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第四章:魔族領からの刺客

その57:一つ屋根の下

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 「ん-、今日もいいお天気!」
 「あ、おはようファム」
 「おはようございます、ルーンベルさん!」
 「早いわね、ふあ……」

 おうちをプレゼントされた翌日、私は広いベッドでゆっくり眠ることができた。
 お布団は屋敷を開け放した際に一斉に干しておいたのでお日様の匂いが心地よかったのだ。
 同居人となったルーンベルさんと挨拶を交わしたのだけど、私の好きな人の姿は見えない。
  
 「あはは、お互い様じゃないですか。さてと」
 「どこ行くの?」
 「ザガムさんを起こしに。あの人、いつも私より早く起きているんですけど、珍しく見当たらないんです」
 「ふーん、面白そうだから私も行くわ!」

 ……この人も興味無さそうな、冗談のような態度だけど明らかに狙っている。おばあちゃんの家での発言、過度なスキンシップは注意すべき相手だ。
 特にあのおっぱいはマズイ。私では太刀打ちできないのだ……

 それはともかく、ザガムさんの性格から言って手を出すとは考えにくいのでいつも通り接していこうと寝室へ。
 潜り込みたい気持ちを我慢してルーンベルさんと対峙する。

 「ふふふ、良く寝ているわね……」
 「疲れてたのかもしれませんね、なんだかんだで気を遣うんですよね」
 「……まあ、そこは色々あるみたいだけど」
 「?」

 良く分からないけど神妙な顔をしてザガムさんを見るルーンベルさん。気になったけど、すぐに嫌な笑みを浮かべて掛布団に手をかけた。

 「さあて、起きなさいザガム! な……!?」
 「おはようござい、ま、す……!?」
 「こ、これは……」

 ごくりと唾を飲みこむ私達。目の前にあった光景は信じられなかったからだ。

 「あ、あの、お父さんのしか知らないんですけど……こ、こんなになるんですか?」
 「し、知らないわよ、私だって処女だし……! ごくり……こ、壊れちゃうんじゃない……?」
 
 と、私達が両手を合わせてあたふたしていると――

 ◆ ◇ ◆

 「寒いし騒がしいな。……お前達か」
 「あああ、お、おはようござい、ます……」
 「お、おはよう、いい朝ね」

 どうやら俺を起こしに来たらしいな、ルーンベルが掛布団をもって……もじもじしている? 
 見れば二人とも頬を紅潮させ、俺から視線を外していた。髪をいじりながら口笛を吹くルーンベルに、服の裾を握って目を泳がせるファム。
 
 まさか――

 「体調が悪いのか? 二人とも顔が赤いぞ」
 「あ、あ、だ、大丈夫です! そういうのじゃないので!」
 「慌てるところを見ると怪しいな……無理をしているんじゃないか?」
 「あわわわ……」

 起き上がってファムの手を取って引き寄せると、俺はファムの額に手を当てる。今日から修行をするつもりだが無理をしても仕方がない。

 「ぷしゅぅぅぅ……」
 「む、しっかりしろファム。……やはり無理をしていたのか」
 「そ、そうじゃないんだけどねえ」
 「お前も熱があるんじゃないか?」
 「だ、大丈夫! ほらこんなに元気! わわ!?」
 「おっと、フラついているじゃないか」
 「そ、それは……はわ!? 目の前にでかいキノコ!? ふう……」
 「おいルーンベル、一体なんだ……?」

 とりあえず体調が悪そうな二人をベッドに寝かせて着替えることにしよう。朝食は……

 「二人が起きてからだな。久しぶりに自己鍛錬でもするか」

 この屋敷は塀もそれなりに高いので外から様子は伺えないため少し体を動かしても問題なさそうだと早速、植栽や花壇がない東側の広々とした庭へ出る。

 「とりあえず腕立てからやるか」

 基本的な運動を500回ずつ終えると、次に素振りを行う。
 ちょっとやりすぎて近くの木から木の葉が消えたが、仕方ない。後は魔法を使いたいが――

 「壁は穴が開くし、木は燃える……むう、魔族領の屋敷にあるオリハルコンの像があれば全力で撃てるのだが、惜しいな。収納魔法に入れて持ってくれば良かった」
 
 空に魔法を放ってもいいが、折角壁で見えないのにそんなことをする意味も無いか。最悪どこかの山へ行けばいいのだ。
 それにしても久しぶりに鍛錬をして気持ちのいい朝だ、屋敷をくれた意図は読めないが今度国王に礼を言っておくべきだろう。

