄姿を見せたかったな、あやつもどこかで戦っているか? ……あやつが居ればこの騒ぎはなんとかなるが……あ!?」

 さっぱり分からないが、屋敷を与えたザガムが戦ってくれるだろうと考えていたが――

 「まさか【冥王】の差し金!? だ、だとしたら私達は全滅……いや、でも、私を殺さなかったぞ……? えー……ザガムが冥王だとして……あいつの目的はなんなんだ……やっぱり違うのか……?」

 ◆ ◇ ◆

 「えい……! やあああ! ……はあはあ」
 「ファム様、無理をしちゃダメですにゃ。騎士さん達も展開したし、そろそろ戻ってもいいかもしれないにゃね」
 「そうね……<ターンアンデッド>! チッ、こっちは魔法人形……ゴーレムか、メリーナ!」
 「オッケーですぅ」

 メリーナが手刀で近づいて来たゾンビに似たゴーレム五体の首を刎ねて消滅させる。
 屋敷から出て数十分。押し返せてはいるが、ファムの動きが明らかに鈍ってくるのが見えてミーヤが戻ることを提案する。

 「だ、大丈夫、です……コギーちゃんの無事は確認できたけど、まだ敵は多いし……」
 「でもファムはもう限界でしょ? 訓練しているって言っても多数を相手にしている戦いはまだやってないから緊張で体力がもうないのよ」
 「うう……」
 「ルーンベル様の言う通りですよぅ。ここは一度屋敷に戻ってください、後はわたしとミーヤ、それとイザールさんで何とかしますから」
 「私もやれるわよ」
 「ルーンベル様はファム様の傍にいてくださいませぇ♪ 大丈夫、ザガム様も出たようですから」

 メリーナがそう言って微笑んだ瞬間、商店街の通りで赤黒い炎が噴きあがり、爆発を起こした。

 「い、今のなに!?」
 「ザガム様の魔法ですねぇ。ちょっと本気かも?」
 「……」

 ルーンベルが驚き、メリーナが説明をする横でファムが黙って体を震わせていた。

 「ちょっと、ファム大丈夫?」
 「や……」
 「「「や?」」」
 「やっぱりザガムさん戦いに出てました! 見捨てたりしてなかったんですね!」
 「最後まで話を聞かないからですよぅ。この様子だと黒幕を見つけたみたいですね。ではわたし達は戻っても――」
 「行きましょう皆さん! ザガムさんの応援に!」

 目を輝かせて拳を握るファムに、ルーンベルが呆れた顔で笑う。

 「いやいや、あんたもう体力ないでしょ?」
 「いけます……! あっちですね! 待っててくださいザガムさん……!!」
 「あ、ちょっと待つにゃ!? って、めちゃめちゃ蹴散らしてる!?」
 「あー、感情が振り切ったかしら……元に戻った時が怖いわね。ともあれ、一人にするわけにはいかないし」
 「ふふ、行きましょうかぁ。……ファム様、本当にザガム様が好きなんですねぇ……」
 「怖い目してるわよ!? と、とにかく行くわよ! ファム、まちなさーい!! もう、スケルトン邪魔よ!!」

 ルーンベルが黒い笑顔のメリーナから距離を置いてそう言うと、二人は頷いてファムの後を追うのだった。

 ◆ ◇ ◆

 「それそれぇ!!」
 「ふむ、なかなかの攻撃だな。並みの魔族ではないようだ」
 「強がっちゃって♪ あんたイケメンだし私のモノになるなら攻撃を止めてもいいわよ?」
 「子供の戯言に付き合っている暇はないんだがな」
 「馬鹿にして……! イルミス!」
 「ああ。<シャドウスナップ>」

 なるほど、二対のダガーで攻め立てる女児が前衛で攻撃を仕掛け、男児が魔法で援護か。
 俺の足に絡みつく漆黒の影がその場に俺を縫い付ける。

 「動きが止まった! 死んでちょうだい♪」
 「ふん」
 「ぐぐ……しつこいわね……。きゃあ!?」
 「ああ、だいたいお前達の力は分かった。俺を【冥王】だと知って襲ってきたのはどうしてか聞かせてもらおうか?」
 「言う必要があるとは思えないですけどね?」

 男児が不敵に笑いこちらの挑発には乗らずに返してくる。しかし、女児の方は不服なようで口を尖らせて俺に言う。

 「えー、いいじゃんイルミス! 名乗ってみたかったんだよね、私。よく聞きなさい! 私達の名前はキルミスとイルミス。大魔王メギストス様から直々に【霊王】の地位を与えられたのよ。あんたの後釜ってわけね」
 「ほう……」

 そういえばユースリアには容姿を聞いていなかったが、こいつらが新しい【王】か。確かに攻撃・魔力ともに申し分ないが……。
 とりあえず情報を聞き出すため、少し遊んでみるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...