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第四章:魔族領からの刺客

その73:冥王モード

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 「まだ落ちてくるか」

 空中に出た俺は地上と魔法陣を見比べながら一言呟く。
 
 「今なら干渉できるか? <黒炎《ブラックメギド》>」

 もう一度、ほぼ最大火力の魔法を魔法陣に打ち込んでみる。
 だが、落ちてくるアンデッドが数十体塵と化しただけだった。
 やはり首謀者を片付ける必要があるかと眼下に目を向ける。

 「……合流したようだな」
 
 奮闘するファム、ルーンベル、メリーナ、ミーヤが落ちていくアンデッドを倒していく。この程度の相手ならメリーナ達が居ればファムとルーンベルが死ぬことは無いので安心して首謀者を探すことができそうだ。

 「マイラ、焼き払え! ニコラとレティは足を狙って動けなくしろ!」
 「任せて<メガファイア>!」
  
  加えてザガート達冒険者もそこかしこに散っているのが見え、城からも兵士が挟撃を仕掛けているようだ。

 「酔っても戦うか、人間と言うのは律儀なものだ。さて、折角拠点の屋敷を手に入れたこの町が無くなるのも困るし、さっさと片付けるとしようか。……む」
 
 「だ、誰かー!!」
 「うわーん、怖いよー!!」
 「な、なんなんだ一体!? 騎士はなにしているんだよ!」

 移動中、商店街に子連れの親子や商人風の男がアンデッドに囲まれているところに遭遇する。

 「すまんな、首謀者を探す方が先だ」

 騎士達も駆けつけてくれるだろうからわざわざ俺が倒す必要もないだろう。
 もし、死ぬようなことがあれば――

 (なんでですか! このままじゃコギーちゃん達も死んじゃうかもしれないのに……もういいです!)
 (あんたって優しいけど、やっぱり魔族ってそうなのね? 自分のことばっかり)

 「……」
 
 先ほどのやり取りが俺の頭をよぎる。
 この町に来てから……いや、ファムと出会ってからよくモヤモヤとした気持ちになることが多いな……

 「……ファムに嫌われるのも困るか」

 良く分からないが、なんとなくあいつが怒ったり泣いたりするのを見たくない気がする。ヴァンパイア騒動の時の老婆について誤魔化したのはそういうことなのかもしれない。

 「自分のことなのによくわからんというのは、モヤモヤするものだな」
 「グェァェアア!?」
 「ガギギギ……」
 
 俺は急降下してゾンビとスケルトンを一振りで10体蹴散らし、人間達を庇うように降り立つ。

 「あ、ありがとうございます! レストランの帰りに襲われてしまって……」
 「気まぐれだ。他に人間はいるか?」
 「た、多分、俺達だけだ」

 親子を含めて四人か。
 上から見た感じだと正門方面が手薄だったな、そっちへ誘導すれば後は自分たちでなんとかできるだろう。

 「走れるか? 道を開ける」
 「ちょ、腰が抜けて……」
 「早く立て直せ。女と子供はどうだ?」
 「グァァァァ!」
 「うるさいぞ。<ギガファイア>」

 魔法で焼き尽くし、ブラッドロウで向かってくるアンデッド共を斬り伏せながら質問すると、

 「わ、私は大丈夫です……!」

 目の前の子の手を握り力強く答えたので俺は頷く。女の方が肝が据わっているなと考えていたところで、子供が口を開いた。

 「お兄ちゃん! 母ちゃんを連れて行ってよ! 僕は足が速いけど、母ちゃんは遅いんだ」
 「い、いいのよ、すみません助けていただいているのに……」
 「……いや、構わない。おい、どうだ」
 