 そんなことを考えていると、ファムとルーンベルがこちらへ向かってくるのが見えた。

 「ごめんなさいザガムさん、気絶してました……」
 「あ、あはは、ごめんねー」

 素振りを止めてまだ顔の赤い二人に声をかける。
 仲間相手に無理をさせるほどオーガじゃないのだ 

 「構わない。調子はどうだ、一日休んでもいいぞ」
 「あ、いえ、体は大丈夫なんです! お腹がすいたんで貧血かも? 朝食を食べに行きませんか?」
 「そうね! お金が無いからザガムの奢りで!!」
 「ふむ、元気ならいいが体は大事だからな、無理なら休め。では行くとしよう」

 門に向かって歩き始めると、後ろから二人がついてくる気配がする。その間、

 (大事な体……元気な赤ちゃんを産めってことですかね?)
 (真面目だから我慢しているのかもしれないわね。爆発したら――)
 (わ、私、頑張ります!)

 そんな謎の会話をひそひそと二人でしていた。赤ちゃんについてはよく分からないが、ユースリアから元気な子を産むなら母体が丈夫だといいらしい。
 まあ、女性同士の仲が良いのは俺としても楽だとそのままレストランへと足を運ぶ。

 「お待たせ、モーニングセットだよ!」
 「ありがとう。さて、食べたら買い物を……どうした?」
 「……」
 「……」

 朝食を前にしてまたも顔を赤くして俯く二人。一体どうしたというのか? パンにパンプキンスープ、トマトの赤が鮮やかなサラダと目玉焼きにソーセージというシンプルなもので、少なくともファムはこの中の食べ物で嫌いなものはない。

 「やはり体調が……」
 「ち、違います! ほ、ほらルーンベルさん!」
 「そ、そうね! ……あーん」
 「あ、あ……」
 「?」

 よく分からないが機嫌が悪いわけでも体調が悪いわけでもないらしいのでひとまず安心だが、朝食の間は珍しく二人は静かだった。
 
 「ふう……朝食でこんなに疲れたのは初めてね……」
 「はい……」
 「むう、大丈夫か? 新しい家に行くと疲れるというし、掃除で体力を使ったからかもしれんな。今日は休みでいいだろう」
 「いいんですか?」
 「ああ。そうだな引っ越し祝いとして一人ずつなにか好きなものでも買うか」

 プレゼント……ではないか。元々ファムのお金だ。
 ちなみにルーンベルを買った金はその内なにかで補填しておくつもりである。

 「それじゃ早速商店街へ! 酒よ酒! それと庭で使う日光浴用のチェア!!」
 「聖女見習いなのに俗っぽいなあルーンベルさん……。私はなにがいいかな、お洋服とか靴が欲しいかも?」
 「行ってから決めればいい」
 「ザガムさんはなにを買うんですか?」

 少し調子を取り戻したファムが俺の腕に絡みながら聞いて来たので、顎に手を当てて考えてみる。今朝のことを思い出して欲しいものを口にする。

 「鉱石の塊とか木偶に使う強固な鎧があればいいんだが」
 「渋い……というかそれ私のためじゃ? 自分のを買えばいいのに」
 「お前が強くなることは大事だからな」
 「も、もう……」
 「なにやってんの? 行くわよー!」
 「急かすな」

 俺達は商店街へ繰り出し穏やかな一日を過ごす。
 だが、不穏な空気は徐々に近づいていたことにまだ気づいていなかった――
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