 また脳裏になにかがよぎったが、それはすぐに打ち消され、男たちがよろよろと立ち上がりながら膝を叩く。

 「だ、大丈夫だ、行けますぜ」
 「よし、一気に道を開ける。俺が魔法を撃ったら走れ」
 「わかりました!」
 「いい返事だ」

 囲んでくる数が多くなってきたところなので、タイミングとしてはまずまずだな。
 さて、門に向けて放てば道が開き、家屋にダメージを与えない魔法がいいか。

 「<邪龍の息吹|《ファフニール》>」
 「「ええ!?」」

 左手を商店街の道なりにかざして魔法を放つ。
 直後、赤黒い龍の形をしたものが集まってくるアンデッドを根こそぎ消滅させる。

 「走れ、後続は俺がやる。これなら母親も走れるだろう」
 「すっげー! 超かっこいい!」
 「走りなさいビリー!」
 「うん! ありがとう兄ちゃん」
 
 俺に礼を言いながら先を走っていく親子に次いで、男たちも追いかけていく。
 
 「他は居ないようだな。少し夜が遅かったのが幸いだと思うべきか」
 
 しんがりを努めつつ、親子の前に立ちはだかる敵は簡単な魔法で潰し、止まらないようにする。

 「な、何者なんだ兄ちゃん……」
 「気にするな。横だ、気をつけろ」
 「お、おう」
 
 予想通り、進めば進むほどアンデッドが居なくなり、正門近くへとやってくる。
 道すがら魔法陣から降りてくるアンデッド達も消し飛ばしていたが、キリがないな。
 
 「ここからならどこかの家に匿ってもらうなりすればいいだろう」
 「あ、ああ、俺んちがそこだ、騒ぎが収まるまで居てくれて構わ――」
 「フッ」

 男がそういった瞬間、門が爆発して魔法がこちらに飛んでくるのが見え、俺は咄嗟に魔法の前へ踊り出て魔法を防ぐ。

 ……威力が高い。並みの魔族には撃てないレベルのものだ。人間……ではないな。
 門の方角から慌てた声と『馴染のある慣れた』気配が漂ってきた。

 「こ、子供……? ぐあ!?」
 「なんだ!? ま、魔族!? まさかこの騒ぎは……ぐはぁ……」
 「すぐ治療すれば治ると思うよ?」
 「あは♪ でも死んじゃうかもねー! ……だったら今、死んでも一緒かな?」
 「な、なんの……町には入れさせん……!」
 「んー、無・駄♪」
 「あ――」

 腹に穴をあけられた門番が子供の魔族へ剣を振るが、片手で受け止められ、空中へ放り投げられた。

 「バイバーイ! <ソウルエッジ>」
 「うわあああ!?」
 「さ、邪魔者は消えたし早速【冥王】を……ん?」

 子供が放った魔力でできた鎌が門番を刈る直前、俺が即座に回収してやる。傷は深いが、なんとなるか。
 
 「<ヒーリング>。おい、大丈夫か」
 「あ、あれ、俺……」
 「すまないが、そこの町人を護衛してくれるか?」
 「え? あ、ああ? け、怪我してたよな……。あ、あいつも助けないと!」
 「問題ない。とりあえずここから離れろ。アレはお前達の手には負えない」
 「わ、わかった……ってあんたはどうするんだ!?」
 「アレを止める。行け」
 「しかし……」
 「町の人間の援護に回れ。あちこちにアンデッドが蔓延っているぞ」
 「……!」

 門番は喉を鳴らし、振ってくるアンデッドと俺を見比べて緊急事態であることを悟ると叫びながらこの場を離れた。

 「お、応援を呼んでくるからそれまで死ぬんじゃないぞ!」
 「気にするな。行け」
 「お兄ちゃん頑張って!!」

 子供の声を背に受け、振り返らず片手を上げて返してやり子供魔族へ向き直る。
 
 「この人間を助けるって? どうやって? あは♪ もう殺しちゃうよ?」
 「……」
 
 女児の声をした魔族が血を流す門番に手をかざした。だが、それが放たれることは無かった。

 「ふむ、双子の魔族か。こいつが死んだら俺が叱られるのでな、返してもらうぞ」
 「え……?」
 「いつの間に……!?」
 「とりあえず、ここでは色々とまずいな。折角入ってきたところ悪いが、お引き取り願おう<暴風竜《ティアマット》>」
 「な……!?」
 「きゃあ!?」

 俺の魔法で門の前に陣取っていた魔族達を吹き飛ばし静かになる。門番にヒーリングをかけてやるとすぐに目を覚ました。

 「立てるか?」
 「う……あ、ありがとう……あいつらは……」
 「とりあえず外に追いやった。ここから離れて誰かと合流しろ」
 「わ、わかりました!」

 門番がこの場を離れていくのを見送り、俺は門から外へ出る。

 「お前達があの魔法陣の首謀者で間違いないな?」
 「……なるほど、あなたが冥王ザガムですかね。探す手間が省けて助かりますよ」
 
 男児の魔族がうっすらと笑いながらそんなことを言う。
 俺を探していた……?
 
